※本記事は、株式会社電通グループの有価証券報告書(第177期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 電通グループってどんな会社?
同社は広告やマーケティング、事業変革支援など、コミュニケーション関連サービスをグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
1901年に日本広告として設立され、1906年に日本電報通信社へ改組、1936年に広告専業となり、1955年に電通へ商号変更しました。2001年に東証一部へ上場し、2013年の英イージス社買収でグローバル展開を加速させています。2020年に純粋持株会社体制へ移行し、現在の電通グループとなりました。
現在の従業員数は連結で67,454名、単体で135名です。大株主の状況を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は一般社団法人共同通信社、第3位は時事通信社となっており、通信社との歴史的・資本的なつながりが見られます。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.18% |
| 一般社団法人共同通信社 | 7.29% |
| 時事通信社 | 6.15% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.0%です。代表執行役社長グローバルCEOは五十嵐博氏が務めています。社外取締役比率は64.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 五十嵐 博 | 取締役指名委員 代表執行役社長グローバルCEO | 1984年電通入社。営業局長、執行役員等を経て、2022年に電通グループ代表取締役社長執行役員CEOに就任。2024年3月より現職。 |
| 曽我 有信 | 取締役 代表執行役副社長グローバルCGO | 1988年電通入社。経理局長、経営企画局長等を経て、2022年に電通グループ代表取締役副社長執行役員CFOに就任。2025年2月より現職。 |
| 綿引 義昌 | 取締役 | 1990年電通入社。事業企画局長等を経て、2023年に電通デジタル取締役およびdentsu Japan COOに就任。2026年3月より現職。 |
社外取締役は、松井巖(元福岡高等検察庁検事長)、ポール・キャンドランド(元ウォルト・ディズニー・ジャパン社長)、アンドリュー・ハウス(元ソニー・インタラクティブエンタテインメント社長)、佐川恵一(元リクルートホールディングス専務執行役員・指名委員長)、曽我辺美保子(元あずさ監査法人公認会計士)、松田結花(松田結花公認会計士・税理士事務所代表・監査委員長)、河村芳彦(元日立製作所副社長・ファイナンス委員長)、高嶋智光(元名古屋高等検察庁検事長)、市川奈緒子(元産業革新機構マネージングディレクター)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「Americas」「EMEA」「APAC」の事業セグメントを展開しています。
■日本
同社グループの国内拠点が担う事業領域です。インターネット広告をはじめとするマーケティング事業を中心に、企業の事業変革を支援するビジネストランスフォーメーション(BX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)などのサービスを提供しており、国内の幅広い企業や団体を顧客としています。
広告主からの広告出稿料やコンテンツ制作費、システム開発やコンサルティングに対する報酬が主な収益源です。運営は主に電通、電通デジタル、電通ライブ、電通総研などの国内グループ各社が行っています。
■Americas
北米および中南米地域における広告およびマーケティング関連サービスを提供する事業領域です。同地域におけるメディア手配やデータ&テクノロジー領域でのツール開発、AIを活用した顧客体験マネジメント(CXM)事業などを展開しています。
顧客企業からのメディア出稿手数料や、データ分析、テクノロジーソリューションの提供に対する報酬が収益の柱となっています。運営は主に米国のMerkle GroupやCarat USA、ブラジルのDentsu Brasil Holdingsなどの子会社が行っています。
■EMEA
欧州、中東、およびアフリカ地域を対象としたコミュニケーションサービスを提供する事業セグメントです。各国に展開するネットワークを活かし、グローバルクライアントに対する統合的なマーケティング支援やメディア運用、クリエイティブ制作などを手掛けています。
広告枠の取扱いやクリエイティブ制作費、各種コンサルティングフィーを収益源としています。運営は主に英国のTag Worldwide HoldingsやドイツのDentsu Aegis Network Central Europeなどの現地子会社が行っています。
■APAC
日本を除くアジア太平洋地域において、マーケティングおよびコミュニケーションサービスを提供する事業セグメントです。中国、インド、オーストラリア、シンガポールなどの主要市場で、メディア領域やデータ&テクノロジー領域の支援を展開しています。
現地企業およびグローバル展開を行う企業からの広告取扱手数料やサービス報酬が主な収益源です。運営は主にシンガポールのDentsu Asia Pacificや中国の北京電通廣告などの現地法人各社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5年間で一貫して増加傾向にあり、事業規模の拡大が確認できます。一方で、利益面は厳しい状況が続いており、直近3期間は海外事業におけるのれん減損損失等の計上により連続で最終赤字を記録し、赤字幅も拡大しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆856億円 | 1兆2,464億円 | 1兆3,046億円 | 1兆4,110億円 | 1兆4,352億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,084億円 | 598億円 | -107億円 | -1,922億円 | -3,276億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は微増となったものの、売上総利益はほぼ横ばいで推移し、売上総利益率は小幅に低下しました。営業利益については、事業構造改革やのれん減損損失の計上などの一時的要因が重くのしかかり、赤字幅が大きく拡大する結果となりました。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1兆4,110億円 | 1兆4,352億円 |
| 売上総利益 | 1兆2,016億円 | 1兆1,975億円 |
| 売上総利益率(%) | 85.2% | 83.4% |
| 営業利益 | -1,250億円 | -2,892億円 |
| 営業利益率(%) | -8.9% | -20.2% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が7,518億円(構成比72%)、減価償却費及び償却費が643億円(同6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
売上の約4割を占める日本事業が堅調に推移し、セグメント増収増益を牽引しました。一方、AmericasおよびAPACは減収となり、EMEAは増収ながらも減益となるなど、海外事業の収益性回復が引き続き課題となっています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 5,745億円 | 6,083億円 | 1,142億円 | 1,211億円 | 19.9% |
| Americas | 3,805億円 | 3,697億円 | 752億円 | 723億円 | 19.6% |
| EMEA | 3,193億円 | 3,384億円 | 385億円 | 338億円 | 10.0% |
| APAC | 1,228億円 | 1,122億円 | 11億円 | 27億円 | 2.4% |
| 消去/全社 | 138億円 | 67億円 | -526億円 | -574億円 | - |
| 連結(合計) | 1兆4,110億円 | 1兆4,352億円 | 1,762億円 | 1,725億円 | 12.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の優良企業の状態を示しています(営業利益は赤字ですが、一時的要因の調整等により営業CFは安定して創出されています)。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 600億円 | 1,180億円 |
| 投資CF | -309億円 | -29億円 |
| 財務CF | -657億円 | -1,805億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算出されていません。また、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は-11.0%となっており、プライム市場の平均を下回る水準となっています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、企業理念(NORTHSTAR)として「an invitation to the never before.」というパーパスを掲げています。これは、多様な視点を持つ人々とつながりながら、かつてないアイデアやソリューションを生み出すことを意味します。顧客企業と共に社会課題を解決し、社会全体の持続的成長を実現する「B2B2S」企業として、あらゆるステークホルダーの企業価値最大化を目指しています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「人起点の変革」の最前線に立ち、社会にポジティブな動力を生み出すことをビジョンとしています。この実現のため、「The 8 Ways」という8つの価値観を定め、全従業員が遵守すべき行動基準として「電通グループ行動憲章」を策定しています。インテグリティを最優先し、多様なプロフェッショナルの掛け算によって新たな価値を生み出し続ける組織文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2025年2月に発表した中期経営計画において、海外事業の業績回復を最重要課題と位置付けています。不振ビジネスの見直しや経営基盤の再構築、事業戦略のフォーカスを推進し、2026年度の赤字マーケットゼロを目標としています。
* 2025年度に年間約140億円のコスト削減を実現
* 2027年に年間500億円規模のコスト削減を実現
■(4) 成長戦略と重点施策
成長戦略として、スケールとユニークな事業アセットがある日本と米国市場への注力を進めています。マーケティング、テクノロジー、コンサルティングが融合する領域のケイパビリティを統合し、顧客の持続的な成長を実現する「Integrated Growth Solutions(IGS)」の提供を強化します。また、スポーツ&エンターテインメント事業のグローバル展開も本格的に開始しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループは、「人は誰でも貢献したい、成長したいという気持ちを持っている」という信念のもと、人的資本の可能性に投資する経営を進めています。人事ミッションとして「1つのチームになり、仲間の力を引き出す」を掲げ、従業員一人ひとりの成長を促す環境づくりに注力しています。具体的には、リーダーシップ要件を定義した人材育成や、多様な能力のコラボレーションを高める組織文化の醸成を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 45.0歳 | 14.3年 | 15,959,402円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 21.7% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 79.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 79.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | -% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性リーダー比率(25.4%)、グループ・エグゼクティブ・マネジメントの後継者準備率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業変革の遅れに関するリスク
同社は「One dentsu オペレーティング・モデル」を導入し、意思決定の迅速化や組織構造の簡素化を進めています。しかし、この事業変革が想定通りに進まない場合や、事業環境の急速な変化に構造改革が追いつかない場合、内部統制の脆弱化や管理体制の不備が顕在化し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 人的資本の獲得・リテンションに関するリスク
多様で優秀な人材こそが持続的な企業価値向上の源泉であるため、競争環境の激化により必要な人材を十分に獲得・維持できない場合、顧客への高度なサービス提供が困難になるリスクがあります。同社は独自のリーダーシップ要件を定め、グローバルでの人材投資や育成プログラムの提供に注力しています。
■(3) 情報セキュリティおよび個人情報管理のリスク
事業の性質上、顧客の未公開情報やエンドユーザーの個人情報を多数取り扱っています。サイバー攻撃や予期せぬ事故等により情報漏洩が発生した場合、社会的な信用やブランドイメージが著しく損なわれるリスクがあります。同社は情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格を取得し、厳重な管理体制を敷いています。
■(4) ブランディングとレピュテーション低下のリスク
ネガティブなメディア報道や広報上の失敗、あるいはコンプライアンス違反などが発生し、その影響が継続することで企業ブランドが毀損するリスクがあります。これにより、顧客からの信頼喪失や収益減少、従業員のモチベーション低下や採用難など、多岐にわたる悪影響が生じる可能性があります。



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