識学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

識学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場で、独自の組織運営理論「識学」を用いたコンサルティング事業を主力としています。直近の業績は、主力事業の伸長に加え、投資有価証券の売却益なども寄与し、売上高は前期比11.2%増、経常損益および当期純損益はいずれも黒字転換を果たし、増収増益となりました。


※本記事は、株式会社識学 の有価証券報告書(第10期、自 2024年3月1日 至 2025年2月28日、2025年05月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 識学ってどんな会社?

独自の組織運営理論「識学」に基づくコンサルティングサービスを提供し、組織の生産性向上を支援する企業です。

(1) 会社概要

2015年に東京都渋谷区で設立され、独自の意識構造理論「識学」を用いた組織コンサルティングを開始しました。2019年に東証マザーズ(現グロース)へ上場し、M&Aや子会社設立を通じてスポーツ運営やVCファンド事業へも展開しました。2024年にはハンズオン支援を行う新会社を設立するなど事業を拡大しています。

2025年2月28日現在の従業員数は連結で257名、単体で232名です。筆頭株主は代表取締役社長の安藤広大氏で、第2位は同氏の資産管理会社である株式会社ARSです。第3位には識学理論の創始者である福冨謙二氏が名を連ねており、経営陣と理論開発者が主要株主となっています。

氏名 持株比率
安 藤 広 大 26.77%
株式会社ARS 13.32%
福冨 謙二 13.07%

(2) 経営陣

同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長は安藤広大氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。

氏名 役職 主な経歴
安藤 広大 代表取締役社長 2002年NTTドコモ入社。ジェイコム(現ライク)取締役などを経て、2015年3月に同社を設立し現職。株式会社ARS代表取締役、株式会社アイエンター社外取締役も務める。
梶山 啓介 取締役副社長上級執行役員最高執行責任者 2005年シティバンク銀行入行。エッジコネクション取締役副社長を経て、2015年同社取締役就任。営業本部長などを歴任し、2023年3月より現職。


社外取締役は、大野一美(元有限会社パイロエンタープライズ代表取締役)、泉雄介(元ラクスル株式会社入社・現株式会社UPSIDER)です。

2. 事業内容

同社グループは、「組織コンサルティング事業」、「スポーツエンタテインメント事業」、「VCファンド事業」、「ハンズオン支援ファンド事業」の4つの報告セグメントを展開しています。

**(1) 組織コンサルティング事業**
独自の理論「識学」に基づき、経営者へのマンツーマントレーニングや管理職研修、評価制度構築などを通じて組織の生産性向上を支援しています。また、識学の定着を支援するクラウドサービス等のプラットフォームも提供しています。
収益は、顧客企業からのトレーニング受講料、研修費、評価制度構築費、およびクラウドサービスの利用料等から得ています。運営は主に同社が行っています。

**(2) スポーツエンタテインメント事業**
プロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」の運営や、B.LEAGUEの試合興行、グッズ・チケット販売を行っています。地域密着型のクラブ運営を通じてスポーツ振興を図っています。
収益は、スポンサー企業からのスポンサー収入、チケットやグッズの販売収入等から構成されています。運営は連結子会社の福島スポーツエンタテインメント株式会社が行っています。

**(3) VCファンド事業**
「組織力」や「成長する組織への転換」に着目したベンチャーキャピタルファンドを運営し、投資先企業への識学導入による組織改善を通じた成長支援を行っています。
収益は、保有する投資先企業の株式等の売却によるキャピタルゲイン等から得ています。運営は同社グループの投資事業有限責任組合等を通じて行われています。

**(4) ハンズオン支援ファンド事業**
組織改善支援と金融・ファイナンス支援を組み合わせたハンズオン支援ファンドを運営し、投資先の企業価値向上を図っています。
収益は、投資先企業の株式売却益(キャピタルゲイン)等を主な源泉としています。運営は同社グループの関連会社等を通じて行われています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間において、売上高は着実な増加傾向にあります。利益面では第8期、第9期と経常赤字が続きましたが、第10期には経常利益3.6億円、当期純利益4.3億円と黒字転換を果たしました。自己資本比率も50%台まで回復し、財務基盤の安定性が向上しています。

項目 2021年2月期 2022年2月期 2023年2月期 2024年2月期 2025年2月期
売上高 25億円 38億円 45億円 48億円 54億円
経常利益 2.0億円 3.5億円 -0.7億円 -1.1億円 3.6億円
利益率(%) 8.0% 9.1% -1.6% -2.3% 6.6%
当期利益(親会社所有者帰属) -0.1億円 2.2億円 -2.7億円 0.0億円 4.5億円

(2) 損益計算書

売上高は前期比11.2%増の54億円となりました。利益面では、増収効果に加え、投資有価証券売却益などの特別利益も寄与し、営業利益、当期純利益ともに大幅に改善し黒字化を達成しています。

項目 2024年2月期 2025年2月期
売上高 48億円 54億円
売上総利益 34億円 37億円
売上総利益率(%) 71.1% 69.6%
営業利益 -1.1億円 3.3億円
営業利益率(%) -2.3% 6.2%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が12億円(構成比36%)、広告宣伝費が4.5億円(同13%)、支払手数料が5.1億円(同15%)を占めています。売上原価は、主に部門再編成による稼働時間の増加等により増加しました。

(3) セグメント収益

主力の組織コンサルティング事業が増収増益となり全体を牽引しました。スポーツエンタテインメント事業は増収ながらもコスト先行で赤字、VCファンド事業は売上増ながらも営業損失、ハンズオン支援ファンド事業も営業損失となりました。

区分 売上(2024年2月期) 売上(2025年2月期)
組織コンサルティング事業 42億円 47億円
スポーツエンタテインメント事業 5.5億円 6.1億円
VCファンド事業 0.3億円 0.6億円
その他及び調整額 - -
連結(合計) 48億円 54億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業活動によるCFがプラス、投資活動によるCFがプラス、財務活動によるCFがマイナスであるため、この企業は「改善型(営業利益+資産売却で借入返済を進める改善局面)」です。

項目 2024年2月期 2025年2月期
営業CF -2億円 2億円
投資CF -0.2億円 1億円
財務CF -0.9億円 -3億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は18.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.3%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社は「識学を広める事で人々の持つ可能性を最大化する」という企業理念を掲げています。独自の理論である識学を一日でも早く一人でも多くの人に伝え、さまざまな組織の生産性向上に寄与することを目指しています。また、「識学」という独自のマーケットを確立し、その考えに基づく働き方をスタンダードにすることで、日本の働き方の変革を実現するという中長期ビジョンを持っています。

(2) 企業文化

同社は、自社自身も「識学」に基づく経営を実践しています。組織メンバーの責任と権限の範囲を明確にし、権限の範囲内で自らの創意工夫により施策を実行できる体制を構築しています。結果にフォーカスする評価体系を運用し、自己決定感や達成感といった内発的動機が自己発生する環境を作り出し、その結果を報酬に反映させることで、内発的動機と外発的動機が一致する制度を運用しています。

(3) 経営計画・目標

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、「コンサルタント一人当たり売上高」および「コンサルタント数」を重視しています。これらの指標を通じて、企業理念および経営戦略等の実現性を測っています。また、ハード面の強化(既存・新サービスの追加)とソフト面の強化(コンサルタント一人当たり売上高500万円/月の維持)を掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策

組織コンサルティング事業では、旗艦サービスである「プラットフォームサービス」の拡大による収益基盤の強化を図ります。顧客満足度の向上により解約率を低下させ、基盤を強化する好循環サイクルの構築を目指します。また、スポーツエンタテインメント事業ではスポンサー収入の拡大や新アリーナの活用、ファンド事業では投資先へのIPO支援や組織改善支援を通じた回収に向けた動きを強化する方針です。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

識学を正しく広めるためには優秀なコンサルタントの確保が必須であるため、役割と権限の明確化や成果が報酬に反映される評価制度を構築し、成長を求める人材が入社する環境を整えています。育成においては、マニュアルや動画、OJT等を用いた仕組み化によりリードタイム短縮に取り組んでいます。また、サービス品質維持のため、月1回の品質確認テストを実施し、一定基準を下回った場合の再学習の仕組みも導入しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年2月期 37.5歳 3.1年 6,361,000円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 9.1%
男性育児休業取得率 42.9%
男女賃金差異(全労働者) 63.2%
男女賃金差異(正規) 64.4%
男女賃金差異(非正規) 144.0%

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 業界及び顧客の動向

企業の経営・管理者層を主要顧客としているため、国内外の経済情勢や景気動向等の悪化により、顧客の人材育成ニーズが減退し、研修予算が削減された場合、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 競合との競争激化

組織コンサルティング事業には、他の研修会社やコンサルティング会社など多数の企業が参入しており、競争が激化しています。識学を用いたコンテンツやノウハウ、サービス開発力における他社に対する優位性が維持できなくなった場合、業績に影響を与える可能性があります。

(3) コンサルタントの確保

主要サービスであるマネジメントコンサルティングサービスの質は、コンサルタントのスキルや知識に依存しています。事業拡大に必要な、的確な能力を持ったコンサルタントを十分に確保・育成できなくなった場合、サービス実施に支障が生じ、業績に影響を与える可能性があります。

(4) 新規事業・サービスの開発

現在の中核であるマネジメントコンサルティングサービスに加え、識学クラウド等のプラットフォームサービスの成長を目指していますが、これらの新規事業が想定通りに育成されなかった場合、中長期的な業績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。