エムスリー 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エムスリー 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エムスリーはプライム市場に上場し、国内35万人以上の医師会員が利用する医療従事者専門サイト「m3.com」の運営や製薬企業向けマーケティング支援、治験支援などの事業を展開しています。直近の業績は、主力事業や海外事業の拡大により大幅な増収増益を達成しており、国内外で順調な成長を続けています。


**エムスリー転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態**

※本記事は、エムスリー株式会社の有価証券報告書(第26期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. エムスリーってどんな会社?


エムスリーは、医療従事者専門サイト「m3.com」を中核に、医療の課題解決を図る多様な事業を展開しています。

(1) 会社概要


2000年にソネット・エムスリーとして設立され、2003年に医療専門サイト「m3.com」の運営を開始しました。2004年にマザーズへ上場し、2010年に現在のエムスリーへ社名変更しています。その後も積極的なM&Aにより欧米やアジアへ進出し、2025年にはイーウェルを子会社化するなど事業を拡大しています。

同社は連結で17,010名、単体で750名の従業員を抱える規模に成長しています。筆頭株主は事業会社のソニーグループで約34.5%を保有しており、第2位および第3位は資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。

氏名 持株比率
ソニーグループ 34.50%
日本マスタートラスト信託銀行 14.60%
日本カストディ銀行 8.50%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性4名の計10名で構成され、女性役員比率は40.0%です。代表取締役社長は谷村格氏が務めています。また、取締役10名のうち4名が社外取締役となっています。

氏名 役職 主な経歴
谷村格 代表取締役社長 1987年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、1999年に共同経営者に就任。2000年に同社代表取締役に就任し、現在に至る。
都丸暁彦 取締役 マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2003年に同社入社。同年より米国法人の取締役を務め、2012年より同社取締役。
槌屋英二 取締役 朝日生命保険、外資系コンサルティング会社等を経て2006年に同社入社。2012年に執行役員となり、2016年より同社取締役。
中村利江 取締役 リクルート等を経て出前館の代表取締役社長・会長を歴任。日本M&Aセンター専務等を経て、2022年より同社取締役。
田中良直 取締役 マッキンゼー・アンド・カンパニーやニューロマジック取締役等を経て2016年に同社入社。執行役員を経て2023年より同社取締役。
山崎聡 取締役 文部科学省関連機関や複数企業を経て2017年に同社入社。執行役員を経て2023年より同社取締役。


社外取締役は、津川友介(UCLA医学部・公衆衛生大学院准教授等)、山崎繭加(華道家・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員等)、江端貴子(アルファパーチェス社外取締役等)、鈴木智子(一橋大学大学院教授等)です。

2. 事業内容


同社グループは、「メディカルプラットフォーム」、「エビデンスソリューション」、「キャリアソリューション」、「サイトソリューション」、「ペイシェントソリューション」、「海外」および「その他エマージング事業群」を展開しています。

(1) メディカルプラットフォーム


医療従事者専門サイト「m3.com」を基盤とし、製薬企業のマーケティング支援や調査、医療機関向けの電子カルテ等のDX支援、患者・従業員向け健康支援などを提供しています。主な顧客は製薬企業や医療機関です。

製薬企業等から広告料や調査料、マーケティング支援の対価を受け取るほか、医療機関から電子カルテの利用料などを受け取ります。事業の運営は同社やイーウェルなどの子会社が行っています。

(2) エビデンスソリューション


臨床開発業務や大規模臨床研究を支援するCRO事業、医療機関における治験業務全般の管理・運営を支援するSMO事業、被験者募集を行うPRO事業を提供しています。製薬企業や医療機関が主な顧客です。

顧客である製薬企業等から、臨床試験や治験の進捗に応じた業務受託の対価として専門業務サービスの料金を受け取ります。メディサイエンスプラニングやメビックスなどの子会社が運営を担っています。

(3) キャリアソリューション


医療従事者等に向けた人材サービスとして、医師や薬剤師を対象とする総合キャリアサービスを提供しています。人材の採用を希望する医療機関や薬局が主な顧客となります。

求人広告の掲載料や、紹介した求職者が求人企業に入社した際の人材紹介手数料として対価を受け取ります。主に子会社であるエムスリーキャリアが事業を運営しています。

(4) サイトソリューション


医療機関への経営支援や海外での医療機関運営、ホスピス型住宅の運営、訪問看護や介護、有料老人ホームなどの運営サポートを提供しています。医療機関や施設の利用者が対象です。

医療機関から経営戦略や人事労務などの支援に対する対価を受け取るほか、訪問看護や施設利用者からサービス提供に応じた料金を受け取ります。主に子会社のシーユーシーなどが運営しています。

(5) ペイシェントソリューション


入院患者や介護施設の利用者等に向けた患者サポート事業として、衣類やタオル等の洗濯サービス付きレンタルと日用品を組み合わせた「CSセット」を提供しています。

サービスの利用対象である入院患者や施設の利用者から、レンタルや物品提供に応じた対価を受け取る収益モデルです。事業の運営は主に子会社のエランなどが行っています。

(6) 海外


米国、欧州、アジア等の海外市場において、テクノロジーを活用した製薬企業のマーケティング支援、調査、医師向け転職支援、治験業務の支援や医療機関向けデジタルソリューションを提供しています。

現地の製薬企業や医療機関からマーケティング支援や治験支援の対価を受け取ります。M3 USA CorporationやVIDAL Franceなどの海外子会社が各地域で事業を運営しています。

(7) その他エマージング事業群


報告セグメントに含まれないその他の事業として、コンシューマー向けサービスや医療福祉系国家試験における教育事業などを展開しています。

サービスを利用する一般消費者や国家試験の受験者などから、サービスの利用料や対価を受け取ります。エムスリーエデュケーションなどの子会社が運営を担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績を見ると、M&Aや事業領域の拡大により売上収益は右肩上がりで順調に成長を続けています。一方で利益面は、新型コロナウイルス関連プロジェクトの減少や一時的な減損損失などの影響もあり数年間は減少傾向にありましたが、直近の期では既存事業の成長や新規連結子会社の寄与により再び増益へと転じています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 2,082億円 2,308億円 2,389億円 2,849億円 3,514億円
税引前利益 962億円 743億円 688億円 648億円 763億円
利益率(%) 46.2% 32.2% 28.8% 22.7% 21.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 638億円 490億円 453億円 405億円 491億円

(2) 損益計算書


売上収益の増加に伴い営業利益も拡大していますが、利益率の推移を見るとやや低下傾向にあります。事業規模の拡大と子会社化による費用増などが影響しているものの、引き続き20%を超える高い営業利益率を維持しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 2,849億円 3,514億円
売上総利益 345億円 364億円
売上総利益率(%) 12.1% 10.4%
営業利益 630億円 735億円
営業利益率(%) 22.1% 20.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用及び報酬が503億円(構成比48%)、減価償却費及び償却費が145億円(同14%)を占めています。また、売上原価については、従業員給付費用が701億円(構成比40%)、商品売上原価が529億円(同30%)、業務委託費が357億円(同20%)となっています。

(3) セグメント収益


主力事業に加え、子会社化による新規連結効果もあり、多くのセグメントで増収増益を達成しています。特にペイシェントソリューションは企業買収の寄与で大きく売上を伸ばしました。メディカルプラットフォームなどの既存事業も堅調に推移しており、各事業がグループ全体の利益成長をバランス良く支えています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
メディカルプラットフォーム 916億円 1,078億円 341億円 359億円 33.3%
エビデンスソリューション 242億円 245億円 43億円 51億円 20.9%
キャリアソリューション 209億円 228億円 57億円 59億円 26.0%
サイトソリューション 470億円 544億円 54億円 58億円 10.6%
ペイシェントソリューション 219億円 569億円 8億円 27億円 4.7%
海外 806億円 869億円 147億円 149億円 17.1%
その他エマージング事業群 25億円 22億円 10億円 49億円 218.7%
調整額 -38億円 -42億円 -31億円 -16億円 -
連結(合計) 2,849億円 3,514億円 630億円 735億円 20.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業キャッシュ・フローがプラス、投資・財務キャッシュ・フローがマイナスとなっており、営業活動で生み出した資金で投資を行いながら、借入金の返済や株主還元も進める「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 517億円 703億円
投資CF -391億円 -159億円
財務CF -272億円 -355億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.5%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は82.6%であり、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「テクノロジーを創造的に活用し、健康で楽しく長生きできる人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」を事業の目的に掲げています。社名のエムスリーは、医療(Medicine)、メディア(Media)、変容(Metamorphosis)の3つのMを表しており、テクノロジーとメディアの力を活かして医療の世界を変革していくことを目指しています。

(2) 企業文化


同社は4つのステークホルダーを意識した経営を重視しています。顧客である医療従事者には良質な情報を届けて医療の改善に寄与し、医療関連会社には驚きと感動を伴うサービスを提供します。また、従業員が成長し活躍できる場を整備するとともに、価値向上に貢献したスタッフには厚く報いるなど、主体性と貢献を評価する文化が形成されています。

(3) 経営計画・目標


同社は中長期的な企業価値を測るための指標として、「営業キャッシュ・フロー」と「1株当たり当期利益」を重視した経営を行っています。また、資本効率の面においては「親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)」を重要な指標と位置づけ、事業成長と資本効率の向上を両立させながら持続的な企業価値の最大化を図ることを目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


今後の成長戦略として、中核プラットフォームである「m3.com」の機能充実とトラフィック獲得を通じた価値向上を推進します。また、AI等のテクノロジーを活用した既存事業の成長や新規事業の立ち上げ、日本発のサービスの海外展開にも注力します。多様な事業間でエコシステムシナジーを発揮し、競争力を高める構造的良循環の強化を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、多様な人材が強みの源泉であると考え、年齢や性別等に制限されることなく社員の可能性を引き出すことを重視しています。「挑戦したい意欲(Will)」を起点とした実践的な能力開発を支援し、自ら新たな価値を創り出す社員が高く評価されることで、医療業界の改善とともに個人も会社も成長できる組織づくりを目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 34.8歳 4.5年 9,759,000円


※平均年間給与は、賞与、ライフプラン支援金等を含んでいます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 14.6%
男性育児休業取得率 46.2%
男女賃金差異(全労働者) 73.7%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 78.1%
男女賃金差異(非正規雇用労働者) 50.6%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性取締役比率(40%)、女性管理職比率(38%)、女性従業員比率(61%)、有給休暇取得率(79%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 医療・ヘルスケア市場の動向


同社の売上高の多くは医療・ヘルスケア市場に依存しています。製薬企業における再編やグローバルな競争激化による契約見直しのほか、米国等の政策変更が世界経済に及ぼす影響により、同社グループの業績が影響を受ける可能性があります。

(2) 個人情報および機密情報の保護


会員やサービス利用者の個人情報を多数取り扱っており、競合する医療関連企業からの機密情報も保持しています。サイバー攻撃や管理体制の不備による情報漏洩等の重大なトラブルが発生した場合、損害賠償や信用の低下を招き、事業に悪影響を及ぼすリスクがあります。

(3) 事業に関わる各種法的規制


各事業を展開するにあたり、医薬品等の広告規制や臨床研究法、労働者派遣法などの多岐にわたる法的規制やガイドラインの適用を受けています。国内外において関連法令が改廃・新設され、対応を強いられた場合、事業展開や業績に影響が出る可能性があります。

(4) 非流動資産に係る減損リスク


M&Aや事業投資を通じて獲得した「のれん」などの非流動資産を多数保有しています。対象資産の将来の収益性が低下し価値が下落したと判断された場合、多額の減損損失を計上することになり、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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