TAC 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

TAC 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場し、「資格の学校TAC」等の個人教育事業を核に、法人研修、出版、人材事業を展開しています。2025年3月期は、社会人向け講座が好調に推移し売上高は192億円へ増収。コスト構造の見直し等の効果により、営業損益および経常損益は前期の赤字から黒字転換を果たしました。


※本記事は、TAC株式会社 の有価証券報告書(第42期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. TACってどんな会社?


資格取得スクール「TAC」の運営を主力とし、法人研修、出版、人材サービスまで多角的に展開する教育企業です。

(1) 会社概要


同社は1980年、資格受験指導を目的として設立され、公認会計士や税理士講座を開講しました。2001年にJASDAQ市場へ上場後、2003年に東証二部、2004年に東証一部へ指定替えを行っています。2009年には「Wセミナー」ブランドの事業を譲り受け、司法試験等の法律分野を強化しました。2014年には医療事務スタッフ関西を買収し医療系人材事業へ進出するなど、M&Aを含めた事業拡大を経て現在の体制を築いています。

2025年3月末現在の連結従業員数は523名、単体では479名です。筆頭株主は株式会社ヒロエキスプレスで、同社取締役が役員を兼任する資産管理会社と見られます。第2位は「Z会」等の教育事業を展開する株式会社増進会ホールディングスであり、資本業務提携関係にあります。

氏名 持株比率
株式会社ヒロエキスプレス 36.37%
株式会社増進会ホールディングス 8.16%
株式会社アガルート 5.13%

(2) 経営陣


同社の役員は男性13名、女性1名の計14名で構成され、女性役員比率は7.1%です。代表取締役社長は多田敏男氏が務めています。社外取締役比率は35.7%です。

氏名 役職 主な経歴
多  田  敏  男 取締役社長(代表取締役) ロッテ商事、東京アカウンティングセンターを経て1984年同社入社。営業部長、専務、副社長等を歴任。TACプロフェッションバンク代表取締役会長などを兼務し、2018年10月より現職。
近  藤      敦 取締役副社長経営企画室・教育・スクール・情報システム部門担当 1985年同社入社(税理士講座講師)。経理部長、常務、専務を経て2018年10月より現職。経営企画室や教育・スクール部門等を管掌する。
金  井  孝  二 常務取締役法人部門担当 1985年同社入社。第五教育部長、執行役員法人事業部長を経て2007年取締役就任。2010年6月より現職。
猪 野  樹 常務取締役出版部門担当 1994年同社入社。法務部長、執行役員総務人事部長等を歴任。早稲田経営出版代表取締役を兼務し、2023年6月より現職。
干 潟 康 夫 取締役法人・教育第三事業部門担当 1992年同社入社(社員講師)。国際部長、教育第三事業部長、執行役員を経て2021年6月より現職。
高 橋  裕 取締役教育第四事業・教育第五事業・マーケティング部門担当 1998年同社入社。教育第六事業部長、教育第四事業部長、執行役員を経て2021年6月より現職。
川 野 貴 未 取締役教育第一事業・教育第二事業・スクール・通信メディア事業部門担当 1997年同社入社。教育第四事業部長、オンラインスクール取締役、執行役員を経て2021年6月より現職。
野 中 将 二 取締役IR室・総務・法務・経理・人事部門担当 中央青山監査法人、新日本監査法人を経て2010年同社入社。IR室長、執行役員経営企画室長等を歴任し、2021年6月より現職。
齋 藤 智 記 取締役経営企画室・教育部門担当 ヒロエキスプレス取締役、監査法人トーマツを経て2015年同社入社。2018年執行役員経営企画室長に就任し、2021年6月より現職。


社外取締役は、阿部茂雄(元光村印刷代表取締役会長)、池上玄(公認会計士・元日本公認会計士協会副会長)、原口健(弁護士・ひすい総合法律事務所所長)、丹羽厚太郎(弁護士・みなつき法律事務所パートナー)、町田弘香(弁護士・ひすい総合法律事務所)です。

2. 事業内容


同社グループは、「個人教育事業」「法人研修事業」「出版事業」「人材事業」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 個人教育事業


公認会計士、税理士、簿記検定、不動産鑑定士、社会保険労務士、情報処理技術者等の資格試験に対する受験指導を行っています。「資格の学校TAC」として教室講座やWeb通信講座等を提供し、講師作成の独自テキストや教育コンテンツを使用しています。

受講料は受講生から前受金として受け取り、教育サービス提供期間に応じて売上に計上するモデルです。運営は主にTACが行うほか、TAC総合管理が教室管理を、オンラインスクールがWeb講座システムを、大連オペレーションセンターが事務等を担当しています。

(2) 法人研修事業


企業、大学、専門学校、会計事務所等に対して、資格取得研修や実務研修、自己啓発講座を提供しています。また、提携校の展開や、大学内セミナー、国・自治体からの委託訓練も実施しており、IT関連の国際資格(CompTIA等)の普及にも努めています。

企業や教育機関等から研修委託料や教材費を受け取る収益モデルです。運営はTACが中心となり、LUACが保険関係の企業研修事業を行っています。

(3) 出版事業


個人教育事業等で蓄積されたノウハウを活かし、「TAC出版」および「Wセミナー」ブランドで資格試験対策書籍や実務書等を出版しています。「合格の秘訣」シリーズや過去問題集など、多彩なラインナップを展開しています。

一般読者への書籍販売代金が主な収益源です。運営はTACおよび早稲田経営出版が行っています。

(4) 人材事業


会計系や医療系の人材紹介・派遣事業、および求人求職サイトの運営を行っています。TACで学習した人材に対し、キャリアアップの機会を提供し就職支援を行います。

求人企業からの紹介手数料や派遣料、求人広告掲載料が収益源です。運営はTACプロフェッションバンク(会計系中心)および医療事務スタッフ関西(医療系中心)が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績を見ると、売上高は200億円前後で推移していましたが、直近では190億円台前半となっています。利益面では、2024年3月期に赤字を計上しましたが、2025年3月期には経常利益、当期純利益ともに黒字転換を果たしました。利益率は変動がありつつも、直近では回復傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 197億円 205億円 197億円 190億円 192億円
経常利益 6.5億円 4.4億円 3.2億円 -3.3億円 7.4億円
利益率(%) 3.3% 2.2% 1.6% -1.7% 3.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 3.0億円 3.5億円 1.7億円 -2.5億円 3.9億円

(2) 損益計算書


2025年3月期は前期比で増収となり、売上総利益率も改善しました。営業利益は前期の赤字から大きく回復し、黒字化を達成しています。売上原価および販売費及び一般管理費の抑制が進んだことが利益率の改善に寄与しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 190億円 192億円
売上総利益 70億円 77億円
売上総利益率(%) 36.8% 40.2%
営業利益 -3.1億円 7.3億円
営業利益率(%) -1.6% 3.8%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が24億円(構成比35%)、広告宣伝費が7.0億円(同10%)、業務委託費が5.5億円(同8%)を占めています。売上原価においても人件費や教材制作等の外注費が主要なコストとなっています。

(3) セグメント収益


個人教育事業は社会人向け講座が好調で増収となり、営業損失が大幅に縮小しました。法人研修事業は企業向け研修が堅調で増収増益となりました。出版事業は販売促進活動の効果等により増収増益を達成しました。人材事業は売上高が微減したものの、コスト抑制により増益となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
個人教育事業 98億円 99億円 -10億円 -2.0億円 -2.0%
法人研修事業 44億円 45億円 10億円 11億円 25.4%
出版事業 42億円 44億円 8.5億円 10億円 22.7%
人材事業 4.8億円 4.8億円 0.6億円 0.7億円 15.4%
連結(合計) 190億円 192億円 -3.1億円 7.3億円 3.8%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


* 営業CF:14億円
* 投資CF:-7.1億円
* 財務CF:-4.5億円

営業活動によるキャッシュ・フローがプラス、投資活動および財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスであるため、本業で稼いだ資金で投資や借入返済を行っている「健全型」と言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF -5.2億円 14億円
投資CF -0.4億円 -7.1億円
財務CF 2.1億円 -4.5億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.7%で市場平均(7.2%)を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は29.7%で市場平均(48.5%)を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「プロフェッションの養成」を経営理念として掲げています。これは、高度な専門知識と厳しい倫理観を持つ「プロフェッション(専門職)」を養成し、社会の発展に貢献することを目的としています。会計・税務分野から始まり、法律、不動産、金融、情報、医療等へと分野を拡大しながら、時代が必要とする多様なプロフェッションを輩出し続けることを使命としています。

(2) 企業文化


同社は、高い倫理観と法令順守の意識を重視しています。「TAC行動憲章」を制定し、「顧客の満足」「人権の尊重」「社会への貢献」「環境への配慮」などを掲げています。また、「経営のプロフェッション」として自己規律を持ち、ステークホルダーからの支持基盤を大切にする風土があります。役職員一人ひとりがプロフェッション養成を担う自覚を持ち行動することが求められています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、安定的な売上成長と「現金ベース売上高営業利益率」の極大化を経営指標として掲げています。具体的な数値目標としては、株価純資産倍率(PBR)1倍割れの解消を目指し、業績回復や新商品開発を通じて株主価値を高めることを課題としています。

(4) 成長戦略と重点施策


教育ビジネスと人材ビジネスを強固に結びつけ、双方を拡大させる戦略をとっています。特に個人教育事業の収益力強化を最優先課題とし、多様化する受講生ニーズへの迅速な対応、インフラやWeb環境の整備、講座運営体制の見直しを進めています。また、人的資本への投資を強化し、優秀な人材の確保・育成を通じて持続的な成長を図る方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「プロフェッションの養成」のみならず、新たなプロフェッションを創造できる人材の育成を重視しています。従業員の資格取得を推奨し、受講料サポートや合格祝賀金を提供しています。また、ジョブローテーションによる多角的な経験の付与や、男性の育児休業取得推進、女性活躍推進など、多様な人材が能力を発揮できる環境整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均(598万円)をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 45.4歳 15.5年 5,069,222円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 11.3%
男性育児休業取得率 66.7%
男女賃金差異(全労働者) 69.2%
男女賃金差異(正規雇用) 77.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 71.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員の資格取得学習実施率(25.3%)、アルバイトスタッフ等の資格取得学習実施率(55.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 教育訓練給付制度の変更リスク


同社の講座の一部は雇用保険の教育訓練給付制度の対象となっており、受講生が受講料の一部給付を受けられます。給付基準や対象講座の変更があった場合、駆け込み需要やその後の反動減などが発生し、短期的に業績に影響を与える可能性があります。

(2) 前受金の会計処理に伴う業績変動


受講料を一括で受け取り「前受金」として計上し、受講期間に応じて売上に振り替える会計処理を行っています。このため、現金売上が減少する局面では将来の売上計上額が減少し、逆に現金売上が増加する局面では将来の売上が押し上げられるというタイムラグが発生し、業績の変動要因となります。

(3) 法的規制と消費者保護行政の動向


「特定商取引法」や「消費者契約法」など、消費者保護に関連する法規制の影響を受けます。特に解約・返金に関するルールや行政の指導強化はビジネスモデルに影響を与える可能性があります。同社は業界慣行に合わせ無理由での解約等に応じていますが、法令改正等により対応コストが増加するリスクがあります。

(4) 個人情報の管理リスク


多数の個人情報を保有しているため、個人情報保護法への対応は重要課題です。プライバシーマークを取得し対策を講じていますが、万が一情報漏洩事故が発生した場合、社会的信用の失墜や損害賠償等により、業績に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。