三井物産 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三井物産 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場および名古屋証券取引所プレミア市場に上場する大手総合商社です。金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品、鉄鋼製品、生活産業、次世代・機能推進の各分野で事業を展開。当連結会計年度の収益は増収となりましたが、商品価格の下落や前期の一過性利益の反動等により、当期利益は減益となりました。


※本記事は、三井物産株式会社 の有価証券報告書(第106期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 三井物産ってどんな会社?


金属資源やエネルギー等の資源分野に強みを持つ総合商社です。世界中に広がる拠点を活かし、多角的な事業と投資を展開しています。

(1) 会社概要


1947年に第一物産として設立され、1959年に現在の商号に変更しました。2002年には執行役員制を導入し、経営の機動性を高めています。2019年にはマレーシアのIHH Healthcareへの追加出資を行い筆頭株主となりました。2022年の市場区分見直しによりプライム市場へ移行し、2025年には豪州のRhodes Ridge鉄鉱石プロジェクトへの参画を決定しています。

連結従業員数は56,400名、単体では5,388名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は海外銀行の常任代理人である株式会社三菱UFJ銀行、第3位は株式会社日本カストディ銀行(信託口)です。国内外の機関投資家が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 16.97%
BNYM AS AGT⁄CLTS 10 PERCENT(常任代理人 三菱UFJ銀行) 10.45%
日本カストディ銀行(信託口) 5.91%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性5名の計17名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表取締役社長CEOは堀 健一氏です。社外取締役は12名中6名で、比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
堀 健一 代表取締役社長CEO 1984年入社。経営企画部長、ニュートリション・アグリカルチャー本部長、専務執行役員などを経て、2021年4月より現職。
安永 竜夫 代表取締役会長 1983年入社。機械・輸送システム本部長などを経て、2015年社長CEOに就任。2021年4月より現職。
竹増 喜明 代表取締役副社長執行役員CHROCCO 1985年入社。人事総務部長などを経て、2021年4月CHRO、CCOに就任。2023年4月より現職。
重田 哲也 代表取締役副社長執行役員CFO 1987年入社。経理部長などを経て、2022年4月CFOに就任。2025年4月より現職。
佐藤 理 取締役副社長執行役員 1990年入社。事業統括部長などを経て、2022年4月CSOに就任。2025年4月より現職。
松井 透 取締役副社長執行役員 1990年入社。エネルギーソリューション本部長などを経て、2023年4月CDIOに就任。2025年4月より現職。


社外取締役は、サミュエル ウォルシュ(元Rio Tinto Limited CEO)、内山田 竹志(トヨタ自動車相談役)、江川 雅子(成蹊学園学園長)、石黒 不二代(世界経済フォーラム日本代表)、サラ L. カサノバ(元日本マクドナルド会長)、ジェシカ タン スーン ネオ(シンガポール国会議員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「金属資源」、「エネルギー」、「機械・インフラ」、「化学品」、「鉄鋼製品」、「生活産業」、「次世代・機能推進」の7つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。

(1) 金属資源


鉄鉱石、原料炭、銅、ニッケル、アルミニウム、合金鉄、金属リサイクルなどを取り扱っています。海外諸地域において鉄鋼および非鉄金属原料の資源開発を行うとともに、日本および海外諸地域において原料・製品の製造・販売および売買を行っています。

収益は、資源権益からの持分生産量に応じた販売収入や、トレード取引における販売マージン等から構成されています。運営は、同社(金属資源本部)、およびMitsui Iron Ore Development等の連結子会社が行っています。

(2) エネルギー


天然ガス・LNG、原油、石油製品、環境・次世代エネルギーなどを取り扱っています。海外諸地域において石油・ガスの資源開発を行うとともに、日本および海外諸地域において石油・ガス、石炭および関連製品の売買、さらには次世代電力事業を行っています。

収益は、石油・ガス開発プロジェクトからの販売収入や、LNG等のエネルギートレーディングによるマージン等から得ています。運営は、同社(エネルギー第一・第二・ソリューション本部)、および三井エネルギー資源開発、Mitsui E&Pなどの連結子会社が行っています。

(3) 機械・インフラ


電力、海洋エネルギー、ガス配給、水、物流・社会インフラ、自動車、建設・鉱山機械、産業機械、鉄道、船舶、航空などを取り扱っています。機械・設備の製造・販売および売買、リース、ファイナンス、さらには発電などのインフラ事業を行っています。

収益は、機械設備の販売、インフラ事業からの配当や持分法投資損益、リース料収入等から構成されています。運営は、同社(プロジェクト本部、モビリティ第一・第二本部)、およびPortek International等の連結子会社が行っています。

(4) 化学品


石油化学原料・製品、無機原料・製品、合成樹脂原料・製品、農業資材、飼料添加物、化学品タンクターミナルなどを取り扱っています。日本および海外諸地域において化学品や住生活マテリアルの製造・販売および売買を行っています。

収益は、化学品のトレーディングマージンや、製造・販売事業からの売上、タンクターミナル事業の利用料等から得ています。運営は、同社(ベーシックマテリアルズ本部等)、および三井物産ケミカル、Novus International等の連結子会社が行っています。

(5) 鉄鋼製品


インフラ鋼材、自動車部品、エネルギー鋼材などを取り扱っています。日本および海外諸地域において鉄鋼製品の製造・販売および売買を行っています。

収益は、鉄鋼製品の加工・販売による売上やトレーディングマージン等から構成されています。運営は、同社(鉄鋼製品本部)、および三井物産スチール、Regency Steel Asia等の連結子会社が行っています。

(6) 生活産業


食料、ファッション、ヘルスケア、従業員体験(EX)などを取り扱っています。日本および海外諸地域において食料や消費財の製造・販売および売買、ウェルネス関連事業を行っています。

収益は、食料や消費財の販売収入、病院事業や給食サービス事業等のサービス提供対価から得ています。運営は、同社(食料本部、流通事業本部等)、および三井物産流通グループ、IHH Healthcare(持分法適用会社)等の関係会社が行っています。

(7) 次世代・機能推進


ICTサービス、物流センター、保険、金融、不動産などを取り扱っています。日本および海外諸地域において情報通信事業、物流関連事業、保険事業、金融関連事業、不動産関連事業およびメディア関連事業を行っています。

収益は、ICTサービスの提供対価、物流倉庫の賃貸料、金融・不動産事業からの収益等から構成されています。運営は、同社(ICT事業本部等)、および三井情報、三井物産都市開発等の連結子会社が行っています。

(8) その他


上記の報告セグメントに含まれない、コーポレートスタッフ部門による金融サービスや業務サービスなどが含まれています。

収益は、グループ会社へのサービス提供対価等が該当します。運営は、同社のコーポレートスタッフ部門および関連する連結子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益は直近5期間において変動がありつつも、第104期に大きく伸長し、第106期は過去最高の水準となっています。利益面では、第104期に当期利益が1兆円を超え、以降も高い水準を維持していますが、第106期は減益となりました。利益率は10%前後の高い水準で推移しており、収益性は安定しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
収益 80,102億円 117,576億円 143,064億円 133,249億円 146,626億円
売上総利益 8,115億円 11,414億円 13,962億円 13,197億円 12,884億円
利益率(%) 10.1% 9.7%9.8% 9.9% 8.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 3,355億円 9,147億円 11,306億円 10,637億円 9,003億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上収益は増加しましたが、売上総利益は若干減少しました。これは金属資源セグメントなどでの減益影響によるものです。営業利益(税引前利益)も減少しており、利益率は低下傾向にあります。全体として収益規模は拡大しているものの、利益率の面では調整局面にあると言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 133,249億円 146,626億円
売上総利益 13,197億円 12,884億円
売上総利益率(%) 9.9% 8.8%
営業利益 13,024億円 11,352億円
営業利益率(%) 9.8% 7.7%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が4,991億円(構成比56%)、諸雑費が1,551億円(同17%)を占めています。

(3) セグメント収益


エネルギーセグメントと生活産業セグメントが収益規模で大きく寄与しています。当期はエネルギー、化学品、生活産業などで増収となった一方、金属資源や機械・インフラは前期比で減収または横ばい傾向です。利益面では、金属資源やエネルギーが商品価格下落等の影響で減益となりましたが、化学品や次世代・機能推進は増益となり、ポートフォリオによる補完効果が見られます。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
金属資源 20,377億円 19,419億円 3,351億円 2,854億円 14.7%
エネルギー 29,495億円 39,675億円 2,817億円 1,735億円 4.4%
機械・インフラ 13,785億円 14,837億円 2,487億円 2,329億円 15.7%
化学品 27,846億円 29,795億円 392億円 759億円 2.5%
鉄鋼製品 6,787億円 6,536億円 112億円 132億円 2.0%
生活産業 32,130億円 33,397億円 941億円 537億円 1.6%
次世代・機能推進 2,811億円 2,954億円 538億円 873億円 29.6%
その他 19億円 14億円 56億円 -428億円 -2,972.9%
調整・消去 - - -59億円 215億円 -
連結(合計) 133,249億円 146,626億円 10,637億円 9,003億円 6.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で獲得した現金を、借入金の返済や配当支払い等の財務活動、および投資活動に充てており、本業でしっかり利益を出しながら財務体質の改善や株主還元を進める**健全型**のキャッシュ・フロー状態にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 8,644億円 10,175億円
投資CF -4,275億円 -1,620億円
財務CF -10,131億円 -7,496億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は32.2%でプライム市場(非製造業平均)を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、大切な地球と人びとの豊かで夢あふれる明日を実現し、「世界中の未来をつくる」ことを経営理念(Mission)に掲げています。この理念のもと、サステナビリティへの取り組みを重要な経営課題と位置づけ、地球規模の課題解決に挑み、持続可能な社会と経済成長の実現に寄与することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「挑戦と創造」をDNAとして継承し、常に時代の潮流を先取りして新たな事業を創出してきました。また、「三井物産グループ行動指針—With Integrity」を掲げ、法令順守や倫理観を持った誠実な行動を重視しています。多様な個の力を最大限に活かすインクルージョンを推進し、組織の壁を越えた共創により新たな価値を生み出すことを目指しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、2026年3月期を最終年度とする中期経営計画2026「Creating Sustainable Futures」を推進しています。最終年度の定量計画として、以下の目標を掲げています。

* 基礎営業キャッシュ・フロー:8,200億円
* 当期利益(親会社の所有者に帰属):7,700億円

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画2026では、「Industrial Business Solutions」「Global Energy Transition」「Wellness Ecosystem Creation」の3つの攻め筋を設定し、産業横断的な取り組みを推進しています。既存事業の強化や効率化に加え、厳選した成長投資を実行し、基礎収益力の拡充を図ります。また、ポートフォリオ経営を深化させ、資産・資本効率を重視した経営を進めるとともに、グローバルでの適材適所やDX人材の育成など、人材戦略にも注力します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人材を最大の資産と位置づけ、「グローバルタレントマネジメントポリシー」を策定しています。求める人材像として「自律的な成長」「強い個」「インクルーシブ」を定義し、社員が自律的にキャリアを形成し、グローバルに活躍できる環境を整備しています。具体的には、人材データプラットフォーム「Bloom」の稼働や、キャリアチャレンジ制度、DX人材育成プログラムなどを通じ、多様な個の活躍と組織力の最大化を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.2歳 17.7年 19,964,000円


※平均年間給与は賞与及び超過勤務手当を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 11.0%
男性育児休業取得率 91.0%
男女賃金差異(全労働者) 59.9%
男女賃金差異(正規雇用) 60.4%
男女賃金差異(非正規) 54.1%


※男性育児休業取得率の対象は全男性労働者です。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性採用比率(40.0%)、海外採用社員ライン長比率(19.0%)、男性育児休業取得日数(42.4日)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業投資リスク


同社グループは多様な事業への投資を行っていますが、投下資金が回収不能となるリスクや撤退時に損失が発生するリスクがあります。合弁事業や戦略的投資においては、パートナーの状況等により事業の成否が左右される可能性があります。また、資源事業等におけるノンオペレーターとしての参画では、オペレーターの方針により事業運営が影響を受けるリスクもあります。これに対し、新規投資の厳格な審査や既存事業の定期的なモニタリングを実施しています。

(2) 地政学的リスク


ロシア・ウクライナ情勢や米中関係など、国際的な政治・社会的緊張の高まりが事業に悪影響を及ぼす可能性があります。特定の国・地域での事業継続が困難になるリスクに対し、動向のモニタリングや保険、輸出信用機関によるファイナンス等のリスクヘッジ策を講じています。ロシア向けの投融資保証残高も一定程度あり、今後の情勢次第では影響を受ける可能性があります。

(3) カントリーリスク


世界各地で事業を展開しているため、各国の政治・経済状況の変化により債権回収が困難になったり、資産価値が毀損したりするリスクがあります。特にブラジル、チリ、ロシア、マレーシア、モザンビーク等の特定の国・地域にエクスポージャーが集中している分野があります。これに対し、保険の付保やカントリーリスク管理方針の策定、定期的なモニタリングを通じてリスク管理を行っています。

(4) 気候変動に関するリスク


低炭素化社会への移行に伴う政策・法規制の変更、技術革新、市場の変化(移行リスク)や、異常気象による物理的被害(物理的リスク)が、経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。特に化石燃料関連事業においては、需要減少や保有資産の価値毀損のリスクがあります。同社は中長期的なシナリオ分析を実施し、事業ポートフォリオの良質化やGHG排出削減目標の設定などを通じて対応を進めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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