※本記事は、株式会社日本たばこ産業 の有価証券報告書(第40期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本たばこ産業ってどんな会社?
世界130以上の国と地域でたばこ製品を販売するグローバル企業です。医薬・加工食品事業も展開しています。
■(1) 会社概要
1985年、日本専売公社の財産全額出資により設立され、1994年に株式上場しました。1999年に米RJRナビスコ社の米国外たばこ事業を取得、2007年に英Gallaher社を買収するなど、積極的なM&Aによりグローバル化を推進しました。2008年には加ト吉(現テーブルマーク)を子会社化し、加工食品事業を拡大しています。
2024年12月31日時点で、連結従業員数は53,593人、単体従業員数は5,994人です。筆頭株主は日本たばこ産業株式会社法に基づき株式を保有する財務大臣であり、第2位、第3位は信託業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 財務大臣 | 37.56% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.24% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.56% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は寺畠正道氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 寺畠 正道 | ※代表取締役社長 | 1989年入社。経営企画部長、執行役員企画責任者、JT International S.A.副社長等を経て2018年より現職。 |
| 嶋吉 耕史 | ※代表取締役副社長 | 1993年入社。人事部長、JT International S.A.副社長等を経て2024年より現職。 |
| 中野 恵 | ※代表取締役副社長 | 1991年入社。TSネットワーク社長、執行役員経営戦略担当等を経て2023年より現職。 |
| 岩井 睦雄 | 取締役会長 | 1983年日本専売公社入社。たばこ事業本部長、代表取締役副社長等を経て2022年より現職。 |
| 岡本 薫明 | 取締役副会長 | 1983年大蔵省入省。財務省主計局長、財務事務次官等を経て2022年より現職。 |
社外取締役は、長嶋由紀子(リクルートHD常勤監査役)、木寺昌人(元フランス特命全権大使)、庄司哲也(NTTコミュニケーションズ相談役)、山科裕子(オリックス顧問)、朝倉研二(長瀬産業会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「たばこ事業」、「医薬事業」、「加工食品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) たばこ事業
世界各国でたばこ製品の製造、販売を行っています。JT International S.A.を中核とし、Winston、Camel、MEVIUS、LDといったグローバル・フラッグシップ・ブランドや、加熱式たばこ等のRRP(Reduced-Risk Products)製品を展開しており、世界130以上の国と地域で販売しています。
たばこ製品の販売による対価を収益としています。運営は、海外ではJT International S.A.やその子会社等が、国内では日本たばこ産業などが担っています。また、製造については国内外の自社工場に加え、一部製造委託も行っています。
■(2) 医薬事業
医療用医薬品の研究開発、製造、販売およびプロモーションを行っています。循環器・腎臓・筋、免疫・炎症、中枢の領域にフォーカスし、研究開発を進めています。
医薬品卸売業者への製品販売による対価や、導出先からのロイヤリティ収入等を収益としています。主に日本たばこ産業が研究開発を行い、鳥居薬品が製造、販売およびプロモーション業務を担っています。また、海外での臨床開発はAkros Pharma Inc.が行っています。
■(3) 加工食品事業
冷凍・常温食品、調味料等の製造、販売を行っています。主要製品には、冷凍うどん、パックごはん、冷凍お好み焼、酵母エキス調味料などがあります。
量販店やコンビニエンスストア等への製品販売による対価を収益としています。運営は主にテーブルマーク、富士食品工業およびその他グループ各社が担っており、テーブルマークは冷食・常温事業を、富士食品工業は調味料事業を展開しています。
■(4) その他
不動産賃貸等に係る事業を行っています。
テナントからの賃料収入等を収益としています。日本たばこ産業および一部の子会社が運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5期間において増加傾向にあり、特に2022年12月期以降の伸びが顕著です。利益面では、2023年12月期までは高い利益率を維持していましたが、2024年12月期は大幅な減益となりました。これは主にたばこ事業におけるカナダ子会社の訴訟和解に伴う費用計上が影響しています。
| 項目 | 2020年12月期 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 20,926億円 | 23,248億円 | 26,578億円 | 28,411億円 | 31,498億円 |
| 税引前利益 | 4,201億円 | 4,724億円 | 5,935億円 | 6,216億円 | 2,338億円 |
| 利益率(%) | 20.1% | 20.3% | 22.3% | 21.9% | 7.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3,103億円 | 3,385億円 | 4,427億円 | 4,823億円 | 1,792億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で増加し、3兆円台に乗せました。一方で、営業利益は大幅に減少しています。売上総利益率は50%台後半で推移しており、高い収益性を維持していますが、当期は販売費及び一般管理費等の増加が利益を圧迫しました。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 28,411億円 | 31,498億円 |
| 売上総利益 | 16,151億円 | 17,423億円 |
| 売上総利益率(%) | 56.8% | 55.3% |
| 営業利益 | 6,724億円 | 3,235億円 |
| 営業利益率(%) | 23.7% | 10.3% |
販売費及び一般管理費等のうち、従業員給付費用が4,083億円(構成比28%)、カナダ訴訟関連損失が3,756億円(同26%)、その他が1,737億円(同12%)を占めています。売上原価においては、たばこ税等の税金を除くコストが計上されています。
■(3) セグメント収益
たばこ事業は単価上昇や円安効果により増収となりましたが、営業利益は訴訟関連損失等の影響で減益となりました。加工食品事業は価格改定効果等で増収増益でした。医薬事業は一時金収入の剥落等により減益となりました。
| 区分 | 売上(2023年12月期) | 売上(2024年12月期) | 利益(2023年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| たばこ事業 | 25,913億円 | 28,970億円 | 6,771億円 | 3,546億円 | 12.2% |
| 医薬事業 | 949億円 | 945億円 | 174億円 | 92億円 | 9.8% |
| 加工食品事業 | 1,539億円 | 1,572億円 | 77億円 | 80億円 | 5.1% |
| その他 | 42億円 | 46億円 | -299億円 | -484億円 | -1053.1% |
| 調整額 | -32億円 | -35億円 | 1億円 | 0億円 | -0.1% |
| 連結(合計) | 28,411億円 | 31,498億円 | 6,724億円 | 3,235億円 | 10.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業活動で得たキャッシュを投資活動と財務活動(配当支払や借入返済等)に充当しており、健全型のキャッシュ・フロー状態にあります。本業で安定的に現金を創出しながら、成長投資と株主還元を行っています。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 5,663億円 | 6,300億円 |
| 投資CF | -1,254億円 | -4,398億円 |
| 財務CF | -2,705億円 | -949億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.7%で市場平均(プライム市場9.4%)を下回っています。一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は52.7%で市場平均(製造業46.8%)を上回る水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「4Sモデル」の追求を経営理念としています。これは「お客様を中心として、株主、従業員、社会の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」という考え方です。このモデルを通じて、中長期にわたる持続的な利益成長と企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
不確実性が高まる事業環境において、持続的な存在であるための方向性として「JT Group Purpose」を策定しています。具体的には、社会から求められる価値提供領域を「心の豊かさ」と定め、「心の豊かさを、もっと。」を掲げています。各事業においてもこれを踏まえたPurposeを策定し、進化し続けることを目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「経営計画2025」において、中長期の全社利益目標を設定しています。具体的には、為替一定ベースの調整後営業利益の成長率について、中長期にわたって年平均mid to high single digit(5%台中盤〜9%台後半)の成長を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「質の高いトップライン成長」「コスト競争力の更なる強化」「基盤強化の推進」を基本戦略としています。特にたばこ事業を利益成長の中核と位置づけ、加熱式たばこ(HTS)への集中的な投資により市場シェア拡大を目指します。また、医薬・加工食品事業は全社利益を補完する役割として、必要な投資を実行します。
* たばこ事業:為替一定ベース調整後営業利益の年平均mid to high single digit成長
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人財の多様性こそ、競争力の源泉」と捉え、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材の確保と育成に注力しています。人的資本を「人財」「組織風土」「オーナーシップ」と定義し、個々の能力発揮と自律的な成長を支援するとともに、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2024年12月期 | 41.3歳 | 15.0年 | 9,516,774円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.7% |
| 男性育児休業取得率 | 80.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 114.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ全体の女性管理職比率(24.9%)、グループ全体の男性育児休業等取得率(95.8%)、グループ全体の男女賃金差異(111.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 主要市場のたばこ売上収益への依存
同社グループの売上収益は、日本、ロシア、英国等の主要市場におけるたばこ売上収益に大きく依存しています。これらの市場において、たばこ需要の減少、増税、規制強化、あるいはカントリーリスクの高まり等が生じた場合、たばこ事業の収益が悪化し、グループ全体の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) たばこ需要の減少
たばこ需要は、経済環境、社会情勢、規制動向、増税および値上げ等の要因により減少する可能性があります。需要が減少した場合、販売数量の減少を通じて、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、同社は製品ポートフォリオの最適化や成長市場への投資を行っています。
■(3) 製造たばこに対する規制
国内外において、たばこ製品の包装・表示規制、広告・販売促進の制限、喫煙場所の制限など、様々な規制が強化される傾向にあります。これらの規制強化によりたばこ需要が減少したり、対応コストが増加したりした場合、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 外国為替変動の影響
同社グループは海外売上収益の比率が高く、各国の現地通貨建ての業績を円換算して連結財務諸表を作成しています。そのため、為替レートの変動が連結業績に影響を与える可能性があります。また、原材料調達と製品販売の通貨が異なる場合、為替変動が利益率に影響を及ぼす可能性があります。



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