※本記事は、株式会社丸井グループの有価証券報告書(第90期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 丸井グループってどんな会社?
同社グループは、商業施設を運営する小売事業と、クレジットカード等を提供するフィンテック事業を一体運営しています。
■(1) 会社概要
1931年に創業し、1937年に法人組織へ改組しました。1960年には日本初となるクレジットカードを発行しています。1963年に東証二部、1965年に東証一部へ上場しました。2007年に純粋持株会社へ移行して現在の商号に変更し、近年は新会社の設立などを通じて金融と小売の融合を進めています。
現在の従業員数は連結で3,820名、単体で275名です。筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務等を行う信託銀行となっており、第3位の株主は創業家関連とみられる不動産事業会社です。外部の機関投資家と創業家関連企業が上位を占める株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 23.61% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 15.29% |
| 青井不動産 | 3.34% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性3名の計10名で構成され、女性役員比率は30.0%です。代表取締役社長代表執行役員は青井浩氏が務めています。社外取締役比率は30%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 青井 浩 | 代表取締役社長代表執行役員 | 1986年同社入社。営業企画本部長、副社長などを経て2005年社長に就任。2019年より代表取締役社長代表執行役員CEO。 |
| 加藤 浩嗣 | 取締役専務執行役員 | 1987年同社入社。経営企画部長、IR部長等を経て、2026年より取締役専務執行役員CFO、経営企画・IR・財務担当。 |
| 小島 玲子 | 取締役常務執行役員 | 2011年同社専属産業医。健康推進部長などを経て、2026年より取締役常務執行役員CWO、ウェルビーイング推進部長。 |
社外取締役は、岡島悦子(プロノバ代表取締役社長等)、中神康議(みさき投資代表取締役)、ピーター D.ピーダーセン(特定非営利活動法人ネリス代表理事)です。
2. 事業内容
同社グループは、「小売」および「フィンテック」事業を展開しています。
■小売
商業施設の賃貸および運営管理、衣料品や装飾雑貨等の仕入販売、空間プロデュース、総合ビルマネジメントなどを展開しています。マルイやモディといった店舗を中心とした消費者向けサービスや、テナント出店者に対するビジネス基盤の提供を主な事業としています。
収益は主に、テナントからの定期借家テナント収入、商品の販売対価、および関連事業収入などから得ています。事業の運営は主に丸井やエイムクリエイツ、ムービングといった子会社が行っており、リアル店舗ならではの体験価値の創出を通じて収益の安定化を図っています。
■フィンテック
クレジットカード業務、カードキャッシング、家賃保証、投資信託の販売、情報システムサービス、少額短期保険業などを展開しています。「エポスカード」の発行を中核とし、幅広い顧客層に対して日常の決済から資産形成までをサポートする金融サービスを提供しています。
収益は主に、カード会員の決済に伴う加盟店手数料や分割・リボ手数料、キャッシング利息、年会費などのサービス収入から得ています。事業の運営は主にエポスカードやエムアールアイ債権回収などの子会社が行い、小売事業と連携した会員獲得により収益を拡大しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、売上収益は毎期着実に増加しており、継続的なトップラインの成長を実現しています。また経常利益および親会社株主に帰属する当期純利益も増益基調を維持しており、安定した収益基盤と力強い成長力を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2,093億円 | 2,179億円 | 2,352億円 | 2,544億円 | 2,769億円 |
| 経常利益 | 355億円 | 364億円 | 388億円 | 399億円 | 427億円 |
| 利益率(%) | 17.0% | 16.7% | 16.5% | 15.7% | 15.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 178億円 | 215億円 | 247億円 | 266億円 | 285億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益の成長に伴い、売上総利益や営業利益が着実に増加しています。利益率も高水準で安定して推移しており、効率的な事業運営による収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2,544億円 | 2,769億円 |
| 売上総利益 | 2,228億円 | 2,423億円 |
| 売上総利益率(%) | 87.6% | 87.5% |
| 営業利益 | 445億円 | 502億円 |
| 営業利益率(%) | 17.5% | 18.1% |
販売費及び一般管理費のうち、ポイント引当金繰入額が444億円(構成比23%)、その他が378億円(同20%)、支払手数料が277億円(同14%)を占めています。売上原価は346億円で、売上原価合計に占める構成比の大半を事業運営に直接関わる費用が占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の業績を見ると、小売事業は店舗における体験型テナント等の導入が進み、施設の稼働状況が改善したことで増収増益となっています。フィンテック事業はカード決済取扱高の順調な拡大や「好き」を応援するカードの会員増が貢献し、こちらも安定した増益を達成しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小売 | 823億円 | 884億円 | 86億円 | 112億円 | 12.7% |
| フィンテック | 1,810億円 | 1,974億円 | 441億円 | 470億円 | 23.8% |
| 調整額 | -88億円 | -89億円 | -81億円 | -80億円 | -% |
| 連結(合計) | 2,544億円 | 2,769億円 | 445億円 | 502億円 | 18.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業は赤字だが、将来成長のため借入で投資を継続しています。なお、同社は金融・証券関連事業を主力としているため、営業CFのマイナスは主に割賦売掛金の増加(事業拡大)によるものであり、直ちに業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -45億円 | -460億円 |
| 投資CF | -137億円 | -10億円 |
| 財務CF | 28億円 | 513億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は21.4%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「お客さまのお役に立つために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」という経営理念のもと、「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブな社会を共に創る」ことをミッションに掲げています。ステークホルダーとの共創経営を推進し、「インパクトと利益の二項対立を乗り越える」ことで企業価値の拡大をめざしています。
■(2) 企業文化
「人の成長=企業の成長」という理念に基づき、自律的な組織づくりを重視しています。社員同士の対話を促進する「対話の文化」や、社員が自ら手を挙げてプロジェクトに参画する「手挙げの文化」を醸成しています。また、多様性の推進や、個人の能力と挑戦が釣り合う「フロー」の状態を生み出すことで、一人ひとりが創造性を発揮できる環境づくりを進めています。
■(3) 経営計画・目標
2031年の創業100周年に向けて「経営ビジョン&戦略ストーリー2031」を策定し、「『好き』が駆動する経済」の実現をめざしています。高成長と高還元の両立を目標に掲げており、2031年3月期における具体的な指標として以下を設定しています。
* PBR3〜4倍
* EPS成長率は年率9%以上
* TSR成長率は年率12%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「好き」を中心に、小売・フィンテック・共創投資のノウハウを活用するビジネスへ転換します。応援したい相手に寄付できるカードの発行や、ファイナンシャル・エンパワーメントを通じた会員拡大を図るとともに、全国主要都市への「『好き』を応援するユニット」の展開を進めます。
* 「好き」を応援するカードの会員数を2031年3月期までに300万人へ拡大
* 2031年3月期までに無形資産比率を70%以上に向上
* 人的資本投資として700億円を予定
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人の成長=企業の成長」を軸に、社員の成長と活躍を通じて持続的な企業価値向上を図る方針です。公募型の研修プログラムや次世代経営者育成プログラムの実施、スタートアップ企業への出向など、独自の人的資本投資を重視しています。また、専門人材の採用強化や職種変更異動の推進により、環境変化に強くイノベーションを創出できる人材の育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.6歳 | 15.5年 | 6,888,700円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 23.3% |
| 男性育児休業取得率 | 104.2% |
| 男女賃金差異(全社員) | 80.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用社員) | 73.8% |
| 男女賃金差異(パート・有期社員) | 87.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性の上位職志向(57%)、入社3年以内の離職率(約17%)、退職率(3.6%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 小売・フィンテック環境の市場変化と競争激化
消費動向の変化、EC市場の拡大、決済手段の多様化などにより、店舗の入店客数やクレジットカードの利用額が減少するリスクがあります。また、経済状況の悪化によってクレジットカードの支払遅延や未回収債権が増加し、貸倒引当金の増加等を通じて業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は独自の体験型テナントの導入や家計シェア最大化戦略により、収益基盤の強化を図っています。
■(2) 共創投資等における投資効果の不確実性
無形資産への投資の一環として行うスタートアップ企業等への「共創投資」において、事前の調査で把握できなかった問題の発生や、株式市場の冷え込み等により期待する成果を得られないリスクがあります。同社は独自の計画作成や定期的なモニタリングを通じ、事業成長とリスクの低減に努めています。
■(3) 金融事業の拡大に伴う資金調達リスク
フィンテックの成長に伴う営業債権の増加により、資金需要が拡大しています。金融市場の混乱や信用力の低下が生じた場合、十分な資金調達ができず流動性リスクが高まる恐れがあります。また、市場環境による調達金利の上昇がコスト増加につながる可能性があります。同社は調達手段の多様化やコミットメントラインの締結により安全性の確保を図っています。



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