※本記事は、幸楽苑の有価証券報告書(第56期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 幸楽苑ってどんな会社?
幸楽苑は、ラーメン店のチェーン展開による外食事業を主な内容とし、自社工場での製造から直販までを一貫して行う企業です。
■(1) 会社概要
1954年9月、「味よし食堂」として創業し、1970年に幸楽苑へ改組しました。1980年よりフランチャイズ事業を開始し、1981年には自社生産体制を確立しています。2003年に東京証券取引所市場第一部へ指定され、現在はプライム市場に上場しています。2024年には完全子会社を吸収合併し、事業の効率化を図りました。
同社の従業員数は581名です。筆頭株主はラニケアコーポレーションで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。第3位には、スープ等の調達先であり重要なビジネスパートナーであるアリアケジャパンが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ラニケアコーポレーション | 11.34% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.46% |
| アリアケジャパン | 2.32% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.0%です。代表取締役会長兼社長は新井田傳氏が務めています。社外取締役は3名選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 新井田 傳 | 代表取締役会長兼社長 | 1966年味よし食堂入社。1970年同社設立、代表取締役専務取締役就任。1978年代表取締役社長、2018年代表取締役会長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 渡辺 秀夫 | 専務取締役 | 1975年東邦銀行入行。2011年同社入社、総務部長。取締役経営企画部長兼人事総務部長、常務取締役内部監査室長等を経て、2025年8月より現職。 |
| 芳賀 正彦 | 専務取締役営業本部長 | 1999年同社入社。ディストリクトマネジャー、FC業態推進部長、財務経理部長等を歴任。2023年取締役就任を経て、2025年6月より現職。 |
| 佐野 篤 | 常務取締役管理本部長 | 2003年同社入社。社長室長、広報室長等を歴任後、2020年退社。2024年再入社し、取締役社長室長等を経て、2026年5月より現職。 |
| 鹿野 昌彦 | 取締役営業副本部長第1店舗運営部長 | 1997年同社入社。ディストリクトマネジャー、人事部担当部長、店舗運営部長等を歴任。2025年6月取締役就任を経て、2025年8月より現職。 |
社外取締役は、小河原佳子(武蔵丘短期大学教授)、鈴木廣明(元東邦銀行常勤監査役)、星野昌洋(元横浜銀行取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ラーメン事業」の単一セグメントを展開しています。
■(1) ラーメン事業
ラーメンや餃子等の製造および直営店での直販を行っています。また、フランチャイズ加盟店の募集、加盟店への麺やスープ等の食材、消耗品等の販売、経営指導業務なども手掛けています。さらに、店舗内装の設計や厨房機器の販売、印刷物の制作なども行い、顧客に多様な食事環境を提供しています。
収益源は、直営店における一般顧客からの飲食代金のほか、フランチャイズ加盟店からの加盟金やロイヤリティ、食材販売代金などから得ています。麺や餃子等の主要な食材は、同社の自社工場である郡山工場と小田原工場での集中生産体制を通じて各店舗へ供給されており、運営は同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、当期利益は過去の赤字から大きく回復し、直近2期間は黒字基調で推移しています。経営改革や収益構造の改善が進んでいることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 250億円 | 255億円 | 268億円 | - | - |
| 経常利益 | 15億円 | -15億円 | -1億円 | - | - |
| 利益率(%) | 5.8% | -6.0% | -0.4% | - | - |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -6億円 | -39億円 | -5億円 | 8億円 | 12億円 |
■(2) 損益計算書
売上総利益は105億円から204億円へ、営業利益は4億円から15億円へと大幅な増益を達成しており、本業における収益力の向上が顕著に確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | - | - |
| 売上総利益 | 105億円 | 204億円 |
| 売上総利益率(%) | - | - |
| 営業利益 | 4億円 | 15億円 |
| 営業利益率(%) | - | - |
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上推移を見ると、主力であるラーメン事業が大幅な増収を記録しています。これは低価格戦略の継続や店舗改装による集客力向上、営業時間延長店舗の拡大などが寄与したことによります。その他の事業は当期において計上されていません。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| ラーメン事業 | 181億円 | 294億円 |
| その他の事業 | 8億円 | - |
| 連結(合計) | 188億円 | 294億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「より多くの人々の、よりふだんの食の場面に、よりおいしい味で、より低い価格の商品を、より速いスピードで提供することに私達は喜びを持とう」を経営理念に掲げ、お客様へ安全安心で快適な食事環境を提供することを基本方針としています。また、店舗ひとつひとつを社会インフラと考え、地域社会の発展に貢献することで持続可能な成長を目指しています。
■(2) 企業文化
「原点回帰」を掲げ、「外食の原点である魅力のある商品作りとメニューの絞り込み」「全店舗のQSC(品質・サービス・清潔さ)立て直し」「安全安心な食事環境の提供」に取り組む文化があります。また、社会的な企業価値向上を目的として、環境への配慮や多様性の推進、ガバナンスの強化など、サステナビリティを重視する価値観を根付かせています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画を修正し、新たな期間を2027年3月期から2029年3月期として取り組んでいます。計画最終年度には目標店舗数として400店舗を掲げています。また、サステナビリティ推進目標として、2028年3月期までに売上高当たりのCO2削減量を2025年3月期比で0.07t-CO2/百万円削減することや、店長級以上に占める女性の割合を20%以上とすることなどを定めています。
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の事業拡大に向けて、東北・関東地区を中心とした既存商圏でのドミナント出店を強化し、ロードサイドやフードコートに加え駅前型店舗の展開を推進します。また、既存店舗のブランドイメージカラー統一を目的とした店舗改装や、ロードサイド全店舗の24時までの営業時間延長を実施します。生産面では、郡山新工場の新築により500店舗展開を見据えた生産供給能力を段階的に確保する方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「採用」「育成」「定着」「活躍」の好循環を実現する人的資本経営を推進しています。新卒・中途採用の強化や地域採用等により多様な人材を確保し、店舗スタッフから店長に至る体系的な教育制度で育成を図っています。長時間労働の抑制や有給休暇の取得促進によりワーク・ライフ・バランスを実現し、多様な人材が能力を最大限発揮できる働きがいのある職場環境の創出を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.3歳 | 14.1年 | 5,473,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.6% |
| 男性育児休業取得率 | 40.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 84.8% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 147.3% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取り組み」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、店長級以上に占める女性の割合(18.7%)、特別支援学校等の生徒を対象にした職場体験受け入れ実績(27校)、子ども食堂の運営支援施設数(100施設)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) ラーメン事業への高い依存度と出店戦略に伴うリスク
同社はラーメン店のチェーン展開による外食事業を主体とし、東北・関東エリアにドミナント出店を集中させています。そのため、国内景気の悪化や消費者嗜好の変化、競合の発生などにより営業戦略の変更を余儀なくされる可能性があります。また、新店舗が計画通りの収益を計上できず、投下資本の回収に時間を要した場合、同社の業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 食材の生産・仕入体制と衛生管理に関するリスク
同社は主要な食材を自社工場で集中生産していますが、店舗展開に伴う生産量の増や物流コストの増加、不測の事態による生産能力の低下が懸念されます。さらに、原材料価格の高騰や、法定の食品衛生検査基準強化に伴うコスト増、独自の衛生問題や風評被害が発生した場合、ブランドイメージの低下や損害賠償の発生を通じて業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 外食産業における激しい競合状態
外食産業では、同業他社のみならずレストランやファストフード、コンビニエンスストア、スーパーマーケットなど業種を超えた激しい競争環境にあります。同社は「高品質・低価格」を掲げて顧客満足度の向上に努めていますが、物価高に伴うコスト上昇の販売価格への転嫁の遅れや、競合への対応に伴うコスト増が利幅の低下を招き、業績に影響を与えるリスクがあります。



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