帝人 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

帝人 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場する大手化学メーカーです。高機能材料や複合成形材料を扱うマテリアル、繊維・製品、ヘルスケアの3事業を展開しています。2025年3月期の連結業績は、IT事業の売却益計上などもあり、売上収益は増収、親会社の所有者に帰属する当期利益は黒字転換しました。


※本記事は、株式会社帝人 の有価証券報告書(第159期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 帝人ってどんな会社?


マテリアル、繊維・製品、ヘルスケアの3領域で事業を展開し、社会課題の解決を目指すグローバル企業です。

(1) 会社概要


1918年に帝国人造絹絲として設立され、レーヨンの生産を開始しました。1949年に株式上場を果たし、1962年に現社名へ変更しています。2000年にはトワロン事業を買収してアラミド繊維事業を拡大し、2003年には持株会社制へ移行しました。近年では2024年に電子コミック等のIT事業を売却するなど、事業ポートフォリオの変革を進めています。

連結従業員数は20,279名、単体では2,781名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は証券業務を行うゴールドマン・サックス・インターナショナル、第3位は資産管理業務を行う日本カストディ銀行です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 17.61%
GOLDMAN SACHS INTERNATIONAL 6.04%
日本カストディ銀行(信託口) 5.67%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.0%です。代表者は代表取締役社長執行役員CEOの内川哲茂氏が務めています。社外取締役比率は54.5%です。

氏名 役職 主な経歴
内川 哲茂 代表取締役社長執行役員CEO 1990年同社入社。マテリアル事業統轄、複合成形材料事業本部長などを歴任し、2022年4月より現職。
森山 直彦 代表取締役専務執行役員経営企画管掌兼 経理・財務管掌 1990年同社入社。ヘルスケア事業統轄、ヘルスケア新事業部門長などを経て、2024年6月より現職。
中原 雄司 取締役執行役員技術戦略管掌 日揮、マッキンゼーを経て、Royal DSM等で要職を歴任。2024年10月同社入社、2025年6月より現職。
嶋井 正典 取締役(常勤監査等委員) 1987年同社入社。経営戦略室長、経理部長、マテリアル事業戦略企画部門長、常勤監査役を経て、2025年6月より現職。
鳥居 知子 取締役(常勤監査等委員) 1992年同社入社。IR部長、コーポレートコミュニケーション部長、常勤監査役などを経て、2025年6月より現職。


社外取締役は、津谷正明(元ブリヂストンCEO)、楠瀬玲子(元日本板硝子CFO)、前田東一(元荏原製作所社長)、辻幸一(元新日本監査法人理事長)、南多美枝(元スリーエムカンパニーVP)、竹岡八重子(光和総合法律事務所弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「マテリアル」「繊維・製品」「ヘルスケア」の各報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。

(1) マテリアル


高機能材料事業としてアラミド繊維、樹脂、炭素繊維等の製造・販売を行い、複合成形材料事業として複合成形材料の製造・販売を行っています。主な顧客は自動車、航空機、インフラ産業などのグローバルメーカーです。

製品販売による対価を収益源としています。運営は同社およびTeijin Aramid B.V.、Teijin Carbon Europe GmbHなどの子会社が行っています。なお、複合成形材料の北米事業については株式譲渡契約を締結し、撤退を進めています。

(2) 繊維・製品


衣料用繊維製品やポリエステル繊維、産業資材用テキスタイル等の製造・販売を行っています。アパレルメーカーや産業資材ユーザーなどを顧客とし、機能性素材や製品を提供しています。

製品の販売代金を収益としています。運営は主に帝人フロンティアなどの子会社が行っています。素材開発から製品化までを一貫して行う垂直統合型のビジネスモデルを展開しています。

(3) ヘルスケア


医薬品および医療機器の製造・販売、在宅医療サービスなどを提供しています。骨・関節領域、呼吸器領域、代謝・循環器領域などに強みを持ち、患者や医療機関を顧客としています。

医薬品や医療機器の販売代金および在宅医療機器のレンタル料を主な収益源としています。運営は同社および帝人ファーマ、帝人ヘルスケアなどの子会社が行っています。

(4) その他


電池部材およびメンブレンの製造・販売、再生医療等製品や埋込医療機器の開発・製造・販売、IT関連等の事業を含みます。なお、IT事業(インフォコム)については2024年10月に売却を完了しています。

製品の販売代金やサービス料を収益としています。運営は同社およびジャパン・ティッシュエンジニアリング、帝人ナカシマメディカルなどの子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2024年3月期からIFRSを適用しており、直近2期間のデータを比較します。売上収益は増加傾向にありますが、営業損益は赤字が拡大しました。一方、親会社の所有者に帰属する当期利益については、IT事業の売却益等が寄与し、2025年3月期は黒字転換しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 9,605億円 10,055億円
税引前利益 -51億円 -780億円
利益率(%) -0.5% -7.8%
当期利益(親会社所有者帰属) -117億円 283億円

(2) 損益計算書


売上収益は増加しましたが、売上原価や販管費の増加に加え、減損損失等の計上により営業損失となりました。当期利益の黒字化は、非継続事業(IT事業)からの利益が大きく寄与しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 9,605億円 10,055億円
売上総利益 2,106億円 1,915億円
売上総利益率(%) 21.9% 19.0%
営業利益 -49億円 -718億円
営業利益率(%) -0.5% -7.1%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が112億円(構成比4.1%)、給料・賃金が64億円(同2.4%)を占めています(注記より主要費目を抜粋)。売上原価の構成比については、注記情報が限定的であるため記載を省略します。

(3) セグメント収益


マテリアル事業と繊維・製品事業は増収となりましたが、ヘルスケア事業は薬価改定の影響等で減収となりました。利益面では、マテリアル事業が黒字転換し、繊維・製品事業も増益となりましたが、ヘルスケア事業は大幅な減益となりました。全社的な営業損失は、北米複合成形材料事業等の減損損失が影響しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
マテリアル 4,495億円 4,701億円 -17億円 60億円 1.3%
繊維・製品 3,238億円 3,542億円 130億円 178億円 5.0%
ヘルスケア 1,448億円 1,370億円 182億円 57億円 4.2%
その他 595億円 620億円 11億円 71億円 11.4%
調整額 -171億円 -177億円 -86億円 -90億円 -
連結(合計) 9,605億円 10,055億円 220億円 276億円 2.7%


※表中の利益は「事業利益」を使用しています。

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローのパターンは「改善型」(営業CF+、投資CF+、財務CF-)です。本業で現金を稼ぎつつ、資産売却等による収入(投資CFプラス)もあり、それらを借入金の返済や株主還元(財務CFマイナス)に充てている状態です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 806億円 698億円
投資CF -566億円 525億円
財務CF -438億円 -1,345億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.7%で市場平均(9.4%)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.6%で市場平均(46.8%)を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループはパーパスとして「Pioneering solutions together for a healthy planet」を掲げています。これは、美しい地球に人々がいつまでも暮らし続けるためのソリューションの提供に挑戦する会社でありたいという想いが込められています。

(2) 企業文化


パーパスの実現に向け、3つのバリューを設定しています。「すべての挑戦をリスペクトします」「多様な仲間と専門性を活かして成長します」「地球とあらゆる生命に寄り添い、守ります」を掲げ、これらを重視することで、長期ビジョンである「未来の社会を支える会社」を目指しています。

(3) 経営計画・目標


「中期経営計画2024-2025」では、基礎収益力の回復、事業ポートフォリオ変革、グローバル経営基盤の強化を主要課題として掲げています。数値目標として、早期に以下の水準の達成を目指しています。

* ROE:10%以上
* PBR:1倍以上

(4) 成長戦略と重点施策


収益性改善の完遂と事業ポートフォリオ変革を推進しています。マテリアル事業では生産体制の最適化やコスト削減を進め、ヘルスケア事業では希少疾患治療薬の早期上市や在宅医療基盤の活用を図ります。また、不採算・非注力事業の整理として、IT事業(インフォコム)の売却や北米複合成形材料事業の譲渡決定など、戦略的オプションを実行し、成長軌道への回帰を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「戦略を実装する『適所』の確立と『適材』の確保」と「人財が活躍するための施策」を人事戦略の柱としています。グローバルでの適所適材を実現するため、ジョブ型制度の導入や社内公募制度の拡充を進めています。また、多様な人材が活躍できる環境づくりのため、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の推進やエンゲージメント向上に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 46.2歳 21.9年 8,139,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.8%
男性育児休業取得率 71.4%
男女賃金差異(全労働者) 78.2%
男女賃金差異(正規雇用) 81.2%
男女賃金差異(非正規雇用) 59.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性部課長(11%)、外国籍役員(8%)、社員エンゲージメントスコア(64)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 大規模自然災害リスク


首都圏直下型地震や南海トラフ地震等の大規模災害が発生した場合、経営中枢機能や主要事業所の被災により、事業活動に甚大な影響を及ぼす可能性があります。これに対し、BCP(事業継続計画)の見直しや訓練の実施、各拠点の対策強化を進めています。

(2) 情報セキュリティリスク


サイバー攻撃による重要情報の流出やシステムダウンによる業務停止のリスクがあります。グループ全体のセキュリティレベルの把握と是正を促進し、対策を強化しています。また、DXを推進する人材の不足による競争力低下のリスクに対しても、教育プログラムの整備等で対応しています。

(3) 地政学リスク(サプライチェーン寸断)


国際情勢の変動等によるサプライチェーンの寸断が発生した場合、主要原材料の供給停止により生産活動に支障が出る可能性があります。複数サプライヤーの確保等の対策を検討・実行し、安定供給体制の構築に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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