識学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

識学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

識学は東証グロース市場に上場し、独自の組織マネジメント理論「識学」に基づく組織コンサルティング事業を主力に、スポーツエンタテインメント事業やファンド事業も展開しています。直近の業績は売上高・利益ともに拡大する増収増益のトレンドにあり、事業規模の拡大と収益性の改善が続いています。


※本記事は、株式会社識学の有価証券報告書(第11期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 識学ってどんな会社?


独自の組織マネジメント理論「識学」を用いて、企業の組織コンサルティングを展開する企業です。

(1) 会社概要


2015年3月に識学を設立し、マネジメントコンサルティングサービスの提供を開始しました。2017年にはウェブ上のプラットフォームサービスである「識学クラウド組織診断」を開始し、2019年2月に東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)へ株式上場を果たしました。2020年に福島スポーツエンタテインメントを連結子会社化してスポーツ分野に参入し、2024年にはM&A戦略を推進するための識学グロースキャピタルパートナーズを設立しています。

同社グループは連結で306名、単体で266名の従業員を抱える組織体制です。筆頭株主は創業者の安藤広大氏で、第2位は同氏の資産管理会社であるARS、第3位は識学理論の創作者である福冨謙二氏です。

氏名 持株比率
安藤 広大 22.51%
ARS 13.31%
福冨 謙二 10.33%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は安藤広大氏が務めています。社外取締役は3名で構成されています。

氏名 役職 主な経歴
安藤 広大 代表取締役社長 NTTドコモ、ジェイコム(現ライク)を経て、2015年に同社を設立し代表取締役社長に就任。ARS代表取締役などを経て現職。
梶山 啓介 取締役上級執行役員副社長事業戦略本部長 シティバンク銀行などを経てエッジコネクションを設立。2015年に同社取締役営業部長として入社し、副社長等を経て現職。
池浦 良祐 取締役上級執行役員事業推進部長 NTTドコモ、ジャパネットたかた等を経て2015年に同社入社。管理部長や事業推進本部長等を歴任し、2026年より現職。


社外取締役は、大野一美(ペチュラAK代表取締役)、泉雄介(UPSIDER)、長尾宗尚(ティーケーピー取締役COO)です。

2. 事業内容


同社グループは、「組織コンサルティング事業」、「スポーツエンタテインメント事業」、「ファンド事業」を展開しています。

(1) 組織コンサルティング事業


独自の組織マネジメント理論「識学」に基づく組織運営の導入・浸透を支援し、組織の生産性を上げるサービスを提供しています。経営者向けのマンツーマントレーニングや、管理職・新入社員向けの集合研修、評価制度の構築支援などが主力です。また、組織運営の定着をウェブ上で支援するクラウドサービスも展開しています。

主な収益源は、顧客企業から受け取るコンサルティング料金や研修受講料、およびクラウドサービスの利用料です。組織の生産性向上を目指す成長企業やプロスポーツチームなど多様な顧客にサービスを提供しており、事業の運営は同社が主体となって行っています。

(2) スポーツエンタテインメント事業


プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)に所属するプロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」の運営を行っています。地域密着型クラブとして地域スポーツ振興の普及を目指し、チームの強化や認知度向上に向けたマーケティング活動を展開しています。

主な収益源は、スポンサー企業からの協賛金収入や、試合興行におけるチケット販売、公式グッズの販売収入などです。事業の運営は、同社の連結子会社である福島スポーツエンタテインメントが行っています。

(3) ファンド事業


「組織力」や「成長する組織への転換」に着目した投資を行い、投資先企業への「識学」導入による組織改善を通じた成長支援を行っています。ベンチャーキャピタル事業やハンズオン支援事業を展開しており、アーリーステージの企業への出資などを通じて将来の成長選択肢を確保しています。

主な収益源は、出資先企業の株式売却などに伴うキャピタルゲインやファンドの運用益です。事業の運営は、同社および連結子会社の識学1号投資事業有限責任組合や識学2号投資事業有限責任組合、新進気鋭スタートアップ投資事業有限責任組合などが主体となって行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績は、売上高が継続的に拡大し、順調な成長傾向にあります。一時的に先行投資等による経常赤字を計上した期もありましたが、直近2期間は経常黒字に回復し、利益率も改善傾向を示しており、収益基盤の強化が進んでいます。

項目 2022年2月期 2023年2月期 2024年2月期 2025年2月期 2026年2月期
売上高 38億円 45億円 48億円 54億円 65億円
経常利益 3億円 -1億円 -1億円 4億円 5億円
利益率(%) 9.1% -1.6% -2.3% 6.6% 7.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 2億円 -3億円 -1億円 4億円 3億円

(2) 損益計算書


当期は大幅な増収を達成し、売上総利益および営業利益ともに前期を上回る結果となりました。売上総利益率はやや低下したものの、営業利益率は上昇しており、本業の収益性が高まっていることがうかがえます。

項目 2025年2月期 2026年2月期
売上高 54億円 65億円
売上総利益 37億円 44億円
売上総利益率(%) 69.6% 66.9%
営業利益 3億円 5億円
営業利益率(%) 6.2% 7.5%


販売費及び一般管理費(39億円)のうち、給料及び手当が14億円(構成比36%)、支払手数料が6億円(同14%)、広告宣伝費が5億円(同12%)を占めています。

(3) セグメント収益


組織コンサルティング事業が売上高の大部分を占めており、安定した基盤として機能しています。当期はファンド事業の売上高が大幅に伸びており、事業ポートフォリオの多角化が進展しています。スポーツエンタテインメント事業も着実に売上を伸ばしています。

区分 売上(2025年2月期) 売上(2026年2月期)
組織コンサルティング事業 47億円 48億円
スポーツエンタテインメント事業 6億円 7億円
ファンド事業 0.6億円 10億円
連結(合計) 54億円 65億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。

項目 2025年2月期 2026年2月期
営業CF 2億円 1億円
投資CF 1億円 -0.5億円
財務CF -3億円 -3億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.3%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も57.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「識学を広める事で人々の持つ可能性を最大化する」という企業理念のもと、識学を一日でも早く一人でも多くの人に伝え、さまざまな組織の生産性の向上に寄与することを社会的使命として掲げています。中長期ビジョンとして、「識学」に基づく働き方をスタンダードにすることで日本の働き方の変革を実現することを目指しています。

(2) 企業文化


同社自身も「識学」に基づく経営を実践しており、組織メンバーの役割と権限の範囲を明確にしています。権限の範囲内で自らの創意工夫により施策を実行できる環境を整え、自己決定感や成長感、達成感といった「内発的動機(好奇心や関心によってもたらされる動機)」が自然発生する体制を構築し、成果が報酬に反映される文化が根付いています。

(3) 経営計画・目標


企業理念および経営戦略の実現性を表す客観的な指標として、「コンサルタント一人当たり売上高」と「コンサルタント数」を重要なKPI(重要業績評価指標)と位置付けています。今後はコンサルタントの品質管理活動の徹底と同時に、サービス提供の生産性を高めることで組織コンサルティング事業のさらなる成長を実現していく方針です。

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、独自の「識学」というマーケットを確立し、第二の恒常的成長エンジンとして「長期保有型M&A」戦略を推進しています。具体的には、組織コンサルティング事業で培ったノウハウを買収企業に徹底導入することで規律ある組織へと変革し、企業価値を最大化する独自のバリューアップ手法を展開しています。また、コンサルタントの育成体制の仕組み化や販売経路の多様化にも取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、識学理論を正確に理解し顧客に解説できるコンサルタントの確保と育成を最重要課題と位置付けています。組織運営そのものを識学に基づいて行い、権限内であらゆることに挑戦できる環境と成果が反映される評価制度を構築することで、更なる成長感を求めて入社する優秀な人材を獲得しています。入社後は、マニュアルやロールプレイングを活用し、育成期間の短縮と品質向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年2月期 37.3歳 3.2年 6,352,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 14.3%
男性育児休業取得率 25.0%
男女賃金差異(全労働者) 66.6%
男女賃金差異(正規雇用) 66.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 118.1%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) コンサルタントの確保と育成に関するリスク


主力サービスであるマネジメントコンサルティングの成否はコンサルタントの品質に依存しています。的確なスキルや知識、経験を持ったコンサルタントを十分に確保・育成できなくなった場合、サービスの品質維持や事業拡大に支障が生じ、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 新規事業・サービスの開発に関するリスク


今後の成長に向けて、人の稼働に依存しない「識学クラウド」等のプラットフォームサービスを新たな中核事業として育成する方針です。しかし、これらの事業展開やサービス開発が想定通りに進まない場合、中長期的な収益基盤の構築が遅れ、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 特定の経営者への依存に関するリスク


代表取締役社長の安藤広大氏および取締役副社長の梶山啓介氏は、設立以来の事業の推進者であり重要な役割を果たしています。両氏への過度な依存を軽減すべく体制整備を進めていますが、何らかの理由で職務遂行が困難になった場合、事業展開や業績に影響を与える可能性があります。

(4) 企業買収等に係るリスク


事業拡大や収益力向上のため、M&Aや子会社設立、事業投資を積極的に実施しています。投融資先の事業が計画通りに進展しない場合や、期待したシナジー効果を得られず経営資源の効率的な活用ができなかった場合、資産価値の低下に伴う減損損失等が発生し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。