ゼンリン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ゼンリン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場のゼンリンは、住宅地図やカーナビ用データなどの位置情報サービスを提供する最大手企業です。2025年3月期は、オートモーティブ関連のカーナビ用データやIoT関連サービスが好調に推移しました。売上高は過去最高を更新し、営業利益も前期比約2倍となる大幅な増収増益を達成しています。


※本記事は、株式会社ゼンリン の有価証券報告書(第65期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ゼンリンってどんな会社?


地図情報の調査・制作から販売までを一貫して行う位置情報サービスのリーディングカンパニーです。住宅地図データのほか、カーナビやスマホ向けデータ配信などを展開しています。

(1) 会社概要


1974年に地図情報企業として設立され、1983年に現社名へ変更しました。1994年に福岡証券取引所に上場し、その後東証二部を経て2006年に東証一部へ上場しました。2020年にはマーケティングソリューション関連の子会社を再編・合併し、体制を強化しています。2022年の市場区分見直しにより、現在はプライム市場に上場しています。

2025年3月31日現在、連結従業員数は3,574名、単体では2,425名が在籍しています。筆頭株主は有限会社サンワで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位はカーナビ事業等で取引関係にあるトヨタ自動車となっています。

氏名 持株比率
有限会社サンワ 9.81%
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 9.36%
トヨタ自動車 7.95%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性3名、計13名で構成され、女性役員比率は23.0%です。代表取締役社長は竹川道郎氏が務めています。社外取締役比率は38.5%です。

氏名 役職 主な経歴
竹川 道郎 代表取締役社長 1996年同社入社。IoT事業本部長、経営戦略室長などを経て、2025年4月より現職。
髙山 善司 代表取締役会長 1986年同社入社。営業本部長、経営戦略室長などを経て、2008年社長就任。2025年4月より現職。
松尾 正実 専務取締役 1983年明治安田生命保険相互会社入社。2005年同社入社。管理本部長、本社統括本部長などを経て、2025年4月より現職。
戸島 由美子 取締役上席執行役員コーポレート本部長 1991年同社入社。経営管理・IR部長、執行役員コーポレート本部長などを経て、2024年6月より現職。
諸岡 正義 取締役上席執行役員インフラソリューション事業本部長 1989年同社入社。ICT事業部長、プロダクト事業本部長、総合販売本部長などを経て、2025年4月より現職。
大迫 益男 取締役 1977年同社入社。1986年常務取締役、1991年専務取締役を経て、1992年6月より現職。
清水 辰彦 取締役 1986年同社入社。2003年ゼンリンデータコム取締役副社長を経て、2006年6月より現職。ゼンリンデータコム社長を兼務。
藤本 泰生 取締役常勤監査等委員 1989年同社入社。経理部長、監査室長などを経て、2024年6月より現職。


社外取締役は、龍美樹(福岡タワー常務取締役)、岡部麻子(岡部麻子公認会計士事務所代表)、磯田直也(ユアサハラ法律特許事務所パートナー)、新海一郎(元沖ウィンテック理事)、柴田祐二(柴田祐二公認会計士事務所所長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「位置情報サービス関連事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) オートモーティブ・IoT事業


カーナビゲーションシステム向けの地図データや、スマートフォン向けアプリ、インターネットサービス向けの地図データ配信などを提供しています。主な顧客は自動車メーカー、通信事業者、IT企業などです。自動運転やMaaSなどの新技術に対応した高精度地図データの整備も進めています。

収益は、自動車メーカーや機器メーカーからのデータ利用許諾料(ロイヤルティ)や、通信事業者・IT企業からのデータ配信サービスの利用料などから得ています。運営は主にゼンリンおよび子会社のゼンリンデータコムなどが担当しています。

(2) プロダクト・公共ソリューション事業


住宅地図帳やブルーマップなどの出版物、自治体向けの業務支援システムなどを提供しています。顧客は一般消費者、不動産会社、金融機関、自治体など多岐にわたります。紙媒体の地図だけでなく、GIS(地理情報システム)や住宅地図データベースを活用したソリューションも展開しています。

収益は、地図帳や関連商品の販売代金、データベースやシステムの利用料・開発受託費などから得ています。運営は主にゼンリン、ゼンリンプリンテックスなどが担当しています。

(3) マーケティングソリューション事業


地図データや統計データを活用したエリアマーケティング支援サービスなどを提供しています。多店舗展開する流通・小売業やメーカーなどが主な顧客です。顧客の出店計画や販売促進活動を支援するための分析レポートやシステムを提供しています。

収益は、マーケティングレポートの作成費や分析システムの利用料、ダイレクトメール発送代行などのサービス料から得ています。運営は主にゼンリンおよびゼンリンマーケティングソリューションズが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期までの業績推移です。売上高は緩やかな増加傾向にあり、特に直近の2025年3月期はオートモーティブ関連やIoT関連の好調により過去最高を更新しました。利益面では、2022年3月期に一時的な利益増がありましたが、その後は投資やコスト増の影響で推移し、2025年3月期に大きく回復しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 572億円 591億円 589億円 613億円 644億円
経常利益 17億円 30億円 21億円 21億円 39億円
利益率(%) 2.9% 5.2% 3.6% 3.4% 6.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 12億円 37億円 28億円 21億円 26億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益構成を比較します。売上高は増加し、原価率の改善や売上構成の変化により売上総利益率が向上しました。販売費及び一般管理費は増加しましたが、増収効果が上回り、営業利益率は大幅に改善しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 613億円 644億円
売上総利益 248億円 271億円
売上総利益率(%) 40.4% 42.1%
営業利益 20億円 39億円
営業利益率(%) 3.2% 6.1%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が78億円(構成比33%)、その他が83億円(同36%)を占めています。売上原価においては、労務費や外注費などの制作関連費用が主要な構成要素となっています。

(3) セグメント収益


同社は「位置情報サービス関連事業」の単一セグメントなので、利益の内訳は記載されていません。事業区分別の売上高を見ると、オートモーティブ事業とIoT事業が増収となり全体を牽引しました。プロダクト事業や公共ソリューション事業は横ばいから微増で推移しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
プロダクト事業 162億円 165億円
公共ソリューション事業 81億円 81億円
マーケティングソリューション事業 68億円 66億円
IoT事業 140億円 154億円
オートモーティブ事業 162億円 177億円
連結(合計) 613億円 644億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスで、本業で稼いだ現金を投資と借入返済に充てている健全型です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 63億円 96億円
投資CF -42億円 -52億円
財務CF -31億円 -38億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は67.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「知・時空間情報の創造により人びとの生活に貢献します」を企業理念として掲げています。創業以来、地図業界のリーディングカンパニーとして、地図関連情報の提供を通じて社会に貢献し続けることを基本方針とし、「地図で情報を価値化する企業」となることを目指しています。

(2) 企業文化


「Maps to the Future」のスローガンのもと、株主にとって魅力ある企業集団を目指すとともに、顧客および従業員を大切にし、社会に貢献し続ける企業集団でありたいと考えています。また、サステナビリティ経営を重視し、位置情報の活用による社会課題の解決や安全・安心な社会の実現を社会的責任・公共的使命と捉えています。

(3) 経営計画・目標


2026年3月期から2030年3月期までの5ヵ年の中長期経営計画「ZENRIN GROWTH PLAN 2030(ZGP2030)」を策定しています。「共創社会における社会的価値創造」を基本方針とし、2030年3月期における数値目標を掲げています。

* 売上高:780億円
* 営業利益:80億円(営業利益率10.3%)
* 親会社株主に帰属する当期純利益:60億円
* ROE:10%以上
* EBITDA:150億円(EBITDAマージン19.2%)

(4) 成長戦略と重点施策


「ZGP2030」では、①事業ポートフォリオマネジメントによる事業収益最大化、②高度時空間データベースによる提供価値の最大化、③グロースマインドセットによるスキル向上での組織力最大化に取り組むとしています。また、AI技術を活用したデータベース整備の効率化や、デジタルツインを実現する情報プラットフォームへの進化を推進します。

* ZGP25期間における投資の早期回収
* 企業共創・地域共創活動による売上拡大
* ストックサービスやソリューションサービスへのシフト加速

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「共創社会における社会的価値創造」を実現するため、多様な人財が能力・資質・経験を組み合わせて成長し、心理的エネルギーを高める自律型組織への進化を目指しています。特に、人財ポートフォリオを進化させ、「オープンマインドで変化を受け入れながら自ら成長する人財」の輩出に取り組むとしています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 46.9歳 18.0年 5,589,603円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 10.1%
男性育児休業取得率 46.0%
男女賃金差異(全労働者) 76.5%
男女賃金差異(正規雇用) 78.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 71.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、教育研修投資額(73百万円)、教育研修時間(7.25時間)、DX人財の育成資格保有者(304名)、エンゲージメントスコア(3.72)、有給休暇平均取得日数(13.9日)、ストレスチェック高ストレス者比率(9.1%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 進化する技術への対応について


市場ニーズは三次元化やデジタルツイン技術へシフトしています。同社は情報プラットフォーム「ZIP」への投資やAI活用を進めていますが、急激な技術進化に対応できずニーズに合致した製品を投入できない場合や、AI技術の悪用によるノウハウ流出、誤った情報の取得などが生じた場合、信頼性や優位性が低下し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 位置情報サービス関連事業への依存について


売上の大部分は独自の地図データベースに基づく製品やデータ販売に依存しています。地図情報の更新には多額の整備コストや設備投資が継続的に発生します。これらのコストは売上にかかわらず固定的に発生するため、一定水準の売上を確保できなければコスト回収ができず、財政状態や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) 他社の参入・競争激化について


自動運転やMaaSなどの分野で、テック企業による破壊的イノベーションや最新技術を活用した高品質製品、低価格製品が市場に投入される可能性があります。これにより競争が激化した場合、事業展開や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 特定の取引先への依存について


売上高は特定の自動車メーカー関連各社、通信事業者、インターネット事業者に対するものが多くを占めています。これら取引先の経営方針変更、生産計画の変更、製品価格の引き下げ要請、契約打ち切りなどが生じた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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