※本記事は、株式会社日本酸素ホールディングス の有価証券報告書(第21期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本酸素ホールディングスってどんな会社?
産業ガスで国内シェア1位、世界4位のグローバル企業です。魔法びんの「サーモス」も展開しています。
■(1) 会社概要
1910年に日本酸素合資会社として創立され、1949年に株式を上場しました。2004年に大陽東洋酸素と合併し大陽日酸へ商号変更後、2014年に三菱ケミカルホールディングス(現 三菱ケミカルグループ)の連結子会社となりました。2018年には米国Praxair社の欧州事業を買収してグローバル化を加速させ、2020年に持株会社体制へ移行し現社名となりました。
2025年3月31日現在、連結従業員数は19,754名、提出会社単体では112名です。筆頭株主は親会社の三菱ケミカルグループで、発行済株式の50.59%を保有しています。第2位は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は取引先による持株会となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 三菱ケミカルグループ | 50.59% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.39% |
| 大陽日酸取引先持株会 | 3.60% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長 CEOは濱田 敏彦氏が務めています。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 濱田 敏彦 | 代表取締役社長 CEO | 1981年入社。米国子会社副社長、電子機材事業本部半導体ガス事業部長、日酸TANAKA社長などを経て、2021年6月より現職。 |
| 永田 研二 | 取締役 | 1981年入社。シンガポール子会社社長、産業ガス事業本部長などを歴任。2020年10月より大陽日酸社長を兼務し現職。 |
| トーマス スコット カルマン | 取締役 | 1981年BOCグループ入社。2005年Matheson Tri-Gas, Inc.副社長、同社CEOなどを経て、2019年6月より現職。 |
| ラウル ジュディチ | 取締役 | 1995年Rivoira S.p.A.入社。欧州事業会社の社長などを経て、2024年7月よりNippon Gases Euro-Holding会長・社長を兼務し現職。 |
社外取締役は、原美里(税理士)、長澤克己(元日立製作所執行役常務)、宮武雅子(弁護士)、中島秀夫(元公正取引委員会事務総長)、山地勝仁(元ヤマハ発動機取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「米国」「欧州」「アジア・オセアニア」および「サーモス」事業を展開しています。
■(1) 日本
酸素、窒素、アルゴンなどの産業ガスや、半導体製造に使われる電子材料ガス、関連機器の製造・販売を行っています。また、医療用ガスや医療機器、化合物半導体製造装置なども取り扱っています。主要顧客は鉄鋼、化学、エレクトロニクスメーカーや医療機関です。
収益は、産業ガスの販売代金、オンサイト供給によるガス供給料、機器・装置の販売代金、設置工事代金などから得ています。運営は主に大陽日酸、日酸TANAKA、日本液炭などの国内事業会社が行っています。
■(2) 米国
酸素、窒素、アルゴン、特殊ガス、水素、ドライアイス、関連機器の製造・販売を行っています。産業ガス事業に加え、半導体市場向けの特殊ガスや機器事業も展開しています。
収益は、各種ガスの販売、ガス供給サービスの提供、機器販売などから得ています。運営は主にMatheson Tri-Gas, Inc.が行っています。
■(3) 欧州
酸素、窒素、アルゴンなどの産業ガスや医療用ガスの製造・販売を行っています。また、カーボンニュートラルに関連する環境貢献製品や技術の提供にも注力しています。
収益は、産業ガスおよび医療用ガスの販売、関連サービスの提供から得ています。運営はNippon Gases Euro-Holding S.L.U.傘下の欧州各国法人が行っています。
■(4) アジア・オセアニア
東南アジア、中国、オセアニア地域において、酸素、窒素、アルゴンなどの産業ガスや電子材料ガスの製造・販売を行っています。また、溶接関連器具や安全具の販売も手がけています。
収益は、ガスの販売、オンサイト供給、関連機器の販売から得ています。運営はLeeden National Oxygen Ltd.や各国の現地法人が行っています。
■(5) サーモス
「サーモス(THERMOS)」ブランドのステンレス製魔法びんや調理用品などの家庭用品を製造・販売しています。一般消費者を対象としたBtoCビジネスを展開しています。
収益は、製品の卸売および直営店やECサイトを通じた消費者への直接販売から得ています。運営は主にサーモスが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は順調に拡大しており、特に直近の2025年3月期は1兆3,000億円を超え過去最高を更新しました。利益面では、2024年3月期に大幅な増益を達成しましたが、2025年3月期は減損損失等の影響により、税引前利益および当期利益は減少しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 8,182億円 | 9,572億円 | 11,867億円 | 12,551億円 | 13,080億円 |
| 税引前利益 | 777億円 | 916億円 | 1,055億円 | 1,507億円 | 1,453億円 |
| 利益率(%) | 9.5% | 9.6% | 8.9% | 12.0% | 11.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 552億円 | 641億円 | 731億円 | 1,059億円 | 988億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で増加し、売上総利益率も改善傾向にあります。一方で、営業利益率は若干低下しました。これは減損損失等のその他の営業費用が増加したことが主な要因です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 12,551億円 | 13,080億円 |
| 売上総利益 | 5,110億円 | 5,454億円 |
| 売上総利益率(%) | 40.7% | 41.7% |
| 営業利益 | 1,720億円 | 1,659億円 |
| 営業利益率(%) | 13.7% | 12.7% |
■(3) セグメント収益
全ての地域セグメントおよびサーモス事業において、価格マネジメントの効果や為替の円安影響等により売上収益は堅調に推移しました。利益面では、日本、米国、欧州、サーモスが増益となった一方、アジア・オセアニアはコスト上昇や取得関連費用の計上により減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 4,309億円 | 4,269億円 | 430億円 | 471億円 | 11.0% |
| 米国 | 3,713億円 | 3,856億円 | 500億円 | 598億円 | 15.5% |
| 欧州 | 3,029億円 | 3,290億円 | 533億円 | 624億円 | 19.0% |
| アジア・オセアニア | 1,633億円 | 1,798億円 | 159億円 | 150億円 | 8.4% |
| サーモス | 308億円 | 326億円 | 56億円 | 63億円 | 19.3% |
| 調整額 | -442億円 | -458億円 | -18億円 | -15億円 | - |
| 連結(合計) | 12,551億円 | 13,080億円 | 1,660億円 | 1,891億円 | 14.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社グループは、運転資金及び設備資金を内部資金や借入金、社債等で調達し、資金の効率的な活用と金融費用の削減を目指しています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金支払額等を考慮しても収入が増加しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出が増加しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済や配当金の支払い等により支出となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2,160億円 | 2,351億円 |
| 投資CF | -1,247億円 | -1,429億円 |
| 財務CF | -1,101億円 | -733億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は企業理念として「進取と共創。ガスで未来を拓く。The Gas Professionals」を掲げています。革新的なガスソリューションにより社会に新たな価値を提供し、あらゆる産業の発展に貢献するとともに、人と社会と地球の心地よい未来の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
グローバルに事業を展開する産業ガスメーカーとして社会的貢献を果たすという使命感を重視しています。その基盤となる価値観として「体・徳・知」を掲げており、これは旧大陽日酸の時代から受け継がれ、海外グループ会社においても独自の価値観を加味しつつ共有されています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「NS Vision 2026 - Enabling the Future」に基づき、2026年3月期に向けた事業運営を行っています。最終年度の財務目標として、売上収益やコア営業利益、資本効率などの数値目標を設定し、収益性の向上と財務体質の強化を目指しています。
* EBITDAマージン:24%以上
* 調整後ネットD/Eレシオ:0.7倍以下
* ROCE after Tax:6%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「NS Vision 2026」では、サステナビリティ経営の推進、カーボンニュートラル社会に向けた新事業の探求、エレクトロニクス事業の拡大、オペレーショナル・エクセレンスの追求、DX戦略の5つを重点戦略としています。特に、環境貢献製品の拡充や半導体関連の生産能力増強、生産性向上活動に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的成長のため、多様な人財の確保と働きやすい環境整備を推進しています。性別や国籍を問わない採用と、地域を超えた人財交流によりイノベーション創出とグループ総合力の強化を図っています。また、次世代経営者の育成を重要課題とし、グローバルな経験と事業知識を持つ人財の育成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.8歳 | 16.4年 | 10,316,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育児休業取得率 | 60.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 66.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 66.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 81.5% |
※データは主要事業子会社である大陽日酸株式会社のものです。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性従業員比率(20.2%)、コンプライアンス研修受講率(99.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) グローバル事業展開に伴うカントリーリスク
世界4極で事業を展開しているため、各国の政治、経済、法規制、テロ、紛争、災害などの影響を受ける可能性があります。特に、市場動向や慣習の違いが事業活動や経営成績に悪影響を及ぼす恐れがあり、各地域を統括する事業会社との密な連携による迅速な対応が求められます。
■(2) 設備投資と顧客需要の変動
顧客の敷地内にガス供給設備を設置するオンサイト供給を行っているため、鉄鋼や化学、半導体などの主力顧客の稼働率低下や拠点統廃合の影響を受けます。顧客の事業環境変化によりプロジェクトが継続困難となった場合、設備の除却損や減損損失が発生し、業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 製造コストの上昇と価格転嫁
主力製品の製造コストには電力が大きな割合を占めており、エネルギー価格の変動の影響を強く受けます。人件費や輸送費の上昇も含め、コスト増加分を販売価格へ十分に転嫁できない場合、利益率が低下し、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) サプライチェーンの寸断
半導体特殊材料ガスやヘリウムなど、グローバルなサプライチェーンに依存する製品を取り扱っています。生産国の地政学リスクや輸出入規制、海上輸送の混乱などにより安定供給に支障が生じた場合、事業活動や業績に影響を与える可能性があります。



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