矢作建設工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

矢作建設工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

矢作建設工業は東証プライム市場および名証プレミア市場に上場し、建築工事・土木工事などの建設事業と、マンション分譲を中心とした不動産事業を展開する企業です。直近の業績は、大型物流施設工事や手持ち工事の順調な進捗により、売上高約1,694億円、経常利益約137億円と大幅な増収増益を達成し、好調に推移しています。


※本記事は、矢作建設工業株式会社の有価証券報告書(第85期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

1. 矢作建設工業ってどんな会社?


同社は東海圏を地盤とし、建築・土木の設計施工から不動産開発まで一貫して手がける総合建設企業です。

(1) 会社概要


1949年に設立され建設事業を開始しました。1982年に名証二部、1995年に東証一部へ上場を果たしました。近年は事業ポートフォリオの最適化を進め、2026年には子会社が運営する分譲マンション関連事業を譲渡するなど、経営資源の選択と集中を図りながら、中長期的な企業価値向上を目指しています。

現在の従業員数は連結で1,491名、単体で1,032名です。筆頭株主は事業パートナーであり関係会社でもある名古屋鉄道で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位には取引先持株会が名を連ねています。強固な取引基盤と安定した資本関係を背景に、地域インフラの整備や産業用地開発などを推進しています。

氏名 持株比率
名古屋鉄道 19.02%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10.44%
矢作建設取引先持株会 7.04%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長 建築事業本部担当は髙柳充広氏が務め、取締役6名のうち社外取締役が2名を占めています。

氏名 役職 主な経歴
髙柳充広 代表取締役社長建築事業本部担当 1984年同社入社。第二営業本部長、管理本部副本部長などを経て、2011年取締役兼常務執行役員に就任。2012年取締役兼専務執行役員を経て、2015年より現職。
名和修司 代表取締役副社長土木事業本部長 兼 鉄道技術研修センター担当 兼 中央安全衛生委員会委員長 1984年同社入社。第一営業部長、大阪支店長兼西日本地区担当などを歴任。2007年取締役兼常務執行役員、2016年取締役兼専務執行役員を経て、2021年より現職。
山下隆 代表取締役副社長コーポレート本部担当 1984年同社入社。経理部長、東京支店副支店長などを歴任。2011年取締役兼常務執行役員、2016年取締役兼専務執行役員を経て、2023年より現職。
髙﨑裕樹 取締役 1983年名古屋鉄道入社。同社取締役、常務取締役などを経て、2021年に同社代表取締役社長に就任。2021年同社社外監査役を経て、2023年より現職。


社外取締役は、中川由賀(中京大学法学部教授)、大野智彦(元トーエネック代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「建築セグメント」「土木セグメント」「不動産セグメント」を展開しています。

建築セグメント


耐震補強工事を含む建築工事全般および建設用資材の販売、独自の外付耐震補強工法による耐震診断やコンサルティングから設計・施工までの一連のサービスを提供しています。主に民間企業や名古屋鉄道などの関係会社を顧客としています。

顧客から建築工事の請負代金や耐震補強サービスの提供対価を受け取る収益モデルです。運営は同社のほか、子会社の矢作ビル&ライフや北和建設が建築事業を、テクノサポートが建設用資材の販売や耐震補強サービスの提供を担っています。

土木セグメント


土木・鉄道工事全般の請負や、道路舗装、緑化工事、ゴルフ場の維持管理などの関連事業を提供しています。国土交通省や自治体などの官公庁に加え、名古屋鉄道からの鉄道工事を継続的に受注し、社会インフラの整備に貢献しています。

発注者からの土木・鉄道工事の請負代金などが主な収益源です。運営は同社が主体となり、子会社のヤハギ道路が道路舗装等を、ヤハギ緑化が緑化工事等を、テクノサポートが補強土工法を、南信高森開発がゴルフ場の運営を担当しています。

不動産セグメント


分譲マンションの開発・販売をはじめ、不動産の売買や賃貸、ビル・マンション管理などの事業を展開しています。一般消費者向けの住宅提供や企業向けの不動産ソリューションを提供し、生活やビジネスの基盤を支えています。

顧客からの不動産売買代金や賃貸収入、マンション管理費などを収益としています。同社が不動産事業を営むほか、矢作地所が分譲マンションや不動産開発を、矢作ビル&ライフがビル・マンション管理やカスタマーサービスを担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績は、売上高が継続して拡大しており、直近では1,694億円と大幅な増収を達成しています。経常利益も一時的な踊り場はあったものの、当期は大型案件の進捗や収益性の改善により137億円に達し、売上高・利益ともに力強い成長トレンドを描いています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 931億円 1,111億円 1,198億円 1,407億円 1,694億円
経常利益 62億円 73億円 96億円 86億円 137億円
利益率(%) 6.6% 6.5% 8.0% 6.1% 8.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 45億円 46億円 53億円 46億円 85億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で大きく伸び、それに伴い売上総利益や営業利益も大幅に増加しています。特に収益性の高い大型の建築・土木工事が順調に進捗したことなどから、売上総利益率および営業利益率ともに改善し、本業の稼ぐ力が向上していることが確認できます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1,407億円 1,694億円
売上総利益 108億円 189億円
売上総利益率(%) 7.7% 11.1%
営業利益 87億円 137億円
営業利益率(%) 6.2% 8.1%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が44億円(構成比36%)、賞与引当金繰入額が3億円(同3%)を占めています。また、売上原価1,434億円のうち、完成工事原価が1,313億円(構成比92%)、不動産事業等売上原価が122億円(同9%)となっています。

(3) セグメント収益


主力の建築セグメントは、大型物流施設などの工事進捗により前期比で大幅な増収となりました。土木セグメントも豊富な手持ち工事が寄与し増収を達成しています。一方、不動産セグメントはマンション販売戸数の減少等により減収となりましたが、全体としては建設事業が牽引し成長を遂げています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
建築セグメント 872億円 1,125億円
土木セグメント 321億円 385億円
不動産セグメント 214億円 184億円
連結(合計) 1,407億円 1,694億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがプラス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益や資産売却によって得た資金で借入の返済を進める改善型のキャッシュ・フロー状況を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -172億円 98億円
投資CF -3億円 19億円
財務CF 131億円 -112億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も51.5%と市場平均を上回っており、収益性と健全性を高い水準で両立させています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「建設エンジニアリング」を経営理念に掲げています。これは、安全性、経済性、実用性を兼ね備えた社会にとって有用なモノや環境を作り出すことを意味します。これまで培ってきた建築・土木の専門知識に加え、土地や資金、情報などの要素を統合し、顧客ニーズを上回る新しい価値を提供することで社会課題の解決を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「誠実・進取・創造」を企業理念として掲げ、従業員一人ひとりの成長と幸福の実現を企業の持続的成長の基盤とする文化を大切にしています。多様化する社会の要請に応え、常に新しい価値を創出する「課題解決&価値創造型企業」への変革を目指し、ステークホルダーとの信頼関係を重視した事業運営を行っています。

(3) 経営計画・目標


同社は2030年度の目指す姿を「課題解決&価値創造型企業」と定め、2026年度から2030年度を対象とする新中期経営計画を策定しています。企業価値を事業価値と無形資産価値の掛け合わせと捉え、持続的な成長を実現するため、以下の数値目標を掲げています。

- 営業利益:180億円以上
- ROE:12%以上
- 自己資本比率:40%以上
- D/Eレシオ:1.0倍以下

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、事業価値と無形資産価値の双方を加速度的に増強することで企業価値を持続的に向上させる戦略を描いています。既存のコア事業における稼ぐ力の追求や価値創出の最大化に加え、新規成長領域への挑戦と事業変革を推進します。さらに、積極的な投資による人的資本の最大化と組織風土改革による生産性向上を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「選ばれる会社、働き続けたい会社」の実現を目指し、人的資本戦略として「活力最大化戦略」を掲げています。従業員一人ひとりの能力・意欲・環境の向上を通じて活力を最大化し、これを組織力へと転換することで生産性向上を図ります。多様な専門人財の戦略的獲得や育成の強化、働き方改革や健康経営など持続可能な就業環境の整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.4歳 16.9年 8,523,190円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.0%
男性育児休業取得率 93.5%
男女賃金差異(全労働者) 61.4%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 62.1%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 97.9%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(5.01)、新卒・キャリア採用合計人数(151名)、グループ全体の男性育児休業取得率(92.3%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 建設資材の高騰とインフレの影響


インフレによる資材や人件費の高騰、サプライチェーンの混乱による調達難が利益を圧迫するリスクがあります。同社は、請負代金への適切な価格転嫁を進めるとともに、主要資材の早期発注・確保やデジタライゼーションによる業務効率化を図ることで、急激な物価変動やコスト増の影響を最小限に抑えるよう取り組んでいます。

(2) 建設業界における人材不足


技術労働者の高齢化や新規入職者の減少により、施工体制や事業活動に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、同社はAIを活用した施工管理の自動化や省力化工法の採用で生産性を向上させるほか、働きやすい就業環境の整備や協力会社の処遇改善を通じて、多様で優秀な人財の確保・育成に努めています。

(3) 大規模災害および気候変動の影響


地震や台風などの自然災害の激甚化や、脱炭素社会に向けた環境規制の強化が建設現場の操業やコストに影響を与えるリスクがあります。同社は事業継続計画(BCP)の強化やインフラのレジリエンス向上に取り組むとともに、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)などの環境配慮型建築を推進し、新たな事業機会の創出を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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