※本記事は、株式会社電通グループ の有価証券報告書(第176期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 電通グループってどんな会社?
広告、マーケティング、テクノロジー、コンサルティングを融合した統合的なソリューションを世界4地域で展開する企業グループです。
■(1) 会社概要
1901年に光永星郎が日本広告および電報通信社を設立し、1907年に合併して日本電報通信社(後の電通)となりました。2001年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、2013年には英国Aegis Group plcを買収してグローバル展開を加速させました。2020年に純粋持株会社体制へ移行し、現在の商号に変更しています。2022年には株式会社セプテーニ・ホールディングスを連結子会社化しました。
連結従業員数は67,667名、提出会社(単体)の従業員数は131名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位および第3位は創業期からの深い関わりを持つ一般社団法人共同通信社と株式会社時事通信社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 18.48% |
| 一般社団法人共同通信社 | 7.29% |
| 時事通信社 | 6.15% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.0%です。代表執行役 社長 グローバルCEOは五十嵐博氏です。社外取締役比率は約64%(取締役11名中9名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 五十嵐 博 | 取締役代表執行役社長グローバルCEO | 1984年入社。営業局長、執行役員、電通代表取締役社長執行役員等を経て、2022年より電通グループ社長執行役員。2024年3月より現職。 |
| 曽我 有信 | 取締役代表執行役副社長グローバルCGO | 1988年入社。経理局長、執行役員、経営企画局長等を経て、2022年より電通グループ副社長執行役員。2025年3月より現職。 |
| ジュリオ・マレゴリ | 執行役副社長グローバルCOO兼dentsu Americas会長兼CEO代行 | 1982年McCann Erickson入社。Dentsu International EMEA CEO等を経て、2025年3月より現職。 |
| 佐野 傑 | 執行役 dentsu Japan CEO兼デピュティ・グローバルCOO | 1992年入社。営業局長、電通ジャパンネットワーク執行役員等を経て、2024年電通代表取締役社長執行役員。2025年3月より現職。 |
| 遠藤 茂樹 | 執行役グローバルCFO | GE、BAT等の要職を経て、アクセンチュア執行役員財務本部長・CFOを歴任。2024年電通グループ入社。2025年3月より現職。 |
社外取締役は、松井巖(元福岡高等検察庁検事長)、ポール・キャンドランド(元ウォルト・ディズニー・ジャパン社長)、アンドリュー・ハウス(元ソニー・インタラクティブエンタテインメント社長)、佐川恵一(元リクルートホールディングス取締役)、曽我辺美保子(公認会計士)、松田結花(公認会計士)、河村芳彦(日立製作所嘱託)、高嶋智光(元名古屋高等検察庁検事長)、市川奈緒子(元三菱ケミカルHD執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」、「Americas」、「EMEA」および「APAC」事業を展開しています。
■(1) 日本
国内において、広告を中心としたコミュニケーション関連サービスを提供しています。具体的には、メディアへの広告出稿、クリエイティブ制作、マーケティング、PR、コンテンツサービスなどを含みます。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)やビジネス変革(BX)領域のサービスも拡大しています。
収益は、主に広告主などの顧客企業から受け取る手数料や、制作物・サービスの対価から構成されています。運営は、株式会社電通、株式会社電通東日本、株式会社電通デジタル、株式会社CARTA HOLDINGS、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社電通総研などのグループ会社が行っています。
■(2) Americas(米州)
北米および中南米地域において、広告、マーケティング、テクノロジー、データ活用を統合したサービスを提供しています。顧客体験マネジメント(CXM)やメディアエージェンシー事業を展開し、グローバルクライアントの北米市場での活動を支援しています。
収益は、顧客企業へのソリューション提供に伴う手数料やプロジェクト報酬などが主な源泉です。運営は、Dentsu US, Inc.、Merkle Group, Inc.、Dentsu Creative, LLCなどの現地法人および持株会社傘下の事業会社が行っています。
■(3) EMEA(欧州・中東・アフリカ)
欧州、中東、アフリカ地域において、メディア、クリエイティブ、CXMなどのサービスを提供しています。多様な市場特性に合わせたマーケティング・コミュニケーション支援を行い、企業のブランド価値向上や事業成長に貢献しています。
収益は、顧客企業からのサービス提供対価やメディアバイイングの手数料などからなります。運営は、Dentsu France、Dentsu Aegis Network Central Europe GmbH、Tag Worldwide Holdings Limitedなどの現地法人が行っています。
■(4) APAC(アジア太平洋 ※日本を除く)
日本を除くアジア太平洋地域(中国、インド、オーストラリアなど)において、広告およびマーケティングサービスを展開しています。急成長する市場において、デジタルマーケティングやクリエイティブサービスを提供し、顧客の事業拡大を支援しています。
収益は、広告・マーケティングサービスの提供対価やコンサルティングフィーなどが中心です。運営は、Dentsu Asia Pacific Holdings Pte. Ltd.、北京電通廣告有限公司、Dentsu Australia Holdings Pty Ltdなどの現地法人が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は過去5期間を通じて増加傾向にあり、事業規模の拡大が続いています。しかし、利益面では変動が大きく、直近の期では多額の損失を計上しています。これは、主に減損損失の計上などの一時的要因によるものであり、収益性の安定化が課題となっています。
| 項目 | 2020年12月期 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 9,392億円 | 10,856億円 | 12,464億円 | 13,046億円 | 14,110億円 |
| 税引前利益 | - | - | - | 508億円 | -2,200億円 |
| 利益率(%) | - | - | - | 3.9% | -15.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -1,596億円 | 1,084億円 | 598億円 | -107億円 | -1,922億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で増加し、売上総利益も伸長していますが、販管費やその他の費用の負担が重く、営業損益は赤字に転じています。特に減損損失の影響が大きく、利益率を押し下げる要因となっています。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 13,046億円 | 14,110億円 |
| 売上総利益 | 11,448億円 | 12,016億円 |
| 売上総利益率(%) | 87.8% | 85.2% |
| 営業利益 | 453億円 | -1,250億円 |
| 営業利益率(%) | 3.5% | -8.9% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が7,553億円(構成比71%)、減価償却費及び償却費が721億円(同7%)を占めています。売上原価については、サービス業の性質上、詳細な内訳の記載はありませんが、人件費や外注費が主要な構成要素であると推測されます。
■(3) セグメント収益
全セグメントで売上収益が増加していますが、利益面では明暗が分かれています。日本セグメントは増収増益で堅調に推移しましたが、海外セグメント、特にAmericasとEMEAでは売上増にもかかわらず減損損失の影響等により、全社的な営業損失の主因となりました。
| 区分 | 売上(2023年12月期) | 売上(2024年12月期) | 利益(2023年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 5,488億円 | 5,745億円 | 1,034億円 | 1,142億円 | 19.9% |
| Americas | 3,506億円 | 3,805億円 | 730億円 | 752億円 | 19.8% |
| EMEA | 2,664億円 | 3,193億円 | 242億円 | 385億円 | 12.0% |
| APAC | 1,161億円 | 1,228億円 | 80億円 | 11億円 | 0.9% |
| 調整額 | 227億円 | 138億円 | -452億円 | -526億円 | -381.0% |
| 連結(合計) | 13,046億円 | 14,110億円 | 1,635億円 | 1,762億円 | 12.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業の営業活動から得た資金と手元資金を活用して借入金の返済を進めつつ、投資活動も抑制的に行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 753億円 | 600億円 |
| 投資CF | -1,463億円 | -309億円 |
| 財務CF | -1,537億円 | -657億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-25.0%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は37.9%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「an invitation to the never before.」をパーパスとして掲げ、多様な視点を持つ人々とつながりながら、かつてないアイデアやソリューションを生み出し、社会や企業の持続的な発展を実現するために存在することを宣言しています。また、「B2B2S(Business to Business to Society)」という経営方針のもと、顧客企業と共に社会課題を解決し、社会全体の持続的成長を実現することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「One dentsu」というスローガンのもと、世界中の多様な人材がひとつのチームとして協働することを重視しています。インテグリティ(誠実さ)を最優先とし、透明性と公平性を持った行動を徹底する文化の醸成に努めています。また、「人起点の変革」を掲げ、従業員一人ひとりが自律的に成長し、互いの専門性を掛け合わせることでイノベーションを生み出す環境づくりを推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2027年度を最終年度とする新中期経営計画を策定し、競争優位性と収益性の回復を目指しています。本計画を通じて事業ポートフォリオの見直しや資本・人材の集中を行い、力強いオーガニック成長への回帰を図っています。
* オーガニック成長率:4%(2027年度)
* オペレーティング・マージン:16-17%(2027年度)
* ROE:10%台中盤(2027年度)
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「インテグレーテッド・グロース・ソリューション」の提供を通じて、クライアントの持続的な成長を実現することに注力しています。そのために、日本で培ったクライアントとの長期的関係、各市場の特色あるソリューション、そして人材という3つの強みを活かし、各市場におけるクライアントの成長パートナーとなることを目指します。
具体的には、不振ビジネスの見直しと経営基盤の再構築を最優先課題とし、赤字マーケットの解消やコスト構造の改善を進めます。また、「One dentsu オペレーティング・モデル」の導入により、組織の簡素化と意思決定の迅速化を図り、グローバルでの統合と効率化を推進します。さらに、スポーツ&エンターテインメント領域などの成長分野への投資や、AIを活用した業務効率化にも取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人起点の変革」を実現するため、従業員の多様な能力(ケイパビリティ)を統合し、顧客の成長に貢献することを目指しています。そのために、「One dentsu」体制のもと、グローバルで一貫した人事戦略を推進しています。「People Growth(人の成長)」、「Winning as One Team(ワンチームとなって勝つ組織)」、「HR Service Excellence(最良の人事サービス)」の3つを柱とし、リーダーシップ開発、エンゲージメント向上、適材適所の人材配置などに注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2024年12月期 | 44.9歳 | 14.1年 | 15,075,028円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 17.4% |
| 男性育児休業取得率 | 103.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | -% |
※男女賃金差異(非正規雇用)については、該当者がいないため記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性リーダー比率(32.5%)、再生可能エネルギー比率(79.5%)、エンゲージメントスコア(66)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 競争力・長期戦略
業界内外での巨大プレーヤーの台頭やテクノロジー企業等による巨額のAI投資などにより、競争環境が激化しています。同社グループのポジションが相対的に変化する中、競争優位性を維持できず、中期経営計画で掲げた戦略目標や財務目標を達成できない場合、市場シェアの喪失や財務上の損失につながる可能性があります。特に不振ビジネスの見直しや収益成長力の回復が遅れるリスクがあります。
■(2) 事業変革
同社は「One dentsu オペレーティング・モデル」の導入など、グローバルでの組織構造や事業管理モデルの変革を推進しています。しかし、この事業変革が想定通りに進まなかった場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、急激な環境変化や構造改革に対応できず、内部統制の脆弱化や管理体制の不備が顕在化するリスクも存在します。
■(3) サステナビリティ目標の未達
同社は「2030サステナビリティ戦略」に基づき、気候変動対策やDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)などの重要課題に取り組んでいます。しかし、社会・経済情勢の変化などの外部要因により、これらの目標達成が計画通りに進まなかった場合、同社グループの社会的信用(レピュテーション)が低下し、企業価値に悪影響を与える可能性があります。



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