乾汽船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

乾汽船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

乾汽船は、東京証券取引所スタンダード市場に上場する企業です。外航海運事業を主軸とし、ハンディ船による貨物輸送を行うほか、倉庫・運送事業や勝どきエリアを中心とした不動産事業など複数の事業を展開しています。直近の業績は、売上高が336億円と増収となった一方、経常利益は20億円の減益となっています。


※本記事は、乾汽船株式会社の有価証券報告書(第106期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 乾汽船ってどんな会社?


乾汽船は、外航海運事業を中心に倉庫・運送、不動産の3つの事業を展開する企業です。

(1) 会社概要


同社は1925年に関東土地として創立され、不動産賃貸を主体に営業を開始しました。1929年に営業倉庫業を開始し、1961年に東京証券取引所市場第二部に上場しました。その後、2014年に旧乾汽船と経営統合を行い、現在の乾汽船へ商号変更するとともに、東京証券取引所市場第一部に指定されました。

同社グループの従業員数は連結で188名、単体で82名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位はUS BANK NATIONAL ASSOCIATION JP ACCTS TS、第3位は事業会社である松岡冷蔵となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.61%
US BANK NATIONAL ASSOCIATION JP ACCTS TS 7.50%
松岡冷蔵 3.82%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は乾康之氏が務めています。社外取締役比率は66.7%です。

氏名 役職 主な経歴
乾康之 代表取締役社長 2004年同社入社。常務取締役不動産本部長等を経て、2008年代表取締役社長に就任。その後、物流事業部門やコーポレート部門の担当を経て、2016年より現職。
乾隆志 取締役専務執行役員倉庫・運送事業セグメント担当 2007年旧乾汽船入社。経営管理部長等を経て、2014年代表取締役社長に就任。経営統合に伴い同社取締役専務執行役員となり、イヌイ運送代表取締役社長等を経て、2023年より現職。


社外取締役は、神林伸光氏(元川崎重工業常務取締役)、村上章二氏(元郵船ロジスティクス代表取締役専務執行役員)、岩田研一氏(元三菱地所プロパティマネジメント代表取締役社長執行役員)、幸村潮菜氏(元ウィルミナ代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「外航海運事業」「倉庫・運送事業」および「不動産事業」を展開しています。

(1) 外航海運事業


同社グループの主力事業として、子会社または他社から定期用船した船舶を用いて貨物輸送を行う自社運航と、同業他社への定期用船を行っています。世界中の顧客に対して海運を通じた物流サービスを提供しています。

収益は主に、自社運航による貨物輸送の運賃収入と、同業他社へ船舶を貸し渡すことによる貸船料収入から得ています。事業の運営は主に同社および連結子会社のDELICA SHIPPING S.A.が行っています。

(2) 倉庫・運送事業


普通倉庫業に加えて保税蔵置場を活用した輸出入貨物の保管や、国土交通省の認定を受けた文書箱や什器等の文書保管事業、および寄託貨物の自動車運送事業や引越し業務などの物流サービスを提供しています。

収益は、顧客の物品を倉庫で保管する対価としての保管料や、貨物運送や引越しに伴う運送料から得ています。事業の運営は主に同社ならびに連結子会社のイヌイ倉庫オペレーションズおよびイヌイ運送が行っています。

(3) 不動産事業


東京の勝どきエリアを中心に、同社が所有する住宅やオフィスビルなどの事務所を賃貸する施設賃貸業を展開しています。立地を活かした水辺のビジネス・居住空間を多様な顧客に提供しています。

収益は、入居する個人や法人からの施設賃貸料から得ています。当事業の運営は主に同社が行い、長期的な視野に基づく優良資産の有効活用を通じて、安定的な収益を確保しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の連結業績を見ると、売上高は一時的に落ち込んだものの直近2期で再び増加傾向にあります。一方で経常利益や当期利益は、2022年や2023年の高水準から大きく減少し、直近では利益率も低下傾向にあり、市況変動の影響を受けて利益水準が変化していることが伺えます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 376億円 443億円 295億円 318億円 336億円
経常利益 136億円 134億円 19億円 38億円 20億円
利益率(%) 36.0% 30.3% 6.5% 12.1% 5.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 117億円 97億円 9億円 49億円 6億円

(2) 損益計算書


売上高は前期から増加したものの、売上原価の増加等により売上総利益は減少しました。それに伴い、売上総利益率および営業利益率も前期と比較して低下しており、収益性の面で課題が生じている状況が見受けられます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 318億円 336億円
売上総利益 51億円 37億円
売上総利益率(%) 16.2% 11.1%
営業利益 37億円 22億円
営業利益率(%) 11.5% 6.4%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が4億円(構成比25%)、役員報酬が3億円(同18%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の外航海運事業において、新造船の稼働や運賃収入の増加などにより売上が拡大しました。倉庫・運送事業は安定的に推移した一方、不動産事業は既存施設の営業終了などの影響により減収となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
外航海運事業 236億円 257億円
倉庫・運送事業 39億円 40億円
不動産事業 43億円 39億円
連結(合計) 318億円 336億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で稼いだ資金を元に設備投資を行い、かつ借入金の返済も進めている健全な状態を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 80億円 44億円
投資CF -44億円 -44億円
財務CF 12億円 -6億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も47.5%であり、いずれも市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「よくはこぶ」を長期ビジョンとして掲げ、120年を超える歴史の中で、人の営みに欠かせないモノを運ぶ実業を担い産業や社会を支え続けることを使命としています。商道徳の正義を重んじ、資本の理屈に流されることなく時代の変化に適応しながら、着実に実業を積み重ねていくことを目指しています。

(2) 企業文化


「資産の力を事業の力に」「Fun to Work」「『らしさ』の追求」を基本方針としています。優良な資産を基盤に市況変動に抗う投資を行い、働く喜びである「Fun to Work」を原動力として「よくはこぶ」を実践しています。また、他と違うことを恐れず独自性を追求する文化を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


同社は2026年4月からの3年間を対象とする新中期経営計画「あしたも元気」を策定しています。また、株主還元策として「良いときは笑い、悪いときにも泣かない」という方針を掲げ、悪い時でも最低配当額を12円に引き上げるなど、安定した配当の継続や業績に応じた配当性向の累進による増配を目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


外航海運事業では既存船の長寿命化とフレキシブルな調達により長期的な船隊運営を目指し、空荷航海の削減等による環境負荷軽減にも取り組みます。倉庫・運送事業ではデジタルツールの活用や独自の物流モデル構築により収益機会を拡大します。不動産事業では既存物件のリノベーションを通じて資産価値を高めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


社員一人ひとりの成長が組織の持続的な成長につながるとの考えから、教育研修体系の拡充による自発的な能力開発支援や効果的な人員配置によるキャリア形成を推進しています。また、65歳定年制を導入し、健康保持の支援や出産・育児・介護による離職ゼロを目標とした快適な職場環境整備に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.8歳 14.2年 8,865,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.0%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) 63.9%


同社および連結子会社は、一部の指標について公表義務の対象ではないため、有報には詳細な記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 船舶の安全運航や海難事故


同社グループの主要な事業資産である船舶において海難事故が発生した場合、物理的被害が生じるだけでなく、人的被害や環境破壊を引き起こす可能性があります。また、油濁事故などによる海洋汚染が生じた場合、外航海運事業の運営および業績に多大な悪影響を及ぼすおそれがあります。

(2) 事業環境の変動


外航海運事業では、主要な就航区域である中国やアメリカなどの景況が運賃や市況に直接的な影響を与えます。また、倉庫・運送事業では顧客企業の物流コスト抑制やペーパーレス化による需要減少、不動産事業では首都圏における賃貸市場の需給バランス変化などが業績に影響する可能性があります。

(3) 資産価格の変動


同社グループが保有する船舶、土地、建物、投資有価証券などの収益性や時価が著しく下落した場合、減損損失や評価損が発生する可能性があります。特に不動産資産においては、担保価値を利用して資金調達を行っているため、資産価値の下落が今後の資金調達に支障をきたすおそれがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。