※本記事は、マルシェ株式会社の有価証券報告書(第54期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. マルシェってどんな会社?
同社グループは、多様な業態の居酒屋チェーンを展開し、飲食を通じたコミュニケーションの場を提供する企業です。
■(1) 会社概要
1972年5月に料理飲食店などの経営を目的として丸忠興業が設立されたのが同社の始まりです。1984年7月には主力ブランドとなる串焼酒場「八剣伝」の1号店を出店し、その後全国にフランチャイズ展開を拡大しました。1999年12月に東京証券取引所および大阪証券取引所の市場第二部に上場し、2018年3月には新たな主力業態「餃子食堂マルケン」を出店しました。直近の2026年6月にはテンポスホールディングスの子会社となっています。
現在の同社は、単体で127名の従業員を抱える体制で事業を運営しています。筆頭株主は事業会社であるテンポスホールディングスで、第2位および第3位も事業会社であるチムニー、アサヒビールが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| テンポスホールディングス | 21.01% |
| チムニー | 9.52% |
| アサヒビール | 6.10% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性0名の計8名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役会長は森下篤史氏、代表取締役社長は加藤洋嗣氏が務めており、社外取締役の比率は12.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 森下篤史 | 代表取締役会長 | 1971年東京電気入社。1992年矍鑠(現テンポスホールディングス)設立し取締役、1997年同社代表取締役。2017年より同社代表取締役社長。2025年6月より同社取締役。 |
| 加藤洋嗣 | 代表取締役社長 | 1996年同社入社。2011年関西八剣伝統括次長、2014年執行役員社長等を経て、2022年営業本部長を兼任。2026年1月より代表取締役社長(関西第二事業部長)として現職。 |
| 熨斗和之 | 取締役 | 1987年同社入社。福岡支店長などを経て、2016年メニュー開発部長。2020年取締役就任。商品本部長等を歴任し、2026年1月より取締役(関西第一事業部長)として現職。 |
| 清水一成 | 取締役 | 1991年ブレス(現プロントコーポレーション)入社。2017年イートアンド入社。ヤマトサカナ取締役社長等を経て、2025年6月より同社取締役。あさくま代表取締役会長等を兼任。 |
社外取締役は、茨田篤司(現チムニー代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「料飲部門」「FC部門」「商品部門」および「その他部門」の事業を展開しています。
■料飲部門
「酔虎伝」「八剣伝」「餃子食堂マルケン」などの直営居酒屋チェーンを展開しています。関西の食材を活かした大衆居酒屋、炭火串焼き、店内手仕込みの自家製餃子など、地域密着型かつ低価格な飲食サービスを一般消費者向けに提供しています。
顧客である一般消費者から、店舗での飲食代金を収益として受け取ります。直営店舗の運営は、同社が主体となって行っています。
■FC部門
「八剣伝」などを運営するフランチャイズ加盟店に対し、店舗運営に必要な情報、知識、ノウハウ等を提供し、継続的な経営指導を行っています。
FC加盟店から受け取る加盟料、加盟保証金、毎月の売上高に応じたロイヤリティを主な収益源としています。FC契約の締結と加盟店指導は、同社が行っています。
■商品部門
直営店およびFC加盟店に対し、安定した品質の酒類や食材を供給する事業です。店舗運営に不可欠な原材料の物流機能としての役割を担っています。
サプライヤー等を通じてFC加盟店などに酒類や食材を販売し、その販売代金を収益として受け取ります。商品の供給および販売は、同社が担当しています。
■その他部門
FC加盟店に対する店舗設備の販売や、事業所等の管理業務など、上記部門に属さない業務を展開しています。
FC加盟店への設備販売代金や、賃貸物件からの受取家賃などを収益としています。同社がこれらの管理・販売業務を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間の業績を見ると、売上高は感染症影響の緩和による需要回復や新規出店の効果で増加傾向にあります。一方で、利益面は黒字化を果たした時期もありましたが、直近では人件費や物流費の上昇に加え、成長投資に伴うコスト負担が重く、再び経常損失および当期純損失となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 26億円 | 46億円 | 47億円 | 46億円 | 48億円 |
| 経常利益 | -2億円 | -4億円 | 1億円 | 0.3億円 | -0.3億円 |
| 利益率(%) | -9.4% | -8.1% | 2.1% | 0.7% | -0.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -3億円 | -6億円 | 0.3億円 | 0.3億円 | -0.5億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、既存店の売上向上や新業態の推進により売上高と売上総利益は増加しています。しかし、人件費などを含む販売費および一般管理費の増加幅が売上総利益の増加を上回ったため、営業利益は赤字に転じています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 46億円 | 48億円 |
| 売上総利益 | 28億円 | 29億円 |
| 売上総利益率(%) | 60.9% | 60.8% |
| 営業利益 | 0.4億円 | -0.3億円 |
| 営業利益率(%) | 1.0% | -0.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が12億円(構成比40%)、その他(店舗運営等の諸経費)が10億円(同34%)、不動産賃借料が3億円(同10%)を占めています。売上原価の多くは当期商品及び原材料仕入高が19億円(構成比101% ※在庫調整による)となっています。
■(3) セグメント収益
部門別の売上高を見ると、主力の料飲部門は「八剣伝」などの既存店売上の回復や新業態の出店が牽引し増収となりました。一方で、FC部門および商品部門は、FC加盟店数の減少に伴うロイヤリティ収入や食材・酒類等販売の減少により、減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 料飲部門 | 30億円 | 33億円 |
| FC部門 | 3.4億円 | 3.4億円 |
| 商品部門 | 11億円 | 10億円 |
| その他部門 | 1.1億円 | 1.1億円 |
| 連結(合計) | 46億円 | 48億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CF、投資CF、財務CFがすべてマイナスとなる「末期型」のキャッシュ・フローとなっています。本業での現金流出が続く中、設備投資や借入金返済を行っているため、手元資金が大きく減少している厳しい状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -0.8億円 | -0.8億円 |
| 投資CF | -1.1億円 | -1.4億円 |
| 財務CF | -2.2億円 | -4.7億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算出されていませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は24.5%でスタンダード市場の平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「心の診療所を創造する」を経営理念に掲げています。飲食の提供と飲食の場を通じてお客様同士の健全なコミュニケーションのお役立ちをし、希薄化する人々の絆を深め、地域社会に貢献することを存在意義としています。
■(2) 企業文化
同社は「ダイバーシティ・マルシェ」という重点方針を掲げ、食を通じて多様な人や考え方、文化を寛容に受け入れることを重視しています。多様な人材が互いの価値観の違いを認め合い、各人の持つ能力を最大限に湧き出させることで組織力を高める文化を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、中長期的な経営ビジョンとして「マルシェは世界の心の診療所を目指しダイバーシティ経営のリーディングカンパニーとなる」と定めています。また、2028年3月期の主要経営指標として以下を目標としています。
* 売上高:65億円
* 営業利益率:4%以上
* 当期純利益率:3%以上
* 自己資本比率:25%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は収益基盤の再構築と将来成長に向け、「業態変更の促進」「新規出店の促進」「店舗活性化の促進」の3つを重点施策としています。主力ブランド「ハッケン酒場」への業態変更や大衆専門酒場への転換、新業態(つけ麺など)の展開による新たな収益源の確保を進めています。加えて、現場主義によるメニュー改善や業務効率化にも取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は社員を最も重要な財産と捉え、多様な背景を持つ一人ひとりの人材価値を最大限に引き出し、互いの個性を活かし合える活気ある組織の実現を人材戦略の基本方針としています。店長やスーパーバイザーの教育を強化し次世代リーダーを育成するほか、外国人材の即戦力化プログラムなど多様な人材が活躍できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.0歳 | 11.8年 | 4,594,304円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.2% |
| 男性育児休業取得率 | 0.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 83.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 84.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 99.7% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 競合他社等との競争激化
同社が属する居酒屋業界では、同業他社やファストフード、中食企業、さらにはスーパー・コンビニなど小売業界との競争が激化しています。同社を上回る品質・価格・サービスを提供する競合が出現した場合や、原材料高騰による利益圧迫が生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 店舗運営を支える人員の確保
少子高齢化や労働需給の逼迫に伴い、採用や教育に係る費用が上昇傾向にあります。新規出店や既存店運営に必要な人材、特に適正な条件に合う人員の確保が困難となり、計画通りの出店ができない、あるいは店舗運営に支障をきたし閉店を余儀なくされた場合、業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 食の品質と安全性・食品事故
飲食事業において食の安全確保は最重要課題です。同社は独自の衛生管理マニュアルや外部検査等で安全性に万全を期していますが、万一、流通・調理過程等で食中毒などの食品事故が発生した場合、店舗の営業停止や顧客からの信用の低下を招き、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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