※本記事は、ヤマトホールディングス株式会社の有価証券報告書(第161期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ヤマトホールディングスってどんな会社?
宅急便をはじめとする小口貨物の輸配送サービスや、法人向けの高度なロジスティクス支援を展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1919年に創立され、1976年に小口貨物の宅配システムである宅急便のサービスを開始しました。1981年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、2005年には純粋持株会社体制へ移行して現在の社名に変更しています。直近では2024年にナカノ商会を連結子会社化し、法人向け物流支援を強化しています。
現在の従業員数は連結で174,696名、単体で18名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位はヤマトグループ社員持株会、第3位も資産管理業務を行う日本カストディ銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.18% |
| ヤマトグループ社員持株会 | 9.73% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.84% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役会長の長尾裕氏らが経営を牽引しています。社外取締役比率は41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 長尾裕 | 代表取締役会長 | 1988年同社入社。ヤマト運輸代表取締役社長等を経て、2026年4月より現職。 |
| 栗栖利蔵 | 代表取締役 | 1983年同社入社。ヤマト運輸代表取締役社長等を経て、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、菅田史朗(元ウシオ電機代表取締役社長)、久我宣之(元東京エレクトロンデバイス代表取締役副社長)、チャールズ・イン(ワールドワイド・シティグループエグゼクティブチェアマン)、池田潤一郎(商船三井取締役会長)、木原民(リコーITソリューションズ取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「エクスプレス事業」「コントラクト・ロジスティクス事業」「グローバル事業」「モビリティ事業」および「その他」事業を展開しています。
■エクスプレス事業
個人および法人顧客向けに、宅急便を中心とした国内輸配送サービスを提供しています。小口貨物の集荷・配送のほか、専用資材による投函サービスや当日配送など多様な顧客ニーズに応じた配送商品の開発・提供を行っています。
収益源は、個人および法人顧客からの運送料金や関連サービス手数料です。運営は主にヤマト運輸などが担っています。
■コントラクト・ロジスティクス事業
法人顧客に対して、輸配送ネットワークと倉庫オペレーション等の高付加価値機能を組み合わせたサプライチェーン最適化のソリューションを提供しています。統合型ビジネスソリューション拠点などの活用を進めています。
収益源は、法人顧客からの3PL事業に係る物流受託料や不動産賃貸料などです。運営は主にヤマト運輸やナカノ商会などが行っています。
■グローバル事業
日本国内と海外事業会社が連携し、国際フォワーディングや国際エクスプレス、海外現地でのロジスティクス等を組み合わせたグローバルサプライチェーンソリューションを提供しています。
収益源は、法人顧客からの国際輸送の運送料金や輸出入通関手数料などです。運営はヤマト運輸や各国の現地法人などが担当しています。
■モビリティ事業
運送事業者向けに車両の点検・整備サービスを提供するほか、EV導入支援や再生可能エネルギー由来電力の供給を含むエネルギー関連サービスを展開しています。
収益源は、顧客からの車両整備料金や燃料販売・エネルギー提供に係る料金です。運営はヤマトオートワークスやヤマトエナジーマネジメントが行っています。
■その他
ITシステムの開発および運用管理、コールセンター運営、金融サービスなど、グループの価値提供を支える各種機能を提供しています。
収益源は、システム利用料やコールセンター委託料、金融サービス手数料などです。運営はヤマトシステム開発やヤマトコンタクトサービスなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、売上高は1兆7,000億円から1兆8,000億円台で堅調に推移しています。利益率は緩やかな低下傾向にありましたが、直近の期ではコストコントロールやプライシングの適正化等により、利益率が改善し増益に転じています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 17936億円 | 18007億円 | 17586億円 | 17627億円 | 18657億円 |
| 経常利益 | 843億円 | 581億円 | 405億円 | 196億円 | 263億円 |
| 利益率(%) | 4.7% | 3.2% | 2.3% | 1.1% | 1.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 472億円 | 523億円 | 323億円 | 528億円 | 68億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で増収となっており、営業利益も大幅な増益を達成しています。利益率の面でも、売上総利益率と営業利益率の双方が前期から改善し、収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 17627億円 | 18657億円 |
| 売上総利益 | 700億円 | 887億円 |
| 売上総利益率(%) | 4.0% | 4.8% |
| 営業利益 | 142億円 | 283億円 |
| 営業利益率(%) | 0.8% | 1.5% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が289億円(構成比48%)、租税公課が107億円(同18%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の宅配等を含むエクスプレス事業が増収を牽引しているほか、法人ビジネスの拡大や子会社化の効果などによりコントラクト・ロジスティクス事業も大幅に成長しています。グローバル事業やモビリティ事業も前年を上回る売上を記録しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| エクスプレス事業 | 15347億円 | 15580億円 |
| コントラクト・ロジスティクス事業 | 971億円 | 1646億円 |
| グローバル事業 | 860億円 | 976億円 |
| モビリティ事業 | 205億円 | 220億円 |
| その他 | 245億円 | 235億円 |
| 連結(合計) | 17627億円 | 18657億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 477億円 | 722億円 |
| 投資CF | -444億円 | -73億円 |
| 財務CF | 9億円 | -371億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は44.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献することを経営理念に掲げています。社会の課題に正面から向き合い、生活利便性の向上に役立つ「新たな物流のエコシステム」を創出することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」を目指し、経済価値だけでなく、持続可能な社会に向けた「環境価値」と「社会価値」を同時に創造する姿勢を重視しています。また、人命の尊重を最優先とし、社員やパートナーの安全・健康に対する取り組みを強化するとともに、多様な社員が活躍できる職場環境の整備を進めています。
■(3) 経営計画・目標
2027年3月期を最終年度とする中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」を推進しており、最終年度の連結業績見通しとして以下を掲げています。
・連結営業収益:1兆9,200億円
・連結営業利益:420億円
・ROE:4.2%
・ROIC:3.7%
■(4) 成長戦略と重点施策
宅急便ネットワークの強靭化と事業ポートフォリオの変革に注力しています。基盤領域では付加価値に応じたプライシング適正化やネットワークの最適化を進め、成長領域では統合型ビジネスソリューション拠点の展開による法人向けビジネスを拡大します。さらに、環境・社会課題を解決する新規領域の育成にも取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「ヤマトグループ 人材マネジメント方針」に基づき、経営戦略と連動した人事戦略を推進しています。適正な組織編成と適所適材の配置を進めるとともに、付加価値を創出する人材の育成・確保に注力しています。また、社員が働きがいを持ちつつ活躍できるよう、労働環境の整備や多様化するライフプランに適合する制度の構築を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 36.4歳 | 10.3年 | 12,483,061円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.4% |
| 男性育児休業取得率 | 46.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 58.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 98.0% |
また、同社はサステナビリティに関する考え方及び取組等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(3.1%)、全社員対象の人権ハラスメント教育受講率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場・競争環境の変化によるリスク
EC化の進展や労働力人口の減少、サプライチェーンのブロック化などにより競争環境が変化しています。多様化する生活者や法人顧客の物流ニーズ、サステナビリティ課題に適切に対応できない場合、成長機会を逸失し業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 労働力人口の減少によるリスク
労働集約型の事業が多く、適正な要員配置と質の高い人材確保が不可欠です。国内の労働需給の逼迫により、輸配送パートナーを含めた人材確保が困難になることや、獲得競争によるコストの大幅な増加が生じた場合、事業運営や業績に影響を与えるリスクがあります。
■(3) 地域の過疎化によるリスク
過疎化や高齢化が進む地域において、配送効率の低下や集配を担う人材不足が顕在化しています。地域社会のインフラ衰退や収益性の低下により、全国を網羅する物流ネットワークの維持が中長期的に困難になった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。



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