※本記事は、東洋水産株式会社 の有価証券報告書(第77期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東洋水産ってどんな会社?
即席麺「マルちゃん」ブランドで知られる大手総合食品メーカー。即席麺のほか、水産食品や低温食品、冷蔵倉庫事業などを幅広く展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1953年に横須賀水産として設立され、冷凍鮪の輸出等を開始しました。1962年に「マルちゃん」マークの使用を開始し、即席麺の生産を本格化。1972年には米国に現地法人を設立し、海外展開に着手しました。その後、1986年にCI導入、2011年にはテキサス工場設立など北米事業を拡大。2022年に東証プライム市場へ移行し、グローバルな食品企業として成長を続けています。
連結従業員数は4,696名(単体2,189名)体制です。筆頭株主は、資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)です。第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行(信託口)、第3位は米国のステート・ストリート・バンク・アンド・トラスト・カンパニーとなっており、機関投資家や海外投資家が高い比率で株式を保有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.74% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.54% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505223 | 5.62% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性3名の計16名で構成され、女性役員比率は18.8%です。代表取締役社長は住本憲隆氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 堤 殷 | 代表取締役会長 | 1968年入社。埼玉工場長、取締役、常務、専務を経て2003年に社長に就任。2012年より現職。 |
| 住本 憲隆 | 代表取締役社長 | 1988年入社。マルちゃん,INC.次長、取締役、常務、専務を経て2023年より現職。マルチャン,INC.取締役会長も兼務。 |
| 沖 斉 | 専務取締役 | 1983年入社。東京支店長、取締役、常務を経て2019年より現職。 |
| 真喜屋 理恵子 | 常務取締役総合研究所長品質保証部長 | 1985年入社。総合研究所長、取締役を経て2018年に常務就任。2022年より総合研究所長を兼務し現職。 |
| 望月 正久 | 常務取締役CSR広報部長 | 1986年入社。関西事業部長、取締役を経て2019年より現職。 |
| 松本 千代子 | 取締役 | 1984年田子製氷入社。経理部長を経て2021年より現職。 |
| 山﨑 美明 | 取締役物流部長 | 1987年入社。関西事業部長を経て2024年より現職。 |
| 島崎 康子 | 取締役 | 1991年入社。八戸東洋常務を経て2017年同社社長就任。2025年より現職。 |
社外取締役は、谷地弘安(横浜国立大学大学院教授)、矢澤健一(元第四銀行副頭取)、千野勇(元長野県A・コープ社長)、小林哲也(弁護士・小林総合法律事務所長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「水産食品事業」「海外即席麺事業」「国内即席麺事業」「低温食品事業」「加工食品事業」「冷蔵事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 水産食品事業
国内外において、鮭鱒、魚卵、マグロ等の水産食品の仕入・加工・販売を行っています。また、コンビニエンスストア向けの業務用商材や、市販用冷凍魚惣菜「Choi Fish」シリーズなども展開しています。
収益は、卸売業者や小売業者への製品販売による代金です。国内では同社および新東物産、ヤイズ新東、ヒガシマルインターナショナルなどが、海外では米国のパックマル,INC.が仕入を行っています。
■(2) 海外即席麺事業
主に米国・メキシコを中心とした米州において、即席麺(カップ麺、袋麺)の製造・販売を行っています。「Maruchan」ブランドは北米等で高いシェアを誇ります。
収益は、現地の小売業者等への製品販売による代金です。運営は、製造・販売を行うマルチャン,INC.やマルちゃん味の素インド社のほか、製造拠点のマルチャンバージニア,INC.、販売拠点のマルチャン デ メヒコ,S.A. de C.V.などが行っています。
■(3) 国内即席麺事業
国内市場において、「赤いきつねうどん」「緑のたぬき天そば」「マルちゃん正麺」「麺づくり」などの即席麺(カップ麺、袋麺、ワンタン)の製造・販売を行っています。
収益は、食品卸売業者や小売業者等への製品販売による代金です。製造・販売は同社が行うほか、製造については酒悦などの国内連結子会社が担当しています。
■(4) 低温食品事業
国内において、「マルちゃん焼そば3人前」等の蒸し焼そば、生ラーメン、茹でうどん、冷凍麺、業務用調理品などの製造・販売を行っています。チルドおよび冷凍食品が対象です。
収益は、製品の販売代金です。国内では同社およびユタカフーズが製造・販売を行うほか、甲府東洋や高岡屋などが製造を担当しています。海外では味の素東洋フローズンヌードル社が展開しています。
■(5) 加工食品事業
無菌包装米飯(「あったかごはん」等)、レトルト米飯、スープ、だしの素、削り節、ねり製品などの製造・販売を行っています。フリーズドライ製品なども含まれます。
収益は、製品の販売代金です。同社、仙波糖化工業、ヒガシマルインターナショナルが製造・販売を行うほか、フクシマフーズなどの連結子会社が製造を行っています。
■(6) 冷蔵事業
国内において、得意先から寄託された貨物の冷蔵・冷凍保管および付帯業務を行っています。東扇島、大阪、福岡などに大規模な冷蔵倉庫を保有しています。
収益は、顧客からの保管料や荷役料等です。運営は、同社および埼北東洋などの連結子会社が行っています。
■(7) その他
主に弁当・惣菜事業を展開しています。
収益は、製品の販売代金です。運営は、同社、フレッシュダイナーなどの連結子会社および東和エステートなどの非連結子会社により構成されています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は5期連続で増加傾向にあり、順調に事業規模を拡大しています。利益面でも、原材料価格の上昇等はありつつも、海外事業の好調や価格改定効果により、経常利益ベースで増加基調を維持しています。特に直近2期は利益率も向上しており、収益性の高い経営体質となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 3,408億円 | 3,615億円 | 4,358億円 | 4,890億円 | 5,076億円 |
| 経常利益 | 387億円 | 318億円 | 437億円 | 749億円 | 839億円 |
| 利益率(%) | 11.4% | 8.8% | 10.0% | 15.3% | 16.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 178億円 | 204億円 | 212億円 | 347億円 | 484億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、売上総利益も拡大しています。利益率も改善傾向にあり、コストコントロールが進んでいることがうかがえます。営業利益率は2桁台を維持しており、本業の収益力は高い水準にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,890億円 | 5,076億円 |
| 売上総利益 | 1,401億円 | 1,513億円 |
| 売上総利益率(%) | 28.6% | 29.8% |
| 営業利益 | 667億円 | 755億円 |
| 営業利益率(%) | 13.6% | 14.9% |
販売費及び一般管理費のうち、運送費及び保管費が177億円(構成比23%)、給料が33億円(同4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで売上高が増加しました。特に主力である海外即席麺事業が増収を牽引しています。国内即席麺や低温食品、加工食品事業も価格改定や主力商品の販売拡大により売上を伸ばしています。冷蔵事業も保管需要が堅調で増収となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 水産食品事業 | 296億円 | 303億円 |
| 海外即席麺事業 | 2,212億円 | 2,293億円 |
| 国内即席麺事業 | 1,001億円 | 1,030億円 |
| 低温食品事業 | 569億円 | 598億円 |
| 加工食品事業 | 202億円 | 222億円 |
| 冷蔵事業 | 240億円 | 254億円 |
| その他 | 371億円 | 376億円 |
| 調整額 | - | - |
| 連結(合計) | 4,890億円 | 5,076億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で獲得した資金を、設備投資や成長投資に回しつつ、株主還元等の財務活動にも充当している、極めて健全な財務状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 705億円 | 788億円 |
| 投資CF | -537億円 | -401億円 |
| 財務CF | -127億円 | -435億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は80.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、顧客第一主義に基づき、「お客様により良い商品、サービスを提供することにより喜びと満足のある生活に貢献する」ことを経営理念としています。「安全でおいしい商品」「確実なサービス」を提供し、顧客からの支持と信頼を得ることで、社会、株主、従業員など全てのステークホルダーの利益増大を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「やる気と誠意」の精神を基本とし、スローガンとして「Smiles for All. すべては、笑顔のために。」を掲げています。このスローガンのもと、食を通じて社会に貢献し、公正で透明性の高い企業活動を行うという価値観を重視しています。ステークホルダー全員が笑顔になれるよう、商品・サービスの継続的な改善に取り組む文化があります。
■(3) 経営計画・目標
2026年3月期から2028年3月期までの3カ年中期経営計画を策定しています。最終年度となる2028年3月期において、以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:6,000億円
* 営業利益:820億円
* ROE:10%以上
* 総還元性向:70%目途
* 連結配当性向:30%超
■(4) 成長戦略と重点施策
「継続と継承」「変革と進化」を基本戦略とし、顧客市場と資本市場での価値向上を図ります。具体的には、海外即席麺事業における米国・メキシコ工場の新設・拡張や、国内での生産効率化、冷凍食品の強化などに積極投資を行います。また、資本コストを意識した経営を推進し、株主還元やガバナンス強化にも注力します。
* 成長投資:約1,300億円以上(海外工場拡張、新設など)
* 海外展開:カリフォルニア工場の拡張、メキシコ工場の新設
* 国内効率化:即席麺・生麺工場の再編、具材設備の整備
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材育成を重要な経営課題と捉え、各年代別の教育制度を構築・実施することで社員の成長を支援しています。また、社員が健康で安心して働けるよう、職場環境の改善や社内啓発活動、マネジメント層向け勉強会などを実施し、エンゲージメントの向上と優秀な人材の確保・定着を図る方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.3歳 | 16.5年 | 6,982,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.9% |
| 男性育児休業取得率 | 0.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.4% |
| 男女賃金差異(正規) | 65.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 105.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、研修受講率(99.5%)、女性社員の平均勤続年数(13.0年)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況と市場環境
食品製造販売業として、家畜伝染病や残留農薬等の問題による輸入減や価格高騰、消費低迷のリスクがあります。また、国内即席麺市場は商品サイクルが短く競争が激しいため、消費者ニーズに合致した新商品開発ができない場合、成長と収益性が低下する可能性があります。
■(2) 為替レートの変動
海外即席麺事業が連結売上の重要部分を占め、水産食品事業でも輸出入を行うため、為替変動の影響を受けます。為替予約等でリスクヘッジを行っていますが、想定を超えた急激な変動は業績に影響を与える可能性があります。在外子会社の財務諸表換算にも影響します。
■(3) 販売価格と原材料価格
販売競争による販促費の増加や小売価格変動の影響を受けます。また、水産物の漁獲量変動、小麦粉や米の市場価格変動が製造コストに影響します。原材料価格や動力費の上昇に対し価格改定を行う場合がありますが、それに伴う販売数量減少のリスクもあります。



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