※本記事は、東宝の有価証券報告書(第137期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東宝ってどんな会社?
映画や演劇、IP・アニメなど多岐にわたるエンタテインメントと不動産事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1932年に東京宝塚劇場として設立され、映画・演劇の興行を開始しました。1943年に東宝映画を合併して現在の東宝へ改称し、映画の製作から興行までの一貫経営を確立しました。1949年に株式を上場し、2006年には映画興行部門を会社分割してTOHOシネマズへ承継するなど、体制の強化を図っています。
現在、同社グループは連結従業員数4,088名、単体従業員数529名の体制で事業を推進しています。筆頭株主は阪急阪神ホールディングスであり、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。第3位には阪急阪神不動産が名を連ねており、親密な事業会社や金融機関が主要株主として同社の事業基盤を支えています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 阪急阪神ホールディングス | 13.58% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.03% |
| 阪急阪神不動産 | 9.02% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長 社長執行役員は松岡宏泰氏が務めています。社外取締役の比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 松岡宏泰 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1994年東宝東和入社。同社取締役、代表取締役社長、会長を経て、2014年同社取締役に就任。2021年常務執行役員を経て、2022年5月より現職。 |
| 島谷能成 | 代表取締役会長 | 1975年同社入社。映像本部映画調整部長、取締役、常務、専務を経て、2011年代表取締役社長に就任。2021年社長執行役員を経て、2022年5月より現職。 |
| 太古伸幸 | 取締役副社長執行役員 | 1988年同社入社。グループ経営企画部長、取締役、常務、専務、副社長を経て、2021年5月より現職。 |
| 市川南 | 取締役専務執行役員 | 1989年同社入社。映像本部映画調整部長、取締役、常務、常務執行役員を経て、2022年5月より現職。 |
| 嶋田泰夫 | 取締役 | 1988年阪急電鉄入社。同社取締役、常務、代表取締役社長を歴任。阪急阪神ホールディングス代表取締役社長グループCEOを経て、2025年5月より現職。 |
| 緒方栄一 | 取締役監査等委員(常勤) | 1987年同社入社。内部監査室長、総務部長、東宝映像美術代表取締役社長を経て、2022年5月より現職。 |
社外取締役は、安藤知史(大西昭一郎法律事務所代表社員)、折井雅子(元サントリーウエルネス専務取締役)、大越いづみ(チェンジホールディングス執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「映画事業」「IP・アニメ事業」「演劇事業」「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。
■映画事業
映画の製作や国内配給をはじめ、映画館の経営、映像作品等に係る美術セットの製作などを行っています。劇場での映画鑑賞サービスや飲食・グッズ販売を提供し、幅広い層の映画ファンを顧客としています。
収益源は、興行会社から受け取る映画配給収入や、映画館に来場する顧客からのチケット代、飲食・パンフレット等の販売収入です。事業の運営は、同社を中心に、TOHOシネマズや東宝東和などの子会社が手掛けています。
■IP・アニメ事業
テレビアニメ作品や自社保有のIPに関する映像の利用・許諾、商品化権の利用・許諾、キャラクターグッズの販売などを行っています。国内外の動画配信プラットフォームやグッズ購入者が主な顧客です。
収益源は、映像配信権や商品化権の許諾に基づくロイヤリティ収入や、キャラクターグッズおよび映像パッケージソフトの販売収入です。同社のほか、TOHO Globalなどの子会社が海外でのIP展開を推進しています。
■演劇事業
劇場における演劇の企画・製作および興行を行っています。舞台演劇のファンを顧客とし、自社保有の劇場だけでなく外部の劇場も活用して、多彩な演目を提供しています。
収益源は、演劇公演に訪れる顧客からのチケット販売収入や、パンフレット・グッズの販売収入などです。事業の運営は主に同社が担っており、チケット販売は東宝エージェンシー、芸能プロダクション経営は東宝芸能が行っています。
■不動産事業
オフィスビルや商業施設などの不動産賃貸のほか、建物の保守・管理・清掃、道路の維持管理・補修などの事業を行っています。テナント企業や公共機関などを主要な顧客としています。
収益源は、保有不動産のテナントから得られる賃貸収入や、建物の保守・管理・警備の業務受託収入、公共事業等による道路の維持管理・工事の請負収入です。運営は同社やスバル興業、東宝ビル管理などの子会社が担っています。
■その他事業
上記セグメントに含まれない事業として、スポーツ施設などの経営や物販店舗の運営、会計業務のコンサルティングおよび指導などを行っています。一般の施設利用者や関連企業を顧客としています。
収益源は、ゴルフ練習場などのスポーツ施設の利用料や、物販事業による販売収入、コンサルティング手数料です。東宝共榮企業やTOHOリテール、東宝ビジネスサポートなどの子会社が運営を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間の業績を見ると、売上高は安定して拡大を続けており、直近では3607億円と大きく成長しています。経常利益も増加傾向にあり、利益率も10%後半から20%近い水準を維持し、安定した高収益体質を示しています。
| 項目 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2284億円 | 2443億円 | 2833億円 | 3132億円 | 3607億円 |
| 経常利益 | 428億円 | 478億円 | 630億円 | 645億円 | 701億円 |
| 利益率(%) | 18.7% | 19.6% | 22.2% | 20.6% | 19.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 296億円 | 334億円 | 453億円 | 434億円 | 518億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い売上総利益も順調に伸びていますが、売上総利益率や営業利益率はわずかに低下しています。それでも高い利益水準を保っており、効率的な事業運営が行われていることが伺えます。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3132億円 | 3607億円 |
| 売上総利益 | 1446億円 | 1596億円 |
| 売上総利益率(%) | 46.2% | 44.3% |
| 営業利益 | 647億円 | 679億円 |
| 営業利益率(%) | 20.7% | 18.8% |
販売費及び一般管理費のうち、業務委託費が127億円(構成比14%)、広告宣伝費が102億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の映画事業が歴史的なヒット作に恵まれて大幅な増収増益を達成しました。一方で、IP・アニメ事業は増収ながらも減益、演劇事業は休館や公演回数の影響で減収減益となっています。不動産事業は安定した収益を確保し、増益に貢献しています。
| 区分 | 売上(2025年2月期) | 売上(2026年2月期) | 利益(2025年2月期) | 利益(2026年2月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 映画事業 | 1399億円 | 1826億円 | 286億円 | 373億円 | 20.4% |
| IP・アニメ事業 | 694億円 | 753億円 | 222億円 | 173億円 | 23.0% |
| 演劇事業 | 229億円 | 223億円 | 41億円 | 35億円 | 15.5% |
| 不動産事業 | 797億円 | 792億円 | 168億円 | 190億円 | 24.0% |
| 連結(合計) | 3132億円 | 3607億円 | 647億円 | 679億円 | 18.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
健全型:営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 516億円 | 653億円 |
| 投資CF | -185億円 | -249億円 |
| 財務CF | -393億円 | -313億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.4%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も73.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を企業の存在意義とし、新たにグループ・パーパスとして「心を揺り動かし、人生の力となる時間を届け、人々の幸福に貢献する」ことを掲げています。また、未来へ向けたスローガン「Moments for Life その時間が、人生の力になる。」を羅針盤として経営を推進しています。
■(2) 企業文化
創業者・小林一三の揺るぎない精神を受け継ぎ、「我々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」という価値観を根底に据えています。行動理念として「朗らかに、清く正しく美しく」を掲げ、エンタテインメントを通じて人々の心に残る体験を創造する文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
創立100周年を迎える2032年を見据えた長期ビジョンにおいて、営業利益750億円から1,000億円、ROE恒常的に10%程度以上という財務目標を掲げています。また、そのマイルストーンとなる「中期経営計画 2028」では、以下のような目標を設定し、事業を推進しています。
・2028年2月期 営業利益 700億円
・2028年2月期 ROE 9%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
従来の映画・演劇・不動産の3本柱に加え、アニメ事業を「第4の柱」と位置付け、飛躍的な成長を目指しています。具体的には、「企画&IP」を価値の源泉とし、「アニメーション」を成長ドライバーに据え、「デジタル」の力でファンとつながり、「海外」展開を加速させる戦略を推進しています。
・成長投資として3カ年で1,200億円程度を見込む
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「心が動き、心を動かす仕事を通じて幸福を得られる会社へ」という人材と組織のビジョンを掲げています。少数精鋭から「精鋭多数へ」の進化を目指し、多様な人材の獲得、企画力あふれる人材の育成、社員の強みを活かす人事施策、安心して裁量をもって活躍できる環境づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月期 | 37.9歳 | 9.2年 | 9,522,132円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 19.4% |
| 男性育児休業取得率 | 87.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 81.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 52.0% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、キャリア採用者の占める割合(45.9%)、課長職以上の地位に占めるキャリア採用者の割合(29.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 映画、アニメ、演劇各事業の不確実性によるリスク
各事業において、作品の興行収入や配信利用料が見込みを下回るリスクが存在します。また、出演者やスタッフのトラブル、撮影時の事故などにより、作品の製作遅延や公開・公演の延期・中止が発生する可能性があり、業績に影響を及ぼす恐れがあります。
■(2) コンテンツの制作現場に係るリスク
映画やアニメ、演劇の制作現場では、多様な関係者や取引先が関わるため、コンプライアンス違反やハラスメント事案、取引トラブルが発生するリスクがあります。これらの問題は同社の信用を毀損し、コンテンツの利用が困難になる可能性があります。
■(3) 知的財産権の侵害や不正転売に係るリスク
同社が保有するIPや映像作品の盗撮、違法配信、海賊版商品の流通などにより、知的財産権が侵害されるリスクが存在します。また、演劇公演のチケットの不正転売も問題となっており、これらが顕在化すると逸失利益の発生につながります。
■(4) 不動産事業に係るリスク
オフィスや商業施設などの不動産事業において、資材費や人件費の高騰による修繕・建築工事費の増加リスクがあります。これにより、既存物件の収益悪化や、新規開発における投資回収期間の長期化、計画の見直しを余儀なくされる可能性があります。



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