矢作建設工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

矢作建設工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

矢作(やはぎ)建設工業は、東証プライム・名証プレミアに上場する総合建設会社です。建築、土木、不動産事業を展開し、鉄道関連工事に強みを持ちます。直近の決算では、大型工事の施工進捗により大幅な増収となりましたが、資材価格高騰や販管費の増加等により、利益面では減益となりました。


※本記事は、矢作建設工業株式会社 の有価証券報告書(第84期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年06月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 矢作建設工業ってどんな会社?


名古屋鉄道グループのゼネコンとして、東海圏を中心に建築・土木工事や不動産開発を手掛ける企業です。独自の耐震技術などエンジニアリング力に特徴があります。

(1) 会社概要


1949年に設立され、1967年に名鉄建設と合併しました。1995年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、2003年には耐震補強事業を行うピタコラム(現連結子会社)を設立しました。2022年の市場区分見直しに伴い、プライム市場へ移行しています。近年では2023年に北和建設を子会社化するなど、事業基盤の強化を進めています。

連結従業員数は1,392名、単体では966名です。筆頭株主は鉄道事業などを展開する名古屋鉄道で、同社の「その他の関係会社」に該当します。第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は取引先持株会となっており、名鉄グループの一員として安定した株主構成を維持しています。

氏名 持株比率
名古屋鉄道 19.08%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.02%
矢作建設取引先持株会 6.89%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性2名(社外取締役含む)の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は髙柳充広氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
髙柳 充広 代表取締役社長建築事業本部担当 1984年入社。管理本部副本部長兼総務部長、取締役兼専務執行役員などを経て、2015年より現職。
名和 修司 代表取締役副社長土木事業本部長 兼 鉄道技術研修センター担当 兼 中央安全衛生委員会委員長 1984年入社。常務執行役員大阪支店長、取締役兼専務執行役員などを経て、2021年より現職。
山下 隆 代表取締役副社長コーポレート本部長 1984年入社。執行役員東日本カンパニー副カンパニー長、代表取締役兼専務執行役員などを経て、2023年より現職。
後藤 修 取締役営業統括本部長 2017年入社。常務執行役員東日本支社長などを経て、2021年より現職。
清水 賢治 取締役建築事業本部長 兼 エンジニアリングセンター長 1986年入社。建築事業本部施工本部長などを経て、2023年より現職。
髙﨑 裕樹 取締役 名古屋鉄道入社。同社代表取締役社長などを経て、2023年より現職。


社外取締役は、石原真二(石原総合法律事務所所長)、中川由賀(中京大学法学部教授)、坂英臣(坂角総本舗代表取締役会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「建築」「土木」「不動産」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 建築セグメント


オフィスビル、工場、物流施設、駅舎などの建築工事請負や、独自の耐震補強工法による診断・設計・施工サービスを提供しています。また、建設用資材の販売も行っています。民間工事が主体ですが、名古屋鉄道からの駅舎建築工事なども継続的に受注しています。

工事請負金や資材販売代金などが主な収益源です。運営は主に矢作建設工業が行うほか、子会社の矢作ビル&ライフ、北和建設が建築事業を、テクノサポートが資材販売や耐震補強サービスを担当しています。

(2) 土木セグメント


道路、トンネル、橋梁、造成などの土木工事や、鉄道関連工事(軌道新設・保守など)を請け負っています。また、緑化工事やゴルフ場の運営・維持管理、独自の補強土工法「パンウォール」に関する事業も展開しています。

工事請負金やゴルフ場利用料などが収益となります。運営は矢作建設工業に加え、ヤハギ道路(道路舗装)、ヤハギ緑化(緑化工事)、テクノサポート(特殊工法)、南信高森開発(ゴルフ場運営)が行っています。

(3) 不動産セグメント


マンションの分譲、不動産の賃貸、商業施設や産業用地の開発などを行っています。また、ビル・マンションの管理やカスタマーサービス事業も手掛けています。

分譲マンションの販売代金、不動産賃貸料、管理手数料などが収益源です。運営は矢作建設工業が不動産売買・賃貸を行うほか、子会社の矢作地所がマンション分譲や開発を、矢作ビル&ライフが管理業務等を担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあり、特に直近では大型工事の施工進捗により大きく伸長しています。一方、利益面では資材価格の高騰や販管費の増加などが影響し、増減を繰り返しています。直近では増収ながらも減益となっており、利益率の改善が課題となっています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,066億円 931億円 1,111億円 1,198億円 1,407億円
経常利益 74億円 62億円 73億円 96億円 86億円
利益率(%) 7.0% 6.6% 6.5% 8.0% 6.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 28億円 45億円 46億円 53億円 46億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上高が約17%増加した一方で、売上原価の増加率がそれを上回ったため、売上総利益は微減となりました。また、販売費及び一般管理費も増加しており、営業利益は減少しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,198億円 1,407億円
売上総利益 198億円 194億円
売上総利益率(%) 16.5% 13.8%
営業利益 95億円 87億円
営業利益率(%) 7.9% 6.2%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が43億円(構成比40%)、販売費が8億円(同7%)を占めています。

(3) セグメント収益


建築セグメントは大型物流施設工事などの進捗により大幅な増収増益となりました。土木セグメントは民間工事を中心に堅調でしたが減益となりました。不動産セグメントは前年に計上した大型案件の反動により減収減益となっています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
建築 654億円 872億円 12億円 21億円 2.4%
土木 314億円 321億円 49億円 44億円 13.8%
不動産 230億円 214億円 78億円 63億円 29.7%
連結(合計) 1,198億円 1,407億円 95億円 87億円 6.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっていますが、これは主に大型建築工事の進捗に伴う売上債権の増加(約186億円)によるものであり、事業拡大に伴う運転資金需要の増加が要因と考えられます。

企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.3%で市場平均(プライム非製造業)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.7%で市場平均を上回っています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 102億円 -172億円
投資CF -12億円 -3億円
財務CF -119億円 131億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「誠実・進取・創造」を企業理念とし、「建設エンジニアリングによる価値創造を通して、従業員の自己実現と企業の持続的成長を目指す」ことを経営理念としています。建築・土木の専門知識に加え、様々な要素を統合することで、顧客のニーズを上回る付加価値を生み出すことを目指しています。

(2) 企業文化


2030年度の目指す姿として「課題解決&価値創造型企業」を掲げています。これは、顧客・地域・社会が抱える課題を解決するだけでなく、建設エンジニアリングによって新たな価値を創造・提供し、持続的発展に貢献するという姿勢を表しています。

(3) 経営計画・目標


2021年度から2025年度までの中期経営計画では、最終年度の数値目標として以下を掲げています。
* 売上高:1,300億円
* 営業利益:100億円
* ROE:10%以上

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画の後半においては、既存事業の深化・進化と新規分野の開拓を両立し、加速度的な成長基盤を構築することを目指しています。建設生産プロセスの改革、新規技術・サービスの開発、事業エリアの拡大、パートナーとの価値共創などに取り組みます。また、配当方針として自己資本配当率(DOE)を導入し、累進配当を基本とする方針に変更しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「課題解決&価値創造人財」の育成・創出を掲げ、多様性のある建設エンジニア人財の拡充、従業員の成長を後押しする仕組みづくり、輝ける環境の整備を柱としています。採用領域の拡大や女性・外国籍人財の活躍推進、管理職のマネジメント改革などを通じて、エンゲージメントの向上と企業の持続的成長を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.6歳 17.4年 8,093,006円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.0%
男性育児休業取得率 69.6%
男女賃金差異(全労働者) 58.9%
男女賃金差異(正規雇用) 63.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 57.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント調査(平均値)(5.05)、外国籍人財の在籍人数(31名)、女性人財の新卒採用実績(技術系)(18%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原材料価格の高騰と調達難


建設資材の価格高騰や品不足が継続しており、これによる工事原価の上昇や工期の遅延が発生するリスクがあります。同社は早期の発注や調達ルートの多様化などで対応していますが、想定以上の価格変動は業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 建設業界の人手不足


少子高齢化に伴う建設技能労働者の不足が深刻化しており、労務費の上昇や施工能力の制約につながる恐れがあります。同社は働き方改革の推進や生産性向上、協力会社との連携強化により人材確保に努めていますが、労働力不足は中長期的な課題です。

(3) 法的規制とコンプライアンス


建設業法、建築基準法、労働安全衛生法など多数の法的規制を受けており、法令違反が発生した場合は指名停止処分や社会的信用の失墜を招くリスクがあります。同社はコンプライアンス教育の徹底や内部通報制度の運用により、法令遵守体制の強化を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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