※本記事は、イノテック株式会社 の有価証券報告書(第39期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. イノテックってどんな会社?
半導体テストシステム等のハードウェアから、設計・検証ソフトウェア、組込みシステム開発まで手掛けるエレクトロニクス商社兼メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1987年に設立され、1991年には横浜市港北区に新横浜本社を新設して業容を拡大しました。2000年にアイティアクセスを設立するなどグループ展開を進め、2008年に東京証券取引所市場第二部に上場を果たしました。2022年4月には、市場区分の見直しに伴い東京証券取引所プライム市場へ移行しています。
現在の従業員数は連結1,560名、単体212名です。大株主については、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は外国法人、第3位は同社のメインバンクである都市銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.87% |
| Castlewilder Unlimited Company | 3.45% |
| みずほ銀行 | 3.18% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性4名、女性1名の計5名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長執行役員は大塚信行氏が務めています。社外取締役比率は60.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大塚 信行 | 代表取締役社長執行役員 | 丸紅情報システムズ等を経て1991年同社入社。テストソリューション本部長等を経て2019年代表取締役専務、2021年より現職。 |
| 棚橋 祥紀 | 代表取締役専務執行役員 | 野村総合研究所、BofA証券、スカパーJSAT等を経て2010年同社入社。管理本部長、アイティアクセス監査役等を経て2023年より現職。 |
社外取締役は、中江公人(元防衛事務次官)、廣瀬史乃(弁護士)、栗山史(元大和証券・KPMG FAS)です。
2. 事業内容
同社グループは、「テストソリューション事業」「半導体設計関連事業」および「システム・サービス事業」を展開しています。
■(1) テストソリューション事業
主に半導体メーカーに対し、自社製品である半導体テストシステムや、信頼性評価装置、プローブカードなどを開発・製造・販売しています。特に半導体メモリー市場の顧客を中心に、高付加価値なソリューションを提供しています。
収益は、顧客への製品販売やソリューション提供の対価として得ています。運営は、国内では同社が主に担当し、海外では子会社のSTAr Technologies, Inc.などが製造・販売を行っています。
■(2) 半導体設計関連事業
半導体設計用(EDA)ソフトウェアの販売・保守や、LSIの受託設計・開発、シミュレーションモデルの設計支援を行っています。長年の経験に基づく質の高いサポートや、アナログ設計、電源・音源関係に強みを持っています。
収益は、ソフトウェアのライセンス販売や保守サービス料、受託開発費などから得ています。運営は、同社がEDAソフト販売を担い、子会社の三栄ハイテックスやモーデックなどが設計・開発支援を行っています。
■(3) システム・サービス事業
組込み用途向けCPUボードやBOX型コンピューターの開発・販売、決済端末関連のソフトウェア、画像処理システム、自動車制御ソフトの検証ツールなどを提供しています。デジタル家電や社会インフラ、車載分野などで実績があります。
収益は、製品販売代金や受託開発費、クラウド決済サービスの利用料などから得ています。運営は、同社のほか、子会社のアイティアクセス、レグラス、ガイオ・テクノロジーなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は緩やかな増加傾向にあり、400億円台で推移しています。一方、利益面では2022年3月期をピークに変動が見られ、2025年3月期は経常利益が大きく減少しました。利益率も低下傾向にあり、収益性の改善が課題となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 325億円 | 372億円 | 386億円 | 414億円 | 420億円 |
| 経常利益 | 25億円 | 30億円 | 25億円 | 29億円 | 18億円 |
| 利益率(%) | 7.6% | 8.0% | 6.4% | 7.0% | 4.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 15億円 | 22億円 | 17億円 | 15億円 | 12億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は微増しましたが、売上原価の増加により売上総利益が減少し、販管費も増加したため営業利益は減少しました。これにより営業利益率は低下しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 414億円 | 420億円 |
| 売上総利益 | 132億円 | 126億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.8% | 30.1% |
| 営業利益 | 25億円 | 19億円 |
| 営業利益率(%) | 6.0% | 4.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が37億円(構成比34%)、研究開発費が23億円(同21%)を占めています。
■(3) セグメント収益
システム・サービス事業は需要が堅調で増収増益となりましたが、テストソリューション事業はメモリー向けテスターの需要回復遅れなどにより減収となり、営業損失を計上しました。半導体設計関連事業は売上が横ばいで推移しましたが、利益は減少しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| テストソリューション事業 | 159億円 | 150億円 | 5億円 | -3億円 | -2.1% |
| 半導体設計関連事業 | 129億円 | 130億円 | 5億円 | 5億円 | 3.5% |
| システム・サービス事業 | 126億円 | 140億円 | 16億円 | 18億円 | 12.8% |
| その他 | - | - | - | - | - |
| 調整額 | -0億円 | -0億円 | -2億円 | -1億円 | - |
| 連結(合計) | 414億円 | 420億円 | 25億円 | 19億円 | 4.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業活動で得た資金の範囲内で借入返済を行い、投資についても慎重にコントロールしている健全型です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 26億円 | 17億円 |
| 投資CF | -14億円 | -4億円 |
| 財務CF | 8億円 | -34億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.8%で市場平均(9.4%)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は54.1%で市場平均(プライム非製造業平均24.2%)を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、エンジニアリングを核としたトータルソリューションプロバイダーとして、顧客の多様なニーズに応えることを使命としています。「未来社会に貢献する」「不可欠な存在になる」「問題を解決する」「パイオニアになる」「誇りの持てる会社を実現する」という5つの指針を掲げ、エレクトロニクスビジネスを通じて人々の生活を豊かにすることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「Innovation」と「Technology」を経営の根幹に据え、革新的な技術で未来を変えていく姿勢を重視しています。顧客の課題解決のために労苦を惜しまず、創造力を発揮できる仕組みづくりに注力する文化があります。顧客に寄り添い、同社ならではの付加価値を提供することを行動の指針としています。
■(3) 経営計画・目標
同社は資本コストを上回る資本効率性と企業価値向上を目指し、中期経営計画において以下の数値目標を掲げています。
* 自己資本当期純利益率(ROE):10%を目指す(8%以上を維持)
* 投下資本利益率(ROIC):8%を目指す(6%以上を維持)
* 負債資本倍率(D/Eレシオ):0.5倍を上限
* 配当性向:50%程度を目安(30%を下回らない)
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画の達成に向け、「営業利益率の向上」「事業ポートフォリオの最適化」「業績の安定性向上」の3つを共通戦略として掲げています。特定顧客への依存脱却やストック型ビジネスの強化を図るとともに、各セグメントでは製品ラインナップの拡充や新規分野への展開、マスカスタマイゼーションの推進などに注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、事業構造改革を推進するため、自律的に挑戦し、グローバルな視点を持つ人材の育成に注力しています。多様性を尊重し、性別や国籍等を問わず中核人材へ登用する方針です。また、報酬制度の見直しや福利厚生の充実、柔軟な働き方の推進により、従業員のモチベーション向上とエンゲージメント強化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均(763万円)とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.4歳 | 14.3年 | 7,561,687円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.4% |
| 男性育児休業取得率 | 80.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.0% |
| 男女賃金差異(正規) | 67.0% |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
※男女賃金差異(非正規)については、同社において女性のパート・有期労働者の雇用がないため記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定の顧客・業界への依存
テストソリューション事業は特定の半導体メモリー製造企業への依存度が高く、顧客の設備投資抑制や生産計画変更の影響を強く受けます。また、システム・サービス事業等は自動車関連企業への依存があり、EV化の遅れや業界再編などが業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、製品・販路の多角化や新規顧客開拓を進めています。
■(2) 人財確保に関するリスク
技術革新が激しい事業領域において、高度な技術力を持つ人財の採用・育成が不可欠です。技術者の獲得競争が激化する中、十分な人財を確保できない場合や流出した場合、事業計画に支障が出る可能性があります。同社は報酬水準向上や環境整備、海外採用などにより人財確保に努めています。
■(3) 自然災害や地政学的リスク
国内外で事業を展開しているため、地震などの自然災害や感染症の流行、地政学的リスクの顕在化により、販売活動の停滞やサプライチェーンの寸断が発生する可能性があります。これに対し、事業継続計画(BCP)の見直しや在庫管理、拠点の分散化などの対策を講じています。
■(4) 自社製品等の品質リスク
メーカー機能の強化に伴い、自社製品やサービスの不具合による損害賠償や信用の失墜が発生するリスクがあります。特に半導体や自動車関連では影響が甚大になる可能性があります。品質保証体制の強化や保険への加入などでリスク低減を図っています。



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