※本記事は、野村ホールディングス株式会社 の有価証券報告書(第121期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は US GAAP です。
1. 野村ホールディングスってどんな会社?
国内最大手の証券会社を傘下に持つ持株会社です。グローバルな金融ネットワークと顧客基盤が強みです。
■(1) 会社概要
1925年に大阪野村銀行の証券部が分離独立して設立されました。1961年に東証・大証・名証に株式を上場し、2001年には持株会社体制へ移行するとともにニューヨーク証券取引所にも上場しました。2008年にはリーマン・ブラザーズのアジア・欧州部門等を承継しグローバル基盤を拡大。2025年4月にはバンキング部門を新設しています。
連結従業員数は27,242人、単体では177人です。大株主は、資産管理業務を行う信託銀行やカストディ銀行が上位を占めており、筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 17.44% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.51% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性14名、女性3名の計17名で構成され、女性役員比率は17.7%です。代表執行役社長グループCEOは奥田健太郎氏です。取締役12名のうち8名が社外取締役であり、社外取締役比率は66.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 奥田 健太郎 | 取締役 代表執行役執行役社長グループCEO | 1987年入社。野村證券専務、同社取締役、グループCo-COO等を経て、2020年4月より現職。野村證券代表取締役社長を兼務。 |
| 永井 浩二 | 取締役会長 | 1981年入社。野村證券副社長、グループCEO、野村證券代表取締役社長等を経て、2020年4月より現職。野村證券取締役会長を兼務。 |
| 中島 豊 | 取締役 代表執行役執行役副社長 | 1988年入社。野村證券専務、同社代表取締役副社長等を経て、2023年4月より現職。野村證券代表取締役副社長を兼務。 |
| 小川 祥司 | 取締役 | 1987年入社。野村證券キャピタル・マーケット部長、グループ監査業務室長、執行役員等を経て、2021年6月より現職。 |
社外取締役は、Laura Simone Unger(元SEC委員長代行)、Victor Chu(第一東方投資集団会長兼CEO)、J.Christopher Giancarlo(元CFTCチェアマン)、Patricia Mosser(コロンビア大学SIPAディレクター)、高原豪久(ユニ・チャーム代表取締役社長)、石黒美幸(弁護士)、石塚雅博(元デロイトトーマツ執行役)、大島卓(日本碍子代表取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ウェルス・マネジメント」「インベストメント・マネジメント」「ホールセール」の3つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■(1) ウェルス・マネジメント部門
主に国内の個人や法人顧客に対し、対面やデジタルチャネルを通じて、株式、債券、投資信託、保険などの金融商品や、資産承継等のコンサルティングサービスを提供しています。
顧客からの委託手数料、投資信託の募集手数料、および預かり資産残高に応じたストック収入等が主な収益源です。運営は主に野村證券が行っています。
■(2) インベストメント・マネジメント部門
国内外の個人・機関投資家に対し、株式・債券等の伝統的資産からプライベート・エクイティ等のオルタナティブ資産まで、幅広い投資商品や運用サービスを提供しています。
投資信託の運用報酬や投資顧問料などの管理報酬、および投資収益が主な収益源です。運営は野村アセットマネジメントや関連会社等が行っています。
■(3) ホールセール部門
グローバル・マーケッツとインベストメント・バンキングで構成され、機関投資家や事業法人、政府機関等に対し、債券・株式・為替・デリバティブのセールス・トレーディングや、資金調達・M&Aアドバイザリー等を提供しています。
有価証券の売買益、引受手数料、M&Aアドバイザリー手数料などが主な収益源です。野村證券および海外の現地法人が連携して運営しています。
■(4) その他
上記3部門に含まれない事業として、経済・金融市場に関する調査研究や、システム開発・運用等のサポート業務を行っています。
グループ会社へのサービス提供や外部顧客からの受託料等が収益源となります。株式会社野村資本市場研究所や野村ビジネスサービス株式会社などが運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上にあたる収益合計は変動があるものの、直近2期は連続で増加傾向にあります。当期は大幅な増収増益を達成し、税引前当期純利益、当期純利益ともに前期から大きく伸長しました。利益率も改善傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 収益合計 | 16,172億円 | 15,940億円 | 24,867億円 | 41,573億円 | 47,367億円 |
| 税引前利益 | 2,307億円 | 2,266億円 | 1,495億円 | 2,739億円 | 4,720億円 |
| 利益率(%) | 14.3% | 14.2% | 6.0% | 6.6% | 10.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,531億円 | 1,430億円 | 928億円 | 1,659億円 | 3,407億円 |
■(2) 損益計算書
前期と比較すると、収益合計は約14%の増加、金融費用控除後の収益合計は約21%の増加となりました。これに伴い税引前当期純利益は約72%増加し、収益性の向上が見られます。金融費用以外の費用も増加していますが、収益の伸びがそれを上回っています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 収益合計 | 41,573億円 | 47,367億円 |
| 収益合計(金融費用控除後) | 15,620億円 | 18,925億円 |
| 収益合計(金融費用控除後)率(%) | 37.6% | 40.0% |
| 税引前当期純利益 | 2,739億円 | 4,720億円 |
| 税引前当期純利益率(%) | 6.6% | 10.0% |
金融費用以外の費用のうち、人件費が7,324億円(構成比52%)、情報・通信関連費用が2,270億円(同16%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで増収増益となりました。ウェルス・マネジメント部門はストック収入の増加等により増益、ホールセール部門はグローバル・マーケッツ等の好調により大幅な増益を達成しました。インベストメント・マネジメント部門も事業収益の拡大により増益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ウェルス・マネジメント部門 | 4,024億円 | 4,515億円 | 1,227億円 | 1,708億円 | 37.8% |
| インベストメント・マネジメント部門 | 1,541億円 | 1,925億円 | 602億円 | 896億円 | 46.5% |
| ホールセール部門 | 8,661億円 | 10,579億円 | 539億円 | 1,663億円 | 15.7% |
| その他 | 1,497億円 | 1,921億円 | 474億円 | 469億円 | 24.4% |
| 連結(合計) | 15,723億円 | 18,940億円 | 2,842億円 | 4,735億円 | 25.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはマイナス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスでした。このパターンは「勝負型(事業拡大に伴う資産増加)」に分類されます。なお、同社は金融・証券関連事業を主力としているため、営業CFのマイナスは主にトレーディング資産およびプライベートエクイティ・デット投資の増加(事業拡大)によるものであり、直ちに業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,326億円 | -6,786億円 |
| 投資CF | -8,879億円 | -8,486億円 |
| 財務CF | 10,129億円 | 16,797億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は6.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「社会からの信頼および株主・顧客をはじめとしたステークホルダーの満足度の向上を通じて企業価値を高めること」を経営目標としています。「グローバル金融サービス・グループ」として付加価値の高いソリューションを提供し、経済成長や社会発展に貢献することを目指しています。また、パーパスとして「金融資本市場の力で、世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」を掲げています。
■(2) 企業文化
同社は「創業の精神」や「企業理念」を受け継ぎつつ、法令遵守と適正な企業行動を重視しています。「野村グループ行動規範」に基づき、コンプライアンスおよびコンダクト・リスク管理を実践し、顧客利益の尊重と諸規制の遵守を徹底する文化を醸成しています。また、「挑戦」「協働」「誠実」という価値観を基礎とし、社員が倫理観を持って自律的に働ける環境づくりを進めています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2030年度に向けた新経営ビジョン「Reaching for Sustainable Growth」を掲げています。定量目標としては、自己資本利益率(ROE)および税引前当期純利益の達成を目指しており、中長期的な企業価値の向上を重視しています。
* ROE 8~10%以上
* 税引前当期純利益 5,000億円超
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「パブリックに加え、プライベート領域への拡大・強化」を戦略の柱としています。具体的には、資産管理ビジネスの推進、インベストメント・マネジメント部門の強化、ホールセールビジネスの成長と安定化に取り組むとともに、デジタルアセットやサステナブル・ファイナンス等の新領域を開拓しています。また、構造改革によるコスト・コントロールや、コーポレート機能の高度化、ガバナンス強化も推進しています。
* ROE8~10%+
* 5,000億円超の税引前当期純利益
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人材こそが最大の財産」との考えのもと、採用・育成・評価・配置・登用を包括的に行う人材マネジメント戦略を推進しています。「挑戦」「協働」「誠実」の価値観に合致し、リスク・カルチャーを有するプロフェッショナル人材の確保を目指しています。また、インクルージョンやウェルビーイングの推進、自律的なキャリア形成支援、公正な評価制度の徹底等を通じて、社員のエンゲージメント向上と企業価値向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.8歳 | 4.4年 | 13,761,056円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 18.0% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 56.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 56.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 71.1% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済情勢・金融市場の変動リスク
同社のビジネスは、日本および世界経済の情勢や金融市場の動向(金利、株価、為替等)の影響を強く受けます。市場の低迷やボラティリティの変動、地政学的イベントや自然災害等は、トレーディング収益や手数料収入の減少、保有資産の価値下落を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、市場流動性の低下により資産売却やヘッジが困難になるリスクもあります。
■(2) リスク管理およびモデル・リスク
同社はリスク管理方針や手続きを定めていますが、これらが常に有効に機能するとは限りません。市場環境の急変や想定外の事象により、リスク評価モデルが実態と乖離し、適切なリスク管理が行えなくなる可能性があります。また、モデルの誤りや不適切な使用により、意思決定の誤りや財務的損失、顧客からの信頼低下を招くリスク(モデル・リスク)も存在します。
■(3) カウンターパーティ信用リスク
取引先や顧客が債務不履行に陥るリスクです。大手金融機関の破綻が連鎖的な影響を及ぼすシステミック・リスクや、顧客の信用情報の不正確さ、担保価値の急落等により、予期せぬ損失を被る可能性があります。特にデリバティブ取引や証拠金取引等において、市場変動時に顧客が追加証拠金を差し入れられない場合などに大きな損失が発生するリスクがあります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。