【財務分析】230億円の減損計上でも株価好調なAGC 増配の理由は?

【財務分析】230億円の減損計上でも株価好調なAGC 増配の理由は?

日本のガラス業界でトップの座に君臨し、世界でも高いシェアを誇るAGC。近年は中国を始めとする途上国に押されて伸び悩み、2019年10月には230億円の減損計上を発表しました。その一方で2017年から増配傾向が続くなど強気の経営。財務諸表からその理由を分析します。


10月8日に減損計上を発表したのち、年初来高値を更新したAGC株価(2019年11月6日現在)

損益計算書(PL):収益予想は伸び悩み

AGCの2018年12月期の売上高は1兆5229億円、営業利益は1205億円でした。営業利益は4期連続増益。2017年12月期に、各事業での出荷数量増と買収した企業の連結化により前期比で大幅な増収増益を達成した後、さらに収益を上乗せしています。

ただし、2019年12月期の予想は、売上高1兆5400億円と微増ながら、営業利益は1050億円と減収の見込み。これにより、2018年12月期には7.9%だった営業利益率が6.8%に低下します。

ガラス業界は、大型液晶TVやスマホなどの普及で需要自体は増えているものの、中国を始めとする途上国の安価な製品に押され、伸び悩んでいる状況にあります。

セグメント分析:成長分野の電子・化学品が今後AGCの柱になっていく

AGCの事業は3つのセグメントで構成されます。

  • ガラス:建築用ガラス、自動車用ガラスなどの製造開発事業等
  • 電子:ディスプレイ用ガラス、電子部材、先端機能ガラスなどの製造開発事業等
  • 化学品:ガラス製造技術やその副産物を応用したクロール・アルカリ製品、ウレタン製品、フッ素化学品そのほかの製造開発事業等

2018年度のAGCのセグメント別の売上高は、ガラス7,575億円、電子2,526億円、化学品4,844億円となっており、本業のガラス事業が約5割を占めていることがわかります。途上国の台頭による浸食がすすむのはこのガラス分野ですので、この先はガラス事業に頼らないような企業体質を作り上げていくことが重要です。

AGCは新体制作りにすでに着手しており、中でも化学品セグメントの成長は著しいものがあります。現在はフッ素樹脂の市場シェアトップにあるなど、すでに単なるガラス企業を超えていることがわかります。

化学品セグメントは営業利益率が高いのも特徴です。売上高では3割を占める程度ですが、営業利益では6割を超える高水準となっており、今後は化学品セグメントの成長がますます期待されます。


出典:2018年12月期 通期決算説明会資料

貸借対照表(BS):高い株主資本比率で安定経営

AGCのBSを見ると、流動比率は4期連続で低下しており、2019年度には150%を下回るおそれも出ています。流動比率とは短期的な支払い能力を数値化したもので200%が安定水準と言われるので、低下が続いているのは好ましくありません。今後の課題です。

一方、AGCの株主資本比率は50%を超えています。株主資本比率とは長期的な経営力を数値化したもので、日本企業の平均は30%ほどと言われます。流動比率の低下を十分カバーしていると言えるでしょう。

なおAGCは、近年増配傾向にあるほか、2017年に株式併合を実施するなど投資家に配慮した経営姿勢が見られます。また、配当性向(税引き後利益に占める配当金の割合)は下記のように下がっており、今後も増配傾向が続く可能性は高いです。投資家にとって魅力があるのもうなずけます。

  • 2015年12月期:48.5
  • 2016年12月期:43.9
  • 2017年12月期:34.5
  • 2018年12月期:28.7

2015年には5年後・10年後を見据えた中長期計画を発表し、2018年に社名を「旭硝子株式会社」から「AGC株式会社」へ変更したばかりでもあります。社名変更以来、CMでAGCブランドをひろくアピールするなどして、知名度が定着してきたのは周知のとおりです。

★増配傾向についてのデータはありますか? 配当性向とともに「Q.AGCの配当性向は?」という項目を立ててもいいかもしれないと思いました。

キャッシュフロー計算書(CF):積極的な設備投資

AGCのCFを見ると、ここ数年は安定した推移を見せていることがわかります。2017年12月期に投資活動によるCFがマイナス2096億円と、前年度と比べて84.5%増加していますが、これはモロッコ、中国などアジア圏での大規模な設備投資によるものです。

2018年12月期から財務活動によるCFが黒字に転換しており、2019年12月期(予想)は減少ながらも黒字推移となる見込みです。黒字転換の理由は長期有利子負債の発行および借入を行ったことが挙げられます。2019年12月期も設備投資や買収、研究開発が活発に行われており、今後が期待されます。

★営業CFの低下について言及することは可能ですか?

資本効率分析:2019年度は減収予想

AGCのROE(自己資本利益率)・ROA(総資産利益率)は、ともに目覚ましい伸びを見せていましたが、2019年12月期第3四半期の減損計上が影響し、今期は減少の見込みです。

2019年12月期の親会社の所有者に帰属する当期純利益は410億円の見込みで、2018年12月期の896億円の半分の水準に低下します。ROEは3.8%という見通しが出ており、前年度の7.7%と比べると3.9ポイントの減少です。

★ROEの見通しの出典はわかりますか?

なお、2019年12月期第3四半期の減損計上には、ユーロ安も大きく関わっています。2018年12月期のユーロ/円レートは127.00円で計上したのに対し、2019年12月期第3四半期は118.02円となりました。

一方、ヨーロッパでの出荷は増加しており、業績低迷によるものではないと言えます。加えて石油やエチレン価格の変動など下方修正の原因がはっきりしたことで、悪材料出尽くしと見られ、増配や将来的な業績向上の期待感からAGC株が買われていると推測されます。

★何が「業績低迷によるものではない」のでしょうか。当期純利益の減少が、ですか。

まとめ:長期的期待感から株価上昇

AGCは現在、海外に多数の拠点を有しています。為替レートや原料価格の変動の影響を受けて2019年12月期第3四半期は減損を計上したものの、決して業績が悪化しているわけではなく、むしろ織り込み済みとして好意的に減損発表を受け止められ、株価に反映しました。

ガラス製造は従来、高度な技術が必要とされていましたが、近年は途上国の技術向上により、安価なガラス製品が出回るようになりました。そのため製品価格が低下し、本業のガラス事業は伸び悩んでいます。

今後も途上国の台頭は継続すると見られており、AGCは対策としてモロッコやインドネシアに新規工場を設立するほか、世界中で積極的にM&Aを進め、攻守ともに固めています。

設備投資の成果が出て回収可能となるにはまだ数年かかると見られますが、その間の財務状態が悪化しないよう、投資家目線でのPR活動をさかんに行い、自己資本比率を増やす努力が見られます。

窓を基地局化するガラスアンテナ。増大するモバイルネットワークの需要にこたえ、景観を損ねず使用することが可能(出典:NTTドコモ/AGC プレスリリース)

ガラス事業の先行きは不安な反面、ガラス製造で培った高度な技術を応用した素材・化学品セグメントは好調です。2019年10月に実用化された「窓を基地局化するガラスアンテナ」などはその一例でしょう。今後も研究開発費は増大する見込みですが、どこにもない新技術の誕生には夢が膨らみます。

以上のように、AGCは一見して伸び悩んでいるようですが、実際は設備投資の段階であり、回収は数年先といった状況です。一方で増配を続けながらも余裕のある財政状態で、為替リスクや原価変動リスクなどにも盤石な対策をとっているなど、内部経営は堅牢に固められています。安心して将来を任せられる企業と言えるでしょう。2020年、2025年のAGCの姿が見ものです。

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