※本記事は、株式会社伊藤園の有価証券報告書(第61期、自 2025年5月1日 至 2026年4月30日、2026年7月21日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 伊藤園ってどんな会社?
伊藤園は、茶葉や飲料製品を中心に企画・開発・販売を行い、飲食関連事業も展開する企業です。
■(1) 会社概要
1966年に前身であるフロンティア製茶が設立され、緑茶のルートセールスを開始しました。1969年に現在の伊藤園へと商号を変更しています。1981年には無糖茶飲料である缶入りウーロン茶を販売し、缶飲料業界に本格参入しました。1989年に主力となる「お~いお茶」ブランドの販売を開始し、2006年にはタリーズコーヒージャパンの株式を取得して飲食事業にも領域を広げています。
同社グループの従業員数は連結で7,945名、単体で4,879名です。筆頭株主は役員などが議決権を所有するグリーンコアで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は公益財団法人本庄国際奨学財団です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| グリーンコア | 19.68% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.07% |
| 公益財団法人本庄国際奨学財団 | 5.87% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長執行役員は本庄大介氏が務めています。取締役13名のうち、5名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 本庄大介 | 代表取締役社長執行役員 | 1987年4月同社入社。1990年7月取締役、2000年5月専務取締役、2002年7月代表取締役副社長を経て、2009年5月より現職。 |
| 本庄周介 | 代表取締役副社長執行役員 | 1994年4月同社入社。2003年7月取締役、2008年5月専務取締役を経て、2014年8月より現職。 |
| 中野悦久 | 取締役専務執行役員 | 1989年3月同社入社。2010年7月取締役、2014年5月常務取締役を経て、2019年5月より現職。 |
| 神谷茂 | 取締役専務執行役員 | 1982年3月同社入社。2014年7月取締役、2016年5月常務取締役を経て、2019年5月より現職。 |
| Yosuke Jay Oceanbright Honjo | 取締役執行役員 | 1992年3月同社入社。2001年5月北米子会社の社長兼CEOに就任。2002年7月より現職。 |
| 平田篤 | 取締役専務執行役員 | 1988年5月同社入社。2014年5月常務執行役員、2016年5月専務執行役員を経て、2020年7月より現職。 |
| 近藤清 | 取締役(常勤監査等委員) | 1989年8月同社入社。内部監査室長などを経て、2023年7月より現職。 |
社外取締役は、髙野秀夫(元東京商工会議所常務理事)、阿部啓子(元東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、臼井祐一(元ヤマト運輸取締役)、横倉仁(公認会計士・弁護士)、奥田芳彦(元国税庁高松国税不服審判所長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「リーフ・ドリンク関連事業」「飲食関連事業」および「その他」事業を展開しています。
■リーフ・ドリンク関連事業
茶葉や緑茶、麦茶、ウーロン茶などの飲料製品を企画、開発、製造し、全国の消費者や小売店などに販売しています。海外においても北米、中国、東南アジアなどで広く製品を展開しています。
収益源は製品の販売代金です。同社が企画・開発を行い、外部メーカーに製造を委託して仕入れた完成品を販売しています。また、沖縄伊藤園や北海道伊藤園といった子会社を通じた販売や、ネオスによる自動販売機を通じた飲料販売も行っています。
■飲食関連事業
スペシャルティコーヒーの飲食店を直営およびフランチャイズ展開で経営しています。主要な顧客は、店舗を利用する一般消費者です。
収益源は、店舗での飲食販売による売上や、フランチャイズ契約に基づく加盟金収入およびロイヤリティ収入です。主にタリーズコーヒージャパンが運営を行っています。
■その他
主に米国においてサプリメントの製造および販売を行っています。顧客は米国の一般消費者です。
収益源はサプリメントの販売代金です。事業の運営は、米国の子会社であるMason Distributors, Inc.などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の売上高は着実に増加を続けており、成長基調にあります。経常利益も安定して推移していますが、利益率は4%から5%台で推移しています。当期は売上高が増加したものの、利益率の低下や減損損失の影響もあり、当期利益が大きく減少しています。
| 項目 | 2022年4月期 | 2023年4月期 | 2024年4月期 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4008億円 | 4317億円 | 4539億円 | 4727億円 | 4979億円 |
| 経常利益 | 200億円 | 203億円 | 267億円 | 230億円 | 233億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 4.7% | 5.9% | 4.9% | 4.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 124億円 | 133億円 | 138億円 | 117億円 | 15億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前年から増加したものの、売上総利益はほぼ横ばいとなり、売上総利益率が低下しています。これに伴い、営業利益および営業利益率も減少しており、コスト環境の厳しさが収益性に影響を与えています。
| 項目 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4727億円 | 4979億円 |
| 売上総利益 | 1796億円 | 1794億円 |
| 売上総利益率(%) | 38.0% | 36.0% |
| 営業利益 | 230億円 | 217億円 |
| 営業利益率(%) | 4.9% | 4.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が524億円(構成比33%)、運送費が155億円(同10%)、自販機販売手数料が145億円(同9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力のリーフ・ドリンク関連事業が増収を牽引しており、飲食関連事業も堅調に推移しています。一方で、その他事業は減収となっています。全体としては主力事業の成長により増収を達成しています。
| 区分 | 売上(2025年4月期) | 売上(2026年4月期) |
|---|---|---|
| リーフ・ドリンク関連事業 | 4203億円 | 4434億円 |
| 飲食関連事業 | 438億円 | 465億円 |
| その他 | 86億円 | 79億円 |
| 連結(合計) | 4727億円 | 4979億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。
| 項目 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 180億円 | 113億円 |
| 投資CF | -133億円 | -111億円 |
| 財務CF | -232億円 | -166億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「お客様第一主義」の経営理念に基づき、全社員が「STILL NOW(今でもなお、お客様は何を不満に思っているか)」を考え、「自然・健康・安全・良いデザイン・おいしい」の製品開発コンセプトのもと、顧客に喜ばれる製品の開発とサービスに努めています。「健康創造企業」として事業の成長と社会課題解決を両立させる経営を推進しています。
■(2) 企業文化
すべての顧客を大切にすることが経営の基本であるという考えのもと、消費者だけでなく、株主、販売先、仕入先、金融機関、地域社会など関わりを持つすべての方々を「お客様」と定義しています。常に前向きに挑戦する人材を育成し、実力主義のもとで社員一人ひとりの成長と自己実現を支援する文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2029年4月期までを対象とする中期経営計画において、2041年4月期の将来像の実現に向けて事業展開を推進しています。定量目標として、以下の数値を掲げています。
* 連結売上高:年平均伸長率2%以上
* 営業利益率:8%以上
* 自己資本利益率(ROE):10%以上
* 総還元性向:40%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画では、「お~いお茶のグローバル化」「国内既存事業の盤石化」「新たな事業の創出」に経営資源を集中し、環境変化に適応した事業体制への変革を図ります。また、「経営基盤の強化」および「サステナビリティ経営の推進」を通じて、持続的な成長と社会課題解決の両立を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的な成長を支える要として人的資本の強化に取り組んでいます。実力主義のもと、社員が自律的に成長し、多様な経験を通じて学べる環境を整備しています。柔軟な働き方を選択できるようにすることでワークライフバランスを推進し、誰もが働きやすい職場の実現や、健康経営を通じた社員の健康保持・増進を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年4月期 | 43.1歳 | 19.0年 | 6,874,812円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.5% |
| 男性育児休業取得率 | 66.7% |
| 男女賃金差異(全従業員) | 70.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 79.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 83.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメントスコア(4.04点)、人権啓発教育の実施回数(年間4回)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料調達の価格高騰と安定確保
茶葉や野菜などの農産物、PET容器の原料などの価格高騰や為替の変動は、製造原価を押し上げる要因となります。また、就農人口の減少や気候変動による不作などで必要な原材料が確保できない場合、製品の安定供給に支障をきたし、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 食品・飲料市場の変化と競争激化
主力である日本茶飲料をはじめとする飲料市場において、物価高騰による消費者の節約志向やニーズの多様化が進んでいます。これらの市場環境や嗜好の変化に対して、魅力的な新製品の開発や効果的なマーケティング戦略を迅速に展開できない場合、競争力を失い業績に悪影響を与える可能性があります。
■(3) 食品の安全性と品質管理の徹底
食品の安全性と衛生管理を経営の最重要課題と位置づけ、厳重な品質管理を行っています。しかしながら、予期せぬ異物混入、アレルゲン表示の誤り、残留農薬問題などが発生した場合、製品の回収や社会的信用の低下を招き、業績やブランド価値に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。