※本記事は、井関農機株式会社の有価証券報告書(第102期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 井関農機ってどんな会社?
井関農機は、農業用機械の総合専業メーカーとして、トラクタや田植機、コンバインなどの開発から販売までを一貫して手がけています。
■(1) 会社概要
同社は1926年に井関農具商会として創立され、1936年に井関農機を設立しました。1961年に東京証券取引所へ上場し、田植機やコンバインなどの生産を開始して稲作機械化一貫体系を確立しました。2025年には国内販売会社を統合してISEKI Japanを設立し、英国販売代理店を連結子会社化しています。
同社グループは連結で5,199名、単体で560名の従業員を擁しています。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は金融機関のみずほ銀行、第3位は従業員等による持株会となっています。農業分野の課題解決に向けた製品やサービスをグローバルに展開する体制を築いています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.56% |
| みずほ銀行 | 4.68% |
| ヰセキ株式保有会 | 4.45% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.0%です。代表取締役社長執行役員は冨安司郎氏です。社外取締役比率は42.9%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 冨安司郎 | 代表取締役社長執行役員 | 1980年第一勧業銀行入行。みずほ銀行常務執行役員などを経て、2016年に同社入社。取締役専務執行役員等を経て、2019年より現職。 |
| 小田切元 | 代表取締役専務執行役員「プロジェクトZ」リーダー | 1987年に同社入社。野菜技術部長、開発製造本部長などを経て、2022年代表取締役専務執行役員、2023年より現職。 |
| 神野修一 | 取締役常務執行役員人事、IT企画、秘書担当 | 1985年に同社入社。事務企画部長、人事部長などを経て、2023年取締役常務執行役員に就任し、2025年より現職。 |
| 谷一哉 | 取締役常務執行役員総合企画、IR・広報、財務担当 | 1992年に同社入社。ヨーロッパヰセキ社長、海外営業本部長などを経て、2024年取締役常務執行役員に就任し、2025年より現職。 |
社外取締役は、岩﨑淳(元新日本監査法人)、木曽川栄子(元アフラック収納サービス社長)、岸本史子(あずさ総合法律事務所所長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「農業関連事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 開発・製造部門
稲作、野菜作等に関連する農業用機械やそれに関連する部品加工の開発・設計・製造を行っています。主に農家や農業法人などを顧客とし、農業の省力化や効率化に貢献する製品を提供しています。
農機や部品の提供による製品販売が主な収益源です。運営は主に井関農機が開発や設計を担い、製造や部品加工はISEKI M&D、井関新潟製造所、PT.ISEKI INDONESIAなどの関係会社が行っています。
■(2) 販売部門
開発・製造部門で作られた農業用機械や部品を、国内および海外の市場に向けて提供し、各種サポートやメンテナンスなどのアフターサービスも実施しています。
製品の販売収益や修理・メンテナンスに伴うサービス収入を得ています。国内の運営は主にISEKI Japanが行い、海外ではISEKI France S.A.S.やIseki-Maschinen GmbH、ISEKI UK & Ireland Limitedなどの関係会社や現地代理店が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は概ね増加傾向で推移しており、直近の期では1,858億円に達しています。一方、経常利益は原材料高やサプライチェーンの影響などで一時的に減少していましたが、直近の期では価格改定効果などにより大幅な増益に転じています。当期利益は特別損益等の影響で期ごとに変動が見られます。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,582億円 | 1,666億円 | 1,699億円 | 1,684億円 | 1,858億円 |
| 経常利益 | 47億円 | 38億円 | 21億円 | 16億円 | 41億円 |
| 利益率(%) | 3.0% | 2.3% | 1.2% | 0.9% | 2.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 29億円 | -2億円 | 9億円 | 43億円 | 5億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期から約173億円増加し、1,858億円となりました。これに伴い売上総利益も約50億円増加していますが、売上総利益率は概ね横ばいで推移しています。また、増収効果や価格改定が寄与し、営業利益は前期の19億円から42億円へと大幅に増加し、営業利益率も改善しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,684億円 | 1,858億円 |
| 売上総利益 | 506億円 | 557億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.1% | 30.0% |
| 営業利益 | 19億円 | 42億円 |
| 営業利益率(%) | 1.1% | 2.3% |
販売費及び一般管理費のうち、役員報酬及び給料手当が203億円(構成比40%)、荷造運搬費が43億円(同8%)を占めています。また、売上原価は1,301億円であり、売上高に対する構成比は70%となっています。
■(3) セグメント収益
同社は農業関連事業の単一セグメントですが、地域別の売上を見ると、日本国内は農家の購買意欲の高まりやメンテナンス収入の続伸により大幅な増収となっています。海外では、北米市場が弱含みで減収となったものの、アジア市場の成長がこれをカバーし、欧州市場も堅調に推移したことで全体として増収を維持しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 1,130億円 | 1,294億円 |
| 北米 | 113億円 | 105億円 |
| 欧州 | 385億円 | 385億円 |
| アジア | 50億円 | 70億円 |
| その他 | 6億円 | 4億円 |
| 連結(合計) | 1,684億円 | 1,858億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
キャッシュ・フローの状況を見ると、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」の傾向を示しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 88億円 | 235億円 |
| 投資CF | -58億円 | -44億円 |
| 財務CF | -51億円 | -151億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は35.2%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「農家を過酷な労働から解放したい」という創業の原点を受け継ぎ、「『お客さまに喜ばれる製品・サービスの提供』を通じ豊かな社会の実現へ貢献する」を基本理念として掲げています。また、長期ビジョンとして「『食と農と大地』のソリューションカンパニー」を定めており、食料安全保障や気候変動などの社会課題の解決と新たな価値創造を目指しています。
■(2) 企業文化
「従業員には安定した職場を」という社是に基づき、安全・安心な職場づくりや人権の尊重、コンプライアンスの徹底を重視しています。また、「挑戦と成果を評価する」人事制度を導入し、従業員一人ひとりのモチベーション向上と生産性向上を両立させる人的資本経営を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、事業環境が変化する中で持続的な成長と企業価値の向上を目指し、抜本的構造改革と成長戦略を推進する「プロジェクトZ」を実行しています。その実現に向けて、2027年までに以下の経営指標の達成を目標として掲げています。
・連結営業利益率:5%以上
・ROE(自己資本利益率):8%以上
・DOE(株主資本配当率):2%以上
・PBR(株価純資産倍率):1倍以上
■(4) 成長戦略と重点施策
成長戦略として、国内・海外それぞれの市場特性に応じた事業拡大と、抜本的構造改革を進めています。海外では欧州での連携強化や新規市場開拓、国内では「大型」「先端」「畑作」「環境」分野へ経営資源を集中しています。また、抜本的構造改革として生産拠点の集約や国内営業体制の統合を実施しています。
・草刈市場の関連売上高:100億円(2024年比2.5倍)
・大型製品の販売割合:50%以上
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人材こそが最大の経営資源であり、持続的な成長を牽引する原動力」と位置づけています。中核人材の確保と育成に向けては、先端技術やグローバル化の推進に対応できるよう、社会人大学院への企業派遣やDX研修、グループ人材公募制度などの教育プログラムを拡充し、チャレンジ精神あふれる人材の育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 45.5歳 | 16.0年 | 6,540,329円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.0% |
| 男性育児休業取得率 | 92.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 72.8% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 110.3% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 農業環境の変化と農機需要の減少
国内農業における農業従事者の高齢化や担い手不足による農家戸数の減少、政府の農業政策の転換、農作物価格の変動などが、同社グループの主力である農業用機械の需要減少につながる可能性があります。同社は国内営業の深化や成長分野への経営資源集中により、大規模農家向けの提案力強化などを進めています。
■(2) 海外事業における為替変動リスク
同社グループは海外事業を展開しており、連結売上高における海外売上高比率は約3割を占めています。そのため、急激な為替レートの変動が生じた場合、国内生産品の輸出における価格競争力の低下や、海外関係会社の業績換算への影響などを通じて、同社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) サプライチェーンの混乱と調達コストの上昇
国内外の多数の取引先から原材料や部品を調達して製品を供給しているため、調達価格の急激な高騰による収益性の低下や、物流逼迫による出荷停滞が発生するリスクがあります。同社は調達・出荷の両面で取引先を複数確保し、適切な価格転嫁や輸送手段の最適化を図ることで影響の低減に努めています。
■(4) 特定の取引先への依存
同社の連結売上高のうち、主要販売先上位3社が占める割合は約16%となっています。また、製品に使用する原材料や部品には調達先が特定されているものがあり、これらの取引先の方針変更や業績不振などが生じた場合、事業運営に支障をきたし、同社グループの業績に影響を及ぼすリスクが存在します。



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