※本記事は、中部電力の有価証券報告書(第102期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 中部電力ってどんな会社?
電力・ガスの供給を中核に、国内外の発電事業やエネルギー関連のインフラ整備などを幅広く展開する企業です。
■(1) 会社概要
中部電力は1951年に電気事業再編成令により設立されました。2015年には燃料・国内外発電事業等を担うJERAを設立し、同社へ事業を承継しました。2020年には小売電気事業を中部電力ミライズへ、一般送配電事業を中部電力パワーグリッドへ承継し、現在の事業体制へと移行しています。
現在の同社は、連結で22,700名、単体で3,367名の従業員を擁しています。筆頭株主ならびに第2位株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位には保険業務等を行う事業会社の明治安田生命保険相互会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行 | 13.63% |
| 日本カストディ銀行 | 6.44% |
| 明治安田生命保険相互会社 | 4.69% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長社長執行役員CEOは林欣吾氏が務めています。また、取締役13名中7名が社外取締役となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 林欣吾 | 代表取締役社長社長執行役員CEO | 1984年同社入社。東京支社長、販売カンパニー社長などを歴任。2020年代表取締役社長社長執行役員に就任し、2025年より現職。 |
| 勝野哲 | 代表取締役会長 | 1977年同社入社。経営戦略本部長、代表取締役社長社長執行役員などを歴任し、2020年より現職。中部経済連合会会長も務める。 |
| 鍋田和宏 | 取締役副社長執行役員経営戦略本部長 | 1986年同社入社。技術開発本部長、CIOなどを経て、2024年に取締役副社長執行役員経営戦略本部長に就任し、2026年より現職。 |
| 速水敏浩 | 代表取締役専務執行役員経営管理部,調達部,事業基盤支援部統括CFO | 1990年同社入社。経営管理本部部長、中部電力パワーグリッド執行役員などを経て、2025年より現職。 |
| 古田真二 | 取締役常任監査等委員(常勤) | 1983年同社入社。三重支店長、安全健康推進室統括マネジメントサービス本部長などを歴任し、2024年より現職。 |
| 岡俊彦 | 取締役監査等委員(常勤) | 1986年同社入社。中部電力パワーグリッド取締役副社長執行役員などを経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、橋本孝之(元日本アイ・ビー・エム社長)、嶋尾正(元大同特殊鋼社長)、栗原美津枝(元日本開発銀行)、加藤治彦(元国税庁長官)、中川清明(元公安調査庁長官)、村瀬桃子(法律事務所パートナー)、山形光正(トヨタ自動車水素ファクトリー社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ミライズ」「パワーグリッド」「JERA」および「その他」の事業を展開しています。
■(1) ミライズ
電力およびガスの販売と、お客さまの暮らしやビジネスの課題解決に向けた各種サービスを提供しています。家庭向け・法人向け双方を顧客としています。
主に家庭や企業からの電気・ガス料金や、付加価値サービス等の対価を収益源としています。同事業は主に中部電力ミライズが運営を担い、脱炭素に向けたCO2フリーメニューなどの提供も行っています。
■(2) パワーグリッド
電力ネットワークの設備形成や保守管理を通じ、電気を安定して届ける一般送配電事業を展開しています。発電事業者や小売電気事業者が主な顧客となります。
小売電気事業者等から受け取る託送料金などを主な収益源としています。同事業は中部電力パワーグリッドが運営し、次世代の電力系統の構築や広域的な需給運用も進めています。
■(3) JERA
燃料の上流開発から調達、国内外での火力発電事業、および電力・ガスの卸販売までを統合的に展開しています。
発電した電力や調達したガスの卸販売代金を主な収益源としています。同事業は持分法適用関連会社であるJERAが運営を担い、ゼロエミッションに向けた脱炭素技術の開発等にも取り組んでいます。
■(4) その他
再生可能エネルギー事業、不動産事業、ITシステム開発、設備工事など、エネルギー事業とシナジーを生む関連事業を展開しています。
設備の施工・保守料、不動産賃貸・販売料、システム開発料などを収益源としています。同社や日本エスコン、シーテックなどのグループ各社が運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、経常利益は大幅な損失を計上した時期から一転して黒字回復を果たし、その後も安定した利益水準を維持しています。当期利益についても、年度による変動は見られるものの、直近では順調に利益を確保しており、事業環境の変化に対応しながら収益性の改善が進んでいることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 経常利益 | -593億円 | 651億円 | 5,093億円 | 2,764億円 | 2,911億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 827億円 | 261億円 | -48億円 | 539億円 | 865億円 |
■(2) 損益計算書
同社の営業利益は、直近の2期間で安定した水準を維持しています。前年度から当年度にかけてわずかな減益となっているものの、継続して2,000億円以上の営業利益を確保しており、事業の堅調な収益力が示されています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 2,420億円 | 2,300億円 |
販売費及び一般管理費のうち、委託費が723億円(構成比25%)、給料手当が588億円(同20%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上推移を見ると、主力のミライズ事業が全体の収益の大部分を牽引していますが、前年度比では減収となっています。また、パワーグリッド事業やその他事業についても前年度と比較して売上規模が縮小傾向にあり、事業環境の変化や燃料価格等の変動が各セグメントの収益に影響を与えていることが伺えます。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| ミライズ | 2兆9,111億円 | 2兆8,151億円 |
| パワーグリッド | 4,100億円 | 4,035億円 |
| その他 | 3,481億円 | 3,274億円 |
| 連結(合計) | 3兆6,692億円 | 3兆5,460億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスとなっており、営業で利益を出し、資金調達も行いながら積極的な投資活動を継続している「積極型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3,013億円 | 3,344億円 |
| 投資CF | -3,918億円 | -3,508億円 |
| 財務CF | -276億円 | 874億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は41.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「人と社会のつながりを、幸せのエネルギーに」という企業理念のもと、経営ビジョン2.0の達成に向けグループ一体となって事業に取り組んでいます。エネルギーに満ちた明るく幸せな未来の創造に挑戦し続けることを存在意義として掲げています。
■(2) 企業文化
「中部電力グループCSR宣言」に基づき、安全を最優先にエネルギーの安定供給を果たし、地球環境の保全に努めることを重視しています。また、コンプライアンスや公正・透明性を経営の中心に据え、地域社会をはじめとするステークホルダーとの対話や協働を大切にする企業文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
2025年度までの目標として「連結経常利益2,000億円以上、ROIC3.2%以上」を掲げており、これらを達成しています。また、中長期的には資本効率の向上と持続的な成長の両立を目指し、ROE8%以上の実現を目標として設定しています。
* 連結経常利益:2,000億円以上
* ROIC:3.2%以上
* ROE:8%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「選択と集中」を進め、エネルギー事業をコア領域と位置づけて多角化から転換する方針を示しています。需要造成や安定供給、脱炭素価値の提供を柱とし、AI等の先端技術を実装した業務変革を進めています。また、政策保有株の売却や事業ポートフォリオの見直しを通じた資本効率の向上にも取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人財一人ひとりの成長・活躍が企業価値そのもの」という考えのもと、「多様な人財が活躍できる環境の整備」と「自己変革に挑戦する社員への機会と支援の提供」の2本柱を人材戦略として掲げています。安全と健康を最優先に、多様な個性を認め合い、自律的なキャリア形成や挑戦を支援する環境づくりを進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.5歳 | 19.0年 | 9,452,983円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.8% |
| 男性育児休業取得率 | 101.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.4% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 32.8% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 燃料・電力価格の変動等
燃料費や卸電力市場価格、為替相場の変動による調達費用の増減リスクです。同社は調達先の分散化や長期売買契約の締結、先物取引等のヘッジを通じてリスク緩和を図っていますが、地政学リスク等により市場価格が大きく変動した場合は業績に影響する可能性があります。
■(2) 地球環境保全に向けた制度変動
国や世界的な脱炭素化の動きに伴う事業環境の変化リスクです。再生可能エネルギーの拡大や火力発電の脱炭素化を進めていますが、化石燃料賦課金や排出量取引制度などのカーボンプライシング制度の変更に適切に対応できない場合、財務状況に影響が及ぶ懸念があります。
■(3) 大規模自然災害やセキュリティの脅威
巨大台風や地震などの自然災害、およびサイバー攻撃による電力供給支障のリスクです。設備の強靭化や復旧体制の強化、情報セキュリティ対策に取り組んでいますが、甚大な被害が発生した場合は修繕費用の増加や社会的信用の低下につながる可能性があります。



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