※本記事は、アスクル株式会社の有価証券報告書(第63期、自 2025年5月21日 至 2026年5月20日、2026年7月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アスクルってどんな会社?
同社は、オフィス用品や一般消費者向け日用品を迅速に配送するeコマース事業を展開しています。
■(1) 会社概要
1993年にプラスの事業部としてアスクル事業を開始し、1997年に事業を譲り受けて営業を開始しました。2000年にJASDAQ市場へ上場し、2012年には一般消費者向け通販サイトLOHACOのサービスを開始しました。2023年にはAP67を子会社化し、医療関連通販事業を拡大しています。
筆頭株主は業務・資本提携を結ぶLINEヤフーで、第2位は創業母体であるプラスです。グループ全体で3,646名、単体で976名の従業員を擁し、強固な物流ネットワークとITシステムを基盤に事業を推進しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| LINEヤフー | 46.89% |
| プラス | 11.54% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 4.26% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性4名の計13名で構成され、女性役員比率は30.8%です。代表取締役社長CEOは吉岡晃氏が務めており、全役員のうち8名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 吉岡晃 | 代表取締役社長CEO | 2001年同社に入社し、執行役員や取締役BtoCカンパニーCOOを歴任。2019年より現職。 |
| 川村勝宏 | 取締役COO | 2009年同社に入社し、BtoB事業企画本部長などを歴任。2025年より現職。 |
| 玉井継尋 | 取締役CFO | 2007年同社に入社し、財務広報室本部本部長などを歴任。2026年より現職。 |
| 保苅真一 | 取締役CTO | 2003年LINEヤフーに入社し、2022年同社に出向。2026年より現職。 |
| 今村俊郎 | 取締役常勤監査等委員 | 1977年プラスに入社し、1999年同社取締役に就任。2025年より現職。 |
社外取締役は、市毛由美子(のぞみ総合法律事務所パートナー)、青山直美(スタイルビズ代表取締役)、秋元里奈(ビビッドガーデン代表取締役社長)、石坂信也(ゴルフダイジェスト・オンライン代表取締役社長)、秀誠(LINEヤフー上級執行役員)、塚原一男(元IHI代表取締役副社長)、浅枝芳隆(浅枝芳隆公認会計士事務所所長)、中川深雪(香水法律事務所所長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「eコマース事業」「ロジスティクス事業」および「その他」事業を展開しています。
■eコマース事業
オフィス現場用品の翌日配送サービスや、一般消費者向け通信販売サイトLOHACOの運営、MRO商材や医療関連用品等の販売を行っています。事業所から個人まで幅広い顧客の多様なニーズに対応し、迅速かつ確実な配送網を提供しています。
収益源は、販売店であるエージェントを通じた顧客からの商品購入代金ならびに直接販売による売上です。運営は主にアスクルが担うほか、アルファパーチェスやチャーム、フィードなどの子会社がそれぞれの専門商材の販売を行っています。
■ロジスティクス事業
eコマース事業で培った物流ノウハウを生かし、企業向け物流や小口貨物輸送サービスを提供しています。メーカー等の通信販売向け商品の保管から物流、配送の請負までを一貫して引き受けています。
収益源は、外部の企業から受託する物流や配送サービスの提供によって得られる手数料です。事業の運営は、アスクルおよびLOHACOの物流も担っている子会社のASKUL LOGISTが主に行っています。
■その他
自然豊かな環境で採水されたミネラルウォーターなど、飲料水の製造および販売を行っています。
商品の販売による代金が主な収益源です。運営は子会社の嬬恋銘水が行っており、自社での製造機能を保有しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、eコマース需要の拡大を背景に増収基調が続いていましたが、当期はランサムウェア攻撃によるシステム障害で一時的に事業運営が停止した影響が大きく響きました。これにより売上高が減収に転じるとともに、復旧費用や機会損失が発生し、経常損失および当期損失を計上しています。
| 項目 | 2022年5月期 | 2023年5月期 | 2024年5月期 | 2025年5月期 | 2026年5月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4285億円 | 4467億円 | 4717億円 | 4811億円 | 4002億円 |
| 経常利益 | 143億円 | 144億円 | 167億円 | 138億円 | -191億円 |
| 利益率(%) | 3.3% | 3.2% | 3.5% | 2.9% | -4.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 92億円 | 98億円 | 191億円 | 91億円 | -222億円 |
■(2) 損益計算書
システム障害の影響による売上高の減少に加え、復旧過程で利益率の低い商品の出荷を優先したことや、過去最大規模の販売促進施策を実施したことにより売上総利益率が低下しました。また、固定費負担の増加や一時的な物流効率の低下から、営業損失へと転落しています。
| 項目 | 2025年5月期 | 2026年5月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4811億円 | 4002億円 |
| 売上総利益 | 1175億円 | 893億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.4% | 22.3% |
| 営業利益 | 140億円 | -174億円 |
| 営業利益率(%) | 2.9% | -4.4% |
販売費及び一般管理費のうち、配送運賃が210億円(構成比20%)、給与手当が195億円(同18%)、地代家賃が133億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
eコマース事業とロジスティクス事業の双方が、システム障害の発生による受注や事業の一時停止の影響を強く受け、減収となりました。一方、その他事業の飲料水販売等は堅調に推移したことで増収を確保しています。全体としては主力事業の落ち込みが大きく、大幅な減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年5月期) | 売上(2026年5月期) |
|---|---|---|
| eコマース事業 | 4722億円 | 3931億円 |
| ロジスティクス事業 | 82億円 | 63億円 |
| その他 | 7億円 | 8億円 |
| 連結(合計) | 4811億円 | 4002億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがマイナス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっていることから、本業のキャッシュ創出はマイナスに落ち込んでいるものの、資金調達を行いながら将来の成長に向けたインフラ等への投資を継続している勝負型の局面といえます。
| 項目 | 2025年5月期 | 2026年5月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 129億円 | -108億円 |
| 投資CF | -166億円 | -142億円 |
| 財務CF | -96億円 | 252億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-35.3%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も20.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社はパーパス(存在意義)として「仕事場とくらしと地球の明日に『うれしい』を届け続ける」を掲げています。また、創業からの企業理念である「お客様のために進化する」をDNAと位置付け、これらを総称した「ASKUL WAY」を基盤に、社会的意義のある新たな価値を創造し続けることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「ASKUL WAY」の重要な価値観(バリューズ)として「多様性と共創」を掲げています。多様な背景や価値観を持つ社員が互いの違いを尊重し、強みを活かし合うことが持続的な成長とイノベーションにつながると考えており、主体的な学びと挑戦、変化を恐れない企業文化を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2029年5月期を最終年度とする4年間の中期経営計画において、リテール事業の再成長と新たな価値提供領域の確立を推進し、以下の数値目標の達成を目指しています。
* 連結売上高:5,400億円
* 連結営業利益率:3.7%
* 連結株主資本利益率(ROE):20%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は成長基盤の再構築に向け、独自のビッグデータとAIを活用したマーケティングの高度化により顧客生涯価値(LTV)の最大化を図る「収益構造の改革」を進めています。また、ソリューション展開やM&Aを通じた「新たな価値提供領域の確立」を推進し、同時に最重要課題として情報セキュリティガバナンスを強化する「セキュリティ対策の強化」に取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人的資本への投資」を経営の重要課題と位置付け、事業戦略と連動した人材ポートフォリオの転換を進めています。AIの活用により既存業務の生産性を高め、創出された人材を新規事業などの戦略領域へシフトさせる方針です。これに伴い、AI活用人材、高度専門人材、および変革を主導する次世代経営人材の育成を重点的に推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年5月期 | 41.6歳 | 10.1年 | 7,159,914円 |
※平均年間給与には、賞与を含んでいます。なお、同社は年俸制を採用しています。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 22.8% |
| 男性育児休業取得率 | 105.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 82.7% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、戦略領域への人材シフト実績(55名)、認定職制度の運用・拡大領域(2領域)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サイバー攻撃とシステム障害のリスク
インターネットやITシステムへの依存度が高いため、ランサムウェア等のサイバー攻撃や大規模なシステム開発の遅延が発生した場合、長期間にわたる事業活動の停止、復旧費用の発生、機会損失や損害賠償が生じる可能性があります。同社は防御体制の強化やCISOの設置を進めていますが、想定を超える脅威が発生した場合には業績に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
■(2) ビジネスモデル変革の遅れに関するリスク
翌日配送など既存のビジネスモデルでの成功に過度に依存し、事業変革が遅れた場合や競合他社のサービス進化に対応できない場合、市場優位性を喪失し顧客離反を招く可能性があります。また、法改正への対応遅れや、M&A・新規事業立ち上げにおけるシナジー効果が計画通り発揮されない場合、同社グループの競争力や収益性が損なわれるリスクがあります。
■(3) AIの進化への対応不全によるリスク
生成AIをはじめとする技術の進展により事業環境が急変する中、AIの活用や専門人材の確保・育成が遅れると、競争力の低下を招く可能性があります。さらに、顧客の購買行動の変化に適切に対応できない場合の売上機会の喪失や、AIによる偽情報の拡散で企業ブランドが毀損された場合、事業運営に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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