※本記事は、三井物産株式会社の有価証券報告書(第107期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 三井物産ってどんな会社?
金属資源から生活産業まで幅広い分野でグローバルに展開する総合商社です。
■(1) 会社概要
1947年に第一物産として設立され、各種商品の輸出入販売業を開始しました。1949年に東京証券取引所に上場し、1959年に三井物産へ商号を変更しました。1976年には本店を東京都千代田区大手町に移転し、2006年に海外地域本部制を導入するなど、グローバルな総合商社として体制を拡充しています。
現在の従業員数は連結で55,463名、単体で5,333名です。筆頭株主および第3位株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位株主は海外の金融機関となっています。幅広い事業基盤とグローバルなネットワークを活用し、世界中で多角的な事業活動を展開しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.12% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505104 | 10.42% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.27% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性5名の計17名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表取締役社長CEOは堀健一氏が務めています。取締役12名のうち、半数の6名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 堀健一 | 代表取締役社長CEO | 1984年同社入社。経営企画部長、ニュートリション・アグリカルチャー本部長などを経て、2019年代表取締役専務執行役員に就任。2021年より現職。 |
| 中井一雅 | 代表取締役副社長執行役員CSO | 1987年同社入社。プロジェクト本部長などを経て、2023年代表取締役専務執行役員に就任。2024年に取締役専務執行役員となり、2026年より現職。 |
| 福田哲也 | 代表取締役専務執行役員CDIO | 1991年同社入社。金属資源本部長などを経て、2023年に常務執行役員金属資源本部長に就任。2025年に専務執行役員CDIOとなり、同年より現職。 |
| 田中誠 | 代表取締役常務執行役員CFO | 1991年同社入社。2022年に執行役員財務部長、2025年に常務執行役員財務部長を経て、2026年に常務執行役員CFOとなり、同年より現職。 |
| 安永竜夫 | 代表取締役会長 | 1983年同社入社。機械・輸送システム本部長を経て、2015年に代表取締役社長CEOに就任。2021年より現職。 |
| 竹増喜明 | 取締役 | 1985年同社入社。人事総務部長を経て、2021年に代表取締役常務執行役員CHRO、CCOに就任。副社長執行役員を経て、2026年より現職。 |
| 重田哲也 | 取締役 | 1987年同社入社。経理部長を経て、2022年に代表取締役常務執行役員CFOに就任。副社長執行役員CFOなどを経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、サミュエルウォルシュ(元Rio Tinto Limited CEO)、内山田竹志(トヨタ自動車相談役)、江川雅子(学校法人成蹊学園学園長)、石黒不二代(元ネットイヤーグループ代表取締役社長)、ジェシカ タンスーン ネオ(元マイクロソフトシンガポールマネージングディレクター)、サラ L. カサノバ(元日本マクドナルドホールディングス代表取締役社長兼CEO)です。
2. 事業内容
同社グループは、「金属資源」「エネルギー」「機械・インフラ」「化学品」「鉄鋼製品」「生活産業」「次世代・機能推進」および「その他」の事業を展開しています。
■金属資源
同社は、鉄鉱石、原料炭、銅、ニッケル、アルミニウム、金属リサイクルなどの金属資源分野で、多種多様な商品の売買や事業投資を展開しています。資源開発プロジェクトを通じ、全世界の顧客に産業の基幹素材となる原料・製品を安定的に供給しています。
主に資源権益からの配当や商品の販売収益を得るモデルです。事業運営は三井物産メタルズなどの子会社や、持分法適用会社である日本アマゾンアルミニウム等のグループ企業が連携して担っています。
■エネルギー
天然ガス・LNG、原油、石油製品に加え、環境・次世代エネルギー分野における探鉱、開発、生産、販売をグローバルに展開しています。脱炭素社会に向けた次世代燃料の取り扱いにも注力し、多様化するエネルギー需要に応えています。
主にエネルギー資源の販売収入や権益からの配当を収益源としています。三井エネルギー資源開発や米国、豪州等の海外子会社のほか、ENEOSグローブ等の持分法適用会社が事業を推進しています。
■機械・インフラ
電力、海洋エネルギー、ガス配給、水、物流・社会インフラ、自動車、建設・鉱山機械、鉄道、船舶、航空など、幅広い領域でインフラ構築と機械設備の販売・関連サービスを提供しています。
機械の販売代金やインフラ事業の運営収益、リース・ファイナンスに伴う手数料等が主な収益源です。三井物産プロジェクトソリューションや三井物産エアロスペース等の子会社群が事業を運営しています。
■化学品
石油化学原料、無機原料、合成樹脂原料、農業資材、飼料添加物、住生活マテリアル等の化学品関連分野で製造・販売・貿易を行っています。加えて、化学品タンクターミナル事業の運営にも取り組んでいます。
商品の販売収益やタンクターミナルの利用料、製造事業からの収益を獲得しています。事業は三井物産ケミカルや三井物産プラスチック等の子会社、SMB建材などの持分法適用会社によって運営されています。
■鉄鋼製品
インフラ鋼材、自動車部品、エネルギー鋼材などの鉄鋼関連製品の国内販売および貿易を手がけています。インフラ構築や自動車産業など、幅広い産業に向けた基幹部材の安定供給に貢献しています。
商品の販売代金や加工・流通に伴う収益が主な収益源です。事業運営は、三井物産スチールなどの子会社や、エムエム建材、日鉄物産などの持分法適用会社が主体となって事業を展開しています。
■生活産業
食料、ファッション、ヘルスケア、EX(従業員体験)関連分野を中心に、消費者のライフスタイルやウェルネスに直結する商品・サービスの提供を行っています。食品卸やブランド事業、給食事業なども展開しています。
商品の販売収益やサービス提供に対する対価を獲得するモデルです。三井物産流通グループやエームサービス等の子会社のほか、スターゼンやDM三井製糖等の持分法適用会社が事業を運営しています。
■次世代・機能推進
アセットマネジメント、保険、バイアウト・ベンチャー投資、商品デリバティブ、物流センター、ICTサービス、デジタルマーケティング、不動産など、多角的な機能提供と次世代事業の創出を行っています。
サービスの提供手数料、投資収益、デリバティブ取引収益などが主な収益源です。三井情報や三井物産グローバルロジスティクス等の子会社、QVCジャパン等の持分法適用会社が各事業を担っています。
■その他
上記の報告セグメントに含まれない事業として、各国の海外現地法人等による商品の販売・仕入や、ビジネスインキュベーション関連サービスなどの多角的な事業活動を展開しています。
商品の販売に伴う収益や各種サービスの提供手数料を獲得しています。事業運営は、米国三井物産や欧州三井物産をはじめとする各国の現地子会社のほか、新規事業開発を担う子会社等が主体となって行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の売上収益は11兆円から14兆円台で推移しており、資源価格の変動や為替の影響を受けつつも高水準を維持しています。親会社の所有者に帰属する当期利益は、2023年3月期に1兆1306億円の最高益を記録した後、直近の2026年3月期は8340億円となりました。全体として安定した利益創出力を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 117576億円 | 143064億円 | 133249億円 | 146626億円 | 139952億円 |
| 利益率(%) | 7.8% | 7.9% | 8.0% | 6.1% | 6.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 9147億円 | 11306億円 | 10637億円 | 9003億円 | 8340億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は14兆6626億円から13兆9952億円へと減少しましたが、売上総利益は1083億円から1986億円へと増加しました。当期利益は9003億円から8340億円へと減少しており、利益構造の変化が見られます。全体として、コストコントロールや事業ポートフォリオの入れ替えによる影響が業績に反映されています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 146626億円 | 139952億円 |
| 売上総利益 | 1083億円 | 1986億円 |
| 売上総利益率(%) | 0.7% | 1.4% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が4907億円(構成比54.4%)、通信情報費が764億円(同8.5%)、業務委託料が350億円(同3.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
エネルギーセグメントは原油価格や取引数量の減少により減収減益となりました。金属資源セグメントも鉄鉱石・原料炭価格の下落により減益を記録しています。一方で、機械・インフラや次世代・機能推進セグメントは高い利益率を確保しており、幅広い事業ポートフォリオによって環境変化による影響を吸収する構造となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 金属資源 | 19419億円 | 19216億円 | 2854億円 | 2536億円 | 13.2% |
| エネルギー | 39675億円 | 32307億円 | 1735億円 | 1642億円 | 5.1% |
| 機械・インフラ | 14837億円 | 15232億円 | 2329億円 | 2259億円 | 14.8% |
| 化学品 | 29795億円 | 29336億円 | 759億円 | 675億円 | 2.3% |
| 鉄鋼製品 | 654億円 | 627億円 | 132億円 | 189億円 | 3.0% |
| 生活産業 | 33397億円 | 34096億円 | 537億円 | 520億円 | 1.5% |
| 次世代・機能推進 | 2954億円 | 3475億円 | 873億円 | 590億円 | 17.0% |
| その他 | 14億円 | 21億円 | -428億円 | 207億円 | 1004.2% |
| 調整・消去 | - | - | 215億円 | -277億円 | - |
| 連結(合計) | 146626億円 | 139952億円 | 9003億円 | 8340億円 | 6.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
当期のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態を示しています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.2%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は30.3%となり、いずれも市場平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 10175億円 | 9529億円 |
| 投資CF | -1620億円 | -10335億円 |
| 財務CF | -7496億円 | 269億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「世界中の未来をつくる」を経営理念(ミッション)に掲げています。社会課題に対する現実解の提供と、顧客のニーズに応じた商品やサービスの安定供給を通じて社会的役割を果たし、持続可能な社会と経済成長の実現に寄与することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「挑戦と創造」のDNAを継承し、常に時代の潮流を先取りして新たな事業を創出する文化を重視しています。また、グループ行動指針として「With Integrity(誠実さ)」を掲げ、多様なバックグラウンドを持つ人材が互いの価値観を尊重し、自由な発想で共創できるインクルーシブな組織風土の醸成に注力しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「中期経営計画2029」において、再現性ある価値創出の仕組みに基づき、強固な収益基盤の構築を目指しています。最終年度である2029年3月期に向け、過去最高レベルの基礎営業キャッシュ・フローと当期利益を目標に掲げています。
* 基礎営業キャッシュ・フロー:1.2兆円
* 当期利益(親会社の所有者に帰属):1.1兆円
* 株主資本利益率(ROE):12%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、事業戦略として「差別化された競争力」「変革を続ける収益基盤」「強い個による価値創造」を設定しています。「Industrial Business Solutions 2.0」や「Global Energy Transformation 2.0」等の進化した攻め筋に基づき、AIの活用やグローバルポートフォリオの良質化を通じた非線形な価値創出(Combinatory Value)を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「人」こそが持続的な価値創造の源泉であると位置づけ、強い「個」の育成とインクルージョンの推進を掲げています。プロフェッショナル人材とAIの探索力を融合させ、グローバルな事業展開を支える適材適所の配置や、従業員の自律的なキャリア形成を後押しする環境整備に戦略的な投資を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.0歳 | 17.4年 | 20,589,000円 |
※平均年間給与は賞与及び超過勤務手当を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 12.0% |
| 男性育児休業等取得率 | 93.0% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 64.9% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 65.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期雇用労働者) | 56.9% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、海外採用社員ライン長比率(21%)、有給休暇年間平均取得日数(13.4日)、有給休暇年間平均取得率(70.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) カントリーリスク
同社が世界各地で展開する事業は、各国の政治・経済・社会状況の変化により、投融資の回収不能や固定資産等の価値毀損が発生するリスクがあります。これに対し、保険や輸出信用機関によるファイナンスを活用し、定期的なモニタリングを通じて適切なリスクヘッジ策を講じています。
■(2) 気候変動に関する政策・市場リスク
化石燃料関連事業等のGHG排出量が多い事業において、各国の環境規制強化や炭素税の賦課、低炭素社会への移行に伴う需要減少が業績に影響を及ぼす可能性があります。同社はシナリオ分析の実施や社内カーボンプライシング制度の導入により、事業ポートフォリオのレジリエンス向上に努めています。
■(3) 情報システム及び情報セキュリティの障害
グローバルな通信ネットワークの運用やAIの活用が進む中、サイバー攻撃や予期せぬシステム障害による機密情報の漏洩・破壊リスクが存在します。同社は関連規程の整備や監視体制の強化、非常時を想定した訓練を実施し、情報資産の保護と被害の最小化に取り組んでいます。



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