※本記事は、オリンパス株式会社 の有価証券報告書(第157期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. オリンパスってどんな会社?
同社は、消化器内視鏡や治療機器などの医療機器を主力とするグローバル・メドテックカンパニーです。
■(1) 会社概要
1919年に株式会社高千穂製作所として設立され、顕微鏡や体温計の製造を開始しました。1936年に写真機製造へ進出し、1949年にオリンパス光学工業へ商号変更し上場しました。1952年に世界初の胃カメラを実用化し医療事業へ参入。2003年に現社名へ変更しました。近年は映像事業や科学事業、整形外科事業を譲渡し、医療分野へ経営資源を集中させています。
連結従業員数は29,297名、単体では2,494名です。大株主は、資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行が筆頭株主で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行です。第3位には米国のステート・ストリート銀行が名を連ねており、機関投資家や海外投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 19.92% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.41% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 4.86% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性18名、女性3名の計21名で構成され、女性役員比率は14.0%です。代表執行役社長兼チーフエグゼクティブオフィサー(CEO)はボブ・ホワイト氏です。取締役10名のうち8名が社外取締役であり、その比率は80.0%と高い水準にあります。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| ボブ・ホワイト | 代表執行役社長兼チーフエグゼクティブオフィサー(CEO) | メドトロニック社にてエグゼクティブ・バイス・プレジデントなどを歴任し、2025年6月より現職。 |
| 竹内 康雄 | 取締役代表執行役会長兼ESGオフィサー | 1980年同社入社。米州や欧州の統括役員、CFOなどを経て、2019年に社長兼CEOに就任。2025年6月より現職。 |
| 大久保 俊彦 | 取締役 | 1991年同社入社。ライフ・産業システムカンパニー統括本部長、科学事業ユニット長などを経て、2023年6月より現職。 |
| ジョン・マンフレッド・デ・チェペル | 執行役チーフメディカルオフィサー(CMO) | 外科医としての臨床経験を持ち、メドトロニック社でCMOなどを歴任。2024年10月より現職。 |
| フランク・ドレバロウスキー | 執行役ガストロインテスティナルソリューションズ | 1993年オリンパス・ヨーロッパ入社。欧州でのメディカルシステム部門責任者などを経て、2025年4月より現職。 |
| 泉 竜也 | 執行役チーフファイナンシャルオフィサー(CFO) | 伊藤忠商事や日本アクセスでのCFO経験を経て、2024年4月より現職。 |
| ガブリエラ・カスティーヨ・ケイナー | 執行役チーフストラテジーオフィサー(CSO) | ジョンソン・エンド・ジョンソンなどを経て2016年同社米州法人入社。2024年4月より現職。 |
| 小林 哲男 | 執行役チーフマニュファクチャリングアンドサプライオフィサー(CMSO) | 1983年同社入社。財務本部長、CSOなどを経て、2022年4月より現職。 |
| 倉本 聖治 | 執行役サージカルインターベンションソリューションズ | 1988年同社入社。ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ副社長などを経て、2025年4月より現職。 |
| サヤード・ムカラム・ナヴィ―ド | 執行役チーフテクノロジーオフィサー(CTO) | ボストン・サイエンティフィックなどを経て2022年同社米州法人入社。2025年4月より現職。 |
| 大月 重人 | 執行役チーフヒューマンリソーシズオフィサー(CHRO) | 日本ヒューレット・パッカード人事統括本部長などを経て2019年同社入社。2023年4月より現職。 |
| ボリス・シュコルニック | 執行役チーフクオリティオフィサー(CQO) | ベクトン・ディッキンソン品質管理部門バイス・プレジデントなどを経て2022年同社米州法人入社。2024年4月より現職。 |
| ニール・ボイデン・タナー | 執行役グローバルジェネラルカウンセル | シグナ・コーポレーションでのジェネラルカウンセル経験を経て2024年同社米州法人入社。2024年10月より現職。 |
社外取締役は、藤田 純孝(元伊藤忠商事副会長)、デイビッド・ロバート・ヘイル(ValueAct Capital CEO)、ジミー・シー・ビーズリー(元C.R. Bardグループプレジデント)、市川 佐知子(弁護士・公認会計士)、觀 恒平(公認会計士)、ゲイリー・ジョン・プルーデン(元J&J医療機器部門会長)、ルアン・マリー・ペンディ(元メドトロニックCQO)、岩﨑 真人(元武田薬品工業代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「内視鏡」および「治療機器」事業を展開しています。
■内視鏡事業
消化器内視鏡、外科内視鏡、および関連する医療サービスを提供しています。消化器内視鏡システムやビデオスコープなどが主力製品であり、医療機関などを主な顧客としています。
収益は、製品の販売対価および保守サービス等の利用料から得ています。運営は、同社およびオリンパスメディカルシステムズ、オリンパスマーケティング、各国の販売子会社などが行っています。
■治療機器事業
消化器科処置具、泌尿器科製品、呼吸器科製品、エネルギー・デバイス、耳鼻咽喉科製品、婦人科製品などを提供しています。低侵襲治療に貢献する処置具や手術用デバイスが主力です。
収益は、製品の販売対価から得ています。運営は、同社およびオリンパスメディカルシステムズ、各国の製造・販売子会社などが行っています。
■共通
グループ全体の持株会社機能および金融投資等の事業活動を行っています。
収益は、グループ会社からの経営指導料や配当、金融収益などが中心です。運営は、同社および米州・欧州・アジアの地域統括会社(Olympus Corporation of the Americasなど)が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は増加傾向にあり、特に当期は前期比で増収となりました。税引前利益は、前期の落ち込みから大幅に回復しています。当期利益は、前期に計上された科学事業譲渡益の影響が剥落したため減益となりましたが、継続事業ベースでは堅調な推移を示しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 7,305億円 | 7,501億円 | 8,819億円 | 9,258億円 | 9,973億円 |
| 税引前利益 | 768億円 | 1,417億円 | 1,823億円 | 436億円 | 1,591億円 |
| 利益率(%) | 10.5% | 18.9% | 20.7% | 4.7% | 15.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 129億円 | 1,157億円 | 1,434億円 | 2,426億円 | 1,179億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高の増加に伴い売上総利益も増加しています。営業利益は、その他の費用(減損損失等)の減少や増収効果により、前期比で大幅に改善し、営業利益率も大きく向上しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9,258億円 | 9,973億円 |
| 売上総利益 | 1,183億円 | 861億円 |
| 売上総利益率(%) | 12.8% | 8.6% |
| 営業利益 | 514億円 | 1,625億円 |
| 営業利益率(%) | 5.6% | 16.3% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が2,838億円(構成比57%)、減価償却費が344億円(同7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
内視鏡事業は北米での新製品販売が好調で増収増益となりました。治療機器事業も全分野でプラス成長し、前期の営業赤字から黒字転換を果たしました。全社的な増収に加え、前期の一時的費用(減損損失等)の減少が利益を押し上げました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 内視鏡 | 5,866億円 | 6,361億円 | 1,047億円 | 1,414億円 | 22.2% |
| 治療機器 | 3,373億円 | 3,607億円 | -85億円 | 615億円 | 17.0% |
| その他 | 18億円 | 5億円 | -3億円 | -5億円 | -89.2% |
| 調整額 | - | - | -445億円 | -399億円 | - |
| 連結(合計) | 9,258億円 | 9,973億円 | 514億円 | 1,625億円 | 16.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「健全型」です。本業で稼いだキャッシュで借入金の返済や投資を行っており、財務的に安定した状態と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 424億円 | 1,905億円 |
| 投資CF | 3,600億円 | -655億円 |
| 財務CF | -2,760億円 | -2,115億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」を存在意義(Our Purpose)として掲げています。この理念のもと、革新的な製品やサービスを提供することで、医療水準の向上や患者さんのQOL(生活の質)向上に貢献し、持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「Our Core Values(私たちのコアバリュー)」として、「誠実(Integrity)」「共感(Empathy)」「長期的視点(Long-term View)」「俊敏(Agility)」「結束(Unity)」を定めています。これらを日々の判断や行動の基準とし、患者さんの安全を最優先にする誠実で透明性のある企業文化の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は、「Shift to Grow」というステージにおいて、成長と収益性の両立を目指しています。また、サステナビリティに関する指標として、2031年3月期までに自社事業所からの温室効果ガス排出量(Scope1,2)を実質ゼロにすることなどを目標として掲げています。
* 自社事業所からの温室効果ガス排出量(Scope1,2)実質ゼロ(2031年3月期まで)
* 再生可能エネルギー電力導入率100%(2031年3月期まで)
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、持続的な成長のために「事業拡大とグローバル展開」「戦略的M&A」「ケア・パスウェイの強化」「インテリジェント内視鏡医療エコシステム」の4つを価値の源泉として掲げています。特に消化器科・泌尿器科・呼吸器科の3領域に注力し、次世代内視鏡システムやAIを活用したソリューションの提供、および品質保証・法規制対応の強化(Elevateプロジェクト)を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人」を最も重要な経営資源と位置づけ、「健やかな組織文化」の実現を目指しています。「学びと成長」「オーセンティック・リーダーシップ」「インクルージョン」などの5つの要素を通じ、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出す環境を整備しています。また、グローバル共通の学習プラットフォームの提供や、成果に応じた競争力のある処遇を実現することで、自律的なキャリア形成と成長を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.3歳 | 13.5年 | 10,459,502円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.1% |
| 男性育児休業取得率 | 80.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 70.4% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 70.6% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 戦略リスク(地政学的緊張とサプライチェーン)
地政学的緊張(軍事紛争や貿易摩擦など)によるサプライチェーンの混乱やコスト増、制裁措置によるコンプライアンスリスクが懸念されます。また、主要市場における国内産業保護措置(関税引き上げ等)により収益性が低下する可能性があります。同社はサプライヤーの多様化や中国での現地生産化、グローバルな事業継続管理体制の強化などの対策を講じています。
■(2) オペレーション&製品リスク(品質と法規制対応)
FDAから受領した警告書に係る是正活動や、厳格化する各国法規制への対応が経営課題となっています。製品の品質問題や供給の遅延は、業績や社会的信用に影響を及ぼす可能性があります。同社は品質保証・法規制対応の変革プロジェクト「Elevate」を推進し、グローバルで一貫性のある品質システムとプロセスの構築に取り組んでいます。
■(3) ガバナンスリスク(コンプライアンスとカルチャー)
法令や社内規程の違反、または不十分なガバナンスは、法的責任や社会的信用の失墜を招く可能性があります。特に前CEOの辞任事案を踏まえ、グローバル行動規範の改定や全従業員向け研修の実施など、コンプライアンス意識の徹底と誠実な企業文化の再構築に注力しています。また、契約管理プロセスの強化や事業継続計画の整備も進めています。



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