※本記事は、乾汽船株式会社 の有価証券報告書(第105期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 乾汽船ってどんな会社?
外航海運、倉庫・運送、不動産事業を柱に、独自の資産ポートフォリオで事業を展開する物流・不動産企業です。
■(1) 会社概要
1925年に関東土地として設立され、1929年に倉庫業を開始しました。1952年には旧乾汽船が東京証券取引所に上場しています。2014年、当時のイヌイ倉庫と旧乾汽船が経営統合し、現在の商号へ変更しました。創業以来、海運と倉庫・不動産という異なる特性を持つ事業を組み合わせ、独自の経営基盤を築いています。
2025年3月31日現在、グループ全体の従業員数は181名、単体では80名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)です。第2位は東京海上日動火災保険、第3位は松岡冷蔵で、これら事業会社等が大株主として名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.23% |
| 東京海上日動火災保険 | 4.08% |
| 松岡冷蔵 | 3.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は乾康之氏が務めています。取締役5名のうち3名が社外取締役であり、社外取締役比率は60.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 乾 康之 | 代表取締役社長 | 2004年同社入社。常務取締役不動産本部長等を経て2008年代表取締役社長に就任。2016年より現職。 |
| 乾 隆志 | 取締役専務執行役員倉庫・運送事業セグメント担当 | 2007年旧乾汽船入社。旧乾汽船社長を経て2014年同社取締役専務執行役員。イヌイ運送社長も兼務し、2023年より現職。 |
社外取締役は、神林伸光(元川崎造船社長)、村上章二(元郵船ロジスティクス社長)、岩田研一(元三菱地所専務執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「外航海運事業」「倉庫・運送事業」「不動産事業」を展開しています。
■(1) 外航海運事業
ハンディサイズバルカー(小型ばら積み船)を中心とした船隊により、穀物、石炭、木材などの貨物輸送を行っています。世界中の航路で海上輸送サービスを提供しており、中東、北米、アジア、オセアニアなど幅広い地域で事業を展開しています。
主な収益源は、自社運航船による貨物輸送の対価としての運賃収入と、他社へ船舶を貸し出すことによる貸船料収入です。運営は同社および連結子会社のDELICA SHIPPING S.A.などが行っています。
■(2) 倉庫・運送事業
顧客の物品を倉庫で保管する倉庫保管事業、文書箱や什器等を保管する文書保管事業、および寄託貨物の運送や引越し業務を行う貨物運送事業を手掛けています。普通倉庫に加え、保税蔵置場の許可も受け、輸出入貨物の取り扱いも行っています。
収益は、顧客からの保管料、荷役料、および運送サービスの対価としての運送賃です。運営は同社のほか、庫内作業や運送業務を担うイヌイ倉庫オペレーションズ、イヌイ運送が行っています。
■(3) 不動産事業
東京都中央区の勝どき・月島エリアを中心に、同社が所有する住宅(賃貸マンション)および事務所(オフィスビル)等の賃貸を行っています。都心へのアクセスが良い立地特性を活かし、底堅い需要に対応しています。
収益源は、テナントや居住者からの賃貸料収入です。運営は主に同社が行っており、保有資産の有効活用により、安定的な収益と財務基盤を支える役割を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は海運市況の影響を受け変動しており、2023年3月期には443億円に達しましたが、その後は300億円前後で推移しています。利益面では、2021年3月期は赤字でしたが、翌期以降は黒字化し、特に2022年3月期と2023年3月期は高い利益率を記録しました。当期は前期比で回復基調にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 189億円 | 376億円 | 443億円 | 295億円 | 318億円 |
| 経常利益 | -13億円 | 136億円 | 134億円 | 19億円 | 38億円 |
| 利益率(%) | -7.0% | 36.0% | 30.3% | 6.5% | 12.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -13億円 | 117億円 | 97億円 | 9億円 | 49億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は増加し、売上総利益率は10.9%から16.2%へ改善しました。営業利益も大幅に増加し、営業利益率は5.7%から11.5%へと向上しています。売上原価率の低下と増収効果により、収益性が高まっていることが分かります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 295億円 | 318億円 |
| 売上総利益 | 32億円 | 51億円 |
| 売上総利益率(%) | 10.9% | 16.2% |
| 営業利益 | 17億円 | 37億円 |
| 営業利益率(%) | 5.7% | 11.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が4億円(構成比24%)、役員報酬が2億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
外航海運事業は、海運市況の変動や為替の影響を受けつつも、増収増益となりました。不動産事業は、一部物件の再開発計画に伴う稼働率低下により減収減益となりました。倉庫・運送事業は、引越し需要の減少があったものの倉庫取扱高の増加により増益を確保しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 外航海運事業 | 211億円 | 236億円 | 1億円 | 21億円 | 9.1% |
| 倉庫・運送事業 | 39億円 | 39億円 | 2億円 | 3億円 | 8.9% |
| 不動産事業 | 45億円 | 43億円 | 24億円 | 21億円 | 48.5% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | -10億円 | -9億円 | - |
| 連結(合計) | 295億円 | 318億円 | 17億円 | 37億円 | 11.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローの状況は、営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスであることから、営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う「積極型」といえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 5億円 | 80億円 |
| 投資CF | -44億円 | -44億円 |
| 財務CF | -36億円 | 12億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.2%で市場平均をやや上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、長期ビジョンとして「よくはこぶ」を掲げています。外航海運、倉庫・運送、不動産の3つの事業を通じて社会に貢献し、持続可能な実業に向かって提案と実践を重ねることを存在理由としています。また、中長期的に変わらない想いを大切にしつつ、変化に対応する「不易流行」を経営の根幹としています。
■(2) 企業文化
同社は「資産の力を事業の力に」「FUN to WORK」「『らしさ』の追求」の3つを経営の基本方針としています。保有資産を活用して事業基盤を強化し、社員一人ひとりの人間力ややりがいを大切にする風土があります。また、他社との違いを恐れず独自性を追求することを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2023年4月に策定した中期経営計画「不易流行」(2023年4月~2026年3月)に基づき経営を行っています。事業環境の変化に対応しながら、安定的な収益基盤の構築と成長を目指しています。具体的な数値目標として、以下を掲げています。
* ROE(自己資本利益率):15%
■(4) 成長戦略と重点施策
外航海運事業では、環境規制や船価動向を見極めながらフレキシブルに船隊を整備し、効率的な運航体制を強化します。倉庫・運送事業では、現場力の向上やデジタル化の推進に加え、配送マッチングなどの新たな取り組みを進め、2027年度を目処に新業域を開拓します。不動産事業では、勝どきエリアの再開発計画「Neo Plaza Kachidoki」を推進し、地域の進化に合わせた事業展開を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、社員一人ひとりの成長が会社の持続的成長につながると考え、教育研修体系の拡充や効果的な人員配置により、年齢や性別に関わらず活躍できる組織づくりを目指しています。また、「FUN to WORK」を掲げ、健康保持・増進支援や快適な職場環境の整備に注力し、長く安心して働ける環境を提供することに努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.7歳 | 14.8年 | 9,017,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.0% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | -% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | -% |
※労働者の男女の賃金の差異については雇用する全ての労働者に係る実績のみを記載し、雇用管理区分ごとの実績の記載を省略しております。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 船舶の安全運航・環境問題
海難事故や油濁事故が発生した場合、船舶の破損による損害だけでなく、人的被害や環境汚染を引き起こす可能性があります。これらは同社の事業や業績に多大な悪影響を及ぼすリスクがあります。同社は国際条約に基づく安全管理体制を構築し、リスク低減に努めています。
■(2) 事業環境変動のリスク
外航海運事業は世界経済や地政学的要因、倉庫・運送事業は景気動向や顧客の物流コスト抑制、不動産事業は賃貸市場の需給バランス等の影響を受けます。特にハンディ船の船腹供給や、ペーパーレス化による倉庫取扱量の減少などが懸念されます。同社は船隊整備や事業構成の最適化により対応しています。
■(3) 資産価格変動のリスク
船舶や不動産などの保有資産の時価や収益性が著しく下落した場合、減損損失や評価損が発生する可能性があります。特にプラザ勝どきの再開発に伴う営業終了により、当期において減損損失を計上しています。資産価値の下落は資金調達にも影響を及ぼす可能性があります。



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