※本記事は、松井証券株式会社 の有価証券報告書(第109期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 松井証券ってどんな会社?
100年以上の歴史を持つ老舗ながら、日本で初めて本格的なインターネット株取引を開始したパイオニアであり、個人投資家に特化したサービスを展開する証券会社です。
■(1) 会社概要
1918年に創業し、1931年に設立されました。1998年に国内初の本格的インターネット取引「ネットストック」を開始し、2001年に東京証券取引所市場第一部に上場しました。業界に先駆けて株式委託手数料の「ボックスレート」や無期限信用取引を導入するなど、革新的なサービスを展開しています。直近では2023年に銀行サービス「MATSUI Bank」を開始しています。
従業員数は単体で217名です(連結従業員数の記載なし)。筆頭株主は創業家の資産管理会社である有限会社丸六で、第2位も同様に有限会社松興社となっており、創業家が主要株主として安定した持株比率を維持しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 有限会社丸六 | 37.56% |
| 有限会社松興社 | 13.88% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.24% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性2名の計15名で構成され、女性役員比率は13.0%です。代表取締役社長は和里田聰氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 和里田 聰 | 代表取締役社長 | P&G、リーマン・ブラザーズ証券などを経て2006年に入社。常務、専務を経て2020年より現職。 |
| 鵜澤 慎一 | 専務取締役コーポレート部門担当役員 | 新王子製紙を経て2001年に入社。財務部長、常務を経て2024年より現職。 |
| 佐藤 邦彦 | 常務取締役IT部門担当役員 | 山一證券を経て1998年に入社。システム部長、取締役を経て2024年より現職。 |
| 柴田 誠史 | 常務取締役事業部門担当役員 兼 IT部門担当役員(IT戦略担当) | 2001年入社。営業開発部長、取締役を経て2024年より現職。 |
| 雑賀 基夫 | 取締役法務・コンプライアンス部門担当役員 | 大阪証券取引所を経て2002年に入社。コンプライアンス部長、内部監査室担当役員などを経て2024年より現職。 |
| 芳賀 真名子 | 取締役人事・総務部門担当役員 | JPモルガン等を経てフィデリティ投信取締役などを歴任。2019年より現職。 |
| 田中 豪 | 取締役営業部門担当役員(マーケティング・投資メディア担当) | 1995年入社。営業推進部長などを経て2020年取締役就任。2022年より現職。 |
| 今井 崇人 | 取締役営業部門担当役員(顧客サポート・事業法人担当)兼 戦略部門担当役員 | 1997年入社。マーケティング部長、顧客サポート部長などを歴任。2025年より現職。 |
| 松井 道太郎 | 取締役 | QUICKを経て2018年に入社。戦略企画部長などを経て2023年より現職。 |
| 小貫 聡 | 取締役 | 日本興業銀行入行。みずほ証券執行役員、興和不動産投資顧問社長などを経て2020年より現職。 |
| 堀 俊明 | 取締役 | タカラスタンダードを経てQUICK入社。同社専務、副社長などを経て2022年より現職。 |
| 高橋 武文 | 取締役(常勤監査等委員) | 2000年入社。コンプライアンス室担当課長、内部監査室長を経て2023年より現職。 |
社外取締役は、小貫聡(元興和不動産投資顧問社長)、堀俊明(元QUICK副社長)、甲斐幹敏(元日本郵船監査役)、小駒望(公認会計士)、川西拓人(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「オンライン証券取引サービス」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 株式ブローキング・金融サービス
個人投資家を対象に、インターネットを通じた株式、先物・オプション、投資信託などの委託売買業務を行っています。現物取引に加え、信用取引サービスを提供し、顧客の多様な投資ニーズに対応しています。また、IPO(新規公開株)の引受けや募集なども取り扱っています。
主な収益源は、株式売買に伴う委託手数料や、信用取引における顧客への資金・株券の貸付に伴う金利・貸株料などの金融収益です。また、投資信託の販売に伴う手数料収入も含まれます。運営は松井証券が行っています。
■(2) FX(外国為替証拠金取引)サービス
個人顧客向けに、外国為替証拠金取引(FX)サービスを提供しています。主要通貨ペアの取り扱いに加え、自動売買機能や専用アプリの提供により、初心者から経験者まで幅広い層に利便性の高い取引環境を整備しています。
収益は、顧客との取引に伴うスプレッド等のトレーディング損益が主となります。運営は松井証券が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2024年3月期以降、株式市場の好調を背景に売上収益が伸長しています。直近の2025年3月期は経常利益、当期純利益ともに過去5期間で比較的高水準となっており、高い利益率を維持しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 301億円 | 304億円 | 296億円 | 368億円 | 392億円 |
| 経常利益 | 129億円 | 128億円 | 113億円 | 151億円 | 153億円 |
| 利益率(%) | 42.9% | 42.1% | 38.0% | 40.9% | 39.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 103億円 | 114億円 | 78億円 | 98億円 | 105億円 |
■(2) 損益計算書
売上高(営業収益)は増加し、営業利益も増加しました。売上総利益率(純営業収益率)は約95%と高い水準を維持していますが、販売費・一般管理費の増加により営業利益率はわずかに低下しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 368億円 | 392億円 |
| 売上総利益 | 352億円 | 371億円 |
| 売上総利益率(%) | 95.8% | 94.7% |
| 営業利益 | 152億円 | 156億円 |
| 営業利益率(%) | 41.2% | 39.9% |
販売費及び一般管理費のうち、取引関係費が68億円(構成比31%)、事務費が53億円(同25%)、人件費が40億円(同18%)を占めています。
■(3) セグメント収益
オンライン証券取引サービスの単一セグメントであるため、全社業績と同様に推移しています。株式市場の活況により顧客の取引が拡大しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| オンライン証券取引サービス | 368億円 | 392億円 |
| 連結(合計) | 368億円 | 392億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
なお、同社は金融・証券関連事業を主力としているため、営業CFのマイナスは主に信用取引資産の増加(事業拡大)によるものであり、直ちに業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -59億円 | -434億円 |
| 投資CF | -89億円 | -44億円 |
| 財務CF | 86億円 | 532億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は6.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「お客様の豊かな人生をサポートする。」ことを企業理念(MISSION)とし、「個人投資家にとって価値のある金融商品・サービスを提供する。」ことを企業目標(VISION)としています。これらを実現するために、優位性のある顧客体験価値の提供を最重要視しています。
■(2) 企業文化
「投資をまじめに、おもしろく。」をコーポレートスローガンとして掲げています。また、役職員の行動指針として「お客様起点」「進化」「こだわり」「チームワーク」「事実に基づく判断」「社会への貢献」の6つを定めており、これらを基盤としてステークホルダーとの協働を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、企業目標達成のために「付加価値の高いサービスの提供」「経営資源の有効活用による利益及び株主価値の向上」を掲げ、具体的な数値目標として以下を設定しています。
* 株主資本コスト(現状8%)を上回るROEの達成
■(4) 成長戦略と重点施策
中長期的な経営戦略として、「強いブランドの構築」「ラインアップの充実」「サービスクオリティの向上」「多様性のある自律的な組織の実現」の4点を掲げています。具体的には、クレジットカード積立サービスの開始や銀行サービス「MATSUI Bank」との連携強化、動画コンテンツによる情報発信の拡充などを進めています。また、コールセンターの体制強化やアプリの機能改善を通じて顧客体験価値の向上を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
性別・年代・職歴を問わず多様な人材で組織づくりを推進することを基本方針とし、「社員一人一人が当事者意識を持ち、自律的に学習・成長する組織になる」ことを目指しています。「採用」「配置」「定着」「人材育成」「評価」「報酬」の6項目でアクションプランを策定し、ジョブローテーション制度や専門職制度、リスキリング支援などを実施しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 37.4歳 | 10.3年 | 9,420,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.9% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用) | - |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | - |
※同社は従業員規模が300人以下のため、有報には男女賃金差異の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(80.7%)、育児休業取得率(100.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 日本株ブローキング事業への依存
同社の収益の約8割は個人投資家向けの日本株ブローキング事業が占めています。そのため、株式市況の低迷や競争激化により委託売買代金や信用取引残高が減少した場合、また競争上の理由で手数料等を引き下げた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 他の金融機関との競争
同社が主力とする事業分野には、資金力や知名度で勝る競合他社が存在し、特に手数料無料化など価格競争が激化しています。フィンテック企業の参入等により競争環境がさらに厳しくなった場合、顧客流出や新規獲得の減少、広告宣伝費の増加等により業績が悪化する可能性があります。
■(3) 信用取引等に関するリスク
信用取引残高の増大は自己資本規制比率の低下要因となり、十分な資本調達ができない場合は顧客への信用供与を制限せざるを得なくなる可能性があります。また、顧客が損失を被り担保価値が不足した場合の未回収リスクや、調達金利の上昇等により資金調達コストが増加するリスクもあります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。