近鉄グループホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

近鉄グループホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

近鉄グループホールディングスは、東京証券取引所プライム市場に上場する持株会社です。鉄道・バスなどの運輸業をはじめ、不動産、国際物流、流通、ホテル・レジャーなど幅広い事業を展開しています。直近の連結業績では、旅客需要やインバウンド需要の増加により、前期比で増収増益の堅調な推移を見せています。


※本記事は、近鉄グループホールディングスの有価証券報告書(第115期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 近鉄グループホールディングスってどんな会社?


同社は運輸業を中心に、不動産、国際物流、流通などを幅広く展開する企業グループです。

(1) 会社概要


同社は1910年に奈良軌道として発足し、1944年に近畿日本鉄道を設立しました。1949年に大阪証券取引所へ上場し、運輸や不動産、ホテルなど事業を拡大してきました。2015年には純粋持株会社制へ移行し、現在の社名に変更しています。2022年には近鉄エクスプレスを連結子会社化しました。

現在、従業員数は連結で44,759名、単体で264名体制です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も信託業務を行う日本カストディ銀行(信託口)です。第3位には野村絢氏が名を連ねており、多様な株主に支えられながら幅広い事業基盤を維持しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.40%
日本カストディ銀行(信託口) 3.90%
野村絢(常任代理人 三田証券) 2.70%

(2) 経営陣


同社の役員は男性15名、女性2名の計17名で構成され、女性役員比率は11.8%です。代表取締役社長は若井敬氏が務めています。

氏名 役職 主な経歴
都司尚 代表取締役会長 1982年入社。近畿日本鉄道代表取締役社長などを経て、2024年6月より現職。
若井敬 代表取締役社長 1983年入社。近鉄不動産取締役、同社取締役専務執行役員などを経て、2024年6月より現職。
米田昭正 代表取締役副社長海外戦略担任、総合政策本部長、台北支社担当 1982年入社。KNT-CTホールディングス代表取締役会長などを経て、2025年6月より現職。
林信 取締役専務執行役員管理本部長、管理本部総務部担当 1984年入社。アド近鉄常務取締役、同社取締役常務執行役員などを経て、2024年6月より現職。
小林哲也 取締役相談役 1968年入社。同社代表取締役社長、同社代表取締役会長などを経て、2024年6月より現職。
笠松宏行 取締役常務執行役員管理本部経理部担当、監査部担当 1987年入社。近鉄エクスプレス上席執行役員などを経て、2023年6月より現職。
上田尚義 取締役常務執行役員総合政策本部副本部長 1987年入社。近商ストア代表取締役社長などを経て、2024年6月より現職。
菅浦隆弘 取締役常務執行役員管理本部人事部担当、ラグビー事業部担当 1989年入社。北日本観光自動車代表取締役社長、近畿日本鉄道取締役常務執行役員などを経て、2025年6月より現職。


社外取締役は、片山登志子(片山・平泉・椚座法律事務所開設)、長岡孝(元三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役)、三笠裕司(日本生命保険副会長執行役員)、髙橋宏輔(富国生命保険顧問)です。

2. 事業内容


同社グループは、「運輸」「不動産」「国際物流」「流通」「ホテル・レジャー」および「その他」事業を展開しています。

運輸


同社グループの運輸セグメントでは、鉄軌道事業、バス事業、タクシー業、鉄道施設整備業、その他運輸関連事業を提供しており、一般顧客や地域住民が主な顧客です。近畿日本鉄道を中心とする鉄道網や、近鉄バス、奈良交通などによるバス路線を展開し、地域の公共交通インフラを支えています。

収益は、主に顧客からの運賃や定期券収入、施設整備による工事請負収入から得ています。運営は、近畿日本鉄道や近鉄バス、奈良交通、近鉄タクシーホールディングスをはじめとする複数のグループ子会社がそれぞれの事業領域を担当し、連携してサービスを提供しています。

不動産


不動産セグメントでは、不動産販売、不動産賃貸、不動産管理の各事業を展開しており、一般消費者や企業テナントを顧客としています。沿線の主要駅周辺での再開発やマンション分譲、首都圏等でのアセット事業に加え、仲介やリフォームなどのハウジング事業も手掛けています。

主な収益源は、一般消費者への住宅販売代金や、オフィスビル・商業施設のテナントからの賃貸収入、ビルや施設の管理・運営に伴う手数料収入です。運営は主に近鉄不動産が行っており、管理事業は近鉄ファシリティーズやミディ総合管理などが担当しています。

国際物流


国際物流セグメントでは、航空貨物輸送および海上貨物輸送におけるフォワーディング事業、ロジスティクス事業を提供し、グローバルに展開する企業を顧客としています。アジア、米州、欧州などに拠点を持ち、企業のサプライチェーンを支える総合的な物流サービスを展開しています。

収益は、顧客企業からの航空・海上貨物の輸送運賃や手数料、ならびに倉庫での保管・物流加工業務に伴うロジスティクス収入から得ています。運営は主に近鉄エクスプレスおよびAPL Logistics Ltdが担当し、世界的な物流ネットワークを構築しています。

流通


流通セグメントでは、百貨店業やストア・飲食業を展開し、一般消費者を主な顧客としています。あべのハルカス近鉄本店をはじめとする百貨店の運営や、駅ナカ店舗、近商ストアでの小売販売、さらに多様な飲食店の展開により、顧客の日常生活を豊かにする商品やサービスを提供しています。

収益は、来店客からの衣料品、食料品などの商品販売代金や、飲食店での飲食代金、さらに駅ナカ店舗の売上から構成されています。運営は、近鉄百貨店が百貨店業を担い、ストア・飲食業は近鉄リテールホールディングス、近鉄リテーリング、近商ストアなどが担当しています。

ホテル・レジャー


ホテル・レジャーセグメントは、ホテル業、旅行業、映画業、水族館業、観光施設業を展開し、観光客やビジネス客を顧客としています。都ホテルズ&リゾーツブランドのホテル運営や、近畿日本ツーリスト、クラブツーリズムによる旅行商品の企画・販売、海遊館や志摩スペイン村などのレジャー施設を運営しています。

収益は、宿泊客からの宿泊・飲食代金、旅行商品の販売代金、施設への入場料収入などから得ています。運営は、近鉄・都ホテルズ、KNT-CTホールディングス、海遊館、志摩スペイン村など、各分野に特化した複数のグループ子会社が担当しています。

その他


その他セグメントでは、報告セグメントに含まれない事業として、金属機械器具の製造・販売、ケーブルテレビ放送、情報処理サービスなどを展開しています。一般消費者や企業に向けて、通信インフラやITシステム開発などの付加価値の高いサービスを提供しています。

収益は、ケーブルテレビの加入者からの視聴料・通信料や、企業からの情報処理システムの開発・運用受託費用、製品の販売代金から得ています。運営は、サカエ、近鉄ケーブルネットワーク、近鉄情報システムなどのグループ企業がそれぞれの専門事業を担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

直近5期間の業績推移を見ると、経常利益は一時的に変動が見られるものの、全体としては安定的な黒字を確保しています。当期利益についても底堅く推移し、直近2期間では連続して増加傾向を示しており、収益基盤の回復と着実な成長がうかがえます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 - - - - -
経常利益 307億円 746億円 846億円 815億円 846億円
利益率(%) - - - - -
当期利益(親会社所有者帰属) 143億円 100億円 107億円 253億円 263億円


直近の損益状況を見ると、営業利益は前期から増加しており、本業における収益力の向上が確認できます。旅客需要やインバウンド需要の増加が寄与し、着実な増益基調を維持しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 - -
売上総利益 - -
売上総利益率(%) - -
営業利益 844億円 894億円
営業利益率(%) - -


販売費及び一般管理費のうち、人件費が1,380億円(構成比63.5%)、諸経費が792億円(同36.5%)を占めています。

セグメント別の売上高を見ると、すべての事業セグメントにおいて堅調な推移を示しています。特に国際物流事業が売上の大部分を牽引する一方、ホテル・レジャー事業や流通事業も、インバウンド需要の回復等を背景に前期比で順調に売上を伸ばしています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
運輸 2,145億円 2,233億円
不動産 1,393億円 1,472億円
国際物流 7,968億円 7,531億円
流通 2,133億円 2,235億円
ホテル・レジャー 3,427億円 3,672億円
その他 346億円 354億円
調整額 7億円 7億円
連結(合計) 1兆7,411億円 1兆7,496億円


営業で利益を出し、借入返済を行いながら投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 897億円 1,181億円
投資CF -828億円 -1,389億円
財務CF -179億円 -199億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.3%で市場平均をわずかに下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も23.6%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


経営理念は『「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。』です。誠実な企業活動により暮らしの安心を支え、果敢な挑戦により新たな価値を創出し、多様な人々との協働により社会に貢献することを基本方針としています。サステナビリティを重視して社会課題の解決に努め、持続的な成長と豊かな社会の実現に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


同社グループは、誠実さを根幹に置きながらも、新しい価値を創出する「果敢な挑戦」を重視する文化を持っています。幅広いフィールドで躍動し、強さとしなやかさを両立させた社会に貢献し続ける企業グループの構築を目標としており、多様なステークホルダーとの協働による「共創」を大切にする価値観が組織全体に浸透しています。

(3) 経営計画・目標


「長期ビジョン2035」のもと、バックキャスト思考で目標を設定した「中期経営計画2028」を策定し、資本コストを意識した経営指標の向上を図っています。

* 2028年度営業利益:1,000億円以上
* 2028年度純有利子負債:9,000億円程度でコントロール
* ROE:8%以上の維持
* 自己資本比率:30%程度

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画では、沿線の価値深化と沿線外・グローバルでの事業拡大に向けた重点戦略を推進します。伊勢志摩のブランド力強化やインバウンド需要の取込み拡大に加え、事業や資産の「選択と集中」を加速させます。経営資源の適切な配分による事業ポートフォリオの最適化を通じて稼ぐ力を強化し、コングロマリット・プレミアムの創出を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「魅力あふれる沿線を創出し、選ばれ親しまれる近鉄」の実現に向け、多様な働き方を支える人財の確保と育成に取り組んでいます。高い倫理観と挑戦意欲を育む研修を通じた企業風土改革を進め、DXやグローバル事業を牽引する専門人財を育成します。また、グループ人財データベースを活用し、戦略的な配置や異動による組織の活性化を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.6歳 17.7年 8,228,945円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 10.0%
男性育児休業取得率 92.3%
男女賃金差異(全労働者) 59.4%
男女賃金差異(正規雇用) 61.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 43.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、総合職採用者数に占める女性の割合(37.5%)、総合職採用者数に占めるキャリア採用の割合(17.5%)、当社籍総合職の離職率(0.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 輸送や施設運営における事故・災害リスク


公共交通機関である鉄軌道事業やバス事業をはじめ、多数の顧客にサービスを提供する中で、大規模事故や自然災害が発生した場合、人命に関わるほか、施設の復旧や長期間の事業中断により業績に深刻な影響を与える可能性があります。同社グループは、安全マネジメントの推進や耐震補強などの防災対策工事を継続的に実施しています。

(2) 人財不足による事業運営への支障リスク


鉄軌道事業など労働集約型の事業が多く、生産年齢人口の減少や労働市場の流動化により十分な人財が確保できない場合、サービス提供に支障をきたし収支に悪影響を及ぼすおそれがあります。同社グループでは、採用の多様化や働きやすい職場環境の整備、業務の効率化・システム化による運営体制の構築に取り組んでいます。

(3) 沿線人口の減少と競合他社への顧客転移リスク


少子高齢化や都心への人口移転による近鉄沿線の人口減少は、鉄道や流通、不動産事業の需要減少を招くおそれがあります。さらに、高速道路網の発達によるモータリゼーションの進展や他社との競合により顧客が減少するリスクがあります。これに対し、沿線の魅力向上やテクノロジーを活用した新サービスの拡充を進めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。