※本記事は、株式会社ワコールホールディングスの有価証券報告書(第77期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。
1. ワコールホールディングスってどんな会社?
女性用インナーウェアのリーディングカンパニーであり、グローバルに事業を展開する持株会社です。
■(1) 会社概要
1949年に和江商事として設立され、1964年にワコールへ商号変更するとともに上場を果たしました。2005年に持株会社体制へ移行し、現在の商号となりました。2008年にはピーチ・ジョンを完全子会社化するなど事業を拡大し、2024年には英国のBravissimo Group Limitedを買収しています。2022年の市場区分見直しにより、現在はプライム市場に上場しています。
連結従業員数は16,124名、単体では89名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は大手生命保険会社です。また、大手都市銀行や地方銀行も大株主として名を連ねており、安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.83% |
| 明治安田生命保険 | 5.90% |
| 三菱UFJ銀行 | 5.24% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長執行役員は矢島昌明氏が務めています。取締役会における社外取締役の比率は過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 矢島昌明 | 代表取締役社長執行役員 | 1984年入社。技術・生産本部長、卸売事業本部長、グローバル本部長などを歴任し、2023年6月より現職。 |
| 宮城晃 | 代表取締役副社長執行役員 | 1984年入社。経営企画部長、グループ財務担当などを経て、2022年12月より現職。 |
| 川西啓介 | 取締役執行役員 | 1994年入社。米国子会社社長、マーケティング統括部長、事業会社ワコール社長を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、岩井恒彦(元資生堂副社長)、山内千鶴(元日本生命保険取締役)、佐藤久恵(元日産自動車財務部主管)、日戸興史(元オムロン専務CFO)、原田哲郎(元ドリームインキュベータCEO)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ワコール事業(国内)」「ワコール事業(海外)」「ピーチ・ジョン事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) ワコール事業(国内)
主に国内において、インナーウェア(ファンデーション、ランジェリー、ナイトウェア)、アウターウェア、スポーツウェア等の製品を消費者へ供給しています。百貨店、量販店、一般小売店、直営店、Eコマース(EC)サイトなど、多様なチャネルを通じて販売しています。
収益は、最終消費者への製品販売や卸売による売上です。運営は主に、中核事業会社である株式会社ワコールが製品の企画・製造・販売を担っています。また、縫製は株式会社ワコールマニュファクチャリングジャパン等が、販売は株式会社ウンナナクールや株式会社ランジェノエル等が担っています。
■(2) ワコール事業(海外)
北中米、欧州、アジア・オセアニア地区において、インナーウェア等の製品を現地の百貨店、専門小売店、直営店、ECサイトを通じて消費者へ供給しています。各地域に合わせた製品展開を行っており、グローバルな販売網を構築しています。
収益は、海外市場における製品販売による売上です。運営は、米国ではWACOAL INTERNATIONAL CORP.傘下のWACOAL AMERICA, INC.などが、欧州ではWACOAL EUROPE LTD.などが、アジアでは各国の現地法人や関連会社が行っています。
■(3) ピーチ・ジョン事業
「ピーチ・ジョン」ブランドを中心に、インナーウェアや関連製品の小売販売を行っています。独自の世界観を持つブランドとして、直営店やECサイト、カタログ通販などを通じて製品を提供しています。
収益は、消費者への製品販売による売上です。運営は、株式会社ピーチ・ジョンおよびその海外子会社が行っており、主にグループ外から独自に供給を受けた製品を販売しています。
■(4) その他
上記報告セグメントに含まれない事業として、婦人インナー、レース、手芸用品等の製造・卸売のほか、店舗内装工事、マネキン販売、飲食・文化・サービス事業などを展開しています。
収益は、製品販売やサービスの提供による売上です。運営は、株式会社ルシアン(インナー・手芸用品)、株式会社七彩(店舗内装・マネキン ※2024年7月に株式一部譲渡により連結除外)、株式会社ワコールアートセンターなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近4期間の業績推移です。IFRS(国際会計基準)に基づき作成されています。売上収益は2023年3月期をピークに減少傾向にありますが、利益面では2024年3月期に大きな赤字を計上した後、2025年3月期には黒字回復しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,721億円 | 1,886億円 | 1,872億円 | 1,739億円 |
| 税引前利益 | 41億円 | -7億円 | -83億円 | 57億円 |
| 利益率(%) | 2.4% | -0.4% | -4.4% | 3.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 17億円 | -16億円 | -86億円 | 70億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成です。前期は営業損失を計上していましたが、当期は固定資産売却益の計上などにより営業黒字に転換しました。売上収益は減少しましたが、その他の収益が増加し、その他の費用が減少したことが寄与しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 1,872億円 | 1,739億円 |
| 売上総利益 | 1,041億円 | 974億円 |
| 売上総利益率(%) | 55.6% | 56.0% |
| 営業利益 | -95億円 | 33億円 |
| 営業利益率(%) | -5.1% | 1.9% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が404億円(構成比40%)、支払手数料が175億円(同17%)、広告宣伝費が146億円(同14%)を占めています。売上原価については、商品及び製品の仕入や製造コストが主となります。
■(3) セグメント収益
セグメント別の増減要因を見ると、国内事業は不採算店舗の撤退や来店客数減少により減収となりましたが、資産売却益により黒字転換しました。海外事業は北米や中国での苦戦がありましたが、欧州での買収効果もあり売上は微減にとどまりました。その他事業は子会社譲渡の影響で大幅な減収となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ワコール事業(国内) | 948億円 | 882億円 | -42億円 | 30億円 | 3.4% |
| ワコール事業(海外) | 799億円 | 794億円 | -51億円 | 46億円 | 5.8% |
| ピーチ・ジョン事業 | 109億円 | 106億円 | -2億円 | -3億円 | -2.5% |
| その他 | 188億円 | 117億円 | 0.7億円 | 2億円 | 1.4% |
| 調整額 | -172億円 | -161億円 | - | - | - |
| 連結(合計) | 1,872億円 | 1,739億円 | -95億円 | 33億円 | 1.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.1%で市場平均を上回っています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 113億円 | 49億円 |
| 投資CF | 140億円 | 94億円 |
| 財務CF | -202億円 | -229億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「人々の美しさに貢献することで、広く社会に寄与すること」を目指し、現代社会における使命(ミッション)として「ひとりひとりが 自分らしく美しく いられるように」「世の中が 自信と思いやりに あふれるように」「からだに こころに いちばん近いところで 寄り添い続けます」を掲げています。
■(2) 企業文化
「相互信頼」を基調とした格調の高い社風の確立を社是としています。また、役員・従業員の行動指針(アクション)として、「誰かの幸せを想おう」「好奇心を持って、五感を使い観察しよう」「なぜ?何のために?を考えよう」「異なる意見を尊重しよう」「未来志向で判断しよう」「まずやってみよう」「仲間と力を合わせよう」「誠実に、責任を持ち行動しよう」を定めています。
■(3) 経営計画・目標
中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」を策定し、2031年3月期に向けて「世界のワコールグループ」への進化・成長を目指しています。また、中期経営計画(リバイズ)では、収益力改善と資本効率向上を掲げ、2026年3月期の目標を設定しています。
* 売上収益:1,875億円
* 営業利益:228億円
* ROE:8%
* ROIC:7%
■(4) 成長戦略と重点施策
「VISION 2030」達成に向け、国内での収益性向上と事業領域拡大、海外事業の拡大と高収益構造への変革、グループ経営力の強化、資本効率の高い経営への転換を重点戦略としています。
国内では、ビジネスモデル改革としてサプライチェーンマネジメント(SCM)改革やコスト構造改革を推進し、デジタルを活用した顧客戦略・ブランド戦略を実行します。海外では、欧米や中国・アジアでのブランド戦略推進やEC成長に加え、インド等の新興エリア開拓を進めます。また、ROICマネジメントの導入やアセットライト化(保有資産の整理・売却)により、資本効率の改善を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「従業員ひとりひとりの成長と、働きがいの高い組織の構築」をマテリアリティ(重要課題)の一つと位置づけています。自律的なキャリア形成を支援する制度の拡充や、多様な人財が能力を発揮できる職場環境の実現(DE&Iの推進)に取り組んでいます。また、経験者採用の拡大や、マネジメント力強化のための育成プログラムの実施など、人的資本の最大化に向けた施策を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.6歳 | 17.0年 | 5,983,168円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 32.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 62.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 61.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 65.0% |
※提出会社の男性労働者の育児休業取得率は、有価証券報告書において「-」と記載されています。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、株式会社ワコールの女性管理職比率(38.6%)、株式会社ワコールの男性労働者の育児休業取得率(66.7%)、株式会社ワコールの管理職の男女賃金差異(90.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場の構造変化
百貨店や量販店などの大規模小売店や商業施設の減少が進んでおり、これらのチャネルでの売上シェアが高い同社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、オンラインモール等の拡大に伴う消費行動の変化に対応できなければ、ブランド認知や購入意欲の低下を招く恐れがあります。
■(2) 調達価格の上昇
サプライチェーンの構造変化により、原材料価格や生産地の人件費、輸送コストなどが上昇するリスクがあります。これらのコスト増は、仕入価格の上昇を通じて業績を圧迫する要因となり得ます。同社はASEAN地域での生産比重拡大や生産効率化などで対応を進めています。
■(3) 競争・競合環境の変化
国内外の市場において、競合他社との競争激化や低価格品の台頭、異業種からの新規参入などにより、市場シェアを奪われるリスクがあります。適切な商品・サービスやマーケティング施策を打ち出せなければ、ブランド価値が毀損し、長期的には業績低下につながる可能性があります。
■(4) 情報システム可用性障害の発生
システム開発の遅延や、サイバー攻撃・自然災害等による基幹システムやECサイトの障害が発生した場合、事業継続が困難になるリスクがあります。これはステークホルダーからの信頼失墜や事業への悪影響を招く恐れがあります。同社はセキュリティ対策やシステム監視体制の強化に努めています。



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