1. AWSの事業構造と経営戦略
AWSは、Amazonグループの新規事業を支える「資本の供給源」であり、極めて高い収益性がAmazon全体を支えています。その一方で、AWSの競争環境を競合他社との関係で捉えておく必要もあります。
■1-1 利益の6割を創出する「投資原資」としての責任
AmazonのFY2024の通期決算を見ると、AWSがAmazonグループ内で果たしている役割の重さが際立ちます。売上構成比こそ17%程度(約1,080億ドル)ですが、営業利益はグループ全体の約60%(約354億ドル)を稼ぎ出しています。
特筆すべきは、30%を超える営業利益率の高さで、北米リテール部門の5%や国際部門の1〜2%という数字と比較すれば、AWSがいかに効率的なビジネスモデルであるかが分かります。
この高利益率は、AWSの「徹底した効率化への規律」の結果です。AWSの現場では、1セントのコスト削減が全社の投資余力に直結するという、研ぎ澄まされたコスト意識と運営能力(オペレーショナル・エクセレンス)が組み込まれています。
■1-2 競合比較から見る「構造的危機感」
AWSの利益率は驚異的ですが、競合他社と比較すると、その収益の「質」の違いが鮮明になります。ここには、AWSが「単独提供型」のビジネスモデルであるがゆえの、避けられない宿命が隠されています。
| クラウドサービス | 算出対象セグメント(2024年度実績) | 収益モデルの特性 | 営業利益率 | 戦略的焦点と「純粋性」の差異 |
|---|---|---|---|---|
| AWS | AWS部門 単独 | 単独提供型(Pure Cloud) | 33.4% | 「単独セグメント」として開示。抱き合わせに頼らず、インフラの運用効率等による原価抑制が利益の源泉。 |
| Microsoft Azure | Intelligent Cloud部門 | 抱き合わせ型(Software Bundle) | 47.0% | 既存資産との抱き合わせにより、3社中で突出した利益率を誇る。 |
| Google Cloud | Google Cloud部門 単独 | 単独提供型(Growth-focused) | 9.6% | 長年の赤字から黒字化へ転換。先行投資を継続しつつ、AWSの背中を追うフェーズ。 |
なお、MicrosoftはAWSよりも高い利益を誇りますが、これはIntelligent Cloud部門の数字であり、クラウドサービス(Azure)に加えてオンプレミス向けのサーバー製品(SQL ServerやWindows Server等)のライセンス料が含まれています。Google Cloudも、GCP(インフラ)とWorkspace(アプリ)を含む数字です。したがってAWSは、純粋なクラウドインフラとして世界で最も成功している事業です。
■1-3 「自社開発半導体」による垂直統合戦略
Microsoftのようなライセンス資産による「上層での利益上積み」が期待できないAWSは、利益率を維持しながら価格競争力を保つために、インフラの最下層、すなわち「半導体」まで遡って原価を支配する戦略を採っています。
NVIDIAのGPUは、1台あたり数百万円。これを自社開発チップに置き換えることで、CapEx(CapEx)は増えるが長期的なOpEx(運営費)を大幅削減できる可能性があります。
アニュアルレポートで巨額の資本支出と共に語られる「Trainium(学習用)」や「Inferentia(推論用)」といった自社開発チップへの投資は、NVIDIA等の外部サプライヤーへの高額な支払いを回避する「原価の引き下げ」と、それによって生み出された余力を顧客への「価格性能比」として還元する、AWS独自の垂直統合モデルの完成を意味しています。
■1-4 日本市場に課された「オンプレミス」の攻略
アニュアルレポートの中で、Amazonの経営陣は「世界全体のIT支出の90%以上が、まだオンプレミス(自社所有)に留まっている」と指摘しています。これは裏を返せば、既存のIT市場の大部分がまだクラウドの恩恵を受けていないという巨大な成長余地を意味します。
特に日本市場において、この「残り9割」の正体は、金融、公共、大手製造業の奥深くに鎮座するメインフレーム(大型汎用機)や古い基幹システムです。具体的には「銀行の勘定系システム」や「製造業のSCM基盤」「自治体の住民記録システム」といったものが挙げられます。
これらのレガシー資産をいかに解体し、AWSへ移行させるか。このミッションこそが、現在日本で募集されているエンジニアやコンサルタント、営業職に課せられた、避けては通れない最優先課題です。
2. AWSによる「メインフレームからの脱却」の実現性
AWSによるメインフレーム脱却(Modernization)の「実現性」については、投資家向けの「CEOから株主への手紙(Letter to Shareholders)」や、開発者向けカンファレンスでの発表資料において、より具体的かつ強気な言及がなされています。
経営陣のメッセージからは、単なる願望ではなく「技術的な解決策(自動化)を手にし、実現のフェーズに入った」という確信が読み取れます。
■2-1 「90%の未開拓市場」を攻略する経営的裏付け
10-Kにおいて繰り返し述べられる「IT支出の90%以上がいまだオンプレミスにある」という事実は、その中心にあるメインフレームを攻略できなければ、AWSの成長は頭打ちになることを意味します。
- 実現性の論理:AWSは、メインフレーム移行を単なるサーバーの引っ越しではなく、「データ活用の解放」と位置づけています。
- 具体的な言及:「メインフレームに閉じ込められたデータをAWS上のAI/機械学習に繋ぐためには、移行が不可欠である」という論理を展開しています。つまり、顧客側に「移行しなければ生成AI等の恩恵を受けられない」という強力な動機(経済的合理性)が生まれたことが、実現性を後押しする最大の要因であると分析しています。
■2-2 「AWS Blu Age」による変換の自動化(技術的裏付け)
AWSがメインフレーム移行の実現性を語る上で最大の根拠としているのが、2021年に買収した「Blue Age(現 AWS Blu Age)」という技術です。
- 開示内容の要旨:以前のCEOレターやサービス発表において、メインフレームからの脱却が難しかった理由は「手作業によるコードの書き換え」によるバグのリスクと膨大な工数であったと認めています。
- 実現性の根拠:Blu Ageは、COBOL等の古い言語をJava等の現代的な言語へ「自動的にリファクタリング(再構築)」するツールです。AWSはこれをマネージドサービスとして統合しました。これにより、人間の介在を最小限に抑え、移行の「スピード」と「正確性」を劇的に高めたことが、実現性を担保する最大の武器として示されています。
■2-3 生成AI(Amazon Q)によるコード変換の加速
Amazonの開示資料は、最新の戦略として「生成AI」がメインフレーム脱却の最後のピースになると言及されています。
- CEOの言及:アンディ・ジャシーCEOは、「Amazon Q Code Transformation」などの生成AI技術が、古いコードの理解と移行を劇的に加速させると述べています。
- 実現性の飛躍:これまではBlu Ageのような自動変換ツールでも対応しきれなかった「複雑なビジネスロジックの解読」を、AIが補助することで、移行のハードルをさらに下げたとしています。2024年度以降の戦略では、AIこそがメインフレーム脱却を、不可能な挑戦から「標準的なプロセス」に変える鍵であると強調されています。
3. 人材配置にみる戦略的意図
アニュアルレポートが示す戦略は、実際の求人票(Job Description)の「人材需要」として現れています。日本における採用トレンドを読み解くと、AWSジャパンが今どこにアクセルを踏もうとしているのかが鮮明に見えてきます。
■3-1 圧倒的なボリュームを占める「プロフェッショナルサービス」
現在、求人数で圧倒的なボリュームを占めているのが「プロフェッショナルサービス(ProServe)」です。かつてのクラウド導入支援は、いわば「サーバーの引っ越し」が主眼でしたが、現在の募集要件は、顧客のビジネスモデルそのものを再設計する「変革の実行支援」へと完全にシフトしています。
「メインフレームの刷新」や「セキュリティガバナンスの構築」といった職種が並んでいるのは、日本企業のIT刷新が、もはや汎用的な製品販売だけでは立ち行かないフェーズに入ったことを示唆しています。AWSは、顧客の内部に深く入り込み、泥臭く手を動かして変革を完遂させる(Deliver Results)実動部隊を拡充しようとしています。
■3-2 「実行責任者(エンゲージメントマネージャー)」が複雑なプロジェクトをさばく
各部門で共通して募集されている「エンゲージメントマネージャー」の存在は、プロジェクトの複雑化に対するAWSの危機感の表れです。
「生成AIの実装」や「大規模移行プロジェクト」は、技術的な難易度以上に、組織の合意形成や予算管理、タイムラインの調整といった「非技術的要素」が成否を分けます。技術を理解した上で、Amazon独自の合理的な意思決定プロセス(仕組み化)を顧客の組織にインストールできるリーダー。そのような「ハブ」となる人材の確保が、現在のAWSジャパンにおける最大の伸び代を左右するボトルネックとなっています。
■3-3 通年で募集される「DCEO(ファシリティエンジニア)」
アニュアルレポートでは、AIインフラの拡張に向けた「資本支出(CapEx)の大幅増額」が明言されています。日本でもデータセンターの拡張は急ピッチで進んでおり、そこを支える「DCEO(ファシリティエンジニア)」の求人は通年で出ています。
ソフトウェアの華やかさに隠れがちですが、電気、空調、物理セキュリティを自社で守り抜くことは、Amazonが最も大切にする「Ownership」の体現です。この物理レイヤーの信頼性がなければ、高い利益率も顧客からの信頼も一瞬で崩れ去るという緊張感の中で、インフラの根幹を支える人材が常に求められています。
以下の4~8では、「5つの主要職種の役割」を経営の視点から解読します。AWSが公開している求人票には、一見すると定型的な技術スタックや経験が並んでいますが、これらは全て、アニュアルレポートで示された「生成AIの普及」や「既存システムの刷新」といった高次な目標を達成するためのパーツとなります。
4. プロフェッショナルサービス(ProServe):変革の実行部隊
プロフェッショナルサービス(ProServe)は、AWSのサービスという「部品」を使い、顧客のために「変革」という名の完成品を組み上げる実働部隊です。アニュアルレポートが指摘する「IT支出の残り9割(オンプレミス市場)」を直接こじ開ける役割を担います。
■クラウド・アプリケーション・アーキテクト(メインフレーム刷新担当)
日本企業の屋台骨であるメインフレームからの脱却は、AWSにとって「最も難易度が高いが、最もリターンが大きい」領域です。
メインフレーム刷新を担うクラウド・アプリケーション・アーキテクトには、単にクラウドに詳しいだけではなく、数十年前の設計思想で動くCOBOL等の資産を、いかにビジネスの俊敏性を損なわずに現代的なアーキテクチャ(マイクロサービス等)へ再構築するか。その「解体と再構築」の全工程をリードする、高度なエンジニアリング能力が問われます。
■生成AIアドバイザリー・コンサルタント
生成AIは、実験(PoC)から「実運用」のフェーズへ移行しました。このフェーズでは、技術的な検証以上に「AIをビジネスに定着させるための仕組み(ガバナンス、セキュリティ、運用フロー)」を構築することが主眼となります。
生成AIアドバイザリー・コンサルタントには、顧客企業の法務やセキュリティ部門を説得しながら、「信頼できるAI」を現実のシステムとして着地させる調整力が求められます。
■セキュリティ・コンサルタント
企業のクラウド移行において、最大の障壁は常に「セキュリティへの懸念」です。
セキュリティ・コンサルタントは、AWSのセキュリティ機能の熟知を前提とし、ISMAP等の国内規制やグローバルなセキュリティ基準を顧客の経営課題にひもづけ、「クラウドの方が、自社運用よりも安全で効率的である」ことを論理的に証明し、移行への「心理的な壁」を取り払う役割です。
5. ソリューションアーキテクト(SA)/ PACE(プロトタイプ):未来の設計者
ソリューションアーキテクトは、顧客がAWSという広大なプラットフォームを使いこなすための「伴走者」であり、技術的な信頼関係を築くキーマンです。
■PACE(Prototyping and Cloud Engineering)
PACEは、アニュアルレポートで強調される「イノベーションの加速」を物理的に体現するチームです。
数週間という短期間で、顧客の課題を解決する動くプロトタイプを作り上げます。フルスタックの開発力はもちろん、Amazon Bedrock等の最新技術を「具体的にどう利益に結びつけるか」を即座に提示する、エンジニアリングとビジネス感覚の融合が不可欠です。
■インダストリー(業界特化型)SA
インダストリー(業界特化型)ソリューションアーキテクトの役割は、金融、製造、公共など、業界ごとの商慣習に深く入り込むことです。顧客のCTOや技術責任者と対等に渡り合い、数年先を見据えたITロードマップを共に描きます。
技術の深さと同時に、特定業界が直面している「痛み(ペインポイント)」に対する深い洞察が評価の分かれ目となります。
6. テクニカルアカウントマネージャー(TAM)および CSM:収益の守護者
AWSのビジネスは「契約して終わり」ではありません。利用を継続し、拡大してもらう「サブスクリプション型」の収益モデルを支えるのが彼らの役割です。
■エンタープライズサポート(TAM)
AWSが誇る「33%超の営業利益率」は、顧客の運用効率が向上して初めて維持されます。
エンタープライズサポート(TAM)は、顧客のシステムの「主治医」として障害の未然防止やコスト最適化(Rightsizing)を主導します。「インフラ運用の最適化」を顧客の財布レベルで実現し、顧客の信頼(Earn Trust)を維持する責任を負います。
■カスタマーソリューションマネージャー(CSM)
ツールを導入しても、組織が使いこなせなければ解約(チャーン)を招きます。
カスタマーソリューションマネージャー(CSM)には、顧客組織の「文化変革」や「スキル育成」を支援し、クラウドネイティブな組織へと顧客を脱皮させ、AWSの利用を「不可逆なもの」にするための、組織開発的なアプローチが求められます。
7. 営業(コマーシャル / 公共 / スタートアップ):市場の開拓者
営業職は、アニュアルレポートに記された「二桁成長」という目標を、具体的な契約に変換する最前線です。
■中央省庁・公共部門担当
日本のガバメントクラウド化は、Internationalセグメントの成長を左右する巨大な国家プロジェクトです。
中央省庁・公共部門担当は、行政特有の入札制度や政策方針を理解し、単なるサーバー売りではなく「国民サービスのデジタル化」という社会的大義と、AWSの成長を合致させる高度なストーリーテリングが求められます。
■スタートアップ営業
生成AI領域の新興企業は、未来の「ユニコーン企業(AWSの大口顧客)」です。スタートアップ営業担当には、ベンチャーキャピタルとの連携やAWSクレジット(利用枠)の提供を通じ、企業の成長を「支援」することで将来の収益源を育てる中長期的な視点が評価されます。
(44歳・営業・男性・年収1,800万円)シフト制なので残業は基本的には必要ない。達成すべき月間対応件数などのバーがあるので、そ勤務時間について特に問題を感じていない。外資系のイメージ通り、セルフマネージメントできる人にとっては最高の職場。働き方に縛りはない。福利厚生について特筆すべきものはない。[キャリコネで口コミを見る]
8. データセンター・オペレーション(DCEO / 安全管理):クラウドの礎
アニュアルレポートにおける「資本支出(CapEx)の増額」が物理的な形となったのが、データセンターです。DCEO(施設管理エンジニア)は、クラウドという概念を物理的に支える最後の砦です。数千台、数万台のサーバーを動かすための電気、空調、物理セキュリティを24時間365日維持します。
投資家に対してアニュアルレポートで約束した「高い可用性」と「信頼性」を、現場の作業(Ownership)で死守する、極めてプロフェッショナルな規律が求められます。
(30代前半・サポートエンジニア・男性・年収900万円)シフト制なので残業は基本的には必要ない。達成すべき月間対応件数などのバーがあるので、それに満たない場合は残業せざるを得ないが、自分の場合はさほど残業しなかった。[キャリコネで口コミを見る]
9. 選考対策──経営戦略を「自分の実績」へ紐付ける技術
AWSの採用プロセス、特に「ループ面接」と呼ばれる複数名による行動面接において合格点を勝ち取るためには、単にスキルセットが合致していることを証明するだけでは不十分です。
面接担当者およびバーレイザーが真に求めているのは、「あなたが過去に残した実績が、AWSが現在直面している経営課題に対していかに有効に機能するか」という明確な再現性です。
■9-1 評価されるエピソードの「質」を再定義する
AWSの面接官が注視しているのは、成功体験そのものの大きさよりも、そのプロセスにおける「思考の深さ」と「組織への波及効果」です。決算報告書の文脈から逆算すると、以下の3つの要素を含むエピソードが極めて高く評価されます。
1.「効率性」を定量的に証明した経験
- AWSの収益構造の根幹は「徹底した効率化」にあります。したがって、あなたの過去の実績においても「作業時間を〇%短縮した」「インフラコストを月額〇万円削減した」という話は、単なるコストダウンの報告ではなく、AmazonのDNAである「Operational Excellence(運用の卓越性)」への適性を示す強力なエピソードになります。
- 数字の裏側にある「なぜその改善が必要だったのか」「どのようにしてその数字を導き出したのか」という論理性が厳しく問われます。
2. 「不確実性」の中で、自立的に仕組みを構築した経験
- 生成AIのように正解がまだ定義されていない領域において、自ら仮説を立て、限られたデータから判断を下したプロセスを語ることが重要です。Amazonが好むのは、単に指示を完璧にこなす人より、「混乱の中で自ら仕組み(Mechanism)を作り、自分がその場を去った後も成果が出続ける状態を作れる人」です。
- エピソードの着地点を、自分が頑張ったという属人的な話ではなく、「このような仕組みを導入し、組織の標準とした」というスケールアップの視点で結ぶことが合格への近道です。
3. 「顧客の長期的利益」のために、摩擦を恐れず変革をリードした経験
- 既存システムの刷新には、常に現状維持を望む抵抗が伴います。顧客の要望をそのまま受け入れる(Order Takerになる)のではなく、顧客の5年後、10年後の利益を考え、あえて耳の痛い提案を行った経験はあるでしょうか。
- その際、どのようにして「Earn Trust(信頼を勝ち取る)」を行い、反対勢力を巻き込んだのか。その泥臭い調整能力こそが、現在のAWSが最も求めている「変革の実行力」です。
■9-2 現在の戦略下で最重視される行動指針(Leadership Principles)
AWSには16箇条の行動指針がありますが、決算報告書に記された「生成AIへの投資」と「レガシー資産の解体」という2大目標を達成するために、現在の選考で特に比重が高まっているのは以下の3つです。
◆Invent and Simplify(創造と簡素化)
- 複雑な課題に対し、高価なソリューションを提示するのではなく、いかにシンプルで低コストな技術解で解決したか。10-Kが掲げる「AIの民主化」や「垂直統合によるコスト抑制」という経営方針を、自身の仕事の進め方において体現できているかが評価されます。
◆Are Right, A Lot(正しくあることが、非常に多い)
- 「声の大きい人の意見」や「何となくの直感」に頼らず、徹底的にデータに依拠して正しい意思決定を行えるか。特に、既存のメインフレーム資産をクラウド化するような、リスクの高い判断を迫られる場面において、客観的な事実に基づき周囲を納得させた経験が問われます。
◆Ownership(オーナーシップ)
- 「それは自分の職務範囲外である」という境界線を引かず、全体の成功のために自分ができることは何かを考え抜く姿勢です。特に、部門横断的な協力が必要な大規模移行プロジェクトにおいて、この精神は欠かせません。
■9-3 Amazon独自の評価基準「バーレイザー」を意識する
AWSの面接には、そのチームのマネージャーとは別に「バーレイザー(Bar Raiser)」と呼ばれる、採用基準を中立的に担保する面接官が同席します。彼らの使命は「その候補者が、既存の社員の平均値(バー)を上回っているか」を判断することです。
そのため、面接での回答は、過去の自分がいかに優れていたかに終始せず、「入社後、AWSという組織をいかに高いレベルへ引き上げられるか」という貢献の視点を持つことが不可欠です。
10. AWSでキャリアを築くことの意味
これまで、米国本社の年次報告書というマクロな経営指針が、日本国内の採用現場における具体的なミッションへとどのように反映されているかを詳説してきました 。これらの事実を踏まえ、現在のAWSに身を置くことがキャリア形成にどのような価値をもたらすのかを総括します。
■10-1 日本市場における「トランスフォーメーション」という市場価値
日本国内のIT支出の9割がいまだオンプレミス(自社所有)に留まっているという現実は、視点を変えれば、これから先10年、20年をかけて日本社会が経験する「巨大なシステムの書き換え作業」が、まだ1割しか終わっていないという事実に他なりません。
AWSという、極めて規律の厳しい環境下で、「古い組織や文化をいかに動かし、最新のテクノロジーを実利(ビジネス価値)に結びつけるか」という変革のプロセスを経験することは、単なる技術習得を超えた重みを持ちます 。
ここで培われる「レガシーを解体し、モダンな仕組みを構築する力」は、エンジニアであれ営業であれ、将来的にどの業界や企業へ進むにしても通用する、普遍的かつ圧倒的な市場価値となるはずです。
■10-2 「仕組みの運用者」ではなく「構築者」への転換
AWSという組織で働くことは、世界最高峰の効率を誇る巨大なクラウドインフラの歯車として機能することではありません 。むしろ、その仕組みそのものを日々点検し、不備を見つけ、より優れた形へと再設計し続ける「構築者(Builder)」としての生き方を徹底的に求められます。
アニュアルレポートが示す通り、Microsoftをはじめとする強力な競合他社が利益率で肉薄している現状において、AWSが現状維持を選択することは、市場優位性を失うことを意味します 。そのため、AWSの社員には、既存の成功体験に安住することなく、自社製チップの開発や生成AIの垂直統合といった「自らコスト構造を書き換える挑戦」に主体的に関与し続ける姿勢が、どの職種においても不可欠な素養となります。
■10-3 「Day 1」の精神を経営視点で体現する
Amazonには「毎日が創業初日である(Day 1)」という有名な哲学がありますが、これを経営資料の視点で読み解けば、「昨日の成功に固執せず、今日の顧客のために、最も効率的で革新的な解を出し続ける」という極めてシビアな行動指針であることが分かります 。
AWSの選考は、この「Day 1」の精神を、自身の担当領域において具体的な数字と仕組みによって体現できる人物であるかを確かめる場です 。今回分析した経営層の視座を、あなた自身のキャリアを駆動させるための指針として活用してください 。
具体的な選考のテクニックや、全社共通の行動指針(Leadership Principles)の詳しい解説については、以下の基礎編を併せて参照してください 。
Amazon転職ガイド:米SEC年次報告書から読み解く会社の実態(FY2024版)
Amazonへの転職検討者必見。SEC提出の年次報告書(10-K)や最新のサステナビリティ報告書を基に、独自の統治OSを徹底分析。営業利益の約58%を稼ぐAWSの収益構造、長期オーナーシップを強制する報酬体系の裏側、150万人組織で断行される「脱・官僚主義」の実態まで、公式一次資料からAmazonの実態を読み解きます。



2019年より企業口コミサイト「キャリコネ」担当として、数多くの企業の口コミ情報、決算資料、中期経営計画を横断的に分析。現在はリサコ編集部長として、一次情報と現場の声を突き合わせた企業研究コンテンツの企画・編集・品質管理を統括し、転職希望者の意思決定に資する情報提供を行っている。