いい生活 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

いい生活 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード市場に上場し、不動産市場に特化したクラウドサービス(SaaS)を提供する企業です。主力であるサブスクリプション売上が堅調に推移し、直近決算では増収を達成しました。一方で、人的資本への投資やシステム開発投資を積極的に行った結果、利益面では減益となり赤字を計上しています。


※本記事は、株式会社いい生活 の有価証券報告書(第26期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. いい生活ってどんな会社?


不動産市場向けに業務支援システム等のクラウドサービス(SaaS)を開発・提供する不動産テック企業です。

(1) 会社概要


2000年に設立され、不動産市場向けのシステム提供を開始しました。2006年に東証マザーズへ上場し、同年大阪支店を開設するなど拠点を拡大しました。2016年には東証二部へ市場変更を行い、主力サービスの「ESいい物件One」シリーズを展開しています。2018年には子会社を設立し、導入支援体制を強化しています。

2025年3月31日現在、連結従業員数は223名、単体従業員数は199名です。大株主の構成は、筆頭株主が同社社長の前野善一氏で、第2位は同社副社長の北澤弘貴氏、第3位も同じく副社長の塩川拓行氏となっており、創業メンバー及び経営陣が主要株主となっています。

氏名 持株比率
前野 善一 14.80%
北澤 弘貴 13.75%
塩川 拓行 13.04%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長CEOは前野善一氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
前野 善一 取締役社長CEO(代表取締役)ビジネス・ストラテジーグループリーダー ゴールドマン・サックス証券会社を経て、2000年に同社を設立し代表取締役社長に就任。2020年6月より現職。
塩川 拓行 取締役副社長CFO(代表取締役)コーポレートグループリーダー 住友銀行、リーマン・ブラザーズ証券会社、ゴールドマン・サックス証券会社を経て、2000年に同社設立に参画し代表取締役副社長に就任。2006年4月より現職。
北澤 弘貴 取締役副社長COO(代表取締役)セールス&マーケティンググループリーダー ゴールドマン・サックス証券会社を経て、2000年に同社設立に参画し代表取締役副社長に就任。2006年4月より現職。
中村 清高 取締役会長(代表取締役) 日興證券、ゴールドマン・サックス証券会社マネージングディレクターを経て、2000年に同社代表取締役社長に就任。2020年6月より現職。
松崎 明 専務取締役CTOウェブ・ソリューション開発グループリーダー 2000年に同社に入社。執行役員CTO、システム開発本部長、CIOなどを歴任し、2019年8月より現職。


社外取締役は、成本治男(TMI総合法律事務所パートナー)、伊藤耕一郎(伊藤国際会計税務事務所代表)、神村大輔(鈴木法律事務所弁護士)、戸塚隆将(ベリタス代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「クラウドソリューション事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) サブスクリプションサービス


不動産市場に必要な業務支援システム・アプリケーションをSaaS形式で提供しています。不動産会社を主な顧客とし、物件管理、顧客管理、マーケティング支援などの機能を提供することで、業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援しています。

収益は主に、顧客である不動産企業から月額利用料(サブスクリプション)として受け取ります。ストック型のビジネスモデルであり、継続的な収益が見込まれます。サービスの提供および運営は、主にいい生活が行っています。

(2) ソリューションサービス


主力であるSaaSの導入に伴う初期設定、データ移行や業務最適化支援(BPaaS)、システム・アプリケーションの受託開発、他社サービスの販売代理などを行っています。SaaSの導入効果を最大化するための付加的なサービス群です。

収益は、初期設定料金や導入支援コンサルティングフィー、受託開発費などのスポット料金、および他社サービスの販売手数料として受け取ります。運営はいい生活および子会社のリアルテック・コンサルティングなどが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、事業規模は拡大しています。一方で、利益面では2023年3月期をピークに減少傾向となり、直近の2025年3月期では損失を計上しています。積極的な人的資本投資や開発投資等の先行投資が利益を圧迫している状況がうかがえます。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 22.1億円 24.3億円 27.0億円 28.1億円 30.3億円
経常利益 0.7億円 1.7億円 2.4億円 2.1億円 -0.4億円
利益率(%) 3.2% 6.9% 8.8% 7.4% -1.4%
当期利益(親会社所有者帰属) -0.2億円 0.6億円 1.0億円 1.4億円 -0.4億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加しましたが、売上原価および販売費及び一般管理費も増加しました。特にコストの増加幅が売上の増加幅を上回ったため、営業利益以下の各利益段階で損失を計上しています。売上総利益率は高い水準を維持していますが、販管費の負担が重くなっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 28.1億円 30.3億円
売上総利益 16.0億円 16.0億円
売上総利益率(%) 57.0% 52.7%
営業利益 1.8億円 -0.4億円
営業利益率(%) 6.3% -1.2%


販売費及び一般管理費のうち、給料が6.3億円(構成比38%)、その他が5.0億円(同31%)を占めています。売上原価においては、労務費が6.1億円(構成比41%)、経費が8.8億円(同60%)を占めており、人件費とシステム関連費用が主なコスト要因となっています。

(3) セグメント収益


「クラウドソリューション事業」の単一セグメントです。サブスクリプション売上は新規顧客獲得や既存顧客へのアップセルにより堅調に推移し、ソリューション売上も大型案件の完了等により増加しました。全体として増収となりましたが、人的資本投資や開発投資の増加により、セグメント利益(全社利益相当)は減少しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
クラウドソリューション事業 28.1億円 30.3億円
連結(合計) 28.1億円 30.3億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

いい生活のキャッシュ・フローの状況についてご説明します。

同社は、事業活動を通じて安定的に資金を生み出しており、営業活動によるキャッシュ・フローは堅調に推移しています。一方で、将来の成長に向けた設備投資やM&A等への投資活動によるキャッシュ・フローは、積極的に資金を投じていることを示唆しています。また、財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済や配当金の支払いなど、安定的な財務基盤の維持・強化に向けた動きが見られます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 6.2億円 3.2億円
投資CF -6.6億円 -6.8億円
財務CF -0.3億円 -0.3億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「テクノロジーと心で、たくさんのいい生活を」というミッションを掲げ、「心地いいくらしが循環する、社会のしくみをつくる」というビジョンを目指しています。不動産市場にIT技術で新たな付加価値を創出し、市場全体の効率性向上や取引のデジタル化を推進することで、社会に貢献することを使命としています。

(2) 企業文化


同社は、「新たなスタンダードを定着し続けよう」「明日の距離感で前進しよう」「信頼を積み重ね歴史をはぐくもう」「挑戦と失敗をまるごと愛そう」「多彩な仲間と化学結合を起こそう」「優しさと易しさに芯をとおそう」という6つのバリューを掲げています。これらを価値観・行動指針とし、自律的な組織運営とイノベーションの創出を目指しています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、中長期的な目標として、コア事業であるSaaSの成長ドライバーである「顧客数」および「顧客単価(月額)」の拡大を掲げています。

* 顧客数:5,000社
* 顧客単価(月額):100,000円以上

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、不動産市場特化型SaaSのリーディングカンパニーとしての地位を確立するため、人的資本への投資、顧客基盤の拡大、新サービス開発に注力しています。特に不動産管理会社を重要ターゲットとし、そこを起点にシェア拡大を図る戦略です。

* 人的資本への投資:採用強化、教育体制整備、給与水準引き上げによる優秀な人材の確保と定着。
* 顧客数増加とLTV最大化:マーケティング強化、カスタマーサクセスによる解約率低減、アップセル・クロスセルの推進。
* 新サービス開発:市場ニーズに対応した新機能の開発と提供。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人的資本を最重要経営資源と位置づけ、優秀な人材の採用と早期戦力化を最重要課題としています。自発的な学びを促す資格取得支援制度や、多様な人材が活躍できる環境整備を推進しています。また、「健康経営宣言」を掲げ、従業員の心身の健康維持・増進にも積極的に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 35.1歳 7.1年 6,340,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.6%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用) -
男女賃金差異(非正規雇用) -


※男性育児休業取得率および労働者の男女の賃金の差異については、公表義務に基づく公表項目として選択しておらず公表していないため、記載を省略しています。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性従業員比率(31.84%)、有給休暇取得率(71.78%)、離職率(6.28%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 当社のシステム等に係るリスク


同社のSaaSに致命的な不具合が発生した場合や、自然災害・事故等によりシステムインフラに障害が生じた場合、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。また、AWS等の特定の外部IaaS事業者に依存しているため、契約変更や為替変動のリスクもあります。

(2) 情報セキュリティ管理について


顧客の個人情報や重要情報を多数管理しているため、外部への情報漏洩やサイバー攻撃による被害が発生した場合、損害賠償請求や信用の低下により、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。ISO認証取得等の対策を講じていますが、リスクを完全に排除することは困難です。

(3) 事業環境の変化について


インターネットの普及やクラウドサービスの需要動向、不動産業界の景気や規制環境の変化が事業に影響を与える可能性があります。また、技術革新への対応遅れや、強力な競合他社の出現、新規参入による競争激化もリスク要因となります。

(4) 人的資本の確保について


事業拡大には専門的な知識・技術を有する優秀な人材の確保が不可欠ですが、必要な人材を十分に確保できない場合、事業展開に支障をきたす可能性があります。また、小規模な組織であるため、特定の役職員への業務依存度が高い場合があり、人材流出のリスクもあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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