※本記事は、株式会社近鉄グループホールディングス の有価証券報告書(第114期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 近鉄グループホールディングスってどんな会社?
近畿・東海地方に広がる国内最長の私鉄網を基盤に、不動産、国際物流、ホテル・レジャー、流通など多角的な事業を展開する企業グループです。
■(1) 会社概要
明治43年に奈良軌道として発足し、昭和19年に関西急行鉄道と南海鉄道の合併により近畿日本鉄道が設立されました。昭和22年より特急運転を開始し、昭和24年に上場しました。平成27年には純粋持株会社制へ移行し、現社名へ変更しました。令和4年には近鉄エクスプレスを株式公開買付けにより連結子会社化しています。
連結従業員数は44,678人、単体では291人です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に日本カストディ銀行です。第3位には事業資金の借入先でもある日本生命保険が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.80% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.80% |
| 日本生命保険(相) | 2.20% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性15名、女性2名の計17名で構成され、女性役員比率は11.8%です。取締役会長は都司尚氏、取締役社長は若井敬氏です。社外取締役比率は23.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 都司 尚 | 取締役会長(代表取締役) | 昭和57年同社入社。近畿日本鉄道取締役社長、同社グループ執行役員、取締役社長を経て、令和6年6月より現職。 |
| 若井 敬 | 取締役社長(代表取締役) | 昭和58年同社入社。近鉄不動産取締役、同社取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を経て、令和6年6月より現職。 |
| 小林哲也 | 取締役相談役 | 昭和43年同社入社。取締役社長、取締役会長、取締役会長グループCEOを経て、令和6年6月より現職。 |
| 原 史郎 | 取締役専務執行役員 | 昭和59年同社入社。国道九四フェリー取締役社長、同社執行役員、取締役常務執行役員を経て、令和5年6月より現職。 |
| 林 信 | 取締役専務執行役員 | 昭和59年同社入社。アド近鉄常務取締役、近鉄バス取締役、同社執行役員、取締役常務執行役員を経て、令和6年6月より現職。 |
| 松本昭彦 | 取締役専務執行役員 | 昭和59年同社入社。近畿日本ツーリスト執行役員、きんえい常務執行役員、同社取締役常務執行役員を経て、令和6年6月より現職。 |
| 笠松宏行 | 取締役常務執行役員 | 昭和62年同社入社。近鉄百貨店経理本部副本部長、近鉄エクスプレス上席執行役員等を経て、令和5年6月より現職。 |
| 上田尚義 | 取締役常務執行役員 | 昭和62年同社入社。近鉄百貨店常務執行役員、近商ストア取締役社長等を経て、令和6年6月より現職。 |
社外取締役は、柳正憲(元日本政策投資銀行社長)、片山登志子(弁護士)、長岡孝(元三菱UFJ銀行副頭取)、三笠裕司(日本生命保険取締役副会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「運輸」「不動産」「国際物流」「流通」「ホテル・レジャー」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 運輸
鉄道、バス、タクシーなどの旅客輸送サービスを提供しています。主力の鉄軌道事業では、近畿・東海圏において国内私鉄最長の路線網を有し、通勤・通学輸送のほか、伊勢志摩や奈良などへの観光特急を運行しています。
運賃収入等が主な収益源です。運営は、鉄軌道事業を近畿日本鉄道、バス事業を近鉄バスや奈良交通、タクシー業を近鉄タクシーなどが主に行っています。
■(2) 不動産
「あべのハルカス」をはじめとするオフィスビルや商業施設の賃貸、マンションや戸建住宅の分譲、不動産仲介、リフォーム事業などを展開しています。また、沿線活性化に向けた駅周辺の再開発なども手がけています。
不動産の販売代金や賃貸料、管理料などが収益源です。運営は主に近鉄不動産が行っており、不動産管理は近鉄ファシリティーズなどが担っています。
■(3) 国際物流
世界各地を結ぶ航空貨物輸送、海上貨物輸送、ロジスティクス事業を展開しています。半導体や電子部品、自動車関連品などを中心に、グローバルなサプライチェーンを支える物流サービスを提供しています。
荷主からの運送料や倉庫保管料、通関手数料などが収益源です。運営は主に近鉄エクスプレスが行っており、海外においてもAPL Logistics Ltdなどを通じて事業を展開しています。
■(4) 流通
百貨店事業およびストア・飲食事業を展開しています。「あべのハルカス近鉄本店」を旗艦店とする百貨店の運営や、駅ナカを中心としたスーパーマーケット、コンビニエンスストア、飲食店の運営を行っています。
商品売上や飲食代金などが収益源です。運営は、百貨店事業を近鉄百貨店、ストア・飲食事業を近鉄リテールホールディングス傘下の近鉄リテーリングや近商ストアが行っています。
■(5) ホテル・レジャー
国内外でのホテル運営、旅行商品の販売、水族館やテーマパーク等の観光施設運営を行っています。ホテル事業では「都ホテルズ&リゾーツ」ブランドを展開し、旅行事業では「クラブツーリズム」や「近畿日本ツーリスト」などを擁しています。
宿泊料、旅行代金、施設入場料などが収益源です。運営は、近鉄・都ホテルズ、KNT-CTホールディングス、海遊館、志摩スペイン村などがそれぞれ行っています。
■(6) その他
上記セグメントに含まれない事業として、ケーブルテレビ事業、情報処理業、金属機械器具の製造・販売などを展開しています。
サービスの利用料や製品の販売代金などが収益源です。運営は、近鉄ケーブルネットワーク、近鉄情報システム、サカエなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
当連結会計年度より会計方針の変更があり、過去の数値にも遡及適用されています。売上収益は、近鉄エクスプレスの連結子会社化やコロナ禍からの需要回復により大幅に拡大しました。経常利益も黒字化・拡大傾向にありますが、直近では微減となっています。当期利益は安定的に推移しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 6,972億円 | 6,915億円 | 15,610億円 | 16,295億円 | 17,418億円 |
| 経常利益 | -420億円 | 307億円 | 746億円 | 846億円 | 815億円 |
| 利益率(%) | -6.0% | 4.4% | 4.8% | 5.2% | 4.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -602億円 | 428億円 | 916億円 | 478億円 | 467億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は増加しましたが、営業費用の増加により営業利益は減少しました。売上原価率は上昇傾向にあり、利益率を圧迫しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 16,295億円 | 17,418億円 |
| 売上総利益 | -億円 | -億円 |
| 売上総利益率(%) | -% | -% |
| 営業利益 | 874億円 | 844億円 |
| 営業利益率(%) | 5.4% | 4.8% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が1,368億円(構成比58%)、諸経費が767億円(同32%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントともに売上高は増加しましたが、利益面では明暗が分かれました。運輸、流通、ホテル・レジャーは増益となりましたが、不動産と国際物流、その他事業は減益となりました。特に国際物流は売上規模が大きいものの、利益率の低下が見られました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 運輸 | 2,043億円 | 2,145億円 | 323億円 | 347億円 | 16.2% |
| 不動産 | 1,324億円 | 1,393億円 | 151億円 | 139億円 | 10.0% |
| 国際物流 | 7,323億円 | 7,968億円 | 176億円 | 130億円 | 1.6% |
| 流通 | 2,099億円 | 2,133億円 | 58億円 | 70億円 | 3.3% |
| ホテル・レジャー | 3,160億円 | 3,427億円 | 134億円 | 140億円 | 4.1% |
| その他 | 339億円 | 346億円 | 36億円 | 23億円 | 6.8% |
| 調整額 | 8億円 | 7億円 | -4億円 | -4億円 | -% |
| 連結(合計) | 16,295億円 | 17,418億円 | 874億円 | 844億円 | 4.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
**健全型**:営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,505億円 | 897億円 |
| 投資CF | -563億円 | -828億円 |
| 財務CF | -720億円 | -179億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.8%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は21.7%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、経営理念『「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。』を掲げています。誠実な企業活動により暮らしの安心を支え、果敢な挑戦により新たな価値を創出し、多様な人々との協働により社会に貢献することを基本方針としています。
■(2) 企業文化
同社グループは、各事業においてサステナビリティを重視し、社会課題の解決に努めることで持続的な成長を目指しています。多様なステークホルダーとの「共創による豊かな社会」の実現に貢献するため、マルチステークホルダーとのエンゲージメントを持続的に高めることを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、10年後の「ありたい姿」を「長期ビジョン2035」として定め、その実現に向けた「中期経営計画2028」を策定しています。最終年度である2028年度(令和10年度)には、営業利益1,000億円以上の達成を目指しています。
* 営業利益:1,000億円以上
* ROE:更なる向上(令和6年度実績8.8%以上)
* ROIC:4.5%以上
* 自己資本比率:25%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「地域社会のパートナー、そして新しい“時代”へ」という方向性のもと、沿線価値の深化・活性化と、沿線外・グローバルでの事業拡大に取り組んでいます。重点戦略として、主要ターミナルの魅力拡充、伊勢志摩のブランド力強化、万博関連開発、インバウンド需要の取込みに加え、首都圏や海外での事業基盤強化を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、グループ全体の成長を牽引する人材を輩出するため、高い倫理観と意欲、能力を備えた総合職の採用・育成に注力しています。グループを跨ぐジョブローテーションや女性・キャリア採用の拡大を通じて多様性を確保し、新たな価値創造やグローバル展開に対応できる人材を育成しています。また、働きやすい環境整備にも取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.8歳 | 16.6年 | 7,969,737円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.5% |
| 男性育児休業取得率 | 72.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 59.3% |
| 男女賃金差異(正規) | 61.3% |
| 男女賃金差異(非正規) | 39.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、近畿日本鉄道の鉄道運輸部門の採用者に占める女性比率(16.2%)、同社の従業員一人当たりの年間平均研修時間(47.9時間)、近鉄エクスプレスの女性管理職社員の比率(13.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 大規模事故等の発生
鉄道やバスなどの公共交通機関を運営しているため、大規模事故や火災、テロ等が発生した場合、復旧費用や損害賠償による巨額の損失が発生する可能性があります。また、長期間の事業中断により、業績に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。同社は運輸安全マネジメントの推進や設備投資により、安全確保に努めています。
■(2) 大規模自然災害の発生
南海トラフ地震や気候変動による風水害などの大規模災害が発生した場合、鉄道施設やホテル等の保有資産が甚大な被害を受ける可能性があります。特に経営資源が集中する近鉄沿線エリアで災害が発生した場合は、グループ全体の業績に深刻な影響を与えるおそれがあります。これに対し、耐震補強などの防災対策を進めています。
■(3) 労務管理の不足
労働集約型の事業を多く展開しているため、労働災害やメンタルヘルスの不調、過重労働などが発生するリスクがあります。また、働き方改革への対応遅れは、社会的信用の低下や業績悪化につながる可能性があります。同社は安全管理の徹底や働きやすい職場環境の整備、健康経営の推進などを通じて、これらのリスク低減に取り組んでいます。



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