※本記事は、京成電鉄株式会社 の有価証券報告書(第182期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 京成電鉄ってどんな会社?
成田空港へのアクセスを担う「スカイライナー」等の鉄道事業を中核に、バス、不動産、流通など幅広く展開する企業グループです。
■(1) 会社概要
1909年に京成電気軌道として設立され、1912年に押上~市川間等で鉄道営業を開始しました。1949年に東京証券取引所に上場し、1978年には成田空港への乗り入れを開始して空港特急「スカイライナー」の運転を始めました。2010年には成田空港線(成田スカイアクセス)が開業し、空港アクセスの利便性が飛躍的に向上しました。直近では2025年に連結子会社であった新京成電鉄を吸収合併し、事業基盤の強化を図っています。
同グループは連結子会社81社、関連会社6社で構成され、連結従業員数は12,818名(単体1,926名)です。大株主には、信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行や日本カストディ銀行に加え、持分法適用関連会社であり「東京ディズニーリゾート」を運営するオリエンタルランドが名を連ねています。また、日本生命保険などの金融機関も大株主となっています。
■(2) 経営陣
同社の役員は男性16名、女性4名の計20名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表者は代表取締役社長社長執行役員の天野貴夫氏が務めています。社外取締役比率は46.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小林敏也 | 代表取締役会長 | 1982年入社。鉄道本部計画管理部長、開発事業部長、代表取締役社長等を経て、2025年6月より現職。 |
| 天野貴夫 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1988年入社。鉄道本部運輸部長、京成建設社長、代表取締役専務執行役員等を経て、2025年6月より現職。 |
| 持永秀毅 | 取締役常務執行役員鉄道本部長 | 1984年運輸省入省。国土交通省関東運輸局長、日通商事顧問等を経て入社。鉄道副本部長等を歴任し現職。 |
| 岡匡一 | 取締役常務執行役員経営統括担当 | 1989年日本興業銀行入行。みずほ証券部長等を経て入社。経営統括部長、取締役執行役員等を経て現職。 |
| 清水健司 | 取締役常務執行役員開発本部長 | 1990年入社。開発事業部長、京成不動産社長、取締役執行役員等を歴任し、2024年6月より現職。 |
| 吉川邦彦 | 取締役常務執行役員グループ戦略・総務・人事担当 | 1987年新京成電鉄入社。同社常務取締役等を歴任後、2025年4月同社顧問を経て、同年6月より現職。 |
| 延命誠 | 取締役執行役員鉄道副本部長兼鉄道本部プロジェクト推進部長 | 1991年入社。鉄道本部運輸部長、執行役員等を経て、2023年6月取締役就任。2024年6月より現職。 |
| 橋本武 | 取締役執行役員内部監査・経理担当 | 1992年入社。経理部長、内部監査部長、執行役員を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、栃木庄太郎(弁護士)、菊池節(パウダーテック会長)、芦崎武志(司法書士)、網谷多加子(公認会計士・税理士)、中島明子(和洋女子大学名誉教授)、石内俊行(元三井住友信託銀行執行役員)、冨塚昌子(元千葉県教育委員会教育長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「運輸業」「流通業」「不動産業」「レジャー・サービス業」「建設業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 運輸業
鉄道、バス、タクシーによる旅客輸送サービスを提供しています。鉄道事業では成田空港アクセスを担う「スカイライナー」や通勤通学路線を運行し、バス事業では高速バスや一般路線バスを展開しています。
収益は主に利用者からの運賃・料金収入です。運営は、鉄道事業では同社、新京成電鉄、北総鉄道、関東鉄道などが、バス事業では京成バス、千葉交通などが、タクシー事業では帝都自動車交通、京成タクシーホールディングスなどが行っています。
■(2) 流通業
沿線地域を中心に、スーパーマーケット「リブレ京成」等のストア業や百貨店業、ショッピングセンターの運営などを行っています。地域密着型の商業施設として生活必需品や多様な商品を提供しています。
収益は主に顧客からの商品販売収入やテナント賃料等です。運営は、ストア業では京成ストア、コミュニティー京成などが、百貨店業では水戸京成百貨店が、その他流通業ではユアエルム京成などが行っています。
■(3) 不動産業
沿線価値向上のため、不動産の賃貸および販売を行っています。駅周辺の商業施設やオフィスビル、賃貸マンションの保有・運営に加え、戸建住宅やマンションの分譲開発も手掛けています。
収益は賃借人からの賃貸収入や顧客への物件販売収入です。運営は主に同社が行うほか、新京成電鉄、関東鉄道、京成不動産などが賃貸・販売・管理事業を展開しています。
■(4) レジャー・サービス業
ホテル、旅行代理店、飲食店、映画館などの運営を行っています。また、持分法適用関連会社を通じてテーマパーク事業にも関与しています。
収益は顧客からの宿泊料、旅行代金、飲食代金などです。運営は、ホテル事業では千葉京成ホテルなどが、旅行業では京成トラベルサービスが、飲食等はイウォレ京成などが行っています。
■(5) 建設業
鉄道施設やビル、マンション等の建設工事、電気設備工事などを請け負っています。グループ内の鉄道インフラ整備だけでなく、官公庁や民間からの受注工事も行っています。
収益は発注者からの工事代金です。運営は主に京成建設、京成電設工業が行っています。
■(6) その他の事業
鉄道車両や自動車の整備、自動車教習所の運営などを行っています。グループの輸送の安全を支える整備事業に加え、地域に向けたサービスも提供しています。
収益は整備料金や教習料金などです。運営は京成自動車工業、京成ドライビングスクールなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、コロナ禍の影響を受けた2021年3月期からV字回復を遂げています。2021年3月期は大幅な赤字でしたが、翌期以降改善が進み、2024年3月期および2025年3月期は営業収益、経常利益ともに拡大傾向にあります。特に空港輸送の回復が寄与しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 2,078億円 | 2,142億円 | 2,523億円 | 2,965億円 | 3,193億円 |
| 経常利益 | -322億円 | -32億円 | 268億円 | 516億円 | 618億円 |
| 利益率(%) | -15.5% | -1.5% | 10.6% | 17.4% | 19.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -303億円 | -44億円 | 269億円 | 877億円 | 700億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加し、売上総利益率も改善しています。販管費や売上原価のコントロールにより、営業利益率は前期の8.5%から11.3%へと上昇しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,965億円 | 3,193億円 |
| 売上総利益 | 747億円 | 887億円 |
| 売上総利益率(%) | 25.2% | 27.8% |
| 営業利益 | 252億円 | 360億円 |
| 営業利益率(%) | 8.5% | 11.3% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が210億円(構成比40%)、経費が201億円(同38%)を占めています。売上原価(運輸業等営業費及び売上原価)は2,306億円で、売上高に対する比率は72.2%です。
■(3) セグメント収益
全てのセグメントで増収となりました。特に主力の運輸業は、インバウンド需要の取り込みやダイヤ改正等の効果により大幅な増収増益を達成し、全社利益を牽引しています。不動産業や建設業も堅調に推移しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 運輸業 | 1,796億円 | 1,979億円 | 120億円 | 209億円 | 10.6% |
| 流通業 | 556億円 | 568億円 | 4億円 | 3億円 | 0.6% |
| 不動産業 | 260億円 | 276億円 | 101億円 | 105億円 | 38.2% |
| レジャー・サービス業 | 127億円 | 138億円 | 7億円 | 16億円 | 11.9% |
| 建設業 | 176億円 | 169億円 | 18億円 | 24億円 | 14.0% |
| その他の事業 | 50億円 | 62億円 | 2億円 | 5億円 | 7.7% |
| 調整額 | - | - | -0.2億円 | -3億円 | - |
| 連結(合計) | 2,965億円 | 3,193億円 | 252億円 | 360億円 | 11.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
京成電鉄は、営業CFがプラス、投資CF・財務CFがマイナスの「健全型」に分類されます。 財務CFのマイナスは主として有利子負債の返済によるものですが、配当や自己株式取得といった株主還元も含まれています。 したがって、「本業で稼いだ現金と手元資金を用いて、将来への投資に取り組みつつ、有利子負債の返済と株主還元を積極的に進めている健全型」といった表現が実態に近いでしょう。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 600億円 | 411億円 |
| 投資CF | 281億円 | -92億円 |
| 財務CF | -403億円 | -629億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同グループは、「お客様に喜ばれる良質な商品・サービスを、安全・快適に提供し、健全な事業成長のもと、社会の発展に貢献する」ことをグループ経営理念として掲げています。この理念のもと、事業エリアの人々との共創や成田空港の機能強化への寄与を通じて、サステナブルな社会の実現に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
経営理念を実現するための行動指針として、「安全、接客、成長、企業倫理、環境」の5つの項目を定めています。これらをグループ各社の社員に周知し、日々の業務における判断や行動の基準としています。安全・安心を根幹としつつ、環境への配慮や倫理観を持った行動を重視する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
長期経営計画「Dプラン」(2030年度目標)および中期経営計画「D2プラン」(2025~2027年度)を推進しています。2027年度の数値計画として以下を掲げています。
* 営業収益:3,750億円
* 営業利益:380億円
* ROE:8%以上
* EBITDA倍率:7倍台
* 連結配当性向:30%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「D2プラン」では、「空港アクセス強化の推進」と「外部環境変化への耐性強化」を掲げています。成田空港の機能強化を見据え、新型車両の導入や宗吾車両基地の拡充など輸送力・サービスを強化するとともに、第2の柱である不動産業を中心に事業ポートフォリオを強化します。
* 成田空港アクセス強化:新型有料特急や次期スカイライナー車両の導入、線路設備の増強など。
* 不動産業の拡大:賃貸物件の開発・取得による収益基盤の強化。
* 株主還元の強化:連結配当性向目標の引き上げ(30%以上)。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材の多様性確保を重視し、性別や国籍によらない公正な採用や管理職登用を行っています。持続的な成長に向けて、ジョブローテーションや社外研修などを通じた「チャレンジする人材」の育成に注力するとともに、サテライトオフィスの設置や時短勤務制度など、多様な従業員が活躍できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.6歳 | 17.4年 | 7,515,634円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.4% |
| 男性育児休業取得率 | 65.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 47.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、総採用数における女性比率(7.0%)、女性管理職比率の2030年度目標(現在の5割増)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 少子・高齢化による需要減少
事業エリアである東京都東部や千葉県北西部においても、将来的な人口減少や少子高齢化の進展が予測されています。これにより輸送サービス等の需要が低下したり、労働力の確保や人材育成が困難になったりすることで、収益の減少や経営コストの増加を招く可能性があります。
■(2) 国際情勢や成田空港への依存
同社の運輸業は成田空港利用客への依存度が比較的高い構造にあります。海外でのテロ、紛争、感染症流行等により航空旅客が大幅に減少した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、エネルギー価格の高騰等は運行コストの増加要因となります。
■(3) システム障害のリスク
列車運行管理や座席予約、決算処理などに情報システムを使用しています。自然災害やサイバー攻撃等によりこれらのシステムに重大な障害が発生した場合、業務の停滞や社会的信用の失墜、復旧コストの発生などにより、経営成績に影響を与える可能性があります。
■(4) 金利変動のリスク
事業運営に必要な資金を金融機関からの借入や社債発行により調達しており、有利子負債残高は3,631億円(2025年3月末時点)となっています。固定金利化を進めていますが、市場金利が大幅に上昇した場合、支払利息の増加により経営成績に影響が及ぶ可能性があります。



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