※本記事は、東レ株式会社 の有価証券報告書(第144期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 東レってどんな会社?
繊維、機能化成品、炭素繊維複合材料などをグローバルに展開する、革新技術と先端材料の基礎素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1926年に東洋レーヨンとして設立され、レーヨン糸の生産を開始しました。その後、ナイロン、ポリエステル等の生産を本格化させ、1970年に東レへ商号変更しました。1971年には炭素繊維の生産を開始し、水処理膜分野など事業を多角化しました。近年では米国での炭素繊維メーカー買収など、グローバル展開を加速させています。
2025年3月31日時点の連結従業員数は47,914人、単体では7,010人です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に資産管理を行う日本カストディ銀行、第3位は機関投資家である日本生命保険となっており、金融機関や機関投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.77% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.01% |
| 日本生命保険(相) | 4.55% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性15名、女性2名の計17名で構成され、女性役員比率は12.0%です。代表取締役会長は日覺昭廣氏、代表取締役社長社長執行役員は大矢光雄氏です。社外取締役比率は29.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 日覺 昭廣 | 代表取締役会長 | 1973年入社。エンジニアリング部門長、代表取締役副社長等を経て2010年代表取締役社長に就任。2023年6月より現職。 |
| 大矢 光雄 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1980年入社。産業資材・衣料素材事業部門長、東レインターナショナル社長、専務取締役等を経て2023年6月より現職。 |
| 首藤 和彦 | 代表取締役副社長執行役員営業全般担当 総務・法務・リスクマネジメント部門(安全保障貿易管理室)・マーケティング企画室・支店・HS事業部門全般担当 | 1980年入社。テキスタイル事業部門長、在中国東レ代表等を経て2025年4月より現職。 |
| 恒川 哲也 | 取締役副社長執行役員知的財産部門全般担当 技術センター所長 | 1984年入社。高機能フィルム技術部長、土浦工場長、常務取締役等を経て2025年4月より現職。 |
| 萩原 識 | 取締役常任顧問技術センター担当 | 1981年入社。工業材料事業部門長、東レフィルム加工社長、代表取締役副社長執行役員等を経て2025年4月より現職。 |
| 安達 一行 | 取締役常任顧問生産本部担当 | 1980年入社。トーレ・インダストリーズ(タイランド)取締役、取締役副社長執行役員等を経て2025年4月より現職。 |
| 岡本 昌彦 | 取締役常務執行役員総務・法務・リスクマネジメント部門長 東京事業場長 | 1986年入社。財務経理部門主幹、財務部長、経理部長等を経て2023年6月より現職。 |
社外取締役は、伊藤邦雄(一橋大学CFO教育研究センター長)、野依良治(名古屋大学特別教授)、神永晉(SKグローバルアドバイザーズ代表取締役)、二川一男(元厚生労働事務次官)、原山優子(山口大学理事)です。
2. 事業内容
同社グループは、「繊維事業」、「機能化成品事業」、「炭素繊維複合材料事業」、「環境・エンジニアリング事業」、「ライフサイエンス事業」および「その他」事業を展開しています。
■繊維事業
ナイロン・ポリエステル・アクリル等の糸・綿・紡績糸および織編物、不織布、人工皮革、アパレル製品などを製造・販売しています。衣料用途だけでなく、工業、土木、農業、ライフサイエンスといった幅広い用途に素材を提供しています。
主な収益源は、製品の販売による収益です。運営は主に東レ、東レインターナショナル、東麗酒伊織染(南通)有限公司などのグループ会社が行っています。
■機能化成品事業
ナイロン・ABS・PBT・PPS等の樹脂および樹脂成形品、フィルム、電子情報材料などを製造・販売しています。自動車、家電、電子部品、包装材料など多岐にわたる産業分野に向けた高機能素材を提供しています。
主な収益源は、製品の販売による収益です。運営は主に東レ、東レ・ファインケミカル、Toray Plastics (America), Inc.などのグループ会社が行っています。
■炭素繊維複合材料事業
炭素繊維、同複合材料および同成形品を製造・販売しています。航空宇宙用途、産業用途(風力発電翼、圧力容器等)、スポーツ用途などにおいて、軽量化や高強度化に貢献する先端材料を提供しています。
主な収益源は、製品の販売による収益です。運営は主に東レ、Toray Composite Materials America, Inc.などのグループ会社が行っています。
■環境・エンジニアリング事業
水処理用機能膜および同機器、総合エンジニアリング、マンション、産業機械類、住宅・建築・土木材料などを取り扱っています。水処理事業ではRO膜やUF膜などを提供し、エンジニアリング事業ではプラント建設等を行っています。
主な収益源は、製品の販売および工事請負等による収益です。運営は主に東レ、水道機工、東レエンジニアリング、東レ建設などのグループ会社が行っています。
■ライフサイエンス事業
医薬品および医療機器を製造・販売しています。医薬事業では腎臓病、皮膚疾患等の治療薬を、医療機器事業では人工腎臓(ダイアライザー)やカテーテル製品などを提供しています。
主な収益源は、製品の販売による収益です。運営は主に東レ、東レ・メディカルなどのグループ会社が行っています。
■その他
分析・調査・研究等のサービス関連事業を行っています。グループ内外の顧客に対して、専門的なサービスを提供しています。
主な収益源は、サービスの提供による対価です。運営は主に東レリサーチセンターなどのグループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は2021年3月期以降、増加傾向にあり、2025年3月期には2兆5,633億円に達しています。利益面では、原材料価格高騰などの影響を受け変動が見られますが、2025年3月期は税引前利益、当期利益ともに前期から大幅に回復し、利益率も改善しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 18,836億円 | 22,285億円 | 24,893億円 | 24,646億円 | 25,633億円 |
| 税引前利益 | 656億円 | 1,203億円 | 1,119億円 | 596億円 | 1,143億円 |
| 利益率(%) | 3.5% | 5.4% | 4.5% | 2.4% | 4.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 458億円 | 842億円 | 728億円 | 219億円 | 779億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益は4.0%増加し、売上総利益も増加しています。営業利益は前期比で倍増し、営業利益率も改善しました。これは販売価格の是正や高付加価値品へのシフト、需要回復に伴う数量増などが寄与した結果です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 24,646億円 | 25,633億円 |
| 売上総利益 | 4,435億円 | 5,059億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.0% | 19.7% |
| 営業利益 | 577億円 | 1,275億円 |
| 営業利益率(%) | 2.3% | 5.0% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が495億円(構成比14%)、給料手当及び賞与一時金が188億円(同5%)を占めています。
■(3) セグメント収益
2025年3月期は、全ての報告セグメントにおいて事業利益が増加しました。特に機能化成品事業と炭素繊維複合材料事業では、需要回復や価格是正の効果により大幅な増益となりました。繊維事業も堅調に推移し増益を確保しています。環境・エンジニアリング事業は増益、ライフサイエンス事業は赤字幅が縮小しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 繊維事業 | 9,766億円 | 10,127億円 | 547億円 | 642億円 | 6.3% |
| 機能化成品事業 | 9,036億円 | 9,565億円 | 367億円 | 600億円 | 6.3% |
| 炭素繊維複合材料事業 | 2,913億円 | 3,005億円 | 132億円 | 225億円 | 7.5% |
| 環境・エンジニアリング事業 | 2,962億円 | 3,191億円 | 232億円 | 259億円 | 8.1% |
| ライフサイエンス事業 | 522億円 | 532億円 | -13億円 | -8億円 | -1.5% |
| その他 | 447億円 | 464億円 | 33億円 | 24億円 | 5.3% |
| 調整額 | -1,001億円 | -1,251億円 | -272億円 | -315億円 | - |
| 連結(合計) | 24,646億円 | 25,633億円 | 1,026億円 | 1,428億円 | 5.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動によるキャッシュ・フローがプラスで、投資活動および財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスであることから、本業で稼いだ資金で投資を行い、借入金の返済も進めている「健全型」と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,857億円 | 2,550億円 |
| 投資CF | -1,210億円 | -632億円 |
| 財務CF | -704億円 | -1,885億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は52.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念を掲げています。創業以来、「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」という経営思想の下、お客様、社員、株主、社会に対して責任を果たし、尊敬される企業体を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「人を基本とする経営」を企業理念の土台となる重要な企業文化として位置付けています。また、「高い倫理観と強い責任感」をもって行動することを重視しており、誠実で信頼に応える経営を行うことを基本方針としています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、長期経営ビジョン「TORAY VISION 2030」の実現に向け、2025年度までの中期経営課題「プロジェクト AP-G 2025」を推進しています。2050年の持続可能な社会の実現に向けたマイルストーンとして、2030年度および2025年度の数値目標を定めています。
* 2025年度 売上収益:2兆8,000億円
* 2025年度 事業利益:1,800億円
* 2025年度 ROIC:約5%
* 2025年度 ROE:約8%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「サステナビリティイノベーション(SI)事業」と「デジタルイノベーション(DI)事業」を成長領域と位置付け、拡大を図っています。また、事業の高度化・高付加価値化、品質力・コスト競争力の強化に取り組み、高成長・高収益事業の拡大と低成長・低収益事業の構造改革を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人材の確保と育成」を最重要経営課題とし、「『人を基本とする経営』の深化」を基本戦略に掲げています。多様な人材の確保・登用、自律的なキャリア形成やスキル習得の支援による育成、現場の声を尊重する組織風土の醸成などを通じ、従業員の幸福度を高めつつ企業価値の最大化を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.8歳 | 17.4年 | 8,205,000円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.6% |
| 男性育児休業取得率 | 91.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.7% |
| 男女賃金差異(正規) | 83.5% |
| 男女賃金差異(非正規) | 54.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、基幹ポスト後継候補者充足率(179%)、経営人材育成研修(54人)、EXスコア(66.1)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 戦争危険を踏まえた危機対応リスク
海外拠点の治安悪化や戦争・紛争の勃発により、従業員の安全確保が困難になったり、事業の停止や撤退、重要資産の接収などの事態が生じる可能性があります。同社はウクライナ紛争等を契機に本リスクを「優先対応リスク」と位置付け、有事対応計画の整備や訓練を通じて、従業員の安全確保と迅速な事業判断を行える体制を強化しています。
■(2) 製品供給途絶リスク
原燃料の調達難やサプライチェーンの混乱により、製品の安定供給が困難になるリスクがあります。これにより、顧客の事業継続への影響や契約不履行に伴う賠償責任が生じる可能性があります。同社は原材料の複数購買化やレシピ変更などの対策を進め、サプライチェーンの強靭化を図っています。
■(3) 製品の需要・市況の動向と事業計画に関わるリスク
同社製品は広範な産業・地域に供給されており、需給環境の変動や素材代替、顧客の購買方針変更などにより需要が減退するリスクがあります。特に、景気変動や特定用途の需要急減、価格下落、競合企業の参入などは業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、競争優位製品の確保や事業ポートフォリオの改善に取り組んでいます。
■(4) 気候変動、水不足、資源の枯渇等の環境課題に関わるリスク
GHG削減や資源循環への対応遅れによる競争力低下、石油化学産業へのレピュテーション悪化、カーボンプライシング導入などが経営に影響を与える可能性があります。同社はサステナビリティイノベーション事業の拡大や、気候変動対策等の長期ロードマップ策定・推進を通じて、リスク対応と事業機会の創出を図っています。



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