シチズン時計 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

シチズン時計 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場するシチズン時計は、時計事業と工作機械事業を中核とする精密機器メーカーです。直近の業績は、時計事業の販売が堅調に推移し増収となりましたが、営業利益や経常利益は減益となりました。一方、投資有価証券売却益などにより、当期純利益は増益を確保しています。


※本記事は、シチズン時計株式会社の有価証券報告書(第140期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. シチズン時計ってどんな会社?


時計と工作機械を二本柱とするグローバル企業です。「Eco-Drive」などの独自技術を持つ時計事業と、自動旋盤などの工作機械事業を展開しています。

(1) 会社概要


1930年に尚工舎時計研究所を母体として創立し、腕時計の製造販売を開始しました。1941年には工作機械の生産を始め、1949年に東京証券取引所へ上場しています。その後、事業再編や持株会社体制への移行を経て、2016年に現在のシチズン時計株式会社へ商号を変更し、事業会社として再スタートを切りました。

連結従業員数は12,373人、単体では788人です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に日本カストディ銀行です。第3位には日本生命保険相互会社が名を連ねており、機関投資家や金融機関が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行 21.70%
日本カストディ銀行 9.31%
日本生命保険相互会社 4.89%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性3名の計10名で構成され、女性役員比率は30.0%です。代表取締役社長は大治良高氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
大治 良高 代表取締役社長 1986年入社。商品開発本部長や時計事業本部長などを歴任し、2022年常務取締役に就任。2025年4月より現職。
古川 敏之 専務取締役 1986年入社。経営企画部長や経理部・広報IR室担当などを経て、2022年常務取締役に就任。2025年4月より現職。
宮本 佳明 常務取締役 1990年入社。欧州やタイの現地法人社長、総務部長などを経て、2018年取締役に就任。2025年4月より現職。
小林 啓一 取締役 1992年シチズン商事入社。欧州現地法人社長や経営企画部長などを経て、2025年4月上席執行役員に就任。2025年6月より現職。
柳 和徳 取締役常勤監査等委員 1986年入社。経理部長や関連会社社長などを経て、2022年常勤監査役に就任。2025年6月より現職。


社外取締役は、窪木登志子(弁護士)、大澤善雄(元SCSK代表取締役社長)、吉田勝彦(元花王代表取締役専務)、石田八重子(弁護士)、山中典子(公認会計士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「時計事業」「工作機械事業」「デバイス事業」および「電子機器他事業」を展開しています。

(1) 時計事業


ウオッチ(腕時計)やムーブメント(時計の駆動装置)などを製造販売しています。CITIZENブランドのほか、BULOVAなども展開しています。

一般消費者向けのウオッチ販売や、時計メーカー向けのムーブメント販売から収益を得ています。運営は主にシチズン時計やシチズン時計マニュファクチャリングなどが行っています。

(2) 工作機械事業


CNC自動旋盤などを製造販売しており、「Cincom」や「Miyano」ブランドを展開しています。自動車、医療、IT機器など幅広い産業で使用されています。

製造業の顧客に対する工作機械の販売やアフターサービスから収益を得ています。運営は主にシチズンマシナリーが行っています。

(3) デバイス事業


自動車部品、水晶デバイス、小型モーター、LED、液晶セルなどを製造販売しています。

自動車メーカーや電子機器メーカーなどへの部品販売から収益を得ています。運営は主にシチズンファインデバイスやシチズン電子などが行っています。

(4) 電子機器他事業


プリンター(POS用、バーコード用、フォト用)や健康機器(血圧計、体温計)などを製造販売しています。

小売・流通業や医療機関、一般消費者への製品販売から収益を得ています。運営は主にシチズン・システムズが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は回復傾向にあり、特に2022年3月期以降は3000億円台で推移しています。利益面では、2021年3月期は赤字となりましたが、その後は回復し、安定した利益率を維持しています。直近の2025年3月期は、売上高は増加したものの、経常利益は減少しました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 2,066億円 2,814億円 3,014億円 3,128億円 3,169億円
経常利益 -41億円 273億円 291億円 308億円 230億円
利益率 -2.0% 9.7% 9.7% 9.8% 7.3%
当期利益(親会社所有者帰属) -95億円 57億円 263億円 286億円 234億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で微増となりましたが、営業利益は減少しました。売上総利益率は改善傾向にありますが、販売費及び一般管理費の増加が利益を圧迫した形です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 3,128億円 3,169億円
売上総利益 1,314億円 1,346億円
売上総利益率 42.0% 42.5%
営業利益 251億円 206億円
営業利益率 8.0% 6.5%


販売費及び一般管理費(1,140億円)のうち、人件費が374億円(構成比33%)、広告宣伝費が226億円(同20%)を占めています。売上原価(1,823億円)については、内訳データがないため記載を省略します。

(3) セグメント収益


時計事業は増収となったものの、営業利益は減少しました。工作機械事業は売上高、営業利益ともに減少しました。デバイス事業は減収増益、電子機器他事業は増収増益となりました。全体として時計事業と電子機器他事業が売上を牽引しましたが、工作機械事業の落ち込みなどが利益面に影響しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
時計事業 1,662億円 1,771億円
工作機械事業 816億円 743億円
デバイス事業 425億円 405億円
電子機器他事業 225億円 250億円
連結(合計) 3,128億円 3,169億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業の営業活動で稼いだ資金で投資を行い、借入金の返済や配当支払いも進めている「健全型」と言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 346億円 358億円
投資CF -127億円 -100億円
財務CF -270億円 -125億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も61.6%と市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、企業理念として「市民に愛され市民に貢献する」を掲げています。また、2030年を見据えたグループ中期経営ビジョンとして「豊かな未来(とき)をつなぐ」、“Crafting a new tomorrow”を設定し、新たな価値創造に挑戦し、世の中に安心と信頼、感動を届ける存在になることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、「市民に愛され市民に貢献する」という企業理念を原点とし、サステナブル経営を推進しています。人財ビジョンとして「社員一人一人が長期ビジョン実現への貢献を実感し、シチズンで働くことを誇りに感じる」を掲げ、デジタル施策の推進と同時に、グループ全体で連携した「企業風土の変革」に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社は、「中期経営計画2027」(2026年3月期~2028年3月期)を策定しています。これまでの成長基盤を活かし、コア事業の成長と収益力の向上に取り組みます。2027年度の数値目標として以下を掲げています。

* 売上高:3,600億円
* 営業利益率:9.0%
* ROE:9.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「事業ポートフォリオの戦略」と「DX戦略の推進及び人財の育成」を重点戦略としています。時計事業と工作機械事業をコア事業と位置付け、経営資源を戦略的に投資します。時計事業ではグローバルブランド価値の向上や機械式時計の強化を進め、工作機械事業ではグローバル市場での拡販により更なる成長を目指します。また、DXを通じて業務プロセスの変革や新たな顧客価値の創出に取り組みます。

* 工作機械事業売上高:1,000億円

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、従業員を人的資本と捉え、「働きがいの向上」「人財の育成」「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」を重点施策としています。エンゲージメント調査の実施やキャリア自律の支援、次世代リーダー育成プログラムなどを通じて、社員と会社の成長を目指しています。また、女性管理職比率の向上など、多様な人財が活躍できる環境整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.0歳 18.1年 7,673,478円


※平均年間給与は税込総額で基準外賃金及び賞与を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 9.8%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 79.1%
男女賃金差異(正規) 79.8%
男女賃金差異(非正規) 91.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント調査回答率(99%)、1人当たりの平均研修時間(14.3時間)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 主力事業における競争激化と市場変動


時計事業では、スマートウオッチやスマートフォンなどの代替製品との競合に加え、低価格帯市場の縮小や価格競争による単価下落のリスクがあります。工作機械事業は、景気変動による設備投資需要の影響を受けやすく、原材料価格の高騰も業績に悪影響を及ぼす可能性があります。デバイス事業も技術革新が速く、製品の陳腐化や価格下落のリスクを抱えています。

(2) 海外市場への高い依存度


同社グループの製品は全世界で販売されており、海外売上比率が高くなっています。そのため、各地域の景気や消費動向、政治的・経済的な社会情勢の変化が業績に影響を与える可能性があります。特に北米や欧州、アジアなどの主要市場における需要の変動は、同社の経営成績に直接的なインパクトを与える要因となります。

(3) 為替相場の変動影響


海外売上比率が高いため、為替予約などのリスクヘッジを行っているものの、急激な為替変動は業績に影響を及ぼします。また、中国などの海外生産拠点を有しているため、現地通貨の変動や生産国における規制変更、生産トラブルなどが、コスト増や生産活動の支障につながり、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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