キヤノン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

キヤノン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

同社は東京、名古屋、福岡、札幌市場に上場しており、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアル等の事業を展開しています。2024年12月期は、主力事業の堅調な推移と円安効果により売上高は4期連続の増収で過去最高を更新しましたが、メディカル事業の減損損失計上等により営業利益および純利益は減益となりました。


※本記事は、キヤノン株式会社 の有価証券報告書(第124期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は US GAAP です。

1. キヤノンってどんな会社?


同社は、カメラや複合機などの映像・事務機器に加え、半導体露光装置や医療機器も手がける世界的精密機器メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1933年に精機光学研究所として発足し、1937年に精機光学工業として創立、カメラの製造販売を開始しました。1949年に東京証券取引所へ上場し、1969年に現在のキヤノンへ商号変更しました。多角化を進める中、2016年には東芝メディカルシステムズ(現キヤノンメディカルシステムズ)を子会社化し、メディカル事業を本格化させています。

2024年12月31日現在、同社グループの従業員数は連結で170,340人、単体で23,457人です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位は金融機関の常任代理人としての信託銀行であり、上位株主は主に機関投資家によって構成されています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 18.23%
日本カストディ銀行(信託口) 6.84%
みずほ銀行 [常任代理人] 日本カストディ銀行 2.39%

(2) 経営陣


同社の役員は男性48名、女性4名(役員のうち女性の比率7.7%)で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役会長兼社長CEOは御手洗冨士夫氏が務めています。取締役15名のうち社外取締役は4名で、社外取締役比率は26.7%です。

氏名 役職 主な経歴
御手洗 冨士夫 代表取締役会長兼社長CEO 1961年同社入社。Canon U.S.A.,Inc.社長、副社長等を経て1995年社長就任。2006年会長兼社長、2016年会長を経て2020年5月より現職。
田中 稔三 代表取締役副社長CFO渉外本部長コーポレートガバナンス推進室長 1964年同社入社。経理本部長、人事本部長等を歴任。2008年代表取締役副社長。2018年より渉外本部長、2023年7月よりコーポレートガバナンス推進室長を兼務。
本間 利夫 代表取締役副社長CTOプリンティンググループ管掌 1972年同社入社。Lプリンタ事業本部長、調達本部長等を歴任。2020年代表取締役副社長。2021年4月より現職。
小川 一登 取締役副社長グローバル販売戦略推進本部長 1981年同社入社。Canon U.S.A.,Inc.社長等を経て、2024年1月グローバル販売戦略推進本部長、同年3月より現職。
武石 洋明 専務取締役インダストリアルグループ管掌キヤノントッキ取締役会長兼CEO 1990年同社入社。光学機器事業本部長等を経て2021年インダストリアルグループ管掌。2024年3月より現職。
浅田 稔 専務取締役経理本部長PSI適正化プロジェクトチーフ 1985年同社入社。経理本部副本部長等を経て2023年経理本部長。2024年3月より現職。


社外取締役は、川村雄介(大和総研副理事長)、池上政幸(元最高裁判所判事)、鈴木正規(元環境事務次官)、伊藤明子(元消費者庁長官)です。

2. 事業内容


同社グループは、「プリンティング」「メディカル」「イメージング」「インダストリアル」および「その他」事業を展開しています。

(1) プリンティング


オフィス向け複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター、デジタル商業印刷機などを提供しています。顧客は一般消費者からオフィス、商業印刷業者まで多岐にわたります。

収益は、製品の販売に加え、消耗品や保守サービスなどのアフターサービスから得ています。運営は主にキヤノン、キヤノンマーケティングジャパンなどが担当し、海外ではCanon U.S.A.,Inc.やCanon Europa N.V.などの販売子会社が行っています。

(2) メディカル


CT装置、MRI装置、超音波診断装置、X線診断装置などの画像診断機器やヘルスケアITソリューションを提供しています。主な顧客は医療機関や研究機関です。

収益は、医療機器の販売および保守サービス、体外診断システム・試薬の販売から得ています。運営は主にキヤノンメディカルシステムズが行い、米国ではCanon Medical Systems USA,Inc.などが販売を担当しています。

(3) イメージング


レンズ交換式デジタルカメラ、交換レンズ、ネットワークカメラ、放送機器などを提供しています。プロの写真家や映像制作者、一般消費者、セキュリティニーズを持つ企業などが顧客です。

収益は、カメラ本体やレンズ、関連アクセサリーの販売、およびネットワークカメラシステムや映像解析ソリューションの提供から得ています。運営は主にキヤノン、アクシス(Axis Communications AB)などのグループ会社が行っています。

(4) インダストリアル


半導体露光装置、FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置、有機ELディスプレイ製造装置、真空薄膜形成装置などを提供しています。半導体メーカーやディスプレイパネルメーカーが主な顧客です。

収益は、製造装置の販売および保守・サービスソリューションから得ています。運営は主にキヤノン、キヤノントッキ、キヤノンアネルバ、キヤノンマシナリーなどが行っています。

(5) その他


ハンディターミナルやドキュメントスキャナーなどの製品を提供しています。これらは特定の業務用途で使用される産業用端末やドキュメント管理の効率化を求める顧客向けです。

収益は、これらの製品販売から得ています。運営は主にキヤノン、キヤノン電子などが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2020年12月期から2024年12月期の5期間において、売上高は一貫して増加傾向にあり、直近では過去最高を更新しています。一方で、利益面では2023年12月期まで増加していましたが、2024年12月期はメディカル事業における減損損失の計上などにより減少しました。

項目 2020年12月期 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期
売上収益(または売上高) 31,602億円 35,134億円 40,314億円 41,810億円 45,098億円
税引前利益 1,303億円 3,027億円 3,524億円 3,908億円 3,012億円
利益率(%) 4.1% 8.6% 8.7% 9.3% 6.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 833億円 2,147億円 2,440億円 2,645億円 1,600億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上高は増加し、売上総利益率も改善しています。これは製品価格の調整や円安効果、物流費の改善などが寄与したためです。一方で、営業利益はメディカル事業ののれん減損損失等の影響により減益となり、営業利益率も低下しました。

項目 2023年12月期 2024年12月期
売上高 41,810億円 45,098億円
売上総利益 19,689億円 21,431億円
売上総利益率(%) 47.1% 47.5%
営業利益 3,754億円 2,798億円
営業利益率(%) 9.0% 6.2%


販売費及び一般管理費やその他の営業費用には、発送費及び取扱手数料が700億円、広告宣伝費が444億円などが含まれています。また、当期は営業費用として、のれんの減損損失1,651億円が計上されています。

(3) セグメント収益


各セグメントの状況を見ると、プリンティングはオフィス向け複合機やプロダクション分野が堅調で増収増益となりました。イメージングはミラーレスカメラの新製品効果で増収増益、インダストリアルも半導体露光装置の需要増で増収増益でした。一方、メディカルは増収ながらも減損損失により大幅な赤字となりました。

区分 売上(2023年12月期) 売上(2024年12月期) 利益(2023年12月期) 利益(2024年12月期) 利益率
プリンティング 23,397億円 25,155億円 2,351億円 3,041億円 12.1%
メディカル 5,523億円 5,683億円 321億円 -1,395億円 -24.5%
イメージング 8,615億円 9,370億円 1,464億円 1,543億円 16.5%
インダストリアル 3,038億円 3,459億円 592億円 704億円 20.4%
その他及び全社 1,237億円 1,431億円 -794億円 -895億円 -62.5%
調整額 -億円 -億円 -26億円 13億円 -
連結(合計) 41,810億円 45,098億円 3,908億円 3,012億円 6.7%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスの健全型で、本業で稼ぎ、将来に向けた投資もできています。

項目 2023年12月期 2024年12月期
営業CF 4,512億円 6,068億円
投資CF -2,754億円 -2,973億円
財務CF -1,567億円 -2,260億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は58.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、世界中のステークホルダーと共に歩む「共生」を企業理念として掲げています。これは、文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会を目指すものです。この理念のもと、世界の繁栄と人類の幸福のため、企業の成長と発展を目指しています。

(2) 企業文化


創業当初からの行動指針である「三自の精神(自発・自治・自覚)」に基づく健全な企業風土を重視しています。また、人間尊重、技術優先、進取の気性といった企業DNAを受け継ぎながら、「健康第一主義」を行動指針に掲げ、多様な人材やアイデアを最大限活かす自由闊達な組織風土の醸成に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社は「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅥ」において、2025年度の数値目標を掲げています。売上高は過去最高を更新する水準、利益面では高い収益性と資本効率の達成を目指しています。

* 売上高:4兆5,000億円以上
* 営業利益率:12%以上
* 当期純利益率:8%以上
* ROE:10%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「生産性向上と新事業創出によるポートフォリオの転換を促進する」を基本方針とし、産業別グループの競争力強化と新規事業の拡大を推進しています。既存技術とM&Aの活用により、商業・産業印刷、メディカル、ネットワークカメラ等の成長領域を強化し、社会課題の解決に貢献する新たな価値の創造を目指しています。

* 2025年業績見通し:売上高4兆7,360億円、営業利益率11.0%

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人間尊重」のDNAのもと、イノベーションを創出する人材の獲得・育成と、自由闊達な組織風土の醸成に取り組んでいます。ジョブ型「役割給制度」による適材適所の配置、高度技術者の認定、キャリアマッチング制度による自律的なキャリア形成支援、ダイバーシティ推進などを通じ、個人と会社の成長を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2024年12月期 44.2歳 19.0年 8,657,347円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.2%
男性育児休業取得率 64.6%
男女賃金差異(全労働者) 75.3%
男女賃金差異(正規雇用) 75.6%
男女賃金差異(非正規雇用) 74.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、健康診断受診率(100%)、ストレスチェック受診率(96.2%)、がん検診受診率(51.6%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) プリント市場における環境の変化


ペーパーレス化やデジタル化の進展、リモートワークの普及により、プリント機会が減少するリスクがあります。市場環境の変化に対応した製品・サービスを提供できない場合、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、オフィス外印刷やDX支援、商業・産業印刷分野の強化を進めています。

(2) カメラ・映像ビジネスにおける競争


スマートフォン等の撮影機能向上や消費者の嗜好変化により、カメラ市場の競争が激化しています。競合に対する優位性や新サービスを提供できない場合、地位低下のリスクがあります。ネットワークカメラ市場でも競争激化のリスクがあり、高付加価値製品の投入や映像DX市場での事業拡大で対応しています。

(3) 医療機器市場における事業環境対応


医療機器市場では、各国の規制や行動基準の遵守、認証取得が必要です。新技術の臨床効果予測の誤りや想定外の規制変更、地政学的リスク、病院経営悪化等の環境変化に対応できない場合、投資回収が困難になり経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。AI活用や製品のタイムリーな提供で対応を図っています。

(4) 半導体・FPD業界のビジネスサイクル


半導体・FPD業界は変動が激しく予測が困難です。供給過剰時の投資減少局面では、研究開発費の回収が困難になる可能性があります。また、顧客ニーズへの対応失敗は信頼関係を損ねる恐れがあります。これに対し、製品開発とアフターサービスの両輪で収益基盤を安定化させ、市場変化の早期把握に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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