※本記事は、株式会社ワールド の有価証券報告書(第68期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月21日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ワールドってどんな会社?
ワールドは、衣料品や雑貨のブランド事業を中心に、デジタルやプラットフォーム事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1959年に神戸で設立され、婦人服卸販売からスタートしました。1999年に東証・大証一部に上場後、2005年にMBOで上場廃止しました。その後、事業持株会社体制へ移行し、2018年に東証一部へ再上場しました。近年はティーンズ・キッズ市場の中核企業やカジュアルウェア小売企業のM&Aなどで事業を拡大しています。
筆頭株主は信託銀行で、第2位は元代表取締役社長の寺井秀藏氏、第3位も信託銀行となっています。従業員数は連結で7,094名、単体で263名体制で事業を運営しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.10% |
| 寺井 秀藏 | 5.90% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.40% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性3名の計9名で構成され、女性役員比率は33.0%です。
代表取締役社長執行役員は鈴木信輝氏が務めています。全9名の役員のうち5名が社外取締役であり、社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鈴木 信輝 | 代表取締役社長執行役員 | 1999年アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社し、ボストンコンサルティング等を経て2012年に同社入社。常務執行役員などを歴任し、2020年より現職。 |
| 中林 恵一 | 取締役副社長執行役員 | 1995年に勧角総合研究所(現みずほ証券)に入社し、産業再生機構等を経て2013年に同社入社。常務執行役員などを歴任し、2020年に副社長執行役員、2024年より現職。 |
| 畑崎 充義 | 取締役 | 1987年に旧ワールドに入社し、人事本部本部長やグループ長などを歴任。2008年に同社企業戦略推進部部長、2013年に執行役員経営支援本部副本部長を経て、2017年より現職。 |
| 松沢 直輝 | 取締役(監査等委員) | 1984年に旧ワールドに入社し、人事本部本部長、執行役員等に就任。ネオエコノミー事業本部本部長などを歴任し、2023年より現職。 |
社外取締役は、青木英彦(元メリルリンチ日本証券マネージング・ディレクター)、堤はゆる(元ハユルコーポレーション代表取締役)、大石良(サーバーワークス代表取締役社長)、福島かなえ(元東京高等裁判所判事)、冨田尚子(元デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ブランド事業」「デジタル事業」「プラットフォーム事業」および「共通部門」事業を展開しています。
■(1) ブランド事業
同社グループは、国内外で婦人、紳士、子供服や服飾雑貨などの小売業を展開しています。百貨店向けのミドルアッパー業態からショッピングセンター向けのミドルロワー業態、ライフスタイルブランド、さらには海外展開まで幅広いターゲット層へ商品を提供しています。
収益源は、直営店舗やECサイト、専門店を通じた消費者への衣料品・雑貨の販売代金です。運営は、アルカスインターナショナルやフィールズインターナショナルなどの同社子会社各社が担い、一部ブランドの再生や成長支援はW&Dインベストメントデザインが行っています。
■(2) デジタル事業
同社グループは、デジタル技術を活用したソリューション提供とネオエコノミー事業を展開しています。ECサイトの運営受託や基幹システムの提供を行うB2B領域と、ブランドバッグのレンタルやユーズドセレクトショップなどのB2C領域から構成されています。
収益源は、他社へのシステム提供やEC運営受託による手数料、サブスクリプション型のレンタル料、ユーズド商品の販売代金です。運営は、システム提供窓口のファッション・コ・ラボやユーズド業態を展開するティンパンアレイ、アンドブリッジなどが担当しています。
■(3) プラットフォーム事業
同社グループは、長年培った多業態・多ブランド運営のノウハウを外部企業にも提供しています。衣料品の生産・調達・貿易をはじめ、店舗開発や販売代行、ファッションビジネスに関わる各種事務処理の代行、さらには空間創造や什器・家具の製造販売まで幅広く支援します。
収益源は、外部企業からのOEM・ODMの受託製造費、店舗運営や各種事務サービスの受託手数料、什器や家具の販売代金です。運営はワールド・ソリューションズの統括下で、ワールドプロダクションパートナーズやワールドストアパートナーズなどの子会社が行っています。
■(4) 共通部門
同社グループは、事業セグメントに属さない共通部門として、持株会社である同社のコーポレートスタッフ機能やグループ全体の経営戦略・ITインフラの管理機能を有しています。グループの全体最適化と次世代に向けた事業開発・改革を牽引する役割を担っています。
収益源は、主にグループ子会社から受け取る経営指導料や配当金などです。持株会社である同社が主体となり、グループの商品鮮度向上やデジタルリテールの推進、さらには企業投資など、グループ共通の重要戦略の実現に向けた先行投資や基盤構築を推進しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の業績推移を見ると、売上収益と当期利益ともに順調に拡大していることがわかります。直近の決算期では、M&Aやブランド事業の成長、プラットフォーム事業の外部顧客拡大などにより売上収益が大きく伸長しました。それに伴い親会社の所有者に帰属する当期利益も増加し、持続的な成長軌道を描いています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,713億円 | 2,142億円 | 2,023億円 | 2,257億円 | 2,840億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2億円 | 57億円 | 68億円 | 110億円 | 120億円 |
■(2) 損益計算書
同社の損益構造を見ると、直近の決算期において売上収益が大幅に増加した一方で、売上総利益および営業利益は前期を下回る結果となりました。利益率も低下傾向にあり、売上規模の拡大に見合った利益の確保が課題となっています。今後は収益構造の抜本的な改革による利益水準の改善が期待されます。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2,257億円 | 2,840億円 |
| 売上総利益 | 180億円 | 154億円 |
| 売上総利益率(%) | 8.0% | 5.4% |
| 営業利益 | 167億円 | 160億円 |
| 営業利益率(%) | 7.4% | 5.6% |
販売費及び一般管理費のうち、業務委託費が38億円、減価償却費が29億円、給与手当及び賞与が19億円を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の業績を見ると、中核のブランド事業は売上が微増したものの、収益構造改革に伴う冬物仕入の抑制などにより減益となりました。一方、プラットフォーム事業は、新規子会社の連結化などが寄与して売上が大幅に拡大しています。デジタル事業は先行投資の負担増等により減益となり、全体としてポートフォリオの転換が進む過渡期にあります。
| 区分 | 売上(2025年2月期) | 売上(2026年2月期) | 利益(2025年2月期) | 利益(2026年2月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ブランド事業 | 1,989億円 | 2,001億円 | 93億円 | 89億円 | 4.4% |
| デジタル事業 | 325億円 | 313億円 | 26億円 | -6億円 | -1.9% |
| プラットフォーム事業 | 745億円 | 1,304億円 | 67億円 | 46億円 | 3.5% |
| 共通部門 | 100億円 | 76億円 | -11億円 | 31億円 | 40.8% |
| 調整額 | -903億円 | -854億円 | -7億円 | -0.1億円 | - |
| 連結(合計) | 2,257億円 | 2,840億円 | 167億円 | 160億円 | 5.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CF・財務CFがマイナスとなる「健全型」です。本業の営業利益で借入金の返済を進めつつ、事業成長のための投資も手元資金でしっかりと賄えている優良な状態にあります。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 320億円 | 310億円 |
| 投資CF | -103億円 | -41億円 |
| 財務CF | -208億円 | -309億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は24.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「創造全力、価値共有。つねに、その上をめざして。」をコーポレート・ステートメントとして掲げています。お客様へ価値を提供し続ける仕組みを構築・実行し、共感を得るとともに、常に新たな可能性に向けて自らを革新し続けることに挑戦しています。この価値創造を通じて、多様なブランドやファッションの楽しさを提供し、持続可能なファッション産業の構築を目指しています。
■(2) 企業文化
顧客価値と生産性の最大化を追求し、消費者を起点に小売から生産までを一気通貫させ、ロス・ムダを価値に変える「SPARCS(スパークス)」構想を企業文化の基盤としています。ファッションビジネスで培った再現性のある仕組みをプラットフォーム化し、日々の業務プロセスをIT技術で絶え間なくアップデートし続ける変革の文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
本業の稼ぐ力を示す「コア営業利益」の持続的な向上を重要指標に位置付けています。次期中期経営計画「VISION-W」においては、成長性、収益性、健全性の観点から具体的な定量目標を設定し、資本収益性を意識した経営を推進しています。
* 親会社利益成長率:年率8%増
* ROE(自己資本利益率):12.5%以上
* ROIC(投下資本利益率):8.5%以上
* ネットD/Eレシオ:0.75倍以下
■(4) 成長戦略と重点施策
新たな事業構造への転換を目指し、事業を「B2C事業」と「B2B事業」の2大セグメントへ再編します。B2C事業ではアパレルの収益構造改革とサーキュラー領域等の成長加速を図り、B2B事業では人材オペレーションやテクノロジー領域への集中投資で外販を拡大します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を企業の競争力の源泉と捉え、「企業価値改善と従業員価値改善の好循環」を目指す人的資本経営を推進しています。「知識の利用可能性向上」「ワークフォースの最適化」「多様性の向上」「エンゲージメントの向上」を4つの重点テーマとし、ジョブローテーションやリスキリングを通じたマルチスキル人材の育成、Eラーニングによるナレッジ共有、多様なキャリアパスの整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月期 | 43.1歳 | 15.2年 | 5,577,180円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 38.9% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 79.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 80.3% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 73.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、役職者における女性比率(50.0%)、男性の育児休業取得率(35.0%)、社員向けエンゲージメントサーベイへの参加率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) ファッショントレンドと消費者の嗜好変化
アパレル・雑貨等のファッション業界は、トレンドの移り変わりやSNS等の浸透による消費者の嗜好変化の影響を大きく受けます。これに適時適切に対応できない場合やブランドの支持が低下した場合には、収益の大半を占めるB2C事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 仕入価格の高騰とサプライチェーン費用の上昇
商品の多くを製造する中国など新興国での人件費増加や為替の変動、物流費や原材料費の上昇リスクがあります。同社は生産背景の多様化や価格設定等で対応していますが、多方面のコスト増加を吸収しきれない場合、事業全体や経営成績に影響を与える可能性があります。
■(3) プラットフォーム外販・M&A等における投資リスク
B2B事業の拡大やM&Aを通じた新規事業投資を積極的に進めていますが、市場環境の急激な変化やPMI(M&A後統合プロセス)が円滑に進まない場合、当初期待したシナジーや収益を得られず、財政状態および業績に悪影響を及ぼすおそれがあります。
■(4) 情報管理とサイバーセキュリティ
直営店やECサイト等の顧客情報や、重要な機密情報を多数保有しており、サイバー攻撃やシステムトラブルによる情報漏洩が発生した場合、損害賠償や行政処分の対象となるだけでなく、社会的信用の低下を招き業績に影響を及ぼすリスクがあります。



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