※本記事は、キッコーマン株式会社 の有価証券報告書(第108期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. キッコーマンってどんな会社?
醤油の世界トップブランドとして知られ、調味料や飲料等の製造・販売および食品卸売を世界的に展開する食品メーカーです。
■(1) 会社概要
1917年に野田醤油として設立され、1949年に株式を上場しました。1957年に米国販売会社を設立するなど早期から海外展開を進め、1980年に現在のキッコーマンに商号を変更しました。2009年には持株会社制へ移行し、グループ経営体制を強化しています。
2025年3月31日時点で、同社グループは連結従業員7,716名、単体623名の体制です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行、第3位は千秋社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 19.00% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.33% |
| 千秋社 | 3.56% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性15名、女性1名(監査役含む)の計16名で構成され、女性役員比率は6.3%です。代表取締役社長CEOは中野祥三郎氏が務めています。取締役12名のうち社外取締役は5名で、比率は41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 中野 祥三郎 | 代表取締役社長CEO | 1981年同社入社。経営企画部長、CFO等を経て、2019年キッコーマン食品社長。2021年代表取締役社長COO、2023年6月より現職。 |
| 堀切 功章 | 代表取締役会長 | 1974年同社入社。国際事業本部長、キッコーマン食品社長、代表取締役社長CEO等を歴任し、2023年6月より現職。 |
| 茂木 友三郎 | 取締役名誉会長取締役会議長 | 1958年同社入社。海外事業部長を経て1995年社長就任。2004年代表取締役会長CEOを務め、2011年6月より現職。 |
| 茂木 修 | 代表取締役専務執行役員国際事業本部長 | 1996年同社入社。海外事業部長、国際事業本部副本部長等を経て、2017年より国際事業本部長。2023年6月より現職。 |
| 島田 政直 | 取締役専務執行役員 | 1973年同社入社。2012年KIKKOMAN SALES USA,INC.取締役社長に就任。2016年6月より現職。 |
| 松山 旭 | 取締役常務執行役員研究開発本部長 | 1980年同社入社。2008年より研究開発本部長。2017年キッコーマンバイオケミファ代表取締役社長を経て、2018年6月より現職。 |
| 神山 隆雄 | 取締役常務執行役員CFO(最高財務責任者) | 1979年同社入社。経理部長、執行役員等を経て、2017年よりCFO。2021年6月より現職。 |
社外取締役は、福井俊彦(元日本銀行総裁)、井口武雄(三井住友海上火災保険名誉顧問)、飯野正子(津田塾大学名誉教授)、杉山晋輔(元外務事務次官)、遠藤信博(日本電気特別顧問)です。
2. 事業内容
同社グループは、「国内 食料品製造・販売」、「国内 その他」、「海外 食料品製造・販売」および「海外 食料品卸売」事業を展開しています。
■(1) 国内 食料品製造・販売
国内において、主力の醤油をはじめ、つゆ・たれ等の調味料、デルモンテブランドのトマト加工品・飲料、豆乳飲料、みりん・ワイン等の酒類の製造・販売を行っています。家庭用から業務用まで幅広い顧客に製品を提供しています。
製品の販売対価として顧客から収益を得ています。主な運営会社は、醤油事業を担うキッコーマン食品、飲料事業のキッコーマンソイフーズ、調味料等の日本デルモンテなどです。
■(2) 国内 その他
医薬品、化成品(臨床診断用酵素、ヒアルロン酸等)の製造・販売に加え、不動産賃貸、物流、グループ会社への間接業務提供などを行っています。
製品の販売対価やサービスの提供対価、賃貸料などを収益源としています。運営は、キッコーマンバイオケミファ(医薬品・化成品)、総武物流(物流)、キッコーマンビジネスサービス(間接業務)などが担っています。
■(3) 海外 食料品製造・販売
海外(北米、欧州、アジア・オセアニア等)において、醤油やデルモンテブランドの加工食品等の製造・販売を行っています。現地の食文化に融合した商品展開を進めています。
各国の顧客への製品販売により収益を得ています。運営は、米国のKIKKOMAN FOODS, INC.、欧州のKIKKOMAN FOODS EUROPE B.V.、アジアのKIKKOMAN (S) PTE. LTD.などが担っています。
■(4) 海外 食料品卸売
北米、欧州、アジア・オセアニア等の各地域において、日本食材を中心とした東洋食品等の仕入・販売を行っています。現地の日本食レストランや小売店などが主な顧客です。
商品の卸売販売による対価を収益源としています。運営は、米国のJFC INTERNATIONAL INC.をはじめとするJFCグループ各社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上収益、利益ともに着実な拡大傾向にあります。特に売上収益は毎期増加しており、事業規模の拡大が続いています。利益面でも、原材料価格の高騰等の影響を受けつつも、価格改定や海外事業の成長により、税引前利益および当期利益は増加トレンドを維持しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,394億円 | 5,164億円 | 6,189億円 | 6,608億円 | 7,090億円 |
| 税引前利益 | 432億円 | 542億円 | 608億円 | 756億円 | 838億円 |
| 利益率(%) | 9.8% | 10.5% | 9.8% | 11.4% | 11.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 312億円 | 389億円 | 437億円 | 564億円 | 617億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の比較では、売上収益の増加に伴い、売上総利益も増加しています。売上総利益率、営業利益率ともに改善傾向にあり、収益性の向上が見られます。増収効果に加え、コストコントロールや高付加価値化の取り組みが奏功し、安定した収益構造を維持しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 6,608億円 | 7,090億円 |
| 売上総利益 | 2,287億円 | 2,392億円 |
| 売上総利益率(%) | 34.6% | 33.7% |
| 営業利益 | 667億円 | 737億円 |
| 営業利益率(%) | 10.1% | 10.4% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が591億円(構成比36%)、物流費が329億円(同20%)を占めています。売上原価においては、原材料費や製造経費などが含まれます。
■(3) セグメント収益
全セグメントで売上収益が増加しました。特に海外の食料品卸売事業と食料品製造・販売事業が売上・利益ともに大きく貢献しており、グループ全体の成長を牽引しています。国内食料品製造・販売事業は増収ながらも減益となっており、原材料高騰等の影響が見られます。海外事業の利益率の高さが際立っています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 国内 食料品製造・販売 | 1,480億円 | 1,543億円 | 95億円 | 85億円 | 5.5% |
| 国内 その他 | 212億円 | 216億円 | 9億円 | 12億円 | 5.4% |
| 海外 食料品製造・販売 | 1,543億円 | 1,672億円 | 355億円 | 399億円 | 23.8% |
| 海外 食料品卸売 | 3,750億円 | 4,075億円 | 301億円 | 304億円 | 7.5% |
| 調整額 | -376億円 | -416億円 | -25億円 | -27億円 | - |
| 連結(合計) | 6,608億円 | 7,090億円 | 734億円 | 773億円 | 10.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の営業活動で得た資金の範囲内で投資活動や借入金の返済、株主還元を行っており、財務基盤の安定性が高い「健全型」の状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 808億円 | 740億円 |
| 投資CF | -430億円 | -385億円 |
| 財務CF | -314億円 | -461億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は74.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「消費者本位」を基本理念とし、食文化の国際交流をすすめ、地球社会にとって存在意義のある企業をめざすことを経営理念としています。消費者の満足を第一に考え、安全で高品質な商品を安定的に供給するとともに、世界中で価値ある商品・サービスの提案を行うことを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は、「キッコーマンの約束」として、「こころをこめたおいしさで、地球を食のよろこびで満たします。」という姿勢を明文化しています。創業以来、自然環境や人、社会とのつながりを大切にする文化を育み、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献することで、世界中の人々から信頼される存在となることを目指しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年に向けた将来ビジョン「グローバルビジョン2030」を策定し、キッコーマン醤油のグローバル・スタンダード化などを目指しています。また、2025年度から2027年度までの中期経営計画では、成長の継続と収益力の維持・向上等を重点課題としています。
* 売上成長率(為替差除き):年平均5%以上
* 事業利益率:10%以上
* ROE:12%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
海外では、北米における第3工場の稼働(2026年後半予定)を含めた供給体制整備や、欧州・アジア・南米等での市場開拓を進め、醤油事業のさらなる成長を図ります。卸売事業では家庭用市場の拡大や販売体制強化に取り組みます。国内では、高付加価値化や生産性向上により収益力を高め、成長軌道への回帰を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「多様な人財一人ひとりの活躍」と「社員が能力発揮できる組織」を目指し、自律的に行動し価値を創造できる「プロ人財」の育成を掲げています。グローバルに活躍できる人財の育成やデジタル人財の強化を進めるとともに、人権尊重を基盤としたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進や、健康経営、柔軟な働き方の環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.5歳 | 14.2年 | 8,231,842円 |
※平均年間給与は基準外手当及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 12.7% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 45.2% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 自然災害等
日本、米州、欧州、アジア等に生産拠点を展開していますが、地震、気象災害、大規模事故等により生産停止やサプライチェーンの分断が発生した場合、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。BCPの策定や訓練を行っていますが、予想を超える事態への懸念があります。
■(2) 原材料市況の変動
主力製品に使用される大豆、小麦等の国際商品市況や原油価格の変動は、製造コストや物流費に影響を与えます。価格転嫁やコスト削減等の対策を講じていますが、地政学リスクや気候変動による想定以上の価格高騰や調達難が生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 競争環境の変化
消費者の価値観の変化や競合他社との競争激化、技術革新等により、同社製品への需要が低下するリスクがあります。特に新たな競争相手の出現や競合品の品質向上、デジタル技術の進化などによる急激な市場環境の変化は、業績に影響を与える可能性があります。
■(4) サステナビリティ
気候変動、人権、健康などの社会課題への対応が不十分な場合、社会的信頼の喪失や企業活動への制約が生じる可能性があります。脱炭素への取り組みや人権尊重の推進を行っていますが、国際的な要請の高まりの中で対応が遅れた場合、企業価値や業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。



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