※本記事は、株式会社MS&ADインシュアランスグループホールディングス の有価証券報告書(第17期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. MS&ADインシュアランスグループホールディングスってどんな会社?
国内最大級の損害保険グループを統括する持株会社であり、グローバルな保険・金融サービスを通じて安心と安全を提供しています。
■(1) 会社概要
2008年4月、三井住友海上火災保険による単独株式移転により設立されました。2010年4月には、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険との経営統合を実施し、現在の商号へ変更しました。2011年4月には三井住友海上プライマリー生命保険を完全子会社化し、体制を強化しています。2016年には英国のAmlin plc(現MS Amlin)を買収し、海外事業を拡大しました。
連結従業員数は38,247名、単体従業員数は453名です。筆頭株主は信託銀行ですが、第2位の日本生命保険相互会社、第3位のトヨタ自動車は、グループ会社との資本・業務提携関係を持つ事業会社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.99% |
| 日本生命保険相互会社 | 7.19% |
| トヨタ自動車 | 6.97% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性5名の計15名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表者は取締役社長 社長執行役員の舩曵 真一郎氏です。社外取締役は5名で、取締役全体の約3分の1を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 舩曵 真一郎 | 取締役社長 社長執行役員(代表取締役) | 住友海上火災保険入社。三井住友海上火災保険取締役社長などを経て、2024年6月より現職。 |
| 原 典之 | 取締役会長 会長執行役員 | 大正海上火災保険入社。三井住友海上火災保険取締役会長などを経て、2024年6月より現職。 |
| 金杉 恭三 | 取締役副会長 副会長執行役員(代表取締役) | 大東京火災海上保険入社。あいおいニッセイ同和損害保険取締役社長、同社取締役会長などを経て、2020年6月より現職。 |
| 樋口 哲司 | 取締役執行役員 | 住友海上火災保険入社。三井住友海上火災保険取締役専務執行役員などを経て、2025年4月より現職。 |
| 嶋津 智幸 | 取締役 | 大正海上火災保険入社。三井住友海上火災保険取締役副社長執行役員などを経て、2025年4月より現職。 |
| 白井 祐介 | 取締役 | 大東京火災海上保険入社。あいおいニッセイ同和損害保険取締役専務執行役員などを経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、坂東 眞理子(昭和女子大学総長)、飛松 純一(弁護士)、ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)、石渡 明美(元花王執行役員)、鈴木 純(元帝人社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「国内損害保険事業」「国内生命保険事業」「海外事業」「金融サービス事業/デジタル・リスク関連サービス事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 国内損害保険事業
日本国内において、火災保険、海上保険、傷害保険、自動車保険、自動車損害賠償責任保険などの損害保険商品・サービスを提供しています。個人から法人まで幅広い顧客層に対し、事故や災害などのリスクに対する補償を提供しています。
収益は、契約者から受け取る保険料が主な源泉です。運営は、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険、三井ダイレクト損害保険の各社が行っています。
■(2) 国内生命保険事業
日本国内において、個人および法人向けに生命保険商品を提供しています。死亡保障、医療保障、年金商品などを通じて、顧客の生活や事業の安定を支えています。
収益は、契約者から受け取る保険料です。運営は、三井住友海上あいおい生命保険および三井住友海上プライマリー生命保険が行っています。
■(3) 海外事業
アジア、欧州、米州などの諸外国において、損害保険事業および生命保険事業を展開しています。日系企業のみならず、現地の個人・法人顧客に対しても保険商品・サービスを提供しています。
収益は、海外の契約者から受け取る保険料です。運営は、国内損害保険子会社の海外部門、海外現地法人および海外支店が行っています。
■(4) 金融サービス事業/デジタル・リスク関連サービス事業
アセットマネジメント、金融保証、確定拠出年金、ベンチャー・キャピタル事業などの金融サービスに加え、リスクマネジメントサービスなどを提供しています。
収益は、各種手数料収入や投資収益などです。運営は、三井住友DSアセットマネジメント、三井住友海上キャピタル、MS&ADインターリスク総研などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、トップラインである連結経常収益および正味収入保険料は、5期連続で右肩上がりの順調な拡大を続けています。直近の2025年3月期は、国内における火災保険や自動車保険での増収に加え、ロイズ・再保険事業をはじめとするアジア、欧州、米州など海外事業での増収や為替の影響も寄与し、正味収入保険料は約4兆6,743億円へと成長しています。
利益面については、自然災害等の影響を受けやすい事業特性上、過去には変動が見られましたが、直近では劇的な増益を果たしています。政策保有株式の売却益が大幅に増加したことや、海外事業における利益拡大が強力に牽引し、連結経常利益は前期の2倍以上となる約9,289億円へと急拡大しました。
これにより、最終的な親会社株主に帰属する当期純利益(約6,916億円)や、同社が重視する独自指標であるグループ修正利益(7,317億円)は、いずれも過去最高益を記録する極めて好調な決算となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 連結経常収益 | 4兆8,922億円 | 5兆1,320億円 | 5兆2,507億円 | 6兆5,728億円 | 6兆6,608億円 |
| うち 正味収入保険料 | 3兆5,009億円 | 3兆6,090億円 | 3兆9,332億円 | 4兆2,617億円 | 4兆6,743億円 |
| 連結経常利益 | 3,065億円 | 3,904億円 | 2,922億円 | 4,164億円 | 9,289億円 |
| 経常利益率(%) | 6.3% | 7.6% | 5.6% | 6.3% | 13.9% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 1,443億円 | 2,627億円 | 2,110億円 | 3,692億円 | 6,916億円 |
■(2) 損益計算書
経常収益の最大の柱である「保険引受収益」は、国内外での保険料収入(正味収入保険料)の成長を背景に順調に拡大しています。
一方、保険金の支払いや将来への備えである「保険引受費用」は、前年度に多額に計上された責任準備金等繰入額(7,347億円)が当年度は発生しなかったこと等から大幅に減少し、本業の収益性が改善しています。
もう一つのエンジンである「資産運用収益」は、全体としては前年度を下回ったものの、その内訳を見ると「有価証券売却益」が前期の約2.4倍となる5,616億円へと急激に拡大しています。これは、同社が損害保険業界の適正な競争環境確保のために「政策保有株式の売却(2030年3月末までに保有ゼロ)」を強力に推し進めている結果であり、この巨額の売却益が経常利益を倍増以上(9,289億円)へと押し上げる最大の原動力となっています。
| 項目(億円) | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 経常収益 | 65,728 | 66,608 |
| うち 保険引受収益 | 51,070 | 54,005 |
| うち 資産運用収益 | 14,177 | 11,993 |
| 経常費用 | △61,564 | △57,318 |
| うち 保険引受費用 | △51,073 | △45,794 |
| うち 営業費及び一般管理費 | △7,979 | △8,460 |
| 経常利益 | 4,164 | 9,289 |
| (参考)有価証券売却益 | 2,287 | 5,616 |
■(3) セグメント収益
各セグメントともに売上(正味収入保険料等)は堅調に推移しています。特に三井住友海上火災保険および海外事業の規模が大きく、グループ全体の収益を牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 三井住友海上火災保険 | 1兆5,657億円 | 1兆6,256億円 |
| あいおいニッセイ同和損害保険 | 1兆2,883億円 | 1兆3,425億円 |
| 三井ダイレクト損害保険 | 353億円 | 375億円 |
| 三井住友海上あいおい生命保険 | 4,738億円 | 4,632億円 |
| 三井住友海上プライマリー生命保険 | 1兆3,536億円 | 1兆1,771億円 |
| 海外事業(海外保険子会社) | 1兆3,941億円 | 1兆6,812億円 |
| その他 | 192億円 | 84億円 |
| 調整額 | -1兆1,330億円 | -1兆527億円 |
| 連結(合計) | 4兆9,970億円 | 5兆2,830億円 |
※各セグメントの売上には、損害保険事業は正味収入保険料、生命保険事業は保険料収入、その他の事業は経常収益を記載し、連結合計は正味収入保険料及び生命保険料の合計額を記載しています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
2025年3月期の状況を見ると、営業活動によるキャッシュ・フローは、国内外での保険料収入が順調に拡大したこと等を背景に、前年度からさらに増加して約6,601億円のプラスとなりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、集めた保険料の運用(有価証券の取得等)を積極的に行った結果、約5,587億円のマイナスとなっています。
また、財務活動によるキャッシュ・フローは、約6,595億円の大幅なマイナスとなっています。これは、本業と資産運用で稼ぎ出した利益を元手に、配当金の支払いや巨額の自己株式取得といった極めて手厚い株主還元を積極的に実行していることの表れです。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 5,495億円 | 6,602億円 |
| 投資CF | -2,768億円 | -5,587億円 |
| 財務CF | -2,315億円 | -6,596億円 |
企業の収益力を測る指標として同社が重視する「グループ修正ROE」は、当期の劇的な利益拡大を背景に、前年度の9.0%から15.7%へと大きく跳ね上がり、収益性が飛躍的に向上しています。
一方、財務の健全性を測る保険業特有の指標である「連結ソルベンシー・マージン比率」は708.7%となっており、規制上の健全性の目安とされる200%を大幅に上回っています。
また、経済価値ベースでより厳密にリスクに対する資本の十分性を測る独自指標である「ESR(Economic Solvency Ratio)」も226%となっており、同社が掲げる目標水準(180~250%)の範囲内をしっかり維持し、極めて強固で健全な財務基盤を有しています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支えます」という経営理念(ミッション)を掲げています。また、持続的成長と企業価値向上を追い続ける世界トップ水準の保険・金融グループを創造することを経営ビジョンとしています。
■(2) 企業文化
同社グループは、行動指針(バリュー)として「お客さま第一」「誠実」「チームワーク」「革新」「プロフェッショナリズム」を定めています。常にお客さまの安心と満足のために行動し、誠実かつ公平に接すること、多様性を尊重し共に成長すること、絶えず仕事を見直し自らを磨き続けることを重視する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画(2022-2025)の第2ステージにおいて、2025年度の経営目標として以下の数値を掲げています。
* グループ修正利益:7,600億円
* グループ修正ROE:16%
* IFRS純利益:4,500億円
* 修正ROE:12%
* ESR:180~250%
■(4) 成長戦略と重点施策
「ビジネススタイルの大変革」を掲げ、提供価値、事業構造、生産性・収益性の変革を進めています。具体的には、リスクソリューション提案力の強化、新たな成長投資の拡充、1プラットフォーム戦略による効率化などを推進しています。また、2030年3月末までに政策株式の保有をゼロにすることを目指しています。
* デジタル・データを活用した新たな商品・サービスの開発
* 海外事業・生保事業の拡大による事業ポートフォリオの分散
* 三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険の合併検討(2027年4月目途)
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
グループの最大の財産は人財であると考え、「自律的に行動し、変革にチャレンジし、新たな価値を創造する人財」の育成を目指しています。デジタル人財や海外人財の育成に注力するとともに、ジョブ型雇用の活用や自律的なキャリア形成機会の提供を進めています。また、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進し、多様な人財が活躍できる環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 47.9歳 | 22.9年 | 11,435,904円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 15.2% |
| 男性育児休業取得率 | 60.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 66.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 90.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性ライン長比率(21.3%)、デジタル人財(8,490人)、海外人財(1,243人)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 大規模自然災害の発生
気候変動の影響による風水災や地震などの大規模自然災害が発生した場合、保険金支払が増加し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、再保険料の高騰や引受キャパシティの減少により、リスクコントロールが困難になる恐れがあります。
■(2) 金融マーケットの大幅な変動
世界的な景気停滞や金融政策の変更に伴い、株価下落による保有資産価値の減少や、金利・為替変動による資本余力の低下が生じるリスクがあります。
■(3) 信用リスクの大幅な増加
実体経済の悪化や金利上昇などにより、投融資先企業の業績悪化やデフォルトが発生する可能性があります。また、保有債券等の価値下落により、財務状態に影響を与えるリスクがあります。
■(4) グループの企業価値の著しい毀損や社会的信用の失墜
コンプライアンス違反や不適切な業務運営、顧客視点の欠如などにより、社会的信用を失墜させる事態が発生するリスクがあります。特に、情報漏えいやハラスメント、不適切な競争行為などは、評判の低下や法的制裁につながる可能性があります。



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