※本記事は、三井化学株式会社 の有価証券報告書(第28期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
三井化学転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
1. 三井化学ってどんな会社?
同社グループは、ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT等の分野で高付加価値製品を提供する総合化学メーカーです。
■(1) 会社概要
1955年に三井石油化学工業として設立され、1962年に上場しました。1997年に三井東圧化学と合併し、現在の三井化学が発足しています。2013年にはドイツの歯科材料事業を買収しヘルスケア領域を強化しました。2020年にアークを、2021年には本州化学工業を完全子会社化するなど、事業ポートフォリオの変革を進めています。
同社グループの連結従業員数は17,320名、単体では5,259名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は同様に資産管理を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位は米国を拠点とするカストディアンのステート・ストリート・バンク・アンド・トラスト・カンパニーです。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 17.82% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 10.92% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 510312 | 2.66% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長執行役員業務執行全般統括(CEO)は橋本 修氏です。社外取締役比率は37.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 橋本 修 | 代表取締役社長執行役員業務執行全般統括(CEO) | 1987年入社。経営企画部長、常務執行役員ヘルスケア事業本部長などを経て、2020年4月より現職。 |
| 芳野 正 | 代表取締役社長特別補佐 | 1987年入社。基盤素材事業本部長、上海中石化三井化工有限公司董事長などを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 安藤 嘉規 | 取締役専務執行役員(CHRO) | 1986年入社。人事部長、常務執行役員などを経て、2022年6月より現職。地域戦略推進部等を担当し、人事部及びグローバル人材部を管掌する。 |
| 淡輪 敏 | 取締役会長 | 1976年入社。人事・労制部長、基礎化学品事業本部長、代表取締役社長執行役員などを経て、2023年4月より現職。 |
| 中島 一 | 取締役参与 | 1984年入社。経理部長、常務執行役員、代表取締役専務執行役員などを経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、馬渕 晃(元富士重工業監査役)、三村 孝仁(元テルモ代表取締役会長)、木原 民(元リコーITソリューションズ取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ライフ&ヘルスケア・ソリューション」、「モビリティソリューション」、「ICTソリューション」、「ベーシック&グリーン・マテリアルズ」および「その他」事業を展開しています。
■ライフ&ヘルスケア・ソリューション
ビジョンケア材料(メガネレンズ材料)、不織布、オーラルケア材料、パーソナルケア材料および農業化学品の製造・販売を行っています。人々のQOL向上や食の安全・安心に貢献する製品を提供しています。
収益は、国内外のレンズメーカー、衛生材料メーカー、歯科材料販売店、農薬販売会社等からの製品販売対価により得ています。運営は、三井化学、三井化学クロップ&ライフソリューション、エム・エーライフマテリアルズ、Kulzer GmbHなどが行っています。
■モビリティソリューション
エラストマー、機能性コンパウンド、ポリプロピレン・コンパウンドの製造・販売および自動車等工業製品の新製品開発支援業務を行っています。自動車を中心とした移動手段における環境負荷低減や快適性向上に貢献しています。
収益は、自動車部品メーカーや自動車メーカー等からの製品販売および開発支援サービスの対価により得ています。運営は、三井化学、アーク、Mitsui Elastomers Singapore Pte. Ltd.、Advanced Composites,Inc.などが行っています。
■ICTソリューション
半導体・電子部品工程部材、光学材料、リチウムイオン電池材料・次世代電池材料および高機能食品包装材料の製造・販売を行っています。デジタルトランスフォーメーションの進展を支える製品を提供しています。
収益は、半導体メーカー、電子部品メーカー、包装材料メーカー等からの製品販売対価により得ています。運営は、三井化学、本州化学工業、三井化学ICTマテリアなどが行っています。
■ベーシック&グリーン・マテリアルズ
エチレン、プロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール類、高純度テレフタル酸、ペット樹脂、ポリウレタン材料および工業薬品の製造・販売を行っています。社会基盤を支える素材を提供しています。
収益は、樹脂加工メーカー、繊維メーカー、化学品メーカー等からの製品販売対価により得ています。運営は、三井化学、プライムポリマー、Prime Evolue Singapore Pte. Ltd.などが行っています。
■その他
上記報告セグメントに含まれない関連事業等を行っています。これには、試験・分析受託やエンジニアリングサービスなどが含まれます。
収益は、顧客企業からのサービス提供対価や製品販売対価により得ています。運営は、三井化学および三井化学分析センターなどのグループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間の業績を見ると、売上収益は2023年3月期まで増加傾向にありましたが、直近2期は1.7兆円から1.8兆円前後で推移しています。利益面では、2022年3月期をピークに税引前利益および当期利益は減少傾向にあり、利益率も低下しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 12,117億円 | 16,127億円 | 18,795億円 | 17,497億円 | 18,092億円 |
| 税引前利益 | 742億円 | 1,413億円 | 1,173億円 | 733億円 | 716億円 |
| 利益率(%) | 6.1% | 8.8% | 6.2% | 4.2% | 4.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 579億円 | 1,100億円 | 829億円 | 500億円 | 322億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上収益は増加しましたが、売上原価も増加しており、売上総利益率は若干低下しました。一方、営業利益は増加し、営業利益率も改善しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 17,497億円 | 18,092億円 |
| 売上総利益 | 3,708億円 | 3,883億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.2% | 21.5% |
| 営業利益 | 741億円 | 783億円 |
| 営業利益率(%) | 4.2% | 4.3% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃・保管費が358億円(構成比30%)、研究開発費が269億円(同23%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ライフ&ヘルスケア・ソリューション、モビリティソリューションは増収となりましたが、ICTソリューションは大幅な減収となりました。利益面では、ライフ&ヘルスケア・ソリューションが増益となった一方、モビリティソリューションは減益となりました。ベーシック&グリーン・マテリアルズは依然として赤字ですが、損失幅は縮小しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ライフ&ヘルスケア・ソリューション | 2,757億円 | 2,991億円 | 300億円 | 342億円 | 11.4% |
| モビリティソリューション | 5,476億円 | 5,728億円 | 577億円 | 559億円 | 9.8% |
| ICTソリューション | 2,673億円 | 2,267億円 | 236億円 | 258億円 | 11.4% |
| ベーシック&グリーン・マテリアルズ | 7,664億円 | 8,024億円 | -116億円 | -114億円 | -1.4% |
| その他 | 885億円 | 810億円 | -17億円 | -26億円 | -3.2% |
| 調整額 | -1,958億円 | -1,729億円 | -18億円 | -9億円 | - |
| 連結(合計) | 17,497億円 | 18,092億円 | 741億円 | 783億円 | 4.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で得た資金を借入金の返済や投資に充てており、健全な財務運営が行われています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,613億円 | 2,005億円 |
| 投資CF | -1,239億円 | -1,650億円 |
| 財務CF | -260億円 | -744億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.8%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も30.2%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げています。また、「化学の力で社会課題を解決し、多様な価値の創造を通して持続的に成長し続ける企業グループ」を目指すべき姿としています。
■(2) 企業文化
同社グループは、ESGを中核に据えた経営を行い、事業活動を通じた社会貢献を目指しています。また、目指す未来社会として「環境と調和した循環型社会」、「健康・安心にくらせる快適社会」、「多様な価値を生み出す包摂社会」を掲げ、「社会課題視点」でのビジネスモデル転換や変革を推進する文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2021年度に策定した長期経営計画「VISION 2030」において、以下の目標を掲げています。
* コア営業利益: 2,500億円
* 親会社の所有者に帰属する当期利益: 1,500億円以上
* ROE: 13%以上
* ROIC: 9%以上
* NET D/E: 0.8以下
■(4) 成長戦略と重点施策
「VISION 2030」の実現に向けて、「事業ポートフォリオ変革の追求」、「ソリューション型ビジネスモデルの構築」、「サーキュラーエコノミーへの対応強化」、「DXを通じた企業変革」、「経営基盤・事業基盤の変革加速」の5つの基本戦略を推進しています。特に、ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業の再構築や、成長領域(ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT)への資源集中、グローバル展開の加速に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「三井化学グループ人材マネジメント方針」に基づき、グループ・グローバルに活躍し得る人材を育成しています。人材を企業価値創造の源泉と位置づけ、自主・自律・協働を重視しています。また、従業員が健康で働ける職場環境の整備と健康増進を推進する「健康重視経営」を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.0歳 | 16.1年 | 8,506,254円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.8% |
| 男性育児休業取得率 | 90.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 86.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 87.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 72.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(36%)、戦略重要ポジション後継者候補準備率(235%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業継続に関するリスク
大規模な災害・事故、地政学リスクの顕在化、感染症の発生・拡大、サイバー攻撃等により、生産・販売・研究開発の停止・制限やサプライチェーンの分断が発生し、事業活動の継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。これに対し、海外危機管理体制の構築、サプライチェーンの把握、代替策の確保等を進めています。
■(2) 製造・品質に関するリスク
国内外の工場における事故やトラブル、製品輸送中の事故、化学物質規制による製品の生産・販売不能、予期せぬ品質欠陥や製造物責任訴訟の発生等が懸念されます。これらに対し、保安力の強化、設備管理技術の高度化、化学品規制への対応、品質マネジメントの適切な運用に取り組んでいます。
■(3) コンプライアンスに関するリスク
重大なコンプライアンス違反による刑事罰や損害、レピュテーション低下のリスクがあります。また、経済安全保障や働き方改革等の法令・規制の変化に対応できない場合、訴追や取引機会喪失につながる可能性があります。これに対し、教育・啓蒙活動の強化やグローバル・ポリシーの浸透、法令・規制変化への迅速な対応を図っています。
■(4) 技術革新に関するリスク
市場の複雑化・多様化や革新的な新技術の勃興に対し、適切に対応できず新事業創出が進まない場合や技術優位性が失われる場合、競争力を失う可能性があります。これに対し、社内外連携の強化、事業開発体制の構築、中長期的な技術開発計画の策定等を通じて、新事業創出と技術革新に取り組んでいます。



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