※本記事は、阪急阪神ホールディングス株式会社の有価証券報告書(第188期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 阪急阪神ホールディングスってどんな会社?
都市交通からエンタテインメントまで、幅広い事業を通じて良質なまちづくりを推進しています。
■(1) 会社概要
同社は1907年に箕面有馬電気軌道として設立されました。1943年に京阪神急行電鉄、1973年に阪急電鉄へ商号を変更し、2005年には純粋持株会社体制へ移行して阪急ホールディングスとなりました。翌2006年に阪神電気鉄道と経営統合し、現在の阪急阪神ホールディングスへと商号を変更しています。
現在の従業員数は連結で23,867人、単体で241人です。筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務等を行う信託銀行です。第3位株主のエイチ・ツー・オー リテイリングは、同社グループの持分法適用関連会社であり、百貨店事業を展開する事業会社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.26% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.91% |
| エイチ・ツー・オー リテイリング | 1.76% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長グループCEOは嶋田泰夫、代表取締役副社長は久須勇介が務めています。社外取締役比率は46.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 嶋田泰夫 | 代表取締役社長グループCEO | 1988年阪急電鉄入社。同社常務取締役などを経て、2022年同社代表取締役社長に就任。2024年12月より現職。 |
| 久須勇介 | 代表取締役副社長 | 1984年阪神電気鉄道入社。阪急阪神不動産代表取締役副社長などを経て、2023年4月より阪神電気鉄道代表取締役社長。同年6月より現職。 |
| 上田靖 | 取締役 | 1988年阪急電鉄入社。同社常務取締役を経て、2025年6月より阪急阪神ホールディングス取締役。2026年4月より阪急電鉄上席常務取締役に就任し現職。 |
| 荒木直也 | 取締役 | 1981年阪急百貨店入社。阪急阪神百貨店代表取締役社長等を経て、2020年4月よりエイチ・ツー・オーリテイリング代表取締役社長。2017年6月より現職。 |
| 福井康樹 | 取締役 | 1988年阪急電鉄入社。阪急阪神不動産専務取締役等を経て、2025年4月より同社代表取締役社長執行役員。同年6月より現職。 |
| 島谷能成 | 取締役 | 1975年東宝入社。同社代表取締役社長などを経て、2026年5月より同社相談役。2015年6月より現職。 |
| 橋本一範 | 取締役監査等委員(常勤) | 1983年阪神電気鉄道入社。同社常任監査役を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、遠藤典子(早稲田大学研究院教授)、鶴由貴(弁護士)、小林充佳(NTT西日本相談役)、宮原幸一郎(宝塚歌劇団取締役)、小見山道有(弁護士)、髙橋裕子(京都大学大学院特任教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「都市交通」「不動産」「エンタテインメント」「情報・通信」「旅行」「国際輸送」の各報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
都市交通事業
同事業は、鉄道やバス、タクシー等による旅客輸送サービスと、駅ナカ店舗等での商品販売を提供しています。利用顧客は沿線住民や観光客などが中心です。
収益は、顧客に対する運賃や乗車券の販売収入、商品販売等から得ています。運営は主に阪急電鉄、阪神電気鉄道、阪急バスなどの各事業会社が行っています。
不動産事業
同事業は、オフィスビルや商業施設の賃貸、マンションや戸建住宅の分譲、およびホテルでの宿泊・宴会・レストランサービスの提供を行っています。
収益は、テナントからの賃料収入、顧客からの不動産売買代金、ホテル利用客からの宿泊料金などから得ています。運営は阪急電鉄、阪神電気鉄道、阪急阪神不動産、阪急阪神ホテルズなどが担っています。
エンタテインメント事業
同事業は、プロ野球興行や宝塚歌劇などのステージ公演を展開しています。スポーツファンや観劇客などを対象に、魅力的なコンテンツや施設運営を提供しています。
収益は、試合や公演のチケット販売収入、広告主からの看板広告料、飲食物やグッズの販売等から得ています。運営は主に阪神電気鉄道、阪神タイガース、阪急電鉄などが担当しています。
情報・通信事業
同事業は、インターネット関連のシステム開発・保守、ケーブルテレビや固定電話等の放送・通信サービス、学校向けのセキュリティ・教育サービスなどを提供しています。
収益は、顧客との契約に基づくソフトウェア開発の対価や、各種システムの運用・保守サービス料、通信サービスの利用料から得ています。運営は主にアイテック阪急阪神、ベイ・コミュニケーションズ等が行っています。
旅行事業
同事業は、国内外を対象とした募集型企画旅行の実施や、訪日旅行向けツアーの企画・販売、自治体向けのソリューション提供などを行っています。
収益は、旅行に参加する顧客からの旅行代金や、自治体等からの業務受託に伴う手数料から得ています。同事業の運営は主に阪急交通社が担当しています。
国際輸送事業
同事業は、航空貨物や海上貨物を対象とした国際物流における利用運送サービス、および海外拠点でのロジスティクスサービスなどを提供しています。
収益は、顧客からの輸出入に伴う運送料金や物流業務の手数料などから得ています。運営は主に阪急阪神エクスプレスおよびその海外現地法人が行っています。
その他事業
報告セグメントに含まれないその他の事業として、土木・建築等の建設工事の請負や、広告代理・制作、グループ内の人事・経理代行などの各種サービスを展開しています。
収益は、顧客に対する建設工事の完成引渡しに伴う請負代金や、グループ内外からの業務委託手数料等から得ています。運営はハンシン建設、阪急阪神マーケティングソリューションズなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高および各段階利益は継続的に拡大傾向にあります。特に直近年度にかけては、マンション分譲収入の伸長やスポーツ事業の好調などを背景に、力強い増収増益基調が続いています。利益率も改善傾向を示しており、収益力の向上が確認できます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7462億円 | 9683億円 | 9976億円 | 11069億円 | 12035億円 |
| 経常利益 | 385億円 | 884億円 | 1094億円 | 1112億円 | 1245億円 |
| 利益率(%) | 5.2% | 9.1% | 11.0% | 10.0% | 10.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 214億円 | 470億円 | 678億円 | 674億円 | 785億円 |
■(2) 損益計算書
営業収益と営業利益はともに前年度を上回って着地しており、本業における確かな成長がうかがえます。各種需要の回復や新規プロジェクトの推進により、収益規模が順調に拡大しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 11069億円 | 12035億円 |
| 営業利益 | 1109億円 | 1271億円 |
| 営業利益率(%) | 10.0% | 10.6% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が171億円(構成比43%)、経費が159億円(同40%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの営業収益は、多くの領域で前年度を上回る推移を見せています。特に不動産事業のマンション分譲収入の大幅な伸長や、旅行事業における需要の高まり、エンタテインメント事業でのイベント等の集客増が全体の収益拡大を牽引しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 都市交通事業 | 1998億円 | 2090億円 |
| 不動産事業 | 3578億円 | 3962億円 |
| エンタテインメント事業 | 807億円 | 887億円 |
| 情報・通信事業 | 542億円 | 558億円 |
| 旅行事業 | 2610億円 | 2958億円 |
| 国際輸送事業 | 1046億円 | 1064億円 |
| その他 | 481億円 | 510億円 |
| 調整額 | 7億円 | 6億円 |
| 連結(合計) | 11069億円 | 12035億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 874億円 | 517億円 |
| 投資CF | -1676億円 | -1631億円 |
| 財務CF | 795億円 | 1227億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「『安心・快適』、そして『夢・感動』をお届けすることで、お客様の喜びを実現し、社会に貢献します」という使命を掲げています。すべてはお客様のためにという「お客様原点」を原点とし、良質なまちづくりとサービスを通じて持続的な価値創造の好循環を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、誠実であり続けることで信頼を築く姿勢や、時代を先取りする「先見性・創造性」を重視しています。目先のことのみにとらわれず中長期的な視点で考え、現状に満足することなく新たな価値の創造に挑戦し続ける行動規範を定めており、従業員一人ひとりの個性と能力を尊重する文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2040年頃の未来のありたい姿の実現に向けて長期経営構想を策定し、中長期的な成長と資本効率の向上を両立させる目標を掲げています。また、持続可能な社会に向けたKPIとして、2035年度までに温室効果ガス排出量を2019年度比で60%削減する目標などを設定しています。
* 早期のROE8%の持続的達成
* 2035年度の温室効果ガス排出量60%削減(2019年度比)
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長戦略として、「圧倒的No.1の沿線の実現」「コンテンツの魅力の最大化と新コンテンツの開拓」「首都圏・海外などエリアを超えた展開」「ビジネスソリューションへの注力」の4つの方向性を定めています。沿線の深掘りと新規フィールドへの挑戦を通じて、グループ全体での成長と資本効率の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社の人材戦略は、多様かつ有能な人材を確保し、成長が見込まれる有望領域へ積極的に投入することでグループ全体の成長を図ることを方針としています。また、人的資本への投資を継続し、働きがいの向上や労働環境の整備、健康経営およびダイバーシティ&インクルージョンの推進を通じて、一人ひとりが活躍できる企業風土を醸成します。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.4歳 | 17.5年 | 9,198,043円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.6% |
| 男性育児休業取得率 | 109.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 72.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 117.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性新規採用者比率の継続目標(30%以上)、人権研修受講率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
(1) 自然災害等
同社グループは多岐にわたる事業を展開しており、地震や台風、集中豪雨といった自然災害が発生した場合、営業施設への被害や事業活動の制限が生じる可能性があります。既存設備の維持更新や耐震補強を進めるとともに、鉄道等の公共輸送における安全性を最優先としたハード・ソフト両面での対策を講じています。
(2) サイバーセキュリティ・情報管理
高度化するサイバー攻撃や社内外の不正等により、情報システムが重大な影響を受けた場合や個人情報の漏洩が生じた場合、事業運営に支障を来し、社会的信用の失墜につながる可能性があります。同社グループは「グループCSIRT」を整備し、セキュリティレベルの継続的な強化と迅速な対応体制を構築しています。
(3) 法令・コンプライアンスリスク
各事業における法令や業法による規制の変更、またはそれに反する事態が発生した場合、損害賠償や社会的信用の低下が生じ、業績に影響を及ぼす可能性があります。コンプライアンス重視の経営姿勢を徹底し、内部通報制度の運用や役職員への教育啓発を通じて、リスクの未然防止やガバナンス機能の強化に努めています。



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