岩谷産業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

岩谷産業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

岩谷産業はプライム市場に上場し、総合エネルギー、産業ガス・機械、マテリアル事業等を展開する企業です。直近の第83期連結決算では、工業分野向け商品の販売が堅調に推移し売上高は増収となった一方、減価償却費などの増加により営業利益は減益となりました。最終的な当期純利益は増益を確保しています。


※本記事は、岩谷産業の有価証券報告書(第83期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 岩谷産業ってどんな会社?


総合エネルギーや産業ガス・機械、マテリアル事業を展開し、水素エネルギー社会の実現に注力する企業です。

(1) 会社概要


1930年に岩谷直治商店として創業し、酸素やカーバイド等の取扱いを開始しました。1945年に岩谷産業を設立し、1953年にはLPガスの販売を開始して消費財市場へ進出しました。1962年の上場を経て、2014年には国内初の商用水素ステーションを完成させるなど、事業領域を拡大し続けています。

現在の従業員数は連結で12,113名、単体で1,384名です。大株主の状況は、筆頭株主が資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は公益財団法人岩谷直治記念財団、第3位も資産管理業務を行う日本カストディ銀行(信託口)となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11.89%
公益財団法人岩谷直治記念財団 7.17%
日本カストディ銀行(信託口) 4.86%

(2) 経営陣


同社の役員は男性15名、女性1名の計16名で構成され、女性役員比率は6.3%です。代表取締役社長兼CEOは間島寬が務めており、取締役における社外取締役の比率は33.3%となっています。

氏名 役職 主な経歴
間島 寬 代表取締役社長執行役員兼CEO 1981年同社入社。常務執行役員、取締役、専務取締役などを経て、2020年4月より代表取締役社長執行役員に就任。2026年4月より現職。
牧野 明次 代表取締役会長 1965年同社入社。取締役、専務取締役、代表取締役社長などを経て、2012年6月より代表取締役会長兼CEOに就任。2026年4月より現職。
渡邊 敏夫 代表取締役副会長 1968年同社入社。取締役、専務取締役、取締役副社長などを経て、2006年6月に代表取締役副社長に就任。2012年6月より現職。
津吉 学 取締役専務執行役員 1989年同社入社。水素本部長などを経て、2022年4月に取締役専務執行役員に就任。2026年4月より現職。
福島 洋 取締役専務執行役員 1987年通商産業省入省。2019年同社入社。2022年6月に取締役専務執行役員に就任し、技術・エンジニアリング本部長などを担当。
髙山 健志 取締役専務執行役員 1990年同社入社。総務人事部長、経営企画部長などを経て、2024年6月に取締役専務執行役員に就任。業務部や情報企画部などを担当。
寺田 和正 取締役常務執行役員 1993年三和銀行入行。三菱UFJ銀行執行役員などを経て2025年同社入社。2025年6月より現職。
廣田 博清 取締役 1980年同社入社。常務取締役、専務取締役、岩谷物流取締役会長などを経て、2024年4月に取締役副社長執行役員に就任。2026年4月より現職。


社外取締役は、森詳介(元関西電力社長)、佐藤廣士(元神戸製鋼所社長)、鈴木博之(丸一鋼管代表取締役会長兼CEO)、齋藤友紀(さくら法律事務所パートナー弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「総合エネルギー事業」「産業ガス・機械事業」「マテリアル事業」および「その他」の事業を展開しています。

総合エネルギー事業


家庭用・業務用のLPガスや生活関連商品、ガス関連機器を全国の顧客に提供しています。LPガスの輸入から小売まで一貫した供給体制を有し、全国約300ヶ所の拠点を通じて暮らしのインフラを支えています。

顧客からのLPガスや関連機器の販売代金が主な収益源です。運営は同社やセントラル石油瓦斯などの子会社が行っており、独自の販売・物流・保安体制を活かして、きめ細やかで質の高いサービスを展開しています。

産業ガス・機械事業


酸素や窒素、水素、ヘリウムなどの各種産業ガスと、ガス製造・供給設備、溶接装置、半導体製造装置などの機械設備を、工場をはじめとする法人顧客向けに提供しています。

顧客のニーズに合わせたガスや機械設備の販売による代金が主な収益源です。同社および岩谷瓦斯などの子会社が長年培った技術力を活かして事業を運営し、産業全体を幅広く支えています。

マテリアル事業


樹脂原料や樹脂製品、ミネラルサンドなどの資源、ステンレス、非鉄金属、二次電池材料など、モノづくりに必要な原料や部材を国内外の法人顧客向けに提供しています。

原材料や各種部材の販売代金を通じて収益を得ています。同社や岩谷テクノ、岩谷マテリアルなどの子会社が運営を担い、環境商品などの成長分野への拡販や海外事業の強化を図っています。

その他


報告セグメントに含まれない事業として、食品、畜産、金融、保険、運送、保安、情報処理などの幅広い分野でサービスを展開しています。

各サービスの提供に対する手数料や販売代金などを収益源としています。イワタニフーズや岩谷物流、岩谷情報システムなどの各子会社が、それぞれの専門分野において事業を運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績推移を見ると、売上高は6,904億円から9,085億円へと拡大傾向にあります。経常利益は一時的に623億円まで増加したものの、直近では552億円となっています。利益率は5%から7%台で推移しており、一定の収益水準を維持しながら事業規模の拡大を続けていることが伺えます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 6,904億円 9,063億円 8,479億円 8,830億円 9,085億円
経常利益 464億円 470億円 623億円 615億円 552億円
利益率(%) 6.7% 5.2% 7.3% 7.0% 6.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 252億円 204億円 290億円 245億円 344億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は8,830億円から9,085億円へと増加し、売上総利益も微増しました。一方で、減価償却費や支払手数料などの増加が影響し、営業利益は462億円から383億円へ減益となり、営業利益率も低下しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 8,830億円 9,085億円
売上総利益 2,343億円 2,359億円
売上総利益率(%) 26.5% 26.0%
営業利益 462億円 383億円
営業利益率(%) 5.2% 4.2%


販売費及び一般管理費(連結)のうち、給料手当及び賞与が520億円(構成比26%)、運搬費が337億円(同17%)を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別に見ると、産業ガス・機械事業やマテリアル事業は工業分野向け商品の販売が堅調で増収となりましたが、利益面ではヘリウムの市況軟化等の影響で減益となりました。また、総合エネルギー事業はLPガスの市況要因により減収減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
総合エネルギー事業 3,788億円 3,677億円 195億円 135億円 3.7%
産業ガス・機械事業 2,714億円 2,887億円 176億円 154億円 5.3%
マテリアル事業 2,017億円 2,184億円 117億円 116億円 5.3%
その他 311億円 337億円 33億円 35億円 10.4%
調整額 -億円 -億円 -59億円 -57億円 -%
連結(合計) 8,830億円 9,085億円 462億円 383億円 4.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動で得た資金の範囲内で投資や借入金の返済を行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 524億円 591億円
投資CF -584億円 -238億円
財務CF -20億円 -371億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.6%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も48.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「世の中に必要な人間となれ、世の中に必要なものこそ栄える」を企業理念として掲げています。常に世の中が求める新しい価値や顧客が求める価値の創造に努め、社会に貢献することを目指しています。株主や取引先、従業員などからの信頼と期待に応えることを、会社繁栄の絶対条件として日々の事業経営に取り組んでいます。

(2) 企業文化


「住みよい地球がイワタニの願いです」をスローガンに掲げ、脱炭素社会の実現および環境との共生を目指した企業活動を行っています。また、「イワタニ企業倫理綱領」を定め、個性や自立性を活かしたチームワークで、自由な発想と豊かな創造性を発揮できる組織文化の醸成や人材育成に努めています。

(3) 経営計画・目標


2024年3月期を初年度とする5ヵ年に亘る中期経営計画「PLAN27」を推進しています。「『社会課題解決』と『持続的成長』に向けた事業拡大」を基本方針とし、以下の経営数値目標の達成を目指しています。

・営業利益:650億円
・ROE:10%以上
・ROIC:6%以上

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画「PLAN27」において、テーマに「水素エネルギー社会の実現に向けて」を掲げ、投資や人材といったリソースを重点投下する5つの戦略(水素戦略、脱炭素戦略、国内エネルギー・サービス戦略、海外戦略、非財務戦略)を推進しています。液化水素サプライチェーンの構築やグリーンLPガスの開発などを通じて持続的な成長を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


持続的な価値創造の源泉は「人材」であると考え、社員一人ひとりが成長し、活躍できる組織を目指しています。「ダイバーシティ&インクルージョン推進」「人材育成の強化」「やりがいのある職場づくり」の3点に重点的に取り組み、自律的に成長し続ける多様な個が活きる組織の実現を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 39.8歳 15.3年 10,206,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.7%
男性育児休業取得率 66.7%
男女賃金差異(全労働者) 55.0%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 54.9%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 54.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇の取得率(55.0%)、総合コース新卒採用に占める女性社員比率(24.1%)、社員1人当たりの教育投資額(149,000円)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) LPガス輸入価格の変動


同社はLPガスを中東や米国から輸入しており、販売価格を輸入価格に連動させる体系としていますが、輸入から販売までに約3ヶ月のタイムラグがあります。そのため、輸入価格の上昇時には増益要因となる一方、下落時には高い原価の在庫を安く販売することになり、減益要因として同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 気候変動への対応


化石燃料であるLPガスを主力商品としているため、今後の気候変動に係る規制等の動向が業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は気候関連リスクを回避・低減しつつ、水素など脱炭素化に資する商品の普及拡大などの機会を捉えるため、サステナビリティ推進委員会を通じてリスク管理と戦略の反映に取り組んでいます。

(3) 為替相場の変動


貿易取引やアジアを中心とする海外事業展開を行っているため、為替の変動リスクに晒されています。実需の範囲で為替予約等を行うことでリスクの回避に努めていますが、急激な為替変動が起きた場合にはリスクを完全に排除することは困難であり、同社グループの財政状態および経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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