アスクル 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アスクル 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場、オフィス用品等のeコマース事業を主力とする企業です。2025年5月期は主力事業における購入単価の上昇等により売上高は過去最高を更新して増収となりましたが、為替影響による原価上昇や物流拠点開設に伴う固定費増等により減益となりました。


※本記事は、アスクル株式会社 の有価証券報告書(第62期、自 2024年5月21日 至 2025年5月20日、2025年7月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アスクルってどんな会社?


オフィス用品通販のパイオニアであり、BtoB「ASKUL」とBtoC「LOHACO」を展開する企業です。

(1) 会社概要


1993年にプラスアスクル事業部として事業を開始し、1997年に分社独立しました。2000年にJASDAQ市場へ上場し、2004年には東証一部へ上場しました。2012年には一般消費者向け通販サイト「LOHACO」のサービスを開始し、ヤフー(現LINEヤフー)と業務・資本提携契約を締結しました。

連結従業員数は3,697名、単体では959名です。筆頭株主は事業提携先であるインターネット関連企業のLINEヤフー、第2位は創業母体である文具・オフィス家具メーカーのプラス、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
LINEヤフー 46.84%
プラス 11.05%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 5.95%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性4名の計13名で構成され、女性役員比率は30.8%です。代表執行役社長CEOは吉岡 晃氏です。社外取締役比率は38.5%です。

氏名 役職 主な経歴
吉岡 晃 代表取締役社長CEO 2001年同社入社。メディカル&ケア担当執行役員、取締役BtoCカンパニーCOO等を経て2019年より現職。
川村 勝宏 取締役COO 2009年同社入社。LOHACO事業本部本部長、執行役員営業本部本部長等を経て2022年より現職。
玉井 継尋 取締役CFO 2007年同社入社。財務広報室本部本部長、執行役員コーポレート本部本部長等を経て2020年より現職。
保苅 真一 取締役CTO 2003年ヤフー(現LINEヤフー)入社。同社出向を経て2023年より現職。
輿水 宏哲 取締役 2000年イー・グループ入社。ヤフー、はてな取締役、グリー執行役員等を経て2023年より現職。


社外取締役は、市毛 由美子(弁護士)、後藤玄利(Kotozna代表取締役)、塚原 一男(元IHI副社長)、青山 直美(スタイルビズ代表取締役)、秋元 里奈(ビビッドガーデン代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「eコマース事業」「ロジスティクス事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) eコマース事業


OA・PC用品、事務用品、生活用品、家具、食品、医療用品等の販売を行っています。事業所向けの「ASKUL」ではエージェント(販売店)を介した独自のモデルを採用し、一般消費者向けの「LOHACO」ではLINEヤフーと連携して展開しています。

収益は顧客からの商品購入代金です。ASKUL事業ではエージェントが代金回収を担い、同社は商品配送を行います。運営は主に同社が行うほか、連結子会社のアルファパーチェス(MRO商材)、チャーム(ペット用品)、フィード(歯科用品)等が各専門領域を担当しています。

(2) ロジスティクス事業


eコマース事業で培った物流ノウハウを活かし、企業の物流業務を一括して請け負う3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)事業や、小口貨物輸送サービスを展開しています。

収益は顧客企業からの物流業務受託料や配送委託料です。運営は連結子会社のASKUL LOGISTが行っており、同社グループの物流・配送サービスの基盤も担っています。

(3) その他


群馬県嬬恋村において、天然水の製造および販売を行っています。

収益は製造した商品の販売代金です。運営は連結子会社の嬬恋銘水が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、事業規模の拡大が続いています。一方、利益面では2024年5月期に受取損害賠償金の計上等により親会社株主に帰属する当期純利益が大きく伸びましたが、2025年5月期はその反動減や物流拠点関連費用等の影響により減益となりました。

項目 2021年5月期 2022年5月期 2023年5月期 2024年5月期 2025年5月期
売上高 4,222億円 4,285億円 4,467億円 4,717億円 4,811億円
経常利益 139億円 143億円 144億円 167億円 138億円
利益率(%) 3.3% 3.3% 3.2% 3.5% 2.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 78億円 92億円 98億円 191億円 91億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は増加したものの、売上原価の増加率が売上高の増加率を上回ったことや、販売費及び一般管理費の増加により、営業利益および経常利益は減少しました。特に売上総利益率は若干低下しています。

項目 2024年5月期 2025年5月期
売上高 4,717億円 4,811億円
売上総利益 1,175億円 1,175億円
売上総利益率(%) 24.9% 24.4%
営業利益 170億円 140億円
営業利益率(%) 3.6% 2.9%


販売費及び一般管理費のうち、配送運賃が213億円(構成比21%)、給与手当が188億円(同18%)、地代家賃が125億円(同12%)を占めています。

(3) セグメント収益


eコマース事業はASKUL事業の単価上昇やグループ会社の伸長により増収となりましたが、為替影響による原価率悪化や新物流センター関連費用により減益となりました。ロジスティクス事業は外部受託が減少し減収減益(営業損失)となりました。

区分 売上(2024年5月期) 売上(2025年5月期) 利益(2024年5月期) 利益(2025年5月期) 利益率
eコマース事業 4,624億円 4,722億円 171億円 143億円 3.0%
ロジスティクス事業 86億円 82億円 -1億円 -3億円 -3.6%
その他 7億円 7億円 0.3億円 1億円 15.0%
調整額 20億円 20億円 -0.3億円 -0.5億円 -
連結(合計) 4,717億円 4,811億円 170億円 140億円 2.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、本業で稼いだ資金で借入金の返済や投資、株主還元を行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態です。

項目 2024年5月期 2025年5月期
営業CF 169億円 129億円
投資CF -115億円 -166億円
財務CF -98億円 -96億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は34.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「お客様のために進化する」をDNAとし、2050年ビジョンとして「誰もがうれしい自分を次々と実現できる社会をつくる。」を掲げています。また、「ASKUL WAY」としてパーパス「仕事場とくらしと地球の明日に『うれしい』を届け続ける。」を定め、社会課題の解決と持続可能な社会の実現を目指しています。

(2) 企業文化


創業以来、「お客様のために進化する」というDNAが全社に根付いています。これは、中小事業所に大企業並みのサービスを提供するという創業の精神や、顧客の困りごとを解決したいという意志に基づいています。また、「1 box for 2 trees project」のような社会的責任を果たす活動や、パートナー企業との共創による価値還元を重視する文化があります。

(3) 経営計画・目標


新中期経営計画(2026年5月期~2029年5月期)では、2035年のあるべき姿を「Beyond Retail~小売を超えて、働くを革新する~」と位置づけ、以下の数値目標を掲げています。

* 連結売上高6,000億円
* 連結営業利益率5%
* 連結株主資本利益率(ROE)20%

(4) 成長戦略と重点施策


新中期経営計画では、「リテール事業の再成長」と「新たな価値提供領域の確立」の2つを重点テーマとしています。ASKUL事業では医療・介護等の対人サービス業種をターゲットとし、品揃え強化やオリジナル商品の開発を進めます。LOHACO事業ではLINEヤフーとの協業進化や物流一本化による効率化を図ります。また、蓄積されたデータや顧客基盤を活用したソリューションビジネスの推進や、M&A・他社協業による新規領域の拡大を目指します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「ASKUL WAY」への共感に基づき、主体的に学び挑戦し、多様な個性と共創して新たな価値を生み出す人材を求めています。「多様性の確保に向けた人材育成方針」として、社員一人ひとりがありたい姿を描き、主体的に学び、多様性を生かして共創できる人材の育成を掲げています。また、社員が心身ともに健康で能力を発揮できるよう、状況を多角的に把握し社内環境を整備する方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年5月期 41.3歳 9.6年 7,122,126円


※平均年間給与は、賞与を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 20.3%
男性育児休業取得率 72.0%
男女賃金差異(全労働者) 80.1%
男女賃金差異(正規雇用) 80.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 77.1%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、DX研修受講者比率(38.0%)、ウェルネスパフォーマンススコア(79.0%)、社員エンゲージメントスコア(60.4点)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 従業員および顧客の安全に関するリスク


物流センターや配送現場での事故、労働災害、熱中症リスクに加え、感染症拡大等による従業員の健康被害が発生した場合、事業運営に支障をきたす可能性があります。また、PB商品における健康被害や異物混入等が発生した場合、顧客の信頼を損ない業績に影響を与える可能性があります。

(2) 事業継続・サプライチェーンの分断リスク


大規模な自然災害や感染症の蔓延により、物流センターや配送網、サプライヤーが被害を受けた場合、サービスの継続が困難になる可能性があります。特に、特定の地域への機能集中やグローバルな調達網の寸断は、事業運営に重大な影響を及ぼすリスクがあります。気候変動に伴う影響も懸念されます。

(3) グローバル情勢・経済環境の変化


原材料価格の高騰、為替変動、地政学的リスクの高まり等は、調達コストの上昇や商品供給の不安定化を招く可能性があります。また、マクロ経済環境の悪化による顧客の購買意欲減退や、特定の商品の需要急増による供給逼迫も、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) システム障害やサイバー攻撃のリスク


同社事業はインターネット経由の受注やITシステムに依存しているため、基幹システムの障害、サイバー攻撃、不正アクセス等によるシステム停止や情報漏洩が発生した場合、事業運営の停止や社会的信用の低下、損害賠償費用の発生等により、業績に重大な影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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