河合楽器製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

河合楽器製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する河合楽器製作所は、ピアノなどの楽器製造および販売、音楽教室の運営を主力とする企業です。直近の業績では、鍵盤楽器販売の回復ペースが想定を下回り減収となったものの、経常利益は大幅な増益を達成しています。ブランド価値の向上と海外展開の強化により、さらなる成長を目指しています。


※本記事は、株式会社河合楽器製作所の有価証券報告書(第99期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 河合楽器製作所ってどんな会社?


楽器の製造販売や音楽教室・体育教室の運営、素材加工事業などをグローバルに展開する老舗企業です。

(1) 会社概要


1927年8月に河合楽器研究所として創立し、ピアノの製造・販売を開始しました。1956年に音楽教室、1967年に体育教室を創設し、教育事業を拡大しています。1960年の東京証券取引所上場やアメリカでの販売会社設立を経て、近年は中国やヨーロッパなど世界各地に販売拠点や生産拠点の拡充を進めています。

同社グループは、連結従業員数2,917名、単体従業員数1,316名の体制で事業を運営しています。大株主の構成は、筆頭株主および第2位が資産管理業務を行う信託銀行等となっており、第3位には河合社団が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.75%
エイチエスビーシー ブローキング セキュリティーズ(アジア) 9.38%
河合社団 5.53%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員コーポレート戦略本部長を河合健太郎氏が務めています。取締役6名のうち社外取締役は2名(33.3%)です。

氏名 役職 主な経歴
河合 健太郎 代表取締役社長執行役員コーポレート戦略本部長 2007年同社入社。ピアノ事業部長、生産統括本部長等を経て、2024年2月より現職。
牛尾 浩 取締役副社長執行役員 1983年同社入社。カワイインドネシア代表取締役社長等を経て、2025年6月より現職。
箕輪 匡文 専務取締役執行役員 1988年同社入社。電子楽器事業部長などを歴任し、2025年6月より現職。
森 直樹 常務取締役執行役員 1981年同社入社。カワイアメリカコーポレーション代表取締役社長等を経て、2023年6月より現職。


社外取締役は、後藤康雄(はごろもフーズ会長)、村松奈緒美(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「楽器教育事業」「素材加工事業」および「その他事業」を展開しています。

楽器教育事業


同事業は、ピアノ、電子楽器、管・弦・打楽器の製造・販売のほか、音楽教室や体育教室の運営、楽器の調律・修理の役務提供などを展開しています。国内だけでなく、北米、欧州、中国、オーストラリアなど世界各地に販売拠点や生産拠点を持ち、グローバルに楽器と教育サービスを提供しています。

収益源は、楽器等の販売代金や教室の受講料、調律・修理のサービス料です。国内の事業運営は主に河合楽器製作所が担当し、楽譜出版は全音楽譜出版社が担っています。海外展開では、カワイアメリカコーポレーションやカワイヨーロッパGmbHなどの各現地法人が販売を行い、生産はカワイインドネシアなどが担当しています。

素材加工事業


同事業は、電子電気部品用および自動車部品用の金属異形圧延加工品の製造や、防音室・音響部材の製造および販売を行っています。高度な加工技術を活かし、楽器製造で培ったノウハウを他分野に応用している点が特徴です。

収益源は、各得意先からの製品販売代金です。事業の運営については、金属異形圧延加工品の製造をカワイ精密金属が、自動車部品用材料の製造をカワイハイパーウッドが行い、販売は河合楽器製作所が担当しています。防音室・音響部材の製造・販売はカワイ音響システムなどが担っています。

その他事業


同事業は、IT機器の販売・保守およびコンピュータソフトウェアの開発・販売といった情報関連事業を中心に展開しています。また、金融関連事業や保険代理店事業なども手掛けており、グループの多角的な事業運営を支えています。

収益源は、システム機器やソフトウェアの販売代金、保守サービス料、保険代理店手数料などです。情報関連事業の運営はカワイビジネスソフトウエアが担当しており、金融関連事業や保険代理店事業等はカワイアシストが担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績を見ると、売上高は減少傾向にありますが、当期の経常利益と当期純利益は回復に転じています。鍵盤楽器市場での販売減が響いたものの、ブランド認知度向上施策やコスト管理の徹底により、利益率は改善傾向にあります。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 857億円 878億円 802億円 729億円 720億円
経常利益 73億円 56億円 42億円 5億円 10億円
利益率(%) 8.5% 6.4% 5.2% 0.7% 1.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 50億円 37億円 28億円 4億円 11億円

(2) 損益計算書


売上高が微減となる中で、売上総利益は増加しており、売上総利益率も改善しています。一方で、販売費及び一般管理費が増加した影響により、営業利益および営業利益率は低下する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 729億円 720億円
売上総利益 183億円 187億円
売上総利益率(%) 25.1% 26.0%
営業利益 3億円 1億円
営業利益率(%) 0.4% 0.2%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が31億円(構成比17%)、運賃保管料が16億円(同9%)を占めています。

(3) セグメント収益


楽器教育事業は、中国での需要低下や欧州での価格競争激化により減収減益となりました。一方、素材加工事業は金属事業や防音室の販売が好調で増収となりましたが、材料費高騰などで減益です。その他事業はIT機器販売の受注増加により増収増益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
楽器教育事業 584億円 565億円 -7億円 -9億円 -1.5%
素材加工事業 97億円 103億円 9億円 8億円 7.3%
その他事業 48億円 52億円 2億円 3億円 5.2%
調整額 - - -0.8億円 -0.6億円 -
連結(合計) 729億円 720億円 3億円 1億円 0.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業の営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスですが、借入などによる資金調達を行い、将来の成長に向けた投資を継続している状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -17億円 -8億円
投資CF -23億円 -35億円
財務CF -10億円 15億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は59.3%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「人生を、響かせる。」というミッションのもと、「100年後もつづく、音楽文化を。」というビジョンの実現を目指しています。どのような時でも人々の感情に寄り添い、人生を響かせる存在となるべく、価値観や存在意義を体系化した企業理念「KAWAI Philosophy」を掲げて経営を行っています。

(2) 企業文化


行動指針であるクレドにおいて、「伝統を守り、新しいことを取り入れよう」「いろいろな視点でアイデアを出そう」「やらまいか精神で、まずやってみよう」などの価値観を重視しています。また、真面目に考え真面目に作る姿勢や、遊び心を持って仕事を楽しむ文化を大切にし、ステークホルダーとの協働を推進しています。

(3) 経営計画・目標


企業価値の最大化に向け、営業利益率、ROE(自己資本利益率)、そしてキャッシュ・フローを重視した持続的な成長を目指しています。2025年4月からの第8次中期経営計画「KAWAI 十年の計」では、具体的な数値目標を設定し、資本効率の改善を推進しています。

* 2028年3月期:売上高900億円、営業利益50億円、ROE5.5%
* 2031年3月期:売上高1,100億円、営業利益80億円、ROE10.0%
* 2035年3月期:売上高1,300億円、営業利益150億円、ROE16.0%

(4) 成長戦略と重点施策


「世界一の鍵盤楽器メーカー」となるため、今後10年間で鍵盤楽器事業を大きく成長させるとともに、次なる成長エンジンの構築を図ります。成熟市場(欧州、北米、日本、中国)における製品の高付加価値化とシェア拡大を最重要課題とし、ブランド認知度の向上や販売チャネルの増強を中心とした施策を展開します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「従業員一人ひとりが能力を発揮することがグループの成長につながる」という考えのもと、人材を最大の資産と捉えています。多様なキャリアパスの準備や個人キャリアプランの実現支援を行い、戦略的な中途採用の推進や部門横断型の人材配置など、年齢や経験に依存しない実力主義の人事制度を整備して持続的な成長を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.4歳 19.2年 6,022,047円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.3%
男性育児休業取得率 58.0%
男女賃金差異(全労働者) 60.8%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 72.4%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 55.9%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国人従業員数(13名)、中途採用者数(145名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済状況の変化と為替変動

国内、欧米、中国などの主要市場において、景気後退により個人消費が低迷した場合、製品やサービスの需要減少や価格競争の激化が生じる恐れがあります。また、主要な原材料である木材や部品の輸入、および海外販売の比率が高いため、為替変動が販売価格や原材料価格に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 国際化と地政学的リスク

楽器の主要市場である欧米や中国における事業環境の変化や、生産拠点があるインドネシア等の政情変化が業績に影響する可能性があります。さらに、米中関係やロシア・ウクライナ情勢、中東地域の緊迫化など、経済安全保障を目的とした保護政策(関税政策等)がサプライチェーンを直撃するリスクも抱えています。

(3) 原材料・物流コスト等の増加

製品の原材料となる木材、銅などの金属、樹脂製部品の市況変化に伴う調達コストの増加や、原油価格高騰による物流コストの上昇、海外人件費の高騰等による労務コストの増加が想定されます。同社は調達先の選択と分散を進めていますが、これらのコスト増を十分に吸収できない場合、収益性が低下する恐れがあります。

(4) 市場競争の激化と研究開発

ピアノおよび電子ピアノの普及価格帯における市場競争が激化しています。市場ニーズに合致した対抗製品を継続的に投入できない場合、競争力を失う恐れがあります。また、他社が画期的な新製品を開発して市場を席巻した場合や、同社の開発製品が市場に受け入れられない場合も、業績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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