日本エム・ディ・エム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

 日本エム・ディ・エム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本エム・ディ・エムは東証プライム市場に上場し、整形外科分野を中心とした医療機器の開発・製造・輸入・販売を行う企業です。2025年3月期の連結業績は、日米ともに売上高が伸長し増収となりましたが、為替や製造原価上昇の影響に加え、米国子会社の訴訟和解費用を計上したことで、最終損益は減益となり赤字に転落しました。


※本記事は、株式会社日本エム・ディ・エム の有価証券報告書(第53期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年7月31日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本エム・ディ・エムってどんな会社?


同社は、骨接合材料や人工関節などの整形外科分野に特化した医療機器メーカー兼商社機能を持つ企業です。

(1) 会社概要


1973年に設立され、1981年に現社名へ変更しました。1994年に米国Ortho Development Corporation(ODEV社)を買収し、開発・製造機能を強化しています。2001年に東京証券取引所市場第一部へ指定替えとなり、2022年1月には三井化学と資本業務提携契約を締結し、新たな成長基盤の構築を進めています。

同グループの従業員数は連結538名、単体315名です。筆頭株主は事業会社で資本業務提携先の三井化学、第2位は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)です。

氏名 持株比率
三井化学 30.01%
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 8.30%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 4.45%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.0%です。代表取締役社長は弘中俊行氏が務めています。社外取締役比率は66.7%です。

氏名 役職 主な経歴
弘中 俊行 代表取締役社長 伊藤忠商事、レノボ・ジャパン常務執行役員等を経て同社入社。経営戦略本部長などを歴任し、2023年4月より現職。
日高 康明 取締役 1992年同社入社。営業本部での要職やトラウマ製品部長などを経て、2025年4月より上席執行役員トラウマ事業本部長を兼務し現職。


社外取締役は、岡村友之(三井化学ライフ&ヘルスケアソリューション事業本部医療事業推進室長)、佐分紀夫(元テンプホールディングス常務取締役)、横山秀樹(元アイ・エム・アイ代表取締役会長)、古島ひろみ(元ノバルティスファーマ執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」および「米国」事業を展開しています。

(1) 日本


日本においては、親会社である日本エム・ディ・エムが事業主体となり、整形外科分野の医療機器類(骨接合材料、人工関節、脊椎固定器具等)を販売しています。製品は主に米国子会社であるODEV社から仕入れるほか、販売提携契約等に基づき国内外のメーカーからも調達を行っています。

収益は、国内の医療機関や販売代理店等への製品販売代金として受け取ります。運営は主に日本エム・ディ・エムが行っており、自社開発製品と導入製品の双方を取り扱うことで、幅広い医療ニーズに対応しています。

(2) 米国


米国においては、子会社のODEV社が事業主体となり、骨接合材料、人工関節、脊椎固定器具等の開発および製造を行っています。製造した製品は親会社へ供給するほか、独自に米国市場を中心として人工関節や脊椎固定器具等の販売を行っています。

収益は、現地の医療機関等への製品販売代金や親会社への製品供給対価として受け取ります。運営はOrtho Development Corporation(ODEV社)が行っており、日米共同開発の拠点としての機能も担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期までの推移を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、事業規模は拡大しています。一方で、経常利益などの利益面は2022年3月期をピークに減少傾向にあり、2025年3月期には当期純損失を計上しました。これは売上原価の上昇や一時的な特別損失の発生などが影響しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 167億円 192億円 213億円 232億円 251億円
経常利益 21億円 26億円 20億円 18億円 15億円
利益率(%) 12.7% 13.5% 9.6% 8.0% 5.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 13億円 13億円 7億円 7億円 -5億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は増加していますが、売上原価の増加率が売上高の増加率を上回っており、売上総利益率は低下しています。また、営業利益率は低下しており、収益性の改善が課題となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 232億円 251億円
売上総利益 148億円 156億円
売上総利益率(%) 63.7% 62.3%
営業利益 17億円 16億円
営業利益率(%) 7.5% 6.2%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が40億円(構成比29%)、支払手数料が38億円(同27%)を占めています。売上原価については、商品評価損などが含まれていますが、具体的な構成比のデータはありません。

(3) セグメント収益


セグメント別に見ると、日本、米国ともに売上高は前期比で増加しています。しかし、利益面では日本セグメントが減少しており、米国セグメントも微減となりました。日本国内での償還価格引き下げや人件費等のコスト増が影響しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
日本 130億円 136億円 11億円 8億円 5.8%
米国 102億円 115億円 6億円 6億円 5.1%
調整額 - - 0.2億円 2億円 -
連結(合計) 232億円 251億円 17億円 16億円 6.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動によるキャッシュ・フローがプラス、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナス、財務活動によるキャッシュ・フローがプラスであることから、営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う「積極型」の状況です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 21億円 10億円
投資CF -18億円 -17億円
財務CF -8億円 15億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-1.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は73.3%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「最先端の優れた医療機器の開発と販売を通じて、医療に貢献する」という経営理念を掲げています。日米共同開発を基軸とし、整形外科分野の医療機器を提供することで、日本のみならず世界の医療マーケットにおいて真に価値ある製品を届け、患者のQOL(生活の質)向上に寄与することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「患者さんのQOL向上に貢献する」をパーパスとして定めています。患者の生活の質の向上を第一に考え、医療機器の開発・製造・販売を通じて持続的な発展と企業価値の向上に努める姿勢を重視しています。また、リスク管理やコンプライアンスの遵守も重要な価値観として位置付けています。

(3) 経営計画・目標


同社は中期的な連結業績目標として、以下の数値を掲げています。
* 2026年3月期:売上高264億円、営業利益18.5億円、当期純利益14.5億円
* 2027年3月期:売上高287億円、営業利益25.5億円、当期純利益17.5億円
* 2028年3月期:売上高312億円、営業利益33億円、当期純利益23.5億円

(4) 成長戦略と重点施策


日本市場では、高齢化に伴う骨折や骨疾患患者の増加に対応し、高い治療成績が期待できる新製品を継続的に投入して症例数の拡大を目指します。また、三井化学との業務提携を通じた新製品開発や事業拡大も推進します。米国市場では、サプライチェーンの強化やデジタル技術への対応を進めるとともに、内製化比率の拡大や調達先の分散化によるコスト最適化プロジェクト(SAICOプロジェクト)を推進し、収益性の改善を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、社員一人ひとりがキャリアを考え、会社や上司との相互作用でキャリア形成につなげる仕組み(CMS)の強化を推進しています。社会や医療への貢献意識を醸成するとともに、属性を問わず個性を発揮できる環境づくりを目指しています。また、多様性の確保を重視し、能力や経験に応じた採用・登用を進めるとともに、ワークライフバランスに資する制度の充実や専門性向上のための研修プログラムの拡充に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.2歳 11.9年 7,472,345円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 11.5%
男性育児休業取得率 16.7%
男女賃金差異(全労働者) 77.7%
男女賃金差異(正規) 78.8%
男女賃金差異(非正規) 21.1%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職に占める中途採用者の割合(67.9%)、Myキャリア更新率(100.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) サプライチェーンに関するリスク


同社グループが販売する製品は、米国子会社ODEV社からの調達や他社からの仕入商品で構成されています。部材調達先での問題発生や、物流の遅延・停止が生じた場合、製品供給に支障をきたし、業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、調達先の多様化や自社製造比率の向上などの対策を講じています。

(2) 法規制、行政動向に関するリスク


医療機器販売は多くの法規制を受けており、国内の診療報酬改定による償還価格の引き下げや、米国の医療制度改革等の行政施策が収益に影響を与える可能性があります。これに対応するため、収益性の高い自社製品の販売拡大や製造コストの低減による収益構造の強化を図っています。

(3) 訴訟に関するリスク


製品の不具合、知的財産権、契約、労務、公正取引などに関わる訴訟リスクが存在します。実際に米国子会社での損害賠償請求訴訟が発生し、和解による費用計上が業績に影響を与えました。役職員による法令違反等は営業活動の制約や売上減少につながる恐れがあるため、コンプライアンス体制や教育の強化による未然防止に努めています。

(4) 為替変動に関するリスク


製品の多くを米国子会社から米ドル建てで輸入しているため、円安などの為替変動が仕入原価の上昇要因となり、収益を圧迫するリスクがあります。為替予約の活用によるリスク低減に努めているほか、アジア地域等での調達体制構築も進めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。