※本記事は、株式会社兼松 の有価証券報告書(第131期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 兼松ってどんな会社?
1889年創業の老舗総合商社です。ICT、電子、食料、鉄鋼、車両などの幅広い分野でグローバルに事業を展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1889年に創業者兼松房治郎が神戸で創業し、1918年に株式会社兼松商店として設立されました。1967年に江商と合併して兼松江商となり、1973年に東京証券取引所市場第一部に上場しました。1990年に現在の商号へ変更した後、2022年の市場区分見直しによりプライム市場へ移行しました。近年では2023年に兼松エレクトロニクスと兼松サステックを完全子会社化するなど、グループ再編を進めています。
2025年3月31日現在、連結従業員数は8,644名、単体従業員数は821名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に資産管理を行う日本カストディ銀行(信託口)です。第3位には米国のカストディアンであるステート・ストリート・バンク・アンド・トラスト・カンパニーが含まれており、機関投資家や海外投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 17.20% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.81% |
| ステート ストリート バンク アンド トラスト カンパニー 505001 | 4.32% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は宮部佳也氏が務めています。社外取締役比率は27.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 宮部 佳也 | 代表取締役社長グループ成長戦略推進担当 | 1983年兼松江商入社。電子機器部長、車両・航空部門長などを経て、2021年より現職。 |
| 谷川 薫 | 代表取締役会長 | 1981年兼松江商入社。電子・デバイス部門長、企画担当、代表取締役社長を経て、2021年より現職。 |
| 蔦野 哲郎 | 取締役常務執行役員企画、IT企画担当 | 1992年入社。財務部長、主計部長、先進技術・事業連携担当などを経て、2024年より現職。 |
| 桝谷 修司 | 取締役上席執行役員財務、主計、営業経理担当 | 1990年入社。営業経理部長、兼松サステック出向(取締役)を経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、田原祐子(株式会社ベーシック代表取締役)、田中一弘(一橋大学大学院教授)、笹宏行(元オリンパス代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ICTソリューション」「電子・デバイス」「食料」「鉄鋼・素材・プラント」「車両・航空」および「その他」事業を展開しています。
■ICTソリューション
インフラ基盤の設計・構築・運用、システムコンサルティング、セキュリティソリューションなどを提供しています。主な顧客は、情報システムの導入やDX推進を目指す一般企業や官公庁です。
収益は、システムの設計・構築などの対価や、保守・運用サービスの利用料として顧客から受け取ります。運営は主に、連結子会社の兼松エレクトロニクスや日本オフィス・システム、持分法適用会社のグローバルセキュリティエキスパートなどが行っています。
■電子・デバイス
電子部品、半導体製造装置、携帯通信端末などを取り扱っています。法人向けには電子部材や製造装置を販売し、個人向けには携帯電話販売代理店を通じてモバイル端末やサービスを提供しています。
収益は、製品の販売代金やモバイルサービスの契約手数料などとして、メーカーや通信キャリア、一般消費者から受け取ります。運営は主に、同社および連結子会社の兼松コミュニケーションズ、兼松フューチャーテックソリューションズなどが行っています。
■食料
畜産物、農産物、水産物、加工食品などを扱っています。原料の調達から加工、物流、販売までを一貫して手掛け、食品メーカーや外食産業、小売業などに提供しています。
収益は、食材や加工食品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は主に、同社および連結子会社の兼松食品、兼松アグリテックなどが行っています。
■鉄鋼・素材・プラント
鉄鋼製品、石油・化学品、環境関連商材などを扱っています。建設・インフラ関連企業や製造業向けに資材や燃料を供給するほか、プラント案件や環境ビジネスも展開しています。
収益は、製品の販売代金やプロジェクトの対価として顧客から受け取ります。運営は主に、同社および連結子会社の兼松ケミカル、兼松ペトロ、兼松サステックなどが行っています。
■車両・航空
航空機、宇宙・防衛関連機器、自動車部品、工作機械などを扱っています。航空会社や官公庁、自動車メーカーなどに対し、製品の販売やトレードを行っています。
収益は、航空機や機械設備の販売代金、部品供給の対価として顧客から受け取ります。運営は主に、同社および連結子会社の兼松ケージーケイ、兼松エアロスペースなどが行っています。
■その他
上記セグメントに含まれない物流、保険代理業、不動産管理などを展開しています。
収益は、物流サービス料や保険手数料、賃貸料などとして顧客から受け取ります。運営は主に、連結子会社の新東亜交易、兼松ロジスティクス アンド インシュアランスなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上収益が継続的に拡大しており、明確な増収トレンドにあります。利益面でも、税引前利益および当期利益ともに増加傾向を維持しており、売上規模の拡大に伴って着実に利益を積み上げています。利益率も安定して推移しており、効率的な事業運営が継続されていることが読み取れます。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 6,491億円 | 7,680億円 | 9,114億円 | 9,860億円 | 10,509億円 |
| 税引前利益 | 236億円 | 288億円 | 357億円 | 372億円 | 382億円 |
| 利益率(%) | 3.6% | 3.7% | 3.9% | 3.8% | 3.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 133億円 | 160億円 | 186億円 | 232億円 | 275億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益の増加に伴い、売上総利益も順調に伸長しています。売上総利益率は一定水準を維持しており、安定した収益性を確保しています。営業利益については、コスト増等の影響もあり微減となりましたが、依然として高い水準を維持しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 9,860億円 | 10,509億円 |
| 売上総利益 | 1,426億円 | 1,550億円 |
| 売上総利益率(%) | 14.5% | 14.7% |
| 営業利益 | 439億円 | 421億円 |
| 営業利益率(%) | 4.4% | 4.0% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が609億円(構成比53%)、業務委託料が134億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
電子・デバイスや車両・航空セグメントが大きく売上を伸ばし、全社の増収を牽引しました。ICTソリューションも堅調に推移し、増収増益となりました。一方で、鉄鋼・素材・プラントは減収減益となり、食料セグメントは増収ながらも減益となりました。全体としては特定のセグメントに依存せず、バランスの取れた収益構造となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ICTソリューション | 896億円 | 1,003億円 | 139億円 | 147億円 | 14.6% |
| 電子・デバイス | 2,370億円 | 2,716億円 | 86億円 | 114億円 | 4.2% |
| 食料 | 3,417億円 | 3,576億円 | 80億円 | 78億円 | 2.2% |
| 鉄鋼・素材・プラント | 2,118億円 | 1,984億円 | 85億円 | 35億円 | 1.8% |
| 車両・航空 | 1,054億円 | 1,219億円 | 49億円 | 48億円 | 3.9% |
| その他 | 22億円 | 24億円 | 0億円 | -2億円 | -8.6% |
| 調整額 | -17億円 | -13億円 | 0億円 | 0億円 | - |
| 連結(合計) | 9,860億円 | 10,509億円 | 439億円 | 421億円 | 4.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
兼松グループは、営業活動により潤沢な資金を生み出し、事業投資や借入金返済、配当支払いに充当しています。
モバイル事業や航空宇宙事業の好調を背景に、営業活動によるキャッシュ・フローは増加しました。
政策保有株式の売却などにより、投資活動によるキャッシュ・フローは収入に転じました。
借入金返済や配当支払い等により、財務活動によるキャッシュ・フローは支出となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 356億円 | 583億円 |
| 投資CF | -124億円 | 14億円 |
| 財務CF | -501億円 | -547億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、創業者兼松房治郎による創業主意「わが国の福利を増進するの分子を播種栽培す」を基本理念としています。これは、事業を通じて社会に価値を提供し、経済・社会の発展に貢献するという企業の存在意義を示しています。また、「伝統的開拓者精神」と「積極的創意工夫」をもって業務にあたり、企業の発展と社会的責任の遂行を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「われらの信条」において、「伝統的開拓者精神」と「積極的創意工夫」を掲げ、常に時代を先取りし、果敢に新たな事業へ挑戦する姿勢を重視しています。また、組織とルールに基づく行動とともに、会社を愛する精神と社内相互の人間理解を基本として業務を遂行することを大切にしています。お取引先との信頼関係を深め、事業を創造する文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は中期経営計画「integration 1.0」において、最終年度である2027年3月期に向けた定量目標を掲げています。具体的には、中長期的な株主価値向上を実現するため、資本効率や財務健全性の指標を設定し、着実な成長を目指しています。
* 連結当期利益:350億円
* ROE:16%~18%程度
* ROIC:8%以上
* ネットDER:1.0倍程度
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「効率的かつ持続可能なサプライチェーンの変革をリードするソリューションプロバイダー」を目指し、グループ一体経営の推進や提供価値の拡充に取り組んでいます。特に「DX」「GX」「イノベーション」を重点領域とし、サイバーセキュリティや再生可能エネルギー、宇宙・モビリティ分野での事業創出を強化しています。また、人的資本経営や資本効率の向上にも注力し、持続的な成長基盤の構築を進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「ソリューションプロバイダー」として活躍できる人材(兼松パーソン)の確保・育成を目指しています。深い現場知見と最適な解決策をデザインする力、多様なパートナーと連携してソリューションを実装する力を重視し、OJTや「兼松ユニバーシティ」等の研修制度を通じて育成を図っています。また、多様な個性を活かすDE&Iの推進や、フルフレックス・テレワーク等の環境整備により、従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 38.2歳 | 12.7年 | 11,434,189円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.9% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 70.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 36.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、DX関連研修受講率(57.6%)、フルフレックス利用率(80.3%)、有給休暇取得率(71.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) マクロ経済環境の変化によるリスク
同社グループはグローバルに事業を展開しているため、日本、米国、中国、欧州、アジア新興国などの景気が減速した場合、需要停滞や市場価格の下落により、経営成績や財政状態に悪影響が及ぶ可能性があります。
■(2) カントリーリスク
海外での取引や投融資において、政治・経済情勢の変化により代金回収が困難になる可能性があります。カントリーリスクに応じた格付けや限度額設定、貿易保険の活用などで対策を講じていますが、リスクが顕在化した場合は事業継続が困難となり、業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 事業投資等のリスク
成長投資として実行する事業投資は、投資先の財政状態や事業の成否により価値が変動します。現地の法令やパートナーとの関係等により当初の方針通りに進まない場合、投資損失や追加資金負担が発生し、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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