河合楽器製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

河合楽器製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。ピアノを中心とする楽器の製造販売や、音楽・体育教室の運営を主力事業としています。直近の業績は、海外市場の減速やコスト増の影響を受け、売上高は減少、利益面でも大幅な減益となりました。


※本記事は、株式会社河合楽器製作所 の有価証券報告書(第98期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 河合楽器製作所ってどんな会社?


世界的なピアノメーカーとして知られ、楽器の製造販売のほか、音楽・体育教室の運営などを展開しています。

(1) 会社概要


1927年に河合楽器研究所として創立され、1951年に株式会社河合楽器製作所へ改組しました。1956年にはカワイ音楽教室を創設し、1960年に東京証券取引所へ上場しています。1980年にはグランドピアノ専門工場である竜洋工場を完成させ、製造体制を強化しました。

連結従業員数は2,811名、単体では1,270名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行の信託口で、第2位は香港上海銀行の常任代理人、第3位は資産管理会社と思われる河合社団です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.17%
エイチエスビーシー ブローキング セキュリティーズ(アジア) 9.38%
河合社団 5.53%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員は河合健太郎氏が務めています。社外取締役比率は20.0%です。

氏名 役職 主な経歴
河合 健太郎 代表取締役社長執行役員コーポレート戦略本部長兼 楽器教育営業本部長 2007年入社、ピアノ事業部長、副社長執行役員などを経て2024年2月より現職。
牛尾 浩 取締役副社長執行役員生産統括本部長兼 ピアノ事業部長 1983年入社、PT.カワイインドネシア社長、常務取締役執行役員などを経て2025年6月より現職。
箕輪 匡文 専務取締役執行役員生産統括本部電子楽器事業部長 1988年入社、電子楽器事業部長、常務取締役執行役員などを経て2025年6月より現職。
森 直樹 常務取締役執行役員楽器教育営業本部海外統括部長 1981年入社、カワイアメリカコーポレーション社長などを経て2023年6月より現職。


社外取締役は、後藤康雄(はごろもフーズ代表取締役会長)、村松奈緒美(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「楽器教育事業」「素材加工事業」および「その他」事業を展開しています。

楽器教育事業

ピアノ、電子楽器、管・弦・打楽器等の製造販売のほか、音楽教室・体育教室の運営、調律・修理サービス等を提供しています。主な顧客は一般消費者や教育機関などです。

収益は製品の販売代金や教室の受講料、サービス対価から得ています。運営は主に河合楽器製作所が行うほか、製造はカワイキャスティング等の子会社、海外販売はカワイアメリカコーポレーション等の現地法人が担当しています。

素材加工事業

電子電気部品用や自動車部品用の金属材料加工、および防音室・音響部材の製造販売を行っています。主な顧客は電子部品メーカーや自動車関連企業、一般消費者です。

収益は加工品や製品の販売代金から得ています。運営はカワイ精密金属(金属加工)、カワイハイパーウッド(自動車部品材料)、カワイ音響システム(防音室)などが担当し、販売は河合楽器製作所も行っています。

その他事業

IT機器の販売・保守、コンピュータソフトウェアの開発・販売、金融関連事業、保険代理店事業などを展開しています。顧客は法人および一般消費者です。

収益は機器販売代金や保守料、ソフトウェア販売益、各種手数料から得ています。運営はカワイビジネスソフトウエア(情報関連)やカワイアシスト(金融・保険関連)などが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は第96期をピークに減少傾向にあり、第98期は前期比で減収となりました。利益面でも第95期以降は減少トレンドが続いており、特に第98期は経常利益が大幅に縮小しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 675億円 857億円 878億円 802億円 729億円
経常利益 40億円 73億円 56億円 42億円 5億円
利益率(%) 5.9% 8.5% 6.4% 5.2% 0.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 10億円 28億円 24億円 26億円 -5億円

(2) 損益計算書


売上高の減少に伴い、売上総利益が縮小しました。販売費及び一般管理費は増加しており、結果として営業利益は大幅な減益となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 802億円 729億円
売上総利益 207億円 183億円
売上総利益率(%) 25.8% 25.1%
営業利益 33億円 3億円
営業利益率(%) 4.1% 0.4%


販売費及び一般管理費のうち、その他が82億円(構成比45%)、給料手当及び賞与が60億円(同34%)を占めています。売上原価は売上高の75%を占めています。

(3) セグメント収益


主力の楽器教育事業は、市場環境の変化や在庫調整等の影響で減収となり、営業損益は赤字に転落しました。一方、素材加工事業は自動車関連部品の受注増などにより増収増益を達成しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
楽器教育 657億円 584億円 24億円 -7億円 -1.2%
素材加工 95億円 97億円 8億円 9億円 8.8%
その他事業 50億円 48億円 2億円 2億円 4.9%
連結(合計) 802億円 729億円 33億円 3億円 0.4%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 14億円 -17億円
投資CF -9億円 -23億円
財務CF -18億円 -10億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は60.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「KAWAI Philosophy」において、「人生を、響かせる。」をMission(日々果たすべき使命)として掲げています。また、Vision(目指す未来)として「100年後もつづく、音楽文化を。」を掲げ、どのような時でも人々に寄り添い、人生を響かせる存在となることを目指しています。

(2) 企業文化


同社はValues(提供する価値)として「家族のような親身さで寄り添う」「真面目に考え、真面目につくる」などを掲げています。また、Credo(大切にすべき精神)として「やらまいか精神で、まずやってみよう」「相手がうれしいと思うことをしよう」といった行動指針を定めています。

(3) 経営計画・目標


第8次中期経営計画「KAWAI 十年の計」(2025年4月~2035年3月)を策定しています。この計画では「世界一の鍵盤楽器メーカー」を目指し、以下の数値目標を掲げています。

* 売上高:1,300億円(2035年3月期)
* 営業利益:150億円(同上)
* 営業利益率:11.5%(同上)
* ROE:16.0%(同上)

(4) 成長戦略と重点施策


「KAWAI 十年の計」のもと、鍵盤楽器事業のシェア拡大と次なる成長エンジンの構築を図ります。具体的には、成熟市場における製品の高付加価値化、品質向上、ブランド認知度向上、販売チャネル増強を推進します。また、持続的成長と株主還元のバランスをとった資本効率の改善に取り組みます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「従業員一人ひとりが能力を発揮することが成長につながる」という考えのもと、人財を最大の資産と位置づけています。多様な人財の確保・育成、健康経営の推進、働きがいのある職場環境の整備を通じて、時代の変化に対応できる企業を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 45.2歳 21.2年 5,901,673円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.5%
男性育児休業取得率 44.0%
男女賃金差異(全労働者) 60.7%
男女賃金差異(正規) 72.6%
男女賃金差異(非正規) 56.4%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性監督職比率(18.8%)、外国人従業員数(12名)、中途採用者数(103名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 少子化進行のリスク

国内における急速な少子化は、音楽教室や体育教室の市場縮小、および楽器販売の減少につながる可能性があります。同社は対象世代の拡大や各世代へのニーズ対応に取り組んでいますが、予想を超えた進行は業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原材料市況と調達リスク

製品の主要原材料である木材や金属、樹脂などの市況変化によるコスト増、および原油価格高騰による物流費の上昇が懸念されます。また、海外における環境法制の変化等が原材料調達に影響を与えた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 為替変動の影響

主力である楽器事業は海外販売比率が高く、多くの原材料や部品を輸入しています。そのため、為替相場の変動は販売価格や調達コストに直接影響し、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。同社は為替予約等のヘッジ取引で対応しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。