日本取引所グループ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本取引所グループ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。金融商品取引所持株会社として、株式・デリバティブ市場の運営から清算・決済、情報サービスまでを一体的に提供しています。当期の連結業績は、売上収益が1,622億円で増収、税引前利益が903億円で増益となり、活況な市況を背景に好調な推移を見せています。


※本記事は、株式会社日本取引所グループ の有価証券報告書(第24期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月13日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 日本取引所グループってどんな会社?


日本国内の株式・デリバティブ市場の中核インフラを担う取引所グループです。市場運営、清算、情報提供等のサービスを総合的に展開しています。

(1) 会社概要


2013年1月に東京証券取引所グループと大阪証券取引所が合併し発足しました。同年7月に現物市場を東京証券取引所、デリバティブ市場を大阪取引所に統合し、機能集約を進めました。2019年には東京商品取引所を完全子会社化し、総合取引所化を実現しました。2022年よりデータ・デジタル事業を担うJPX総研が業務を開始しています。

連結従業員数は1,263名、単体では220名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行の信託口で、第2位も同様に信託銀行の信託口です。第3位は大手証券会社となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 19.08%
日本カストディ銀行(信託口) 6.42%
SMBC日興証券 2.35%

(2) 経営陣


同社の役員は男性17名、女性3名(うち社外役員を含む)の計20名で構成され、女性役員比率は15.0%です。代表執行役グループCEOは山道裕己氏が務めています。取締役会における社外取締役比率は約64%です。

氏名 役職 主な経歴
山道裕己 取締役兼代表執行役グループCEO 野村證券入社。同社専務執行役、大阪証券取引所社長、東京商品取引所会長、東京証券取引所社長等を経て、2023年4月より現職。
岩永守幸 取締役兼代表執行役グループCOO 東京証券取引所入所。日本証券クリアリング機構専務執行役員、大阪取引所社長、東京証券取引所社長等を経て、2023年4月より現職。
長谷川勲 専務執行役総務・人事担当 東京証券取引所入所。同社株式部長、日本取引所グループ常務執行役、JPX総研取締役常務執行役員等を経て、2024年4月より現職。
川井洋毅 常務執行役CFO、総合企画・財務担当 東京証券取引所入所。同社株式部長、執行役員、常務執行役員等を経て、2025年4月より現職。日本証券クリアリング機構取締役を兼務。
田倉聡史 常務執行役CIO、IT企画担当 東京証券取引所入所。日本取引所グループIT企画部長、大阪取引所IT管理室長、JPX総研執行役員等を経て、2024年4月より現職。
横山隆介 取締役兼執行役 東京証券取引所入所。同社ITビジネス部長、執行役員、日本取引所グループ常務執行役、専務執行役等を経て、2023年4月より現職。大阪取引所社長を兼務。
小沼泰之 取締役兼執行役 東京証券取引所入所。同社上場推進室長、執行役員、常務執行役員、専務執行役員等を経て、2023年4月より現職。日本証券クリアリング機構社長を兼務。
石崎隆 執行役 通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁電力ガス事業部電力基盤整備課長、中小企業庁事業環境部企画課長等を経て、2020年6月より現職。東京商品取引所社長を兼務。
二木聡 執行役 東京証券取引所入所。同社株式部長、日本取引所グループ常務執行役、JPX総研取締役等を経て、2025年4月より現職。JPX総研社長を兼務。
吉田正紀 執行役サステナビリティ推進・広報・IR担当 大蔵省(現財務省)入省。同省国際局次長、国際租税総括官、世界銀行理事等を経て、2022年4月より現職。
林慧貞 取締役 野村證券入社。台湾証券集中保管公司、東京証券取引所株式部クライアント・リレーションズ担当部長、日本取引所グループ執行役等を経て、2024年6月より現職。


社外取締役は、木下康司(元財務事務次官)、フィリップ・アヴリル(国際銀行協会シニアE.O.)、遠藤信博(元日本電気会長)、大田弘子(政策研究大学院大学学長)、釡和明(IHI名誉顧問)、住田清芽(元あずさ監査法人パートナー)、竹野康造(弁護士)、手代木功(塩野義製薬会長兼社長CEO)、松本光弘(元警察庁長官)です。

2. 事業内容


同社グループは、「金融商品取引所事業」の単一セグメントで事業を展開しています。

(1) 市場運営事業


株式、ETF、REIT等の現物市場および指数先物、国債先物等のデリバティブ市場を開設・運営しています。投資家に対しては資産運用の機会を、企業に対しては資金調達の場を提供し、社会全体の経済活動を支えるインフラとしての役割を担っています。

売買代金や取引高に応じた「取引料」、システムへの「アクセス料」、上場会社からの「上場料」等が主な収益源です。現物市場の運営は東京証券取引所、デリバティブ市場の運営は大阪取引所および東京商品取引所が行っています。

(2) 清算・決済事業


市場で成立した取引や店頭デリバティブ取引等について、債務引受を行い決済の履行を保証する清算業務を提供しています。また、証券会社や銀行等の間における有価証券の振替業務も行っています。

清算業務に対する対価として、債務引受に係る「清算料」等を収益として受け取ります。清算業務は日本証券クリアリング機構が、振替業務は関連会社の証券保管振替機構がそれぞれ運営を行っています。

(3) 情報関連・その他事業


株価や指数等の市場情報の配信、ITシステムの提供、デジタル関連サービス等を展開しています。相場情報のリアルタイム配信や指数算出、上場会社の適時開示情報検索サービスの提供などを行っています。

情報ベンダーや市場参加者から「情報料」を、システム利用者から「arrownet利用料」や「コロケーション利用料」等の対価を受け取ります。これらのサービス運営は、主にJPX総研や各取引所が連携して行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績推移です。売上収益は緩やかな増加傾向にあり、特に直近2期で大きく伸長しています。利益面でも、高い利益率を維持しながら当期利益は増加トレンドにあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 1,333億円 1,354億円 1,340億円 1,529億円 1,622億円
税引前利益 747億円 734億円 682億円 874億円 903億円
利益率(%) 56.0% 54.2% 50.9% 57.2% 55.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 514億円 500億円 463億円 608億円 611億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益計算書です。売上収益の増加に伴い、営業利益も堅調に推移しています。営業利益率は50%を超える極めて高い水準を維持しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 1,529億円 1,622億円
売上総利益 -億円 -億円
売上総利益率(%) -% -%
営業利益 874億円 901億円
営業利益率(%) 57.2% 55.6%


営業費用のうち、人件費が237億円(構成比32%)、システム維持・運営費が205億円(同27%)、減価償却費及び償却費が184億円(同24%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社は単一セグメントなので、セグメント別の利益はありません。売上収益は取引関連、清算関連、上場関連、情報関連等で構成されており、市況の活況を受けて全体的に増収基調です。

区分 2024年3月期 2025年3月期
取引関連収益 615億円 645億円
清算関連収益 328億円 344億円
上場関連収益 155億円 173億円
情報関連収益 297億円 318億円
その他 130億円 140億円
合計(営業収益) 1,528億円 1,622億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

当グループのキャッシュ・フローは、本業で稼いだ資金を投資と還元に回す「健全型」の推移を示していますが、その中身には金融インフラを独占的に提供する取引所ビジネス特有の圧倒的な資金創出力が表れています。

直近の2025年3月期は、活況な相場を背景に営業活動で861億円の潤沢なキャッシュを獲得しました。 投資活動によるキャッシュ・フローは△612億円と大きく支出が膨らんでいますが、これは取引システム等の開発・維持に向けた無形資産への継続的な投資(△134億円)に加え、余裕資金を定期預金として預け入れたこと(純増額で約461億円の支出)が主な要因です。

財務活動によるキャッシュ・フローは△544億円となっていますが、これは当グループが掲げる「配当性向60%程度」という目標に基づく巨額の配当金支払(485億円)による支出が大部分を占めています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 796億円 861億円
投資CF -72億円 -612億円
財務CF -432億円 -545億円

これだけ手厚い株主還元やシステム投資を行ってもなお、期末時点の現金及び現金同等物は約984億円という極めて潤沢な手元流動性を維持しています。

また、資本効率を意識した経営を推進した結果、企業の収益力を測るROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は18.3%という極めて高い水準を達成しており、盤石な財務基盤と高い収益性を両立しています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「公共性及び信頼性の確保、利便性、効率性及び透明性の高い市場基盤の構築並びに創造的かつ魅力的なサービスの提供」を通じて、「市場の持続的な発展を図り、豊かな社会の実現に貢献する」ことを企業理念としています。また、2030年までの長期ビジョンとして、グローバルな総合金融・情報プラットフォームへの進化を掲げています。

(2) 企業文化


同社グループは、「Exchange & beyond」をスローガンとしています。これは、安定的な市場運営という伝統的な取引所機能を強化しつつ、その枠組みにとらわれず新たな領域へ挑戦する意思を表しています。高い公共性と社会貢献性を背景に、社員には安定的な市場運営に対する強い使命感と、風通しの良い組織風土が根付いています。

(3) 経営計画・目標


2025年度から2027年度を対象とする「中期経営計画2027」を策定しています。長期ビジョンの実現に向けた第2ステージとして位置づけ、以下の数値目標を掲げています。

* ROE 18.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画2027では、社会課題や利用者ニーズを起点とした顧客本位・マーケットインの姿勢を徹底し、新たな領域への挑戦を続ける方針です。具体的には以下の3つの重点テーマを設定しています。

1. 日本株市場の新時代を切り拓く:上場会社の企業価値向上促進や投資環境の整備。
2. 総合プラットフォーム化へ邁進する:アジアの機軸マーケットとしての進化や金利・エネルギー関連商品の強化。
3. デジタルイノベーションを共創する:データサービスの次世代化やAI等の先端技術導入。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「伝統的な取引所業務の更なる安定・高度化を支える人材」に加え、「新たな分野・領域を切り拓く人材」の採用・育成を重視しています。ジョブローテーションによる適性発見や全体俯瞰能力の獲得を推進し、デジタル分野に特化した「DSコース」の設置等により専門人材の確保も図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 47.3歳 20.1年 11,102,143円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 9.0%
男性育児休業取得率 90.5%
男女賃金差異(全労働者) 69.1%
男女賃金差異(正規雇用) 71.7%
男女賃金差異(非正規雇用) 64.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、定期健康診断受診率(95.3%)、ストレスチェック受検率(95.2%)、平均有給休暇取得日数(13.6日)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 金融市場の動向による影響


同社グループの収益は、有価証券やデリバティブ商品の売買代金・取引高、上場企業の時価総額等に大きく依存しています。そのため、国内外の経済情勢や金融政策の影響を受けやすく、景気低迷等により市場環境が悪化し取引量が減少した場合、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) システム面に関するリスク


市場の安定性・信頼性を維持するためには取引システムの安定稼働が必須ですが、システム障害等が発生した場合、市場の信頼性が毀損され取引量が減少する可能性があります。また、テクノロジーの発展に伴いシステム性能が競争力の源泉となっており、他社システムに劣後する場合も事業運営に影響を与える可能性があります。

(3) 競合による影響


取引所外取引(PTS等)との競合や、海外取引所との商品間競争が激化しています。市場流動性や取引コスト、システム性能等の面で競争優位性を維持できずシェアを奪われた場合や、手数料引き下げ競争に巻き込まれた場合、同社グループの収益や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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