エイチ・アイ・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エイチ・アイ・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場し、海外・国内旅行の企画・販売を行う旅行事業を主軸に、ホテル事業や九州産交グループによる運送・不動産事業などを展開しています。当期は旅行需要の回復やインバウンドの増加に加え、ホテル事業や九州産交グループも堅調に推移し、増収増益(経常利益ベース)を達成しました。


※本記事は、株式会社エイチ・アイ・エスの有価証券報告書(第45期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年1月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. エイチ・アイ・エスってどんな会社?


格安航空券の販売からスタートし、現在は旅行業を中心にホテルやテーマパーク、地域交通など幅広い事業を展開する総合サービス企業です。

(1) 会社概要


1980年に株式会社インターナショナルツアーズとして設立され、格安航空券販売を開始しました。1990年に現商号へ変更し、2004年に東証一部へ指定替えとなりました。事業多角化を進め、2010年にハウステンボス株式会社(2022年に株式譲渡)、2012年に九州産業交通ホールディングス株式会社を子会社化しました。2016年にはH.I.S.ホテルホールディングス株式会社を設立し、ホテル事業を本格化させています。

連結従業員数は10,804人、単体では4,447人です。筆頭株主は創業者の澤田秀雄氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は有限会社秀インターです。

氏名 持株比率
澤田 秀雄 24.03%
日本マスタートラスト信託銀行株式会社 9.83%
有限会社秀インター 5.23%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長(CEO)は矢田素史氏です。社外取締役比率は36.4%です。

氏名 役職 主な経歴
矢田 素史 代表取締役社長(CEO)経営企画、人事担当 1993年入社。人事部長等を経て九州産業交通HD社長・会長を歴任。2022年社長、2023年CEO就任。
澤田 秀太 取締役上席執行役員HIS JAPAN ヴァイスプレジデント、情報システムDX推進担当、最高情報セキュリティ責任者、国内個人旅行営業本部長、投資戦略本部長、AIイノベーション本部長 2005年日興コーディアル証券入社。ベストワンドットコム社長等を経て2020年同社取締役。国内旅行事業等を担当。
中森 達也 取締役国内関係会社、観光産業推進担当 1986年入社。関西営業本部長、HIS JAPANプレジデント等を歴任。2025年より現職。
織田 正幸 取締役海外事業戦略、経理財務、M&A担当HIS Global Destination Management Company プレジデント 1996年入社。関西営業本部長、経営企画本部長等を歴任。2025年より海外事業戦略等を担当。
山野邉 淳 取締役HIS JAPANプレジデント 1993年入社。関東販売事業部長、法人旅行営業本部長等を歴任。2024年より現職。
五味 睦 取締役新規事業戦略、リスクコンプライアンス、CS・ES、総務担当 1992年入社。ジャカルタ統括支店長、最高情報システム責任者等を歴任。2024年より現職。
関田 園子 取締役常勤監査等委員 1988年入社。経理本部グループリーダー等を経て2015年常勤監査役。2016年より現職。


社外取締役は、大和田順子(元リクルートキャリア執行役員)、香川進吾(元富士通総研社長)、鍋島厚(元信州製薬社長)、金子寛人(公認会計士・元あずさ監査法人常務理事)です。

2. 事業内容


同社グループは、「旅行事業」、「ホテル事業」、「九州産交グループ」および「その他の事業」を展開しています。

(1) 旅行事業


海外旅行および国内旅行の企画・手配・販売を行っています。日本国内に加え、海外各地に拠点を持ち、グローバルなネットワークを活用した旅行サービスを提供しています。法人向けや訪日旅行(インバウンド)も取り扱っています。

収益は、旅行者からの旅行代金や手配手数料、航空会社や宿泊施設等からの手数料などが主な源泉です。運営は、株式会社エイチ・アイ・エスを中心に、海外現地法人や株式会社オリオンツアー、株式会社クオリタなどのグループ会社が行っています。

(2) ホテル事業


「変なホテル」シリーズをはじめ、「ウォーターマークホテル」「グアムリーフホテル」など、日本、台湾、アメリカ、トルコ等でホテルを運営しています。テクノロジーを活用した生産性向上やエンターテインメント性を重視したホテル展開が特徴です。

収益は、宿泊客からの宿泊料やホテル内施設利用料などが主な源泉です。運営は、H.I.S.ホテルホールディングス株式会社を中心に、各国の現地法人が行っています。

(3) 九州産交グループ


熊本県を中心に、乗合バス・貸切バスなどの自動車運送事業や、バスターミナル複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」などの不動産賃貸業を展開しています。地域交通のインフラを担うとともに、観光開発も行っています。

収益は、バス運賃や不動産賃貸収入などが主な源泉です。運営は、持株会社の九州産業交通ホールディングス株式会社傘下の九州産交バス株式会社などの事業会社が行っています。

(4) その他の事業


テーマパーク運営、損害保険、システム開発、インフラ事業などを行っています。具体的には、愛知県のテーマパーク「ラグーナテンボス」の運営や、海外旅行保険の販売など多岐にわたります。

収益は、テーマパーク入場料、保険料収入、システム開発受託費などが主な源泉です。運営は、株式会社ラグーナテンボス、エイチ・エス損害保険株式会社、株式会社エス・ワイ・エス、Cross Eホールディングス株式会社などが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年10月期から2022年10月期にかけては、パンデミックの影響等により大幅な赤字を計上していましたが、売上高は回復基調にあります。2024年10月期以降は黒字転換を果たし、2025年10月期も増収となり、利益面でも安定的な黒字を維持しています。

項目 2021年10月期 2022年10月期 2023年10月期 2024年10月期 2025年10月期
売上高 1,186億円 1,427億円 2,522億円 3,433億円 3,731億円
経常利益 -636億円 -491億円 16億円 105億円 114億円
利益率(%) -53.6% -34.4% 0.7% 3.0% 3.1%
当期利益(親会社所有者帰属) -544億円 -115億円 -26億円 87億円 47億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に伴い、売上総利益も増加しています。営業利益率も改善傾向にあり、本業での収益性が高まっています。

項目 2024年10月期 2025年10月期
売上高 3,433億円 3,731億円
売上総利益 1,106億円 1,180億円
売上総利益率(%) 32.2% 31.6%
営業利益 109億円 116億円
営業利益率(%) 3.2% 3.1%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が388億円(構成比36.5%)、減価償却費・償却費が91億円(同8.5%)を占めています。

(3) セグメント収益


旅行事業は海外旅行需要の回復やインバウンドの好調により増収増益となりました。ホテル事業も稼働率や客室単価の上昇により増収増益です。九州産交グループはバス事業や不動産事業が堅調で増収増益となりました。

区分 売上(2024年10月期) 売上(2025年10月期) 利益(2024年10月期) 利益(2025年10月期) 利益率
旅行事業 2,840億円 3,091億円 93億円 96億円 3.1%
ホテル事業 230億円 252億円 30億円 36億円 14.3%
九州産交グループ 240億円 254億円 4億円 8億円 3.2%
その他 159億円 175億円 2億円 5億円 2.9%
調整額 -35億円 -41億円 -21億円 -29億円 -%
連結(合計) 3,433億円 3,731億円 109億円 116億円 3.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスであり、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」に該当します。

項目 2024年10月期 2025年10月期
営業CF 292億円 212億円
投資CF 456億円 -110億円
財務CF -552億円 -365億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.8%で市場平均とほぼ同じ水準である一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は14.4%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「HIS Group Philosophy」に則り、HIS Group Purpose“「心躍る」を解き放つ”を旗印に掲げています。多くの出会いと繋がりを創出し、豊かでかけがえのない時間の創造、人々の相互理解を促進することで、世界の平和に貢献する企業でありたいと考えています。

(2) 企業文化


創業の原点である「挑戦心」を重視し、Vision2030として「挑戦心あふれ 世界をつなぎ 選ばれ続ける企業に Change & Create」を掲げています。世界中の様々な挑戦を応援・支援し、社会とともに成長することを目指しています。

(3) 経営計画・目標


2030年の創業50周年に向けた「Vision2030」の実現を目指し、中期経営計画を策定しています。2026年10月期を新・中期経営計画に向けた助走期間と位置づけ、AI・テクノロジーと人との協業による変革を掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


「AI、テクノロジーと人との協業による変革」を経営方針に掲げ、AI・DXの活用による生産性向上や新たな体験価値の創造を目指しています。また、グローバル(non-Japanese)マーケットでの事業拡大、M&Aや提携による事業ポートフォリオの拡充、グループ横断的なCRM導入によるLTV最大化などを重点施策として推進しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「挑戦心」を原点とし、一人ひとりが自分らしく挑戦し、働きがいを感じられる基盤づくりを推進しています。IT・デジタル領域の人材採用や、地域活性プロジェクトによる新卒採用、階層別研修「HIS Business Academia」の拡充などを行っています。また、DEIB推進や健康経営、多様な働き方の促進により、心理的安全性の高い環境整備に努めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年10月期 37.0歳 12.5年 5,492,354円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 19.3%
男性育児休業取得率 87.8%
男女賃金差異(全労働者) 68.5%
男女賃金差異(正規雇用) 72.1%
男女賃金差異(非正規雇用) 50.4%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、働きがい指数(66.7%)、有給休暇平均取得率(66.3%)、健康診断二次健診受診率(45.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済・社会情勢の変化


各国の政治・経済動向、法制度、地政学的要因等の影響を受ける可能性があります。これらの要因が大きく変化した場合、旅行需要の変動等を通じて、同社グループの財政状態および経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 市場の変化


売上高の多くを旅行事業が占め、特に日本市場への依存度が高いため、日本における旅行事業の環境変化が業績に影響する可能性があります。また、取引先のビジネスモデル変革や異業種参入などによる競争激化もリスク要因となります。

(3) 提供するサービスの安全管理・品質管理


旅行商品やサービスの提供において、独自のガイドライン等で品質・安全管理に努めていますが、運輸機関等の業務委託先が事故や法令違反等を起こした場合、社会的信用の失墜や損害賠償請求等により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) システム・設備の障害などによるサービスの中断・品質低下


システム障害や情報漏洩、サイバー攻撃などが発生した場合、業務への支障や社会的信用の低下を招き、業績に影響を与える可能性があります。また、技術革新への対応遅れによる競争力低下のリスクもあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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