※本記事は、NISSHA株式会社の有価証券報告書(第107期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月23日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。
1. NISSHAってどんな会社?
産業資材やディバイス、医療機器の受託製造などをグローバルに展開し、社会課題の解決を目指す企業です。
■(1) 会社概要
同社は1929年に京都で印刷業として創業し、1946年に会社を設立しました。1969年には東京証券取引所市場第二部に上場しています。近年はグローバル展開やM&Aを推進し、2016年に米国の医療機器関連企業を買収しました。2017年には日本写真印刷から現在のNISSHAへと商号を変更しています。
現在の従業員数は連結で5,305名、単体で724名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は役員およびその近親者が議決権の過半数を所有する企業となっています。第3位には生命保険会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口)管理有価証券信託設定分 | 5.96% |
| 鈴木興産 | 5.33% |
| 明治安田生命保険相互会社(常任代理人 日本カストディ銀行) | 4.38% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長最高経営責任者は鈴木順也氏が務めています。取締役における社外取締役の比率は44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鈴木順也 | 代表取締役社長最高経営責任者 | 1990年第一勧業銀行入行。1998年同社入社。2005年副社長等を経て、2007年より代表取締役社長、2008年より最高経営責任者に就任し現在に至る。 |
| 渡邉亘 | 取締役専務執行役員最高戦略責任者 | 1996年同社入社。米国子会社CEO等を経て2015年執行役員。2016年最高戦略責任者、2018年取締役、2024年専務執行役員などを歴任し現在に至る。 |
| 礒尚 | 取締役専務執行役員 | 1987年同社入社。各事業部の営業・購買部長を経て2020年産業資材事業部長。2021年取締役、2025年より専務執行役員を務め現在に至る。 |
| 西本裕 | 取締役専務執行役員最高品質・生産責任者 | 1993年同社入社。子会社代表取締役等を経て2015年執行役員。2021年常務執行役員最高品質・生産責任者、取締役。2025年より専務執行役員ディバイス事業部長。 |
| 井ノ上大輔 | 取締役専務執行役員最高財務責任者代行 | 1989年住友銀行入行。2006年同社入社。経営企画部長等を経て2015年常務執行役員ディバイス事業部長。2018年取締役などを経て、2025年より最高財務責任者代行。 |
社外取締役は、大杉和人(元日本銀行政策委員会室長)、松木和道(元三菱商事コンプライアンス総括部長)、竹内寿一(元テルモ常勤理事)、橋寺由紀子(フェニクシー代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「産業資材」「ディバイス」「メディカルテクノロジー」および「その他」事業を展開しています。
■産業資材
プラスチックの成形と同時に加飾や機能を付与する製品や、金属光沢と印刷適性を備えた蒸着紙などのサステナブル資材を提供しています。主にモビリティや家電製品、飲料・食品業界の顧客に向けて製品を供給し、付加価値の高い加飾フィルムや成形品をグローバルに展開しています。
収益は、顧客である各業界のメーカーに対する製品の販売によって獲得しています。運営は同社のほか、米国や欧州、アジアなどに展開するNISSHAインダストリーズなどの国内外の多数の連結子会社が担い、各地域で製造や販売活動を行っています。
■ディバイス
精密で機能性を追求した部品やモジュール製品を提供しています。主力製品であるフィルムタッチセンサーは、タブレット端末や業務用端末、モビリティ、ゲーム機などに幅広く採用されています。このほか、気体の状態を検知するガスセンサーなどの製品も取り扱っています。
収益は、情報機器や自動車、産業機器メーカー等に対する製品の販売から得ています。事業の運営は同社を中心に、NISSHAプレシジョン・アンド・テクノロジーズやNISSHAエフアイエス、ベトナムなどの海外子会社が連携して製品の製造と供給を行っています。
■メディカルテクノロジー
低侵襲医療用の手術機器や医療用ウェアラブルセンサー、単回使用心電用電極などの医療機器製品を提供しています。欧米を中心に大手医療機器メーカー向けの開発製造受託(CDMO)を展開するとともに、医療機関に向けて自社ブランド品の製造および販売も行っています。
収益は、医療機器メーカーからの受託製造費や、医療機関への自社ブランド品の販売代金から得ています。事業の運営は、同社および米国を本拠とするGraphic Controls Holdingsやその傘下のグループ会社などが主体となり、グローバルな体制で推進しています。
■その他
報告セグメントに含まれない事業として、医薬品や医薬部外品、化粧品の製造および製造販売、ならびに開発製造受託(CDMO)を展開しています。また、情報コミュニケーション事業として出版印刷や商業印刷などのサービスも提供しています。
収益は、医薬品・化粧品メーカーなどからの受託製造費や印刷物の販売代金から得ています。運営は、医薬品関連をNISSHAゾンネボード製薬や滋賀県製薬、Nメディカルコスメティクスが担い、印刷事業を日本写真印刷コミュニケーションズが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の売上高は、IT機器市場等の需要変動により増減を繰り返していますが、直近5年間は概ね1,600億円から1,900億円台で推移しています。利益面では、2023年12月期に一旦赤字に転落したものの翌期に黒字回復を果たしました。直近の2025年12月期は、先行投資等により増収基調を維持しつつも利益水準は低下する結果となっています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,893億円 | 1,940億円 | 1,677億円 | 1,956億円 | 1,949億円 |
| 税引前利益 | 195億円 | 124億円 | -28億円 | 62億円 | 36億円 |
| 利益率(%) | 10.3% | 6.4% | -1.7% | 3.2% | 1.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 159億円 | 101億円 | -30億円 | 39億円 | 10億円 |
■(2) 損益計算書
同社の直近2期間の損益構成を見ると、売上高および売上総利益はほぼ横ばいで推移しており、売上総利益率も安定した水準を維持しています。一方で、営業利益については前期から減少しており、営業利益率も低下しています。これは将来の成長を見据えた先行費用等が増加したことが主な要因となっています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,956億円 | 1,949億円 |
| 売上総利益 | 438億円 | 437億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.4% | 22.4% |
| 営業利益 | 55億円 | 40億円 |
| 営業利益率(%) | 2.8% | 2.1% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が35億円(構成比9%)、荷造発送費が13億円(同3%)を占めています。売上原価の具体的な内訳構成は公開されていませんが、売上原価合計は1,512億円(構成比78%)となっています。
■(3) セグメント収益
産業資材事業はモビリティ向けの需要が底堅く増収となりましたが、新製品関連の先行費用等で減益となりました。ディバイス事業はタブレット向け需要の減少で減収となったものの、生産性改善により増益を確保しています。メディカルテクノロジー事業は医療機器受託製造の拡大等により増収でしたが、製品構成の変化等により減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 産業資材 | 742億円 | 764億円 | 49億円 | 37億円 | 4.8% |
| ディバイス | 676億円 | 585億円 | 18億円 | 21億円 | 3.6% |
| メディカルテクノロジー | 456億円 | 471億円 | 24億円 | 20億円 | 4.3% |
| その他 | 93億円 | 141億円 | -7億円 | 4億円 | 2.8% |
| 調整額 | -11億円 | -12億円 | -29億円 | -43億円 | - |
| 連結(合計) | 1,956億円 | 1,949億円 | 55億円 | 40億円 | 2.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態となっています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 123億円 | 92億円 |
| 投資CF | -114億円 | -138億円 |
| 財務CF | 91億円 | -84億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.9%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も46.1%といずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社はMissionを頂点に据えた「Nissha Philosophy」を定め、「私たちは世界に広がる多様な人材能力と情熱を結集し、継続的な技術の創出と経済・社会価値への展開を通じて、人々の豊かな生活を実現します」を掲げています。サステナビリティビジョンとして、社会課題の解決に貢献することで経済・社会価値の創出を目指しています。
■(2) 企業文化
同社はShared Valuesとして「Customer is Our Priority(お客さま価値の最大化)」「Diversity and Inclusion(多様な人材能力が対等に関わり合う)」「Commitment to Results(成果へのこだわり)」「Accomplished with Efficiency(スピード重視)」「Act with Integrity(誠実に行動し信頼される)」の5つを掲げ、組織の価値観や行動原則として重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は第8次中期経営計画を運用し、安定的な成長と資本効率性の向上を志向しています。長期の目標として以下の数値を掲げています。
・売上高3,000億円(うち1,500億円がメディカル分野)
・ROE15%
・営業利益率12%
■(4) 成長戦略と重点施策
メディカル、モビリティ、サステナブル資材などの重点市場において、オーガニックな成長とM&Aの両面で事業を拡大し、社会課題の解決に資する製品群・サービスの拡充を目指しています。IT機器市場では生産性の改善を追求し、将来の持続的な成長を実現するため、業務提携やM&Aを通じた新たな事業開発を加速させています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は事業ポートフォリオ戦略と人材ポートフォリオを連動させ、会社と社員がともに成長することを目指しています。専門性や得意分野の異なる多様な人材が集結し、学習と成長の機会を充実させています。企業内大学「Nissha Academy」を通じた選抜型研修や海外トレーニー制度を活用し、グローバルリーダーの養成やリスキリングを積極的に推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 42.6歳 | 15.7年 | 7,419,000円 |
※平均年間給与は賞与および基準外給与を含んでいます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.1% |
| 男性育児休業取得率 | 87.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 79.3% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 66.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グローバル連結の女性管理職比率(25.2%)、エンゲージメントサーベイの回答率(90.8%)、リーダー候補者の選抜率(47.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 気候変動と環境規制への対応
脱炭素化に向けた温室効果ガス排出規制や炭素税などの環境関連法規制の強化により、対応費用が増加する可能性があります。また、気候変動に伴う自然災害によって工場の生産能力が低下したり、サプライチェーンが寸断されたりすることで、同社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) グローバルな人権尊重の取り組み
グローバルなサプライチェーンにおいて、児童労働や強制労働、外国人労働者への差別などの人権問題が発生した場合、同社グループの社会的信用が低下し、取引の停止や訴訟、賠償金の支払いが生じるおそれがあります。同社は人権基本方針を改定し、サプライヤーに対する監査等を通じてリスク低減に努めています。
■(3) 医療・モビリティ向け製品の品質管理
モビリティ市場やメディカル市場向けなど、高い安全性が要求される製品において大規模な品質問題が発生した場合、業績に影響を与えるリスクがあります。特に医薬品や医療機器において予期せぬ副作用や品質不良が生じた場合、製品回収や販売中止、損害賠償責任が発生し、財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 事業転換に伴う人材の確保と育成
事業ポートフォリオの組み換えに沿った適切な人材を十分に確保・育成できない場合、業績に影響を与えるリスクがあります。同社は多様な人材が活躍できる人事制度の策定や、新たな重点市場に向けた教育研修プログラム、次世代リーダーの育成などに注力していますが、計画通りに人材が充実しない可能性が存在します。



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