※本記事は、中部電力株式会社の有価証券報告書(第101期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 中部電力ってどんな会社?
電力・ガス販売や送配電など、エネルギー事業をコア領域として展開する総合エネルギー企業です。
■(1) 会社概要
1951年に設立され、同時に東京・名古屋・大阪の各証券取引所に上場しました。2015年に燃料および国内外発電事業を担うJERAを設立し、事業を承継させています。2020年には送配電事業を中部電力パワーグリッドへ、販売事業を中部電力ミライズへ分社化する組織再編を実施しました。2021年には日本エスコンを子会社化し、不動産等の新規領域も強化しています。
連結従業員数は22,566名、単体では3,289名体制で事業を運営しています。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位も同様に信託銀行、第3位は生命保険会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行 | 15.05% |
| 日本カストディ銀行 | 5.75% |
| 明治安田生命保険相互会社 | 4.69% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長社長執行役員CEOは林欣吾が務めており、取締役の過半数に当たる53.8%を社外取締役が占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 林欣吾 | 代表取締役社長社長執行役員CEO | 1984年同社入社。東京支社長、販売カンパニー社長などを経て2020年に代表取締役社長に就任。2024年電気事業連合会会長。2025年4月より現職。 |
| 勝野哲 | 代表取締役会長 | 1977年同社入社。東京支社長、経営戦略本部長、代表取締役社長社長執行役員などを歴任し、2020年4月より現職。中部日本放送の社外監査役も務める。 |
| 水谷仁 | 取締役 | 1984年同社入社。名古屋支店長、経営管理本部長、代表取締役副社長執行役員CFOなどを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 鍋田和宏 | 取締役副社長執行役員経営戦略本部長CIO | 1986年同社入社。技術開発本部長CTO・CSOなどを経て、2024年4月に副社長執行役員経営戦略本部長CIOに就任。2024年6月より現職。 |
| 古田真二 | 取締役常任監査等委員(常勤) | 1983年同社入社。三重支店長、安全健康推進室統括マネジメントサービス本部長などを歴任し、2024年6月より現職。愛知電機の社外監査役も務める。 |
| 澤栁友之 | 取締役監査等委員(常勤) | 1987年同社入社。長野支店長、中部電力パワーグリッド監査役などを経て、2023年6月に同社監査役に就任。2024年6月より現職。 |
社外取締役は、橋本孝之(元日本アイ・ビー・エム社長)、嶋尾正(元大同特殊鋼社長)、栗原美津枝(元日本政策投資銀行・価値総合研究所会長)、工藤陽子(元EY新日本有限責任監査法人プリンシパル)、中川清明(元名古屋高等検察庁検事長)、村瀬桃子(弁護士・村瀬・矢崎綜合法律事務所パートナー)、山形光正(トヨタ自動車水素ファクトリーPresident)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ミライズ」「パワーグリッド」「JERA」および「その他」事業を展開しています。
■ミライズ
電力やガスの販売をはじめ、顧客の暮らしやビジネスの課題解決に資する多様なサービスを提供しています。一般家庭向けのエネルギー最適化提案や、脱炭素化を支援するCO2フリー電気などを幅広く展開しています。
収益源は、家庭や企業からの電気・ガス料金や各種サービスの利用料です。この事業の運営は主に中部電力ミライズが担当し、顧客ニーズに応じた料金メニューやデマンドレスポンスサービス等を通じて収益を獲得しています。
■パワーグリッド
電力ネットワークの提供を通じ、中部エリアおよび全国の電力安定供給を支えています。再生可能エネルギーの導入拡大や設備の高経年化が進む中、日々の設備保守や系統運用、需給調整を確実に行っています。
収益は、小売電気事業者などから受け取る託送料金(接続供給託送料)が主な柱です。この事業の運営は主に中部電力パワーグリッドが担い、設備の形成・維持・運用を効率的に進めることで収益基盤を構築しています。
■JERA
燃料の上流開発や調達から、国内外における火力発電、電力・ガスの卸販売までをバリューチェーンとして一貫して展開しています。最新鋭設備へのリプレースや脱炭素化に向けたアンモニア混焼技術の実証などにも取り組んでいます。
収益は、電力やガスの卸売販売や燃料トレーディングなどから得ています。この事業の運営は主に持分法適用関連会社であるJERAが担当しており、燃料の安定調達と効率的な発電所運営を通じて収益を確保しています。
■その他
エネルギー事業と掛け合わせた新たな価値創出を目指し、不動産開発・賃貸、建設、情報処理サービス、地域インフラ事業などを展開しています。まちづくりや資源循環など、地域課題の解決に貢献する事業が含まれます。
収益源は、不動産の販売・賃貸収入、各種工事の請負代金、システムの開発・保守料など多岐にわたります。事業の運営は、日本エスコン、中電不動産、シーテック、中電シーティーアイなどの各グループ会社が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、燃料価格や卸電力市場価格の変動などの外部環境による影響を大きく受けています。特に経常利益は大幅な増減を繰り返しており、一時的に赤字を計上する期もありました。当期は安定的な利益水準を確保していますが、全体としてボラティリティの高い事業環境を反映した業績推移となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | - | - | - | - | - |
| 経常利益 | 1,922億円 | -593億円 | 651億円 | 5,093億円 | 2,764億円 |
| 利益率(%) | - | - | - | - | - |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 136億円 | 827億円 | 261億円 | -48億円 | 539億円 |
■(2) 損益計算書
営業利益については、前期から当期にかけて減益となっています。これは、燃料価格の変動が販売価格に反映されるまでの期ずれ差益が減少したことや、電源調達における費用削減効果の剥落、需給バランス調整のための費用の増加などが主な要因です。引き続き、外部環境の変化に対する柔軟な対応が求められる状況にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | - | - |
| 売上総利益 | - | - |
| 売上総利益率(%) | - | - |
| 営業利益 | 3,433億円 | 2,420億円 |
| 営業利益率(%) | - | - |
販売費及び一般管理費のうち、その他が1,316億円(構成比46%)、委託費が773億円(同27%)、給料手当が573億円(同20%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上動向を見ると、中核事業であるミライズは、燃料費調整額の減少があったものの販売電力量の増加により増収を確保しています。また、パワーグリッドも再生可能エネルギー特別措置法に基づく購入電力の卸電力市場への販売単価上昇などにより増収となりました。全体として堅調な売上推移を見せています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| ミライズ | 2兆8,490億円 | 2兆9,111億円 |
| パワーグリッド | 3,474億円 | 4,100億円 |
| その他 | 4,141億円 | 3,481億円 |
| 連結(合計) | 3兆6,104億円 | 3兆6,692億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業(健全型)のキャッシュ・フロー推移となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3,441億円 | 3,013億円 |
| 投資CF | -3,883億円 | -3,918億円 |
| 財務CF | 871億円 | -276億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は39.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「人と社会のつながりを、幸せのエネルギーに」へ改定しています。社会の持続的な成長を目指し、安全・安価で安定的なエネルギーを届けるという「変わらぬ使命」を果たしつつ、事業環境の変化に対応した「新たな価値の創出」を実現することで、社会とともに成長していくことを目指しています。
■(2) 企業文化
「中部電力グループCSR宣言」に基づき、安全を最優先にエネルギーの安定供給を果たし、地球環境保全に努めています。また、公正・透明性を経営の中心に据え、ステークホルダーとの相互コミュニケーションを重視し、開かれた企業活動を推進する文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
経営ビジョン2.0の達成に向けた中期経営目標(2025年度)を設定しており、安定的な利益確保と新たな収益源の拡大を目指しています。
* 連結経常利益2,000億円以上
* ROIC 3.2%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
再生可能エネルギーと原子力発電の最大限の活用や火力発電の脱炭素化など「S+3E」の実現を推進します。不動産事業や地域インフラ等の新成長領域やグローバル事業での収益拡大を図りつつ、最適な資本構成の追求によるROEの向上にも取り組んでいます。
* 2030年頃に保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギー320万kW以上
* 2030年までに販売電気のCO2排出量を2013年度比で50%以上削減
* 2050年までに事業全体のCO2排出量ネット・ゼロ
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人財一人ひとりの成長・活躍が企業価値そのもの」という考えの下、「多様な人財が活躍できる環境づくり」と「自己変革に挑戦する社員への機会と支援の提供」の2本柱で人財戦略を推進しています。安全・健康への取り組みに加え、多様な個性を受け入れる風土醸成や自律的チャレンジを支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.8歳 | 19.5年 | 8,988,818円 |
※平均年間給与には、賞与及び基準外賃金を含めています。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育休取得率 | 102.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.4% |
| 男女賃金差異(正規) | 73.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 36.2% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 燃料・電力価格の変動等
地政学リスクや天候の変動、調達先のトラブルにより燃料価格や卸電力市場価格が大きく変動し、電源調達費用が増減するリスクがあります。ヘッジ取引等で安定化を図っていますが、急激な市況変動は収支に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 競争等への対応
脱炭素化に伴うエネルギー需要の変化や、異業種からの参入による小売市場での競争激化が懸念されます。新たなサービスの創出や事業構造の変革に的確に対応できない場合、販売シェアの低下や収益性の悪化を招くリスクがあります。
■(3) 原子力発電設備の非稼働
浜岡原子力発電所の運転停止が長期化することで、代替火力電源への依存に伴う調達費用の増加が継続しています。新規制基準への対応や安全対策が遅れ、再稼働がさらに後ろ倒しとなった場合、同社の業績やキャッシュ・フローに影響を与えるリスクがあります。
■(4) セキュリティ(経済安全保障・情報管理等)
サイバー攻撃などにより、重要インフラである電力の供給に支障をきたす、あるいは個人情報等の機微情報が漏えいするリスクがあります。これらが発生した場合、対応に要する直接的な費用の増加や社会的信用の低下につながる可能性があります。



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