※本記事は、帝人株式会社の有価証券報告書(第160期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 帝人ってどんな会社?
同社は、マテリアル、繊維・製品、ヘルスケア事業をグローバルに展開する高機能素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1918年に帝国人造絹絲として設立され、レーヨンの生産を開始しました。1949年に上場を果たし、1962年に現在の帝人に社名を変更しました。ポリエステル繊維「テトロン」などの事業を拡大し、近年では持株会社体制への移行や海外企業の買収等を通じて、事業ポートフォリオの変革を進めています。
従業員数は連結で15,689名、単体で2,749名です。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行で、第2位はGOLDMAN SACHS INTERNATIONAL、第3位も資産管理業務を行う信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.37% |
| GOLDMAN SACHS INTERNATIONAL | 6.88% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.70% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性4名の計10名で構成され、女性役員比率は40.0%です。代表取締役社長執行役員CEOは内川哲茂氏が務めており、社外取締役比率は60.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 内川哲茂 | 代表取締役社長執行役員CEO | 1990年同社入社。複合成形材料事業本部長やマテリアル事業統轄等を歴任。2022年より現職。 |
| 森山直彦 | 代表取締役専務執行役員経営企画管掌 | 1990年同社入社。ヘルスケア新事業部門長等を歴任。2024年より現職。 |
| 中原雄司 | 取締役常務執行役員技術戦略管掌 兼 スペシャリティマテリアルズ所管 | 1995年日揮入社。マッキンゼー、Royal DSM等を経て2024年同社入社。2026年より現職。 |
| 鳥居知子 | 取締役(常勤監査等委員) | 1992年同社入社。IR部長やコーポレートコミュニケーション部長等を歴任。2025年より現職。 |
社外取締役は、津谷正明(元ブリヂストン代表執行役CEO兼取締役会長)、楠瀬玲子(元日本板硝子執行役常務CFO)、前田東一(元荏原製作所代表執行役社長)、辻幸一(元EYジャパン合同会社Chairman & CEO)、南多美枝(元スリーエムカンパニアジア地区シニアヴァイス・プレジデント)、竹岡八重子(光和総合法律事務所弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「マテリアル」「繊維・製品」「ヘルスケア」および「その他」事業を展開しています。
■(1) マテリアル事業
アラミド繊維、ポリカーボネート樹脂、炭素繊維、複合成形材料などの高機能素材を製造し、自動車、航空機、インフラ、IT機器などの幅広い産業の顧客に対して提供しています。
収益はこれらの高機能材料や複合成形材料の販売代金から得ています。運営は主に同社や、子会社のTeijin Aramid B.V.、Teijin Polycarbonate China Ltd.などが行っています。
■(2) 繊維・製品事業
ポリエステル繊維や織物、不織布などの繊維製品を製造し、衣料品メーカーや自動車関連、産業資材関連の企業に対して幅広く提供しています。
収益はこれらのポリエステル繊維やアパレル製品、産業資材用繊維などの販売代金から得ています。運営は主に子会社の帝人フロンティアや、南通帝人有限公司などが行っています。
■(3) ヘルスケア事業
医薬品や医療機器の製造・販売に加え、在宅医療サービスの提供を行っています。主に医療機関や在宅での治療を必要とする患者が顧客です。
収益は医薬品や医療機器の販売代金、在宅医療機器のレンタル料やサービス利用料などから得ています。運営は同社や子会社の帝人ファーマ、帝人ヘルスケアなどが行っています。
■(4) その他事業
リチウムイオン二次電池用セパレータなどの電池部材やメンブレン、再生医療等製品および埋込医療機器の開発・製造・販売を展開しています。
収益はこれらの製品の販売代金や開発受託費などから得ています。運営は同社や子会社のジャパン・ティッシュエンジニアリング、Teijin Lielsort Korea. Co., Ltd.などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近3期の売上収益は8,000億円から1兆円規模で推移していますが、当期は減収となりました。利益面では、外部環境の悪化や競争激化、構造改革に伴う減損損失の計上等により、税引前利益は継続して赤字となっており、当期利益も厳しい結果が続いています。
| 項目 | 158期 | 159期 | 160期 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 9,605億円 | 10,055億円 | 8,732億円 |
| 税引前利益 | -51億円 | -780億円 | -741億円 |
| 利益率(%) | -0.5% | -7.8% | -8.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -117億円 | 283億円 | -880億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は減少傾向にありますが、売上総利益はほぼ横ばいで推移しており、売上総利益率自体はわずかに改善しています。しかし、研究開発費や構造改革関連の費用負担などが重く、営業利益は両期ともに赤字が続いています。
| 項目 | 159期 | 160期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 10,055億円 | 8,732億円 |
| 売上総利益 | 298億円 | 301億円 |
| 売上総利益率(%) | 3.0% | 3.4% |
| 営業利益 | -718億円 | -707億円 |
| 営業利益率(%) | -7.1% | -8.1% |
■(3) セグメント収益
売上収益の大部分をマテリアル事業と繊維・製品事業が占めています。当期はマテリアル事業で市況低迷などの影響を受け大幅な減収となりましたが、繊維・製品事業とヘルスケア事業は前期と同水準を維持しています。
| 区分 | 売上(159期) | 売上(160期) |
|---|---|---|
| マテリアル | 4,701億円 | 3,492億円 |
| 繊維・製品 | 3,542億円 | 3,526億円 |
| ヘルスケア | 1,370億円 | 1,386億円 |
| その他 | 620億円 | 498億円 |
| 調整額 | -177億円 | -169億円 |
| 連結(合計) | 10,055億円 | 8,732億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フローとなっています。
| 項目 | 159期 | 160期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 70億円 | 99億円 |
| 投資CF | 53億円 | -39億円 |
| 財務CF | -134億円 | -73億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-22.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は48.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「Pioneering solutions together for a healthy planet」をパーパスとして掲げています。業界を超えた専門知識を活かし、社員や顧客と共に、より良い暮らしの基盤を築くことを目指しています。地球環境とあらゆる生命の健やかさを守り、人々の健康を支える製品を通じて「未来の社会を支える会社」となることを使命としています。
■(2) 企業文化
同社はパーパスの実現に向けて、3つのバリューを重視しています。「すべての挑戦をリスペクトします」「多様な仲間と専門性を活かして成長します」「地球とあらゆる生命に寄り添い、守ります」という価値観のもと、多様なバックグラウンドを持つ人材が互いを尊重し、専門性を掛け合わせてイノベーションを創出する文化を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「中期経営計画2026-2028」を策定し、構造改革の完遂と顧客起点型ビジネスによる確かな成長を目指しています。2028年度を最終年度とし、早期にPBR1倍超の到達を目指すとともに、以下の数値目標を掲げています。
* 事業利益:600億円
* ROE:8%以上(IFRSベース)
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、従来の素材起点型から「顧客起点型ビジネス」への変革を成長戦略の柱としています。自社素材にこだわらず外部の素材やサービスも組み合わせる「クミアワセ」と、顧客課題の解決に幅広く応える「スリアワセ」を推進します。アパレルやヘルスケア事業を成長の柱として投資を拡大し、マテリアル事業では抜本的なコスト構造改革により質の高い収益基盤の確立を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人材を「究極の経営資本」と位置づけ、社員と会社が互いに選び選ばれる関係のもとで共に成長することを目指しています。「適所」の確立と「適材」の確保を軸に、ジョブ型に対応した評価・処遇制度の最適化や、社員の自律的なキャリア形成の支援を推進し、多様な人材がモチベーション高く活躍できる環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 160期 | 46.8歳 | 22.5年 | 8,902,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.9% |
| 男性育児休業取得率 | 86.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 78.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 38.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性役員比率(22%)、外国籍役員比率(4%)、エンゲージメントスコア(64)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サプライチェーンの分断リスク
中東情勢の不安定化や地政学的対立、制裁・輸出規制などの長期化により、特定地域や品目の調達・輸送が制約される可能性があります。これにより原材料の供給遅延やコスト上昇が発生し、生産や製品供給などの事業継続に重大な影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 情報セキュリティリスク
取引先を含むサプライチェーン全体へのサイバー攻撃が高度化・拡大しており、情報漏えいに留まらず、操業停止や設備トラブル、安全事故などが連鎖的に発生し、事業継続が困難となるリスクがあります。
■(3) 重大な品質不正・偽装リスク
重大な品質不正や偽装が発生した場合、顧客への多大な被害や巨額の補償負担が生じ、事業停止処分を受ける可能性があります。また、社会的な信頼や企業ブランドの低下により、他事業へも悪影響が波及するリスクがあります。
■(4) 設備不良等による安全事故リスク
設備不良やオペレーションミスに伴い、漏洩や火災などの重大な事故に発展する可能性があります。製造工程の停止や市場からの信頼低下により、事業環境が著しく悪化するリスクがあります。



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