※本記事は、日本取引所グループの有価証券報告書(第25期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月11日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本取引所グループってどんな会社?
我が国の金融市場の中核インフラとして、証券取引所や清算機関等を運営する持株会社です。
■(1) 会社概要
同社は2013年1月に東京証券取引所グループと大阪証券取引所の合併により発足し、「日本取引所グループ」へ商号変更のうえ東証一部に上場しました。その後、2019年に東京商品取引所を完全子会社化し、2022年にはJPX総研が業務を開始してデータ・デジタル関連事業を集約するなど、事業の多角化と体制強化を進めています。
同社グループの従業員数は連結で1,268名、単体で223名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位も同様に信託銀行が名を連ねています。機関投資家による保有割合が高いことが特徴です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 17.04% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.52% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.59% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性4名の計17名で構成され、女性役員比率は23.5%です。代表取締役社長等は置かず、取締役兼代表執行役グループCEOの山道裕己氏がトップを務めています。また、取締役12名中10名が社外取締役であり、高い社外取締役比率を確保しています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山道裕己 | 取締役兼代表執行役グループCEO | 野村證券入社後、海外子会社社長等を経て、2021年4月に東京証券取引所代表取締役社長。2023年4月より現職。 |
| 横山隆介 | 代表執行役グループCOO | 1986年東京証券取引所入所。ITビジネス部長等を経て、2022年4月に同社専務執行役。2026年4月より現職。 |
| 林慧貞 | 取締役 | 野村證券、台湾の証券関連機関を経て、2009年東京証券取引所入社。同社広報・IR部長等を経て2024年6月より現職。 |
社外取締役は、木下康司(元財務事務次官)、フィリップ・アヴリル(元BNPパリバ証券代表取締役会長)、遠藤信博(元日本電気代表取締役会長)、大田弘子(元内閣府特命担当大臣)、釡和明(元IHI代表取締役会長)、住田清芽(元あずさ監査法人パートナー)、竹野康造(元森・濱田松本法律事務所パートナー)、田中弥生(元会計検査院長)、手代木功(塩野義製薬代表取締役会長兼社長CEO)、松本光弘(元警察庁長官)です。
2. 事業内容
同社グループは、金融商品取引所事業の単一セグメントの中で以下の事業を展開しています。
■(1) 現物市場・デリバティブ市場事業
我が国の市場の中核インフラとして、株式市場を中心とした現物市場や、指数先物、国債先物などのデリバティブ市場を提供しています。国内外の投資家からの需給を集約し、世界でも有数の市場規模と流動性を確保しています。
主な収益源は、売買代金・数量や注文件数に応じて取引参加者から得る「取引関連収益」や、時価総額等に応じて上場会社から得る「上場関連収益」です。運営は主に東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所が担っています。
■(2) 清算・決済・自主規制事業
投資家が安心して市場に参加できるよう、取引所で成立した取引の清算業務や、市場の公正性と信頼性を維持するための自主規制機能を提供しています。私設取引システム(PTS)等を通じた売買の清算業務にも対応しています。
清算機関として債務を引き受けることによる「清算関連収益」が収益源となります。清算・決済業務は日本証券クリアリング機構や証券保管振替機構(関連会社)が、自主規制業務は別法人である日本取引所自主規制法人がそれぞれ担っています。
■(3) データ・システム関連事業
有価証券の売買やデリバティブ取引に関する約定値段等の相場情報、指数情報、統計情報などを即時に配信しています。また、市場利用者の多様なニーズに応える高速かつ安定した取引システムインフラを継続的に整備・提供しています。
情報ベンダー等への相場情報の提供料である「情報関連収益」や、通信ネットワーク等の利用料である「システム関連収益」が収益源です。データやデジタル関連事業については、グループ内のJPX総研が集約して運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、一時的な踊り場はあったものの、全体として右肩上がりの成長を続けています。特に当期は売上収益が大きく伸長し、税引前利益も大幅に増加して高い利益率を維持しています。市場環境の好調や各種施策の進展が業績に寄与していると見られます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1354億円 | 1340億円 | 1529億円 | 1622億円 | 1987億円 |
| 税引前利益 | 734億円 | 682億円 | 874億円 | 903億円 | 1169億円 |
| 利益率(%) | 54.2% | 50.9% | 57.2% | 55.6% | 58.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 500億円 | 463億円 | 608億円 | 611億円 | 791億円 |
■(2) 損益計算書
当期は前期比で大幅な増収となり、それに伴い営業利益も大きく増加しました。営業利益率も前期からさらに向上して60%に迫る水準となっており、市場規模の拡大効果に加え、効率的な事業運営が行われていることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 1622億円 | 1987億円 |
| 営業利益 | 901億円 | 1163億円 |
| 営業利益率(%) | 55.6% | 58.5% |
営業費用のうち、人件費が243億円(構成比29%)、システム維持・運営費が208億円(同25%)、減価償却費及び償却費が180億円(同22%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は金融商品取引所事業の単一セグメントで事業を展開しています。当期は現物市場の売買代金の増加や取引の活性化などにより、主力の取引関連収益および清算関連収益が大きく伸びたことで、連結全体で大幅な増収増益を達成しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 連結(合計) | 1622億円 | 1987億円 | 901億円 | 1163億円 | 58.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
当期のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金を元に、投資や借入金の返済・株主還元等を行っている「健全型」のパターンを示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 861億円 | 1077億円 |
| 投資CF | -612億円 | -152億円 |
| 財務CF | -545億円 | -805億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は23.1%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も39.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「公共性及び信頼性の確保、利便性、効率性及び透明性の高い市場基盤の構築並びに創造的かつ魅力的なサービスの提供により、市場の持続的な発展を図り、豊かな社会の実現に貢献します」という企業理念を掲げています。市場利用者の支持と信頼を獲得することで、結果として利益がもたらされると考えています。
■(2) 企業文化
「企業理念の浸透・訴求力の高さ」「安定的な市場運営に対する使命感」「風通しのよさ」を強みであり守るべき企業文化としています。これらを継承しつつ、「自己の成長」「挑戦」「組織貢献」「部下・後輩の育成」といったマインドを評価制度等を通じて意識づけし、醸成していくことを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年までの長期ビジョン「Target 2030」の実現に向けた第IIステージとして、「中期経営計画2027」を策定し事業を推進しています。経営目標として以下の財務目標を掲げています。
・3期連続 ROE 20.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「日本株市場の新時代を切り拓く」「総合プラットフォーム化へ邁進する」「デジタルイノベーションを共創する」という3つの重点テーマを掲げています。上場会社の自律的な価値向上の促進や投資環境の醸成に取り組むとともに、アジアにおける機軸マーケットへの進化や、AI等先端技術の積極的な導入を進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「伝統的な取引所業務の更なる安定・高度化を支える」人材と、「新たな分野・領域を切り拓く」人材を採用・育成し、能力発揮の環境を整備することを基本方針としています。ジョブローテーションによる適性発見や専門分野の育成を行うとともに、研修費用補助や「JPXカレッジ」を通じた自発的な学びを強力に支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 46.8歳 | 19.8年 | 11,132,643円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含んで算出しております。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.4% |
| 男性育児休業取得率 | 72.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 67.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 70.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 63.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中途採用社員の比率(32.2%)、育休からの復職率(94.9%)、外国人社員の比率(1.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) システム投資・開発リスク
テクノロジーの発達や取引手法の高度化・多様化に適切に対応するため、「arrowhead」等の取引システムの継続的な設備投資を行っています。しかし、これらの投資が直ちに収益の拡大に繋がるとは限らず、想定通りの効果を生まない場合、業績や将来の投資計画に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 金融市場の動向による影響
収益の多くは有価証券やデリバティブの取引高、上場企業の時価総額などに依存しています。国内外の経済情勢、金融政策の変化、地政学リスク等により市場環境が悪化し、取引量や資金調達額が減少した場合、同社グループの事業運営や業績に重大な影響を与えるリスクがあります。
■(3) 取引所間や取引所外との競合激化
市場の流動性やシステムの性能などを巡り、私設取引システム(PTS)などの取引所外取引や海外の取引所との競合が激化しています。また、世界的な手数料の引き下げ圧力などにより、同社グループの競争優位性が低下した場合、市場シェアや収益の減少に繋がる可能性があります。



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