※本記事は、兼松株式会社の有価証券報告書(第132期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 兼松ってどんな会社?
同社は国内外のネットワークを活かし、情報技術や食料、航空など多角的な事業を展開する総合商社です。
■(1) 会社概要
1889年に神戸で創業した豪州貿易兼松房治郎商店を前身とし、1918年に兼松商店として設立されました。1967年に江商と合併して兼松江商となり、1990年に現在の兼松へ商号変更しています。近年は2023年に兼松エレクトロニクスや兼松サステックを完全子会社化するなど、グループ再編と事業の強化を進めています。
同社グループの従業員数は連結で8,604名、単体で861名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に日本カストディ銀行(信託口)、第3位には海外の金融機関であるステートストリートバンクアンドトラストカンパニーが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.56% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.63% |
| ステート ストリート バンク アンド トラスト カンパニー 505001 | 4.22% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長グループ成長戦略推進担当は宮部佳也氏が務めており、社外取締役の比率は27.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 宮部佳也 | 代表取締役社長グループ成長戦略推進担当 | 1983年兼松江商入社。取締役車両・航空部門担当などを経て2021年代表取締役社長。2023年より現職。 |
| 谷川薫 | 代表取締役会長 | 1981年兼松江商入社。取締役電子・デバイス部門長などを経て2017年代表取締役社長。2021年より現職。 |
| 海野太郎 | 取締役執行役員財務、主計、営業経理担当 | 1993年兼松入社。財務部長、兼松コミュニケーションズ出向などを経て、2025年より現職。 |
| 近藤一夫 | 取締役執行役員企画担当 | 1994年兼松入社。兼松コミュニケーションズ出向、企画部長などを経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、田原祐子(ベーシック代表取締役)、田中一弘(一橋大学大学院教授)、笹宏行(元オリンパス代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ICTソリューション」「電子・デバイス」「食料」「鉄鋼・素材・プラント」「車両・航空」および「その他」事業を展開しています。
■ICTソリューション
ITインフラ基盤の設計・構築から運用・保守サービス、システムコンサルティング、サイバーセキュリティソリューションなどを提供しています。企業のデジタル化投資需要や防衛・半導体関連のIT需要に応えるサービスを幅広く展開しています。
顧客に最適なITソリューションや保守・運用サービスを提供し、その対価としてサービス利用料やシステム構築費用などを受け取る収益モデルです。事業の運営は主に兼松エレクトロニクスやグローバルセキュリティエキスパートなどのグループ会社が行っています。
■電子・デバイス
電子部品・部材、半導体製造装置のほか、携帯通信端末の販売やモバイルインターネットシステムを展開しています。全国の販売ネットワークを活用し、モバイル関連商品の販売から運用、回収までのトータルサービスを提供しています。
携帯通信端末の販売益やモバイルインターネットシステムの提供に伴う通信キャリアからの手数料、および電子部品や製造装置の販売益が主な収益源です。運営は兼松のほか、兼松コミュニケーションズや兼松フューチャーテックソリューションズなどが行っています。
■食料
食品や飲料原料、畜水産物、穀物、飼料原料などを幅広く取り扱っています。食の安全・安心をテーマに、原料の調達から製品加工までの一貫供給体制を構築し、国内外の多様な市場ニーズに対応した商品を提供しています。
顧客へ食品や各種原料を販売し、その対価として販売益を得る収益モデルです。日本市場だけでなくアジア諸国への販売網も拡大しています。運営は兼松のほか、兼松食品や兼松アグリテックなどの子会社が担っています。
■鉄鋼・素材・プラント
各種鋼板や鋼管などの鉄鋼製品、石油製品、液化石油ガス、化学品などを取り扱うほか、環境配慮商品や排出権関連ビジネス、インフラ整備案件などのプロジェクトも推進しています。サーキュラーエコノミーの実現に向けた事業も展開しています。
各種鋼材や化学・エネルギー関連製品の販売益、およびプラント事業におけるプロジェクト提供に伴う対価が主な収益源です。運営は兼松のほか、兼松ケミカル、兼松ペトロ、兼松サステックなどが担っています。
■車両・航空
航空機や宇宙・防衛関連製品、自動車・二輪車および関連部品、工作機械などを取り扱っています。次世代モビリティや空飛ぶクルマ、ドローンなどの新領域での事業創造も推進しており、多様なエンジニアリング・ソリューションを提供しています。
車両部品や航空機、各種機械の販売益、および機械関連サービスを通じたソリューション提供に伴う手数料やサービス料が主な収益源です。運営は兼松のほか、兼松ケージーケイや兼松エアロスペースが行っています。
■その他
中質繊維板や非鉄金属の取り扱いのほか、保険代理・仲介業、航空・海上貨物代理店業、通関業、不動産管理・賃貸業などを展開しています。これらの事業を通じてグループ全体の機能補完と多角的な収益基盤の構築を図っています。
各種商品の販売益や保険代理手数料、物流・通関サービスに伴う手数料収入が主な収益源です。運営は新東亜交易や兼松ロジスティクス アンド インシュアランス、ホクシンなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
収益は直近5年間で一貫して増加傾向にあり、約7,680億円から1兆円を超える規模へと力強い成長を遂げています。税引前利益も同様に安定した右肩上がりを記録しており、当期は472億円に達しています。利益率も3%台から4%台へと着実に向上しており、堅調な増益トレンドを描いています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 収益 | 7,680億円 | 9,114億円 | 9,860億円 | 10,509億円 | 10,677億円 |
| 税引前利益 | 288億円 | 357億円 | 372億円 | 382億円 | 472億円 |
| 利益率(%) | 3.7% | 3.9% | 3.8% | 3.6% | 4.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 160億円 | 186億円 | 232億円 | 275億円 | 325億円 |
■(2) 損益計算書
収益は前期から約168億円増加して1兆677億円となり、売上総利益も約139億円増加の1,689億円へと成長しています。売上総利益率も14.7%から15.8%へと改善しており、それに伴い営業利益も421億円から487億円へと順調な伸びを見せています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 収益 | 10,509億円 | 10,677億円 |
| 売上総利益 | 1,550億円 | 1,689億円 |
| 売上総利益率(%) | 14.7% | 15.8% |
| 営業利益 | 421億円 | 487億円 |
| 営業利益率(%) | 4.0% | 4.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料および手当が55億円と大きな割合を占め、次いで業務委託費が40億円、従業員賞与が28億円となっています。
■(3) セグメント収益
各セグメントで安定した収益基盤を確立しており、特に電子・デバイスや食料セグメントが収益の柱となっています。利益面では電子・デバイスとICTソリューションが高い収益性を発揮し、全体を牽引しています。鉄鋼・素材・プラントは売上が減少したものの、利益水準は堅調に維持しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ICTソリューション | 1,003億円 | 1,118億円 | 147億円 | 152億円 | 13.6% |
| 電子・デバイス | 2,716億円 | 3,070億円 | 114億円 | 161億円 | 5.3% |
| 食料 | 3,576億円 | 3,589億円 | 78億円 | 88億円 | 2.5% |
| 鉄鋼・素材・プラント | 1,984億円 | 1,694億円 | 35億円 | 35億円 | 2.1% |
| 車両・航空 | 1,219億円 | 1,199億円 | 48億円 | 53億円 | 4.4% |
| その他 | 24億円 | 21億円 | -2億円 | -3億円 | -15.3% |
| 調整額 | -13億円 | -14億円 | 0億円 | -0億円 | - |
| 連結(合計) | 10,509億円 | 10,677億円 | 421億円 | 487億円 | 4.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスであることから、健全型と判定されます。営業活動で得た十分なキャッシュを用いて将来の成長に向けた投資を行うとともに、借入金の返済や株主還元を適切に進めている優良なキャッシュ・フロー状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 583億円 | 577億円 |
| 投資CF | 14億円 | -119億円 |
| 財務CF | -547億円 | -469億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は17.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は30.5%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、創業者である兼松房治郎の創業主意「わが国の福利を増進するの分子を播種栽培す」を基本理念として掲げています。この理念のもと、お取引先との信頼関係を深め、事業を創造し、社会に価値ある企業となることを使命として事業活動を展開しています。
■(2) 企業文化
同社は「伝統的開拓者精神と積極的創意工夫をもって業務にあたり、適正利潤を確保し、企業の発展を図る」などの「われらの信条」を行動指針としています。常に時代を先取りし、果敢に新たな事業へと挑戦し続ける開拓者精神と積極的な創意工夫を行う姿勢を企業文化として大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社は3ヵ年の中期経営計画「integration 1.1」において、中長期的な株主価値の向上を目指し、最終年度である2027年3月期に向けて以下の定量目標を掲げています。
・連結当期利益:350億円
・ROE:16%~18%程度
・ROIC:8%以上
・ネットDER:1.0倍程度
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「効率的かつ持続可能なサプライチェーンの変革をリードするソリューションプロバイダー」を目指し、「提供価値の拡充」を中核とした価値創造サイクルの確立を推進しています。DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、およびイノベーションの3つの提供価値を重点的に強化し、持続可能性への対応に取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「新たな価値創造の源泉となる人材(兼松パーソン)を確保・育成し、人材の能力が十分に発揮される組織を作ることで持続的に企業価値を向上させる」ことを基本方針としています。深い現場知見に根差した最適な解決策をデザインする力や、最適な組合せでソリューションを実装・運用する力を育成するため、社内環境の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 37.7歳 | 12.1年 | 12,015,894円 |
※平均年間給与は賞与および時間外勤務手当等を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.6% |
| 男性育児休業取得率 | 90.9% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 61.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 63.3% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 42.3% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、多様な人材の採用比率(女性・外国籍)(36.7%)、エンゲージメントスコア(78.2%)、有給休暇取得率(72.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) マクロ経済環境の変化によるリスク
同社グループは、多岐にわたる事業をグローバルに展開しています。日本や米国、中国、欧州およびアジア新興国などの景気が減速した場合、需要の停滞による売上減少や市場価格の大幅な落ち込みなどにより、経営成績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) カントリーリスク
海外における取引や投融資を展開しているため、その国の政治・経済情勢に起因する代金回収の遅延や不能が生じる可能性があります。各種格付けや貿易保険による回避策を講じていますが、特定の国・地域でリスクが顕在化した場合、事業継続が困難となる可能性があります。
■(3) 事業投資等のリスク
成長投資を実行するにあたり、投資基準を定めて採算性やリスク要因を評価していますが、投資先の財政状態や事業の成否によって投資価値が変動する可能性があります。また、現地の法令やパートナーとの関係によって、想定どおりの事業展開や撤退ができないリスクがあります。



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