※本記事は、株式会社日本エム・ディ・エムの有価証券報告書(第54期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本エム・ディ・エムってどんな会社?
整形外科分野の医療機器開発と販売を手掛け、日米共同開発を基軸とする医療機器メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1973年に医療関連商品の販売を目的として設立され、1981年に現在の日本エム・ディ・エムに社名変更しました。1994年には米国のOrtho Development Corporationを買収し、自社製品の開発製造を本格化させました。2000年に東京証券取引所に上場し、2022年には三井化学と資本・業務提携を締結するなど、事業基盤の強化を推進しています。
現在の従業員数は連結で539名、単体で312名です。筆頭株主は資本業務提携先である三井化学で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は個人株主となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 三井化学 | 30.01% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.82% |
| 渡邉崇史 | 4.41% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.0%です。代表取締役社長は弘中俊行が務めており、取締役における社外取締役の比率は約66.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 弘中俊行 | 代表取締役社長 | 伊藤忠商事、デル・コンピュータ等を経て、2009年同社入社。2023年4月より現職。 |
| 日高康明 | 取締役 | 1992年同社入社。営業本部特販部長などを経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、岡村友之(三井化学医療事業推進室長)、佐分紀夫(元パーソルホールディングス常務取締役)、横山秀樹(アイ・エム・アイ代表取締役会長)、古島ひろみ(一色法律事務所・外国法共同事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、日本および米国セグメントにおいて事業を展開しています。
■日本
整形外科分野における人工関節、骨接合材料、脊椎固定器具等の医療機器類を、米国子会社や国内外のメーカーから仕入れ、日本国内の医療機関等に販売しています。
医療機器の販売代金を医療機関や販売代理店から受け取る収益モデルです。本セグメントの事業運営は、親会社である日本エム・ディ・エムが担っています。
■米国
人工関節、骨接合材料、脊椎固定器具等の整形外科分野の医療機器の開発・製造を行っています。
開発・製造した製品を親会社に供給するほか、米国市場の医療機関等に直接販売して収益を得ています。本セグメントの事業運営は、子会社のOrtho Development Corporationが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高は安定して拡大基調にありましたが、当期は減収に転じています。経常利益と利益率は継続的に低下傾向にあり、当期は米国での供給制約や製造原価の上昇などが影響し、大幅な減益となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 192億円 | 213億円 | 232億円 | 251億円 | 239億円 |
| 経常利益 | 26億円 | 20億円 | 18億円 | 15億円 | 5億円 |
| 利益率(%) | 13.5% | 9.6% | 8.0% | 5.9% | 2.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 13億円 | 7億円 | 7億円 | 5億円 | 5億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高が減少する中で、売上総利益と営業利益も減少しています。製造原価や調達コストの上昇が影響し、売上総利益率および営業利益率がともに低下する結果となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 251億円 | 239億円 |
| 売上総利益 | 156億円 | 141億円 |
| 売上総利益率(%) | 62.3% | 59.1% |
| 営業利益 | 16億円 | 6億円 |
| 営業利益率(%) | 6.2% | 2.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が42億円(構成比31%)、支払手数料が36億円(同26%)、減価償却費が14億円(同10%)を占めています。売上原価は98億円となっています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上高を見ると、日本および米国の両セグメントで減収となっています。日本では一部製品の採用見送りによる獲得症例数の減少、米国では一部コンポーネントの納期遅延による製品供給制約が主な要因です。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 136億円 | 131億円 |
| 米国 | 115億円 | 108億円 |
| 連結(合計) | 251億円 | 239億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 10億円 | 2億円 |
| 投資CF | -17億円 | -20億円 |
| 財務CF | 15億円 | 16億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は71.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「最先端の優れた医療機器の開発と販売を通じて医療に貢献する」という経営理念を掲げています。日米共同開発を基軸に、整形外科分野を中心とした医療機器の開発・製造・輸入・販売を通じ、日本だけでなく世界の医療マーケットに対して真に価値ある製品を提供することで、患者のQOL(生活の質)向上と持続可能な社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「患者さんのQOL向上に貢献する」というパーパスのもと、持続可能な社会の実現と企業価値向上の両立を重視しています。「貢献意識(社会、医療、患者、仲間のため)」を醸成し、多様な人材が属性を問わず「個性の発揮」ができる社内環境づくりを推進しています。また、コンプライアンスを経営の最優先事項と位置付け、それを重視する企業風土の定着に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は中長期的な企業価値の向上を目指し、以下の連結業績目標を掲げています。
* 2027年3月期目標:売上高254億円、営業利益4億円、当期純利益0.6億円
* 2028年3月期目標:売上高275億円、営業利益10億円、当期純利益5億円
* 2029年3月期目標:売上高300億円、営業利益15億円、当期純利益10億円
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は成長機会の取り込みと収益性の改善、ガバナンスの強化を重要課題としています。国内では高齢化に伴う医療ニーズ拡大に対応するため、新製品を継続的に投入して市場シェア拡大を図ります。米国では「SAICOプロジェクト」を推進し、内製化やサプライヤーの複社化、調達先の地域分散化を進めることで、製造原価・調達コストの低減と製品供給体制の強化を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は事業成長を支える人的資本の強化を重要課題とし、「貢献意識と個性の発揮」を重視した人材戦略を展開しています。CMS(キャリア・マネジメント・システム)を軸に、従業員一人ひとりの自律的なキャリア形成や専門性の向上、後継者育成を支援しています。また、年齢や性別を問わない能力に応じた登用や、多様な人材が活躍できるよう柔軟な働き方制度の充実など社内環境の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与は東証プライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.8歳 | 12.1年 | 7,441,141円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 11.5% |
| 男性育児休業取得率 | 0.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 79.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 80.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 27.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職に占める中途採用者の割合(67.9%)、外国籍労働者数の割合(1.3%)、働き方に関する制度の活用率(89.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サプライチェーンに関するリスク
製品の大半は米国子会社や他社からの仕入商品であり、部材調達先での問題発生や、物流の遅延・停止が生じた場合、製品供給が滞る可能性があります。同社はサプライヤーの複社化や自社製造比率の向上等により、供給リスクの低減に努めています。
■(2) 販売に関するリスク
予期せぬ製品不具合の発生や、競合他社との競争激化による獲得症例数の減少等は、売上の低下を招く要因となります。同社は不具合の発生状況や他社の販売動向を月次でレビューする体制を構築し、リスクの早期把握と対応を図っています。
■(3) 法規制、行政動向に関するリスク
医療機器の販売は国内外の様々な法規制を受けており、日本における診療報酬の改定や、米国の医療制度に関連した行政施策の変更が収益性に影響を及ぼす可能性があります。同社は自社製品の販売比率を高め、原価低減を進めることで収益悪化リスクに備えています。
■(4) 知的財産に関するリスク
取扱う製品や医療工具が他社の特許等に抵触した場合、係争の発生や販売停止、賠償金の支払いが生じるおそれがあります。同社は製品の開発段階で関連する特許を調査し、外部の専門家に相談するなどしてリスクの未然防止に努めています。



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