※本記事は、株式会社ヤマトホールディングス の有価証券報告書(第160期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月13日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ヤマトホールディングスってどんな会社?
同社は「宅急便」などの物流サービスを中核に、法人向けロジスティクスや海外事業を展開する純粋持株会社です。
■(1) 会社概要
1919年に創業し、1929年に日本初の路線便を開始しました。1976年に「宅急便」サービスを開始し、宅配市場を切り拓きました。2005年に純粋持株会社へ移行し、現商号に変更しています。2013年には総合物流ターミナル「羽田クロノゲート」を竣工しました。近年では2024年にナカノ商会を連結子会社化するなど、法人事業の強化を進めています。
2025年3月31日現在の連結従業員数は172,822人(単体15人)です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は同社グループの従業員で構成されるヤマトグループ社員持株会、第3位は資産管理業務を行う日本カストディ銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 16.57% |
| ヤマトグループ社員持株会 | 9.22% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 7.34% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長 社長執行役員は長尾裕氏が務めています。社外取締役比率は41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 長尾 裕 | 代表取締役取締役社長社長執行役員 | 1988年同社入社。ヤマト運輸埼玉主管支店長、執行役員関東支社長、常務執行役員、代表取締役社長などを経て、2019年4月より現職。 |
| 栗栖 利蔵 | 代表取締役取締役会長 | 1983年同社入社。財務部長、執行役員、ヤマトフィナンシャル代表取締役社長、ヤマト運輸代表取締役社長などを歴任。2025年4月より現職。 |
社外取締役は、得能摩利子(元フェラガモ・ジャパン社長)、菅田史朗(元ウシオ電機社長)、久我宣之(元東京エレクトロン会長)、チャールズ・イン(ワールドワイド・シティグループ会長)、池田潤一郎(商船三井会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「エクスプレス事業」「コントラクト・ロジスティクス事業」「グローバル事業」「モビリティ事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) エクスプレス事業
個人および法人顧客に対し、「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」を中心とした国内輸配送サービスを提供しています。また、投函サービスや貨物自動車運送事業、ロールボックスパレット貸切輸送なども行っています。
収益は、顧客からの運賃や手数料などから得ています。運営は主にヤマト運輸が行っており、沖縄ヤマト運輸、ヤマトボックスチャーターなどのグループ会社も事業を担っています。
■(2) コントラクト・ロジスティクス事業
法人顧客の経営課題解決や事業成長を支援するため、商品の保管、在庫管理、流通加工、輸配送などを一括して請け負う3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)サービスや不動産事業を提供しています。
収益は、法人顧客からの業務受託料や賃貸料などから得ています。運営は主にヤマト運輸が行っており、2024年に子会社化したナカノ商会なども事業を展開しています。
■(3) グローバル事業
国際フォワーディング(航空・海上輸送の手配)、国際エクスプレス、海外現地でのロジスティクスなどを組み合わせ、法人顧客のグローバルサプライチェーン全体を最適化するソリューションを提供しています。
収益は、法人顧客からの輸配送運賃や通関手数料、ロジスティクス業務受託料などから得ています。運営はヤマト運輸のほか、YAMATO TRANSPORT U.S.A., INC.などの海外現地法人が担っています。
■(4) モビリティ事業
運送事業者向けに、車両の車検・点検・整備を行う車両整備サービスを提供しています。また、EV導入支援や再生可能エネルギー由来電力の提供なども行っています。
収益は、運送事業者からの整備料、燃料販売代金、保険代理店手数料などから得ています。運営は主にヤマトオートワークスやヤマトエナジーマネジメントが行っています。
■(5) その他
グループのITシステム開発・運用、コールセンター業務、決済・金融サービスなどを提供し、顧客のサプライチェーンを支援しています。
収益は、システム開発・運用受託料、業務受託料、決済手数料などから得ています。運営はヤマトシステム開発、ヤマトコンタクトサービス、ヤマトクレジットファイナンスなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの推移を見ると、売上高は1兆7,000億円台後半から1兆8,000億円前後で推移しています。一方、利益面では経常利益が2021年3月期の940億円をピークに減少傾向にあり、2025年3月期は196億円となりました。当期純利益は300億円台から500億円台の間で変動しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 16,959億円 | 17,936億円 | 18,007億円 | 17,586億円 | 17,627億円 |
| 経常利益 | 940億円 | 843億円 | 581億円 | 405億円 | 196億円 |
| 利益率(%) | 5.5% | 4.7% | 3.2% | 2.3% | 1.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 567億円 | 560億円 | 459億円 | 376億円 | 379億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は微増しましたが、売上原価の増加により売上総利益は減少しました。営業利益は前期の401億円から142億円へと大きく減少しています。これは、外部環境の変化によるコスト上昇などが影響しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 17,586億円 | 17,627億円 |
| 売上総利益 | 943億円 | 700億円 |
| 売上総利益率(%) | 5.4% | 4.0% |
| 営業利益 | 401億円 | 142億円 |
| 営業利益率(%) | 2.3% | 0.8% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が265億円(構成比47.4%)、租税公課が108億円(同19.3%)を占めています。売上原価においては、人件費や委託費などが主な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの状況を見ると、主力のエクスプレス事業は減収減益(営業損失)となりました。一方、コントラクト・ロジスティクス事業やグローバル事業は増収となりましたが、利益面ではコントラクト・ロジスティクス事業が減益となっています。グローバル事業は増益を確保しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| エクスプレス事業 | 15,486億円 | 15,347億円 | 114億円 | -129億円 | -0.8% |
| コントラクト・ロジスティクス事業 | 891億円 | 971億円 | 97億円 | 56億円 | 5.8% |
| グローバル事業 | 741億円 | 860億円 | 67億円 | 90億円 | 10.5% |
| モビリティ事業 | 202億円 | 205億円 | 41億円 | 38億円 | 18.4% |
| その他 | 267億円 | 245億円 | 81億円 | 82億円 | 33.5% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | 1億円 | 5億円 | - |
| 連結(合計) | 17,586億円 | 17,627億円 | 401億円 | 142億円 | 0.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のCF状況は「再建・転換型」です。営業CFはプラスを維持していますが、投資CFはマイナスで、財務CFはプラスとなっています。営業活動で得た資金に加え、資金調達を行って投資に充てている状況が見て取れます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 643億円 | 477億円 |
| 投資CF | -224億円 | -444億円 |
| 財務CF | -308億円 | 94億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化」「より便利で快適な生活関連サービスの創造」「革新的な物流システムの開発」を通じて、豊かな社会の実現に貢献することを経営理念として掲げています。社会の一員として課題に向き合い、新たな物流のエコシステムを創出することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「全員経営」の精神のもと、法と社会的規範に則った事業活動を展開し、コンプライアンス経営を推進しています。「安全第一、営業第二」や「サービスが先、利益は後」といった創業以来の精神を継承しつつ、社員一人ひとりが顧客の立場に立って考え行動する企業風土を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
2030年に目指す姿を「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」と定め、2027年3月期を最終年度とする中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」を推進しています。最終年度の数値目標は以下の通りです。
* 連結営業収益:2兆~2兆4,000億円
* 連結営業利益:1,200~1,600億円
* 連結営業利益率:6%以上
* ROE:12%以上
* ROIC:8%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画では、「宅急便ネットワークの強靭化」と「事業ポートフォリオの変革」を重点施策として掲げています。基盤領域である宅急便では、付加価値に応じたプライシング適正化やネットワーク構造改革を進め、収益性を改善します。成長領域である法人ビジネスでは、顧客のサプライチェーン全体を支援するソリューションの提供や、グローバル展開を加速させます。
* 新たなビジネスモデルの創出(EVライフサイクルサービス等)
* デジタル基盤の強化とデータドリブン経営の推進
* 環境・社会課題解決型ビジネスの展開
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、経営理念の実現に向け、「ヤマトグループ 人材マネジメント方針」に基づき、経営戦略と連動した人事戦略を推進しています。事業構造改革に伴う組織・要員の適正化や、職務を起点とした人材マネジメント体系の整備を進めています。また、多様な人材が活躍できる環境整備や、社員の自律的なキャリア形成支援、働きがいの向上に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 50.8歳 | 24.7年 | 12,262,553円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
※上記データは持株会社単体(従業員数15名)のものであり、主要事業会社(ヤマト運輸等)の水準とは異なります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.0% |
| 男性育児休業取得率 | 33.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 57.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 96.1% |
※上記は連結子会社であるヤマト運輸株式会社のデータです。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(3.3%)、全社員対象の人権ハラスメント教育受講率(90%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場・競争環境の変化によるリスク
EC化の進展や物流事業者間の競争激化、人口減少による市場の変化などがリスク要因です。顧客ニーズの変化に対応できない場合、収益減少の可能性があります。同社は、宅急便ネットワークの強靭化や法人ビジネス領域の拡大、新たなビジネスモデルの創出を通じて、競争力の強化と収益構造の変革に取り組んでいます。
■(2) 労働力人口の減少によるリスク
労働集約型の事業であるため、労働力不足や人材獲得競争の激化によるコスト増が懸念されます。同社は、人事・評価制度の見直しや働きがいのある職場環境の整備を進めるとともに、デジタル技術を活用した業務効率化や省人化、パートナーとの連携強化により、安定的な労働力の確保と生産性向上を図っています。
■(3) テクノロジーの進化に係るリスク
AIや自動運転などの技術革新への対応遅れや導入失敗は、競争力低下を招く可能性があります。同社はデジタル戦略を経営基盤の一つと位置づけ、データドリブン経営やDXを推進しています。また、CVCなどを通じたオープンイノベーションにより、新たな技術やビジネスモデルの取り込みを図っています。



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