三井化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三井化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三井化学は東京証券取引所プライム市場に上場する総合化学メーカーです。ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT、ベーシック&グリーン・マテリアルズの各分野で多様な製品を製造・販売しています。直近の業績は、売上収益が1兆6,688億円と減収になった一方で、親会社所有者帰属の当期利益は344億円と増益を確保しています。


※本記事は、三井化学株式会社 の有価証券報告書(第29期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 三井化学ってどんな会社?


総合化学メーカーとして多角的な素材やソリューションを提供する同社の概要と経営体制を紹介します。

(1) 会社概要


1997年に三井石油化学工業と三井東圧化学が合併し、現在の三井化学が発足しました。2001年には武田薬品工業との事業統合、2005年には出光興産との合弁でプライムポリマーを設立しています。近年もドイツ企業の歯科材料事業買収や旭化成からのペリクル事業承継など、M&Aや事業再編を積極的に進めています。

現在の従業員数は連結で16,967名、単体で5,198名体制となっています。大株主の状況を見ると、筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務を行う信託銀行となっています。また、海外の金融機関なども上位株主に名を連ねており、機関投資家からの保有比率が高い資本構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 17.87%
日本カストディ銀行(信託口) 11.80%
ゴールドマン・サックス証券BNYM 2.75%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長執行役員は市村聡が務めています。社外取締役は3名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
市村聡 代表取締役社長執行役員業務執行全般統括(CEO) 1992年入社。経営企画部長や常務執行役員などを経て、2026年より現職。
橋本修 代表取締役会長経営監督及び特命事項(事業再編等) 1987年入社。ヘルスケア事業本部長等を経て、2020年に代表取締役社長執行役員に就任。2026年より現職。
平原彰男 代表取締役専務執行役員モビリティソリューション事業本部長名古屋支店担当ICTソリューション事業本部管掌 1987年入社。新モビリティ事業開発室長や経営企画部長等を歴任し、2026年より現職。
表利彦 取締役常務執行役員(CTO)研究本部長新事業開発センター、加工生産技術センター、技術戦略室及び知的財産部担当 日東電工でのCTO等を経て2022年に入社。社長補佐等を務め、2026年より現職。
淡輪敏 取締役 1976年入社。代表取締役社長執行役員や代表取締役会長等を歴任し、2026年より現職。
安藤嘉規 取締役参与 1986年入社。人事部長や取締役専務執行役員等を歴任し、2026年より現職。


社外取締役は、馬渕晃(元富士重工業取締役専務執行役員)、三村孝仁(元テルモ代表取締役会長)、木原民(元リコーITソリューションズ取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ライフ&ヘルスケア・ソリューション」「モビリティソリューション」「ICTソリューション」「ベーシック&グリーン・マテリアルズ」および「その他」事業を展開しています。

ライフ&ヘルスケア・ソリューション


同セグメントでは、ビジョンケア材料、オーラルケア材料、パーソナルケア材料、農業化学品などの製造および販売を行っています。世界の人口増加や健康寿命の延伸を背景に、人々の健康や安全な食に貢献する製品やサービスを提供しています。

収益は、国内外の顧客に対する各製品の販売により得ています。主な関係会社として、三井化学クロップ&ライフソリューションや三井化学ファイン、ドイツのKulzerグループなどが製品開発から製造、販売までを担っています。

モビリティソリューション


自動車をはじめとするモビリティ分野向けに、エラストマー、機能性コンパウンド、ポリプロピレン・コンパウンド等の製造・販売を行っています。また、自動車等の工業製品に関する新製品開発支援を行うソリューション事業も展開しています。

収益は、素材の販売収入や設計・解析・試作等に関わる開発支援サービスの提供対価として得ています。アークなどの開発支援企業や、国内外の製造・販売子会社が連携し、顧客ニーズに応じたソリューションを提供しています。

ICTソリューション


半導体・電子部品の工程部材をはじめ、光学材料、不織布、リチウムイオン電池材料等の製造・販売を行っています。生成AIの普及やデジタル化の進展を捉え、高付加価値材料と用途提案を組み合わせたビジネスを展開しています。

収益は、半導体メーカーや装置メーカー等への各種材料や部材の販売により得ています。本州化学工業や三井化学ICTマテリア、エム・エーライフマテリアルズなどの関連会社とともに事業を推進しています。

ベーシック&グリーン・マテリアルズ


エチレン、プロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン材料、工業薬品などの石化・基礎化学品の製造・販売を行っています。自動車やインフラ、食品包装など幅広い産業を支えるエッセンシャル素材を供給しています。

収益は、各種基礎化学品や樹脂等の販売により得ています。プライムポリマーなどの関係会社を通じて事業を展開しており、近年は事業再構築や他社との連携、環境負荷低減に向けたグリーン化も推進しています。

その他


各報告セグメントに含まれない事業を展開しており、主に国内外の関連会社や管理業務に関する事業活動を行っています。

収益は、グループ内のサービス提供や製品販売から得ています。三井化学(中国)管理や台湾三井化学、米州や欧州の地域統括会社などがそれぞれの地域において事業を展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

直近5年間の業績推移を見ると、売上収益は需要変動や原燃料価格の影響を受けつつ1兆6,000億円から1兆8,000億円台で推移しています。一方、税引前利益については原燃料価格の変動や事業構造の変革に伴う費用等により、低下傾向が続いています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 16,127億円 18,795億円 17,497億円 18,092億円 16,688億円
税引前利益 1,413億円 1,173億円 733億円 716億円 686億円
利益率(%) 8.8% 6.2% 4.2% 4.0% 4.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 1,100億円 829億円 500億円 322億円 344億円


収益性の推移を見ると、当期は減収となったことに伴い、売上総利益や営業利益も減少しています。原燃料価格の下落による製品価格の低下が影響していますが、営業利益率は横ばいで推移しており、一定の収益力は維持されています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 18,092億円 16,688億円
売上総利益 1,023億円 871億円
売上総利益率(%) 5.7% 5.2%
営業利益 783億円 738億円
営業利益率(%) 4.3% 4.4%


セグメント別の状況を見ると、ライフ&ヘルスケア・ソリューションやICTソリューションは需要回復等により増収となっています。一方で、モビリティソリューションは自動車減産等の影響で減収となり、ベーシック&グリーン・マテリアルズも市況悪化や原燃料価格下落等の影響により大幅な減収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
ライフ&ヘルスケア・ソリューション 2,550億円 2,643億円
モビリティソリューション 5,581億円 5,185億円
ICTソリューション 2,841億円 2,858億円
ベーシック&グリーン・マテリアルズ 8,024億円 6,696億円
その他 810億円 813億円
調整額 -1,715億円 -1,506億円
連結(合計) 18,092億円 16,688億円


同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金の範囲内で投資や借入金の返済を行う「健全型」のパターンを示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 2,005億円 2,130億円
投資CF -1,650億円 -1,348億円
財務CF -744億円 -759億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.0%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は28.8%であり、いずれも市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げています。また、目指すべき企業グループ像として、「化学の力で社会課題を解決し、多様な価値の創造を通して持続的に成長し続ける企業グループ」を定めており、ESGを中核に据えた経営によって持続可能な社会の実現に寄与することを使命としています。

(2) 企業文化


同社グループは、「社会課題視点」や「ソリューション型ビジネスモデル」、「サーキュラーエコノミー型ビジネスモデル」への転換を重視する文化を持っています。安全やコンプライアンス、品質を事業継続の前提とし、従業員のエンゲージメント向上や人的資本の強化を図ることで、多様な人材が多様な価値を創造できる組織風土の醸成に取り組んでいます。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)による企業変革も推進しています。

(3) 経営計画・目標


2021年度に策定した長期経営計画「VISION 2030」に基づき、2030年度に向けた財務・非財務の計数目標(KPI)を設定しています。

* コア営業利益:2,500億円
* 親会社の所有者に帰属する当期利益:1,500億円以上
* ROE:13%以上
* ROIC:9%以上
* GHG排出量削減率(Scope1、2):40%(2013年度比)

(4) 成長戦略と重点施策


長期経営計画の目標達成に向け、高い収益性が期待される領域への資源配分やM&Aを活用した「事業ポートフォリオ変革の追求」を進めています。研究開発と市場・顧客ニーズを結びつける「ソリューション型ビジネスモデルの構築」や、他社連携による「サーキュラーエコノミーへの対応強化」、生成AI等を用いた「DXを通じた企業変革」を重点施策として掲げ、素材提供型からの脱却と持続的成長の実現を図っています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「三井化学グループの持続的成長」と「従業員の幸福と自己実現」の両立を目標とした「三井化学グループ人材マネジメント方針」を掲げています。自主・自律・協働を重視し、グループ・グローバルに活躍できる人材を育成する方針です。また、健康重視経営を推進し、働きやすさと働き甲斐のある職場環境を整備することで、労働生産性の向上とエンゲージメントの強化を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.0歳 15.1年 8,717,118円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.0%
男性育児休業取得率 97.3%
男女賃金差異(全労働者) 84.8%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 85.3%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 68.3%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、戦略重要ポジション後継者候補準備率(226%)、生活習慣病平均有所見率(10.42%)、メンタル不調休業強度率(0.87)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) プラントトラブルによる操業停止リスク


国内外の製造拠点において、運転や設備に起因するトラブルが発生した場合、生産停止や近隣への被害、レピュテーションの低下を招く恐れがあります。同社はハード・ソフト両面での保全・エンジニアリング力強化や、トラブル未然防止対策を実行しています。

(2) サイバーセキュリティと情報漏洩リスク


業務のデジタル化が進む中、サイバー攻撃やシステムトラブルによる情報漏洩、操業停止の懸念があります。個人情報保護法等の違反や取引先からの信用失墜を防ぐため、セキュリティ意識の向上や脅威監視体制の強化に取り組んでいます。

(3) 多様な人材の確保と要員管理リスク


事業ポートフォリオの転換や成長戦略を推進するためには、多様な人材の確保が不可欠です。生産労働人口の減少等により必要な人材を採用・育成できない場合、成長の妨げとなる可能性があるため、多様な人材プール形成とキータレント育成を進めています。

(4) グローバルマネジメントにおける環境変化リスク


各地域や国における市場競争の変化やニーズの多様化に適切に対応できない場合、海外事業において競争劣位に陥る恐れがあります。これに対し、地域戦略の推進やグローバルな研究開発拠点の再編、ローカル人材の育成を通じた事業成長を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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