ベクトル転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、株式会社ベクトルの有価証券報告書(第34期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ベクトルってどんな会社?
同社はPR・広告事業を主力とし、戦略PRやプレスリリース配信等を手掛ける企業です。
■(1) 会社概要
同社は1993年にセールスプロモーション事業を目的に設立され、2000年にPR事業を中心とした事業体制へ移行しました。2005年にプレスリリース配信事業を行うPR TIMESを設立し、2012年に東証マザーズへ上場しています。近年も国内外で積極的なM&Aや新規子会社の設立を通じて事業領域を拡大しています。
現在の従業員数は連結で1,571名、単体で184名体制となっています。筆頭株主は代表取締役会長の資産管理会社であるフリーウェイで、第2位は創業者の西江肇司氏、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| フリーウェイ | 27.94% |
| 西江肇司 | 12.19% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.31% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長CEOは西江肇司氏が務めています。取締役10名のうち5名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 西江肇司 | 代表取締役社長CEO | 1993年に同社を設立し、代表取締役に就任。その後、国内外の複数のグループ会社の代表などを歴任し、2026年3月より現職。 |
| 橋本浩 | 代表取締役会長 | 1983年にキョウデンを設立し代表取締役に就任。複数企業の代表や長崎屋の事業管財人などを歴任し、2026年3月より現職。 |
| 後藤洋介 | 代表取締役副社長CFO | 2007年にソフトブレーンに入社。2019年に同社に入社後、取締役CFOなどを経て、2025年5月より現職。 |
| 吉柳さおり | 取締役副社長 | 1998年に同社へ入社。2003年に取締役に就任し、プラチナム代表取締役などを経て、2022年3月より現職。 |
| 森和虎 | 取締役(常勤監査等委員) | 1969年に三友エージェンシーへ入社。同社営業本部長、ベクトルの監査役を経て、2025年5月より現職。 |
社外取締役は、松田公太氏(元タリーズコーヒージャパン社長)、那珂通雅氏(元ストームハーバー証券社長)、井上正俊氏(元オークファンインキュベート社長)、柳沼賢司氏(元ソフトブレーン常勤監査役)、野瀬泰伸氏(元フィンテックグローバル副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「PR・広告事業」「プレスリリース配信事業」「ダイレクトマーケティング事業」「HR事業」「投資事業」の各報告セグメントを展開しています。
■PR・広告事業
マーケティング活動の主軸にPRの観点を置いてコミュニケーションを設計し、それを実行する「戦略PR」やタクシーの車内に設置するタブレットを活用したIoTサイネージサービスなどを提供しています。各種企業のマーケティング支援として国内外で展開しています。
クライアント企業に対してPRのコンサルティングや業務代行を行い、その対価として報酬を受け取るモデルです。運営は同社やアンティル、プラチナム、ニューステクノロジーなどのグループ各社が共同で行っています。
■プレスリリース配信事業
国内No.1のプレスリリース配信プラットフォーム「PR TIMES」を運営しています。顧客となる企業が商品やサービスに関する情報をプレスリリースとして配信することで、企業と生活者をつなぐサービスを提供しています。
企業からプレスリリースの配信料などを受け取る収益モデルとなっています。この事業の運営は、主にPR TIMESが主体となって行っています。
■ダイレクトマーケティング事業
インターネットを通じて健康美容関連商品やサービスを開発し、一般消費者に対して直接販売するD2C事業を展開しています。また、各種ECモールやテレビショッピング、ドラッグストアなどでの卸販売も行っています。
商品の販売による代金を顧客から直接受け取るほか、卸売先からの収益を確保しています。運営は主にビタブリッドジャパンなどの子会社が担っています。
■HR事業
ショート動画を活用した次世代型採用プラットフォーム「JOBTV」などの人事関連事業を展開しています。採用支援サービスや動画採用マーケティングを通じ、企業の人材獲得をサポートしています。
企業からの採用支援にかかるコンサルティングやクラウドサービス等の提供を通じたサービス利用料を得る収益モデルです。運営はビジコネットなどの子会社が行っています。
■投資事業
有望なベンチャー企業の成長支援を目的とした投資事業を展開しています。資金の提供とともに、グループのPRサービスなども活用して投資先の成長をサポートします。
保有するベンチャー企業などの株式を売却することでキャピタルゲインを得る収益モデルです。運営は100キャピタルなどのグループ会社が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、一貫して増収基調を維持しています。主力事業の順調な成長やデジタル領域での積極的な展開により、売上高は右肩上がりで拡大しています。経常利益率も改善傾向にあり、収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 481億円 | 552億円 | 592億円 | 593億円 | 638億円 |
| 経常利益 | 52億円 | 66億円 | 69億円 | 77億円 | 91億円 |
| 利益率(%) | 10.8% | 12.0% | 11.6% | 12.9% | 14.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 18億円 | 15億円 | 25億円 | 22億円 | 23億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の拡大に伴い売上総利益も増加し、利益率も安定して推移しています。継続的なコストコントロールや主力事業の収益基盤強化が奏功し、営業利益ベースでも増益を果たしています。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 593億円 | 638億円 |
| 売上総利益 | 393億円 | 426億円 |
| 売上総利益率(%) | 66.3% | 66.8% |
| 営業利益 | 80億円 | 91億円 |
| 営業利益率(%) | 13.5% | 14.3% |
販売費及び一般管理費のうち、広告宣伝費が88億円(構成比26.2%)、給与手当が83億円(同24.7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力であるPR・広告事業が堅調に推移したほか、ダイレクトマーケティング事業とプレスリリース配信事業も売上を大きく伸ばしました。一方で投資事業は前年から減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年2月期) | 売上(2026年2月期) |
|---|---|---|
| PR・広告事業 | 324億円 | 348億円 |
| プレスリリース配信事業 | 79億円 | 94億円 |
| ダイレクトマーケティング事業 | 135億円 | 163億円 |
| HR事業 | 29億円 | 30億円 |
| 投資事業 | 25億円 | 3億円 |
| 連結(合計) | 593億円 | 638億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業となっています。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 57億円 | 103億円 |
| 投資CF | -15億円 | -31億円 |
| 財務CF | -29億円 | -21億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は26.8%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は44.7%となり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「いいモノを世の中に広め、人々を幸せに」を経営理念として掲げています。技術の進化とともに刻々と変化するメディア環境に対応し、顧客のコミュニケーション戦略において必要となる実効性の高いサービスを総合的に提供することで、顧客にとっての最適なコミュニケーション環境の構築をサポートすることを目指しています。
■(2) 企業文化
「SDGs/ESGの取り組みを世の中に広め全てのステークホルダーを幸せに」という理念を掲げています。また、「FAST COMPANY」として、顧客が必要とする幅広いサービスをタイムリーかつ高いコスト効率でワンストップで提供する組織体制を重視しています。多様性や個人の尊厳を尊重し、人間尊重の企業文化の確立に取り組んでいるのも特徴です。
■(3) 経営計画・目標
同社は現在も成長途上であると認識しており、営業基盤の拡大による企業価値の継続的拡大を目指しています。そのため、営業基盤の客観的な指標として「営業利益」を重視し、安定的かつ効率的な収益の確保に取り組んでいます。
* 2031年2月期までにScope1,2の実質排出量を0にする
* Scope3の排出量を2022年2月期比で50%削減する
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長を持続させるため、以下の課題に対処するとしています。従来の枠組みにとらわれない広範な事業への取り組みや、M&Aによる事業領域の拡充と成長加速を推し進めます。また、事業規模の拡大に対応した効率的な経営管理体制の整備といったガバナンス強化にも注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
競争優位性の源泉は人であるとし、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用を積極的に行っています。企業理念への共感度を重視し、実績に応じた公平な評価・登用を実施しています。また、独自の「プロフェッショナル研修」やベンチャー教育・起業家支援制度(アントレプレナー制度)を設け、次世代リーダーの育成や柔軟なキャリア形成を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月期 | 35.4歳 | 3.2年 | 6,584,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 29.3% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用) | - |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | - |
※男性育児休業取得率および男女賃金差異は公表義務の対象ではないため、有報には記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員全体における女性従業員の割合(62.0%)、管理職に占める女性従業員の割合(34.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 広告宣伝予算の変動と災害等の影響
企業の広告宣伝や広報関連予算は、自然災害やインフラ障害、政情不安などの影響を受けやすい傾向があります。そのため、これらの事象が発生した場合、企業からの受注が減少し、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) デジタル広告事業における与信管理
デジタル広告事業における成果報酬型広告や運用型広告の取引において、一部の顧客企業で財務基盤が強固ではないケースがあります。経済情勢の変化などで取引先の経営が急速に悪化した場合、売上債権の回収に支障をきたすリスクがあります。
■(3) 海外事業展開に伴うカントリーリスク
アジア・ASEAN地域を中心とした海外市場で積極的な事業展開を進めていますが、各国における急激な法規制や税制の変更、カントリーリスク、現地マーケットと事業戦略のずれなどが生じた場合、損失が発生する可能性があります。
■(4) 優秀な人材の確保と維持
同社グループの成長力や競争力は、優秀な人材の獲得と定着に大きく依存しています。今後、優秀な人材の獲得が困難となる場合や、在籍している人材が社外へ流出した場合、事業展開や業績に悪影響を及ぼすおそれがあります。



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