※本記事は、東レ株式会社の有価証券報告書(第145期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 東レってどんな会社?
繊維や機能化成品などの先端材料をグローバルに展開する総合素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1926年に東洋レーヨンとして設立され、1927年にレーヨン糸の生産を開始しました。1949年に東京証券取引所へ上場を果たし、1951年にナイロン、1958年にポリエステル繊維、1971年に炭素繊維の生産を開始するなど、次々と新素材を事業化してきました。1970年に現在の東レへ社名を変更しています。
従業員数は連結で46,294名、単体で7,027名です。大株主については、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行、第3位は生命保険会社となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.77% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.33% |
| 日本生命保険(相) | 4.89% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長社長執行役員CEOは大矢光雄が務めています。社外取締役は4名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大矢光雄 | 代表取締役社長社長執行役員CEO | 1980年入社。産業資材・衣料素材事業部門長、東レインターナショナル代表取締役社長、専務等を経て、2023年6月より現職。 |
| 日覺昭廣 | 取締役会長 | 1973年入社。エンジニアリング部門長、専務等を経て、2010年より代表取締役社長。2023年より代表取締役会長を務め、2026年4月より現職。 |
| 恒川哲也 | 代表取締役副社長執行役員総務・法務・リスクマネジメント部門(安全保障貿易管理室)・知的財産部門全般担当 技術センター所長 | 1984年入社。フィルム研究所長、土浦工場長、専務等を経て、2025年より取締役副社長執行役員を務め、2026年4月より現職。 |
| 首藤和彦 | 取締役顧問 | 1980年入社。テキスタイル事業部門長、在中国東レ代表、専務等を経て、2025年より代表取締役副社長執行役員を務め、2026年4月より現職。 |
| 寺田滋紀 | 取締役上席執行役員経営企画室長 | 1986年入社。フィルム事業企画管理室長兼樹脂・ケミカル事業企画管理室長等を経て、2025年6月より現職。 |
| 加藤勇一郎 | 取締役上席執行役員財務経理部門長 | 1986年入社。経理部長、東レインターナショナル管理部門長等を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、伊藤邦雄(一橋大学CFO教育研究センター長)、神永晉(SKグローバルアドバイザーズ代表取締役)、原山優子(山口大学理事)、イネステーラー章子(早稲田大学大学院経営管理研究科教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「繊維事業」、「機能化成品事業」、「炭素繊維複合材料事業」、「環境・エンジニアリング事業」、「ライフサイエンス事業」および「その他」事業を展開しています。
■繊維事業
ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの糸や織編物、不織布、人工皮革、アパレル製品などの製造と販売を行っています。アパレル用途だけでなく、工業、土木、農業などの幅広い産業向けに素材を提供しています。
収益はこれらの繊維製品や加工品の販売から得ています。事業の運営は同社のほか、東レインターナショナル、Alcantara S.p.A.、Toray Advanced Materials Korea Inc.などの国内外のグループ会社が行っています。
■機能化成品事業
樹脂やその成形品、ポリオレフィンフォーム、各種フィルムおよび加工品、ファインケミカル、電子情報材料などの製造と販売を行っています。自動車部品や食品包装、半導体関連など多岐にわたる用途に対応しています。
収益は機能性樹脂やフィルム、ケミカル製品の販売から得ています。運営は同社を中心に、東レ・ファインケミカル、東レフィルム加工、Toray Plastics (America), Inc.などが担っています。
■炭素繊維複合材料事業
炭素繊維やその複合材料、および成形品の製造と販売を行っています。航空宇宙用途をはじめ、風力発電翼や燃料電池車、スポーツ・一般産業向けなど、幅広い分野に軽量で高強度な先端材料を提供しています。
収益は炭素繊維やプリプレグなどの販売から得ています。運営は同社のほか、Toray Composite Materials America, Inc.やToray Carbon Fibers Europe S.A.などが担っています。
■環境・エンジニアリング事業
水処理用機能膜および同機器、総合エンジニアリング、マンション、産業機械類、住宅・建築・土木材料などの製造、販売、施工を行っています。海水淡水化や下廃水再利用などに向けた膜処理技術に強みを持ちます。
収益は水処理製品の販売やプラント建設、エンジニアリングサービスなどから得ています。運営は同社に加え、水道機工、東レ建設、東レエンジニアリングなどの子会社が行っています。
■ライフサイエンス事業
医薬品や医療機器の製造と販売を行っています。血液浄化製品や体外診断薬などを展開し、人々の健康と生活の質の向上に貢献する事業領域として育成を進めています。
収益は医薬品や人工腎臓などの医療機器の販売から得ています。事業の運営は同社および子会社の東レ・メディカルなどが中心となって行っています。
■その他事業
報告セグメントに含まれない事業として、分析、調査、研究などの専門的なサービス関連事業を展開しています。
収益はこれらの専門的なサービスの提供から得ており、主に同社グループの関連会社が運営を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の連結業績を見ると、売上収益は2兆2285億円から2兆5851億円へと順調に拡大を続けています。一方、税引前利益は事業環境の変化や一時的な減損損失などの影響により増減を繰り返しており、直近では1076億円となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 22285億円 | 24893億円 | 24646億円 | 25633億円 | 25851億円 |
| 税引前利益 | 1203億円 | 1119億円 | 596億円 | 1143億円 | 1076億円 |
| 利益率(%) | 5.4% | 4.5% | 2.4% | 4.5% | 4.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 842億円 | 728億円 | 219億円 | 779億円 | 795億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期から微増となりましたが、営業利益は前期比で減少しています。これは韓国子会社の事業において減損損失を計上したことなどが主な要因です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 25633億円 | 25851億円 |
| 売上総利益 | 1441億円 | 1480億円 |
| 売上総利益率(%) | 5.6% | 5.7% |
| 営業利益 | 1275億円 | 972億円 |
| 営業利益率(%) | 5.0% | 3.8% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が504億円、給料手当及び賞与一時金が189億円を占めています。また、売上原価は2兆650億円で、売上収益に対して約80%を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の繊維事業や環境・エンジニアリング事業では、需要の回復や堅調な推移により増収となりました。一方、機能化成品事業は自動車用途の市況低迷などの影響を受けて減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 繊維事業 | 10127億円 | 10524億円 |
| 機能化成品事業 | 9565億円 | 9054億円 |
| 炭素繊維複合材料事業 | 3005億円 | 3010億円 |
| 環境・エンジニアリング事業 | 3191億円 | 3239億円 |
| ライフサイエンス事業 | 532億円 | 524億円 |
| その他 | 464億円 | 538億円 |
| 調整額 | -1251億円 | -1039億円 |
| 連結(合計) | 25633億円 | 25851億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスとなっており、本業で得た資金を投資や借入金の返済に充てている健全型の状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2550億円 | 2118億円 |
| 投資CF | -632億円 | -669億円 |
| 財務CF | -1885億円 | -1290億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」との経営思想の下、企業理念として「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」と掲げています。また、「2050年に向け東レグループが目指す世界」として、人と地球が調和する世界や、すべての人が健やかに暮らす世界の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、経営理念を具現化するための「経営基本方針」において、お客様には「新しい価値と高い品質の製品とサービス」を、社員には「働きがいと公正な機会」を、株主には「誠実で信頼に応える経営」を提供することを重視しています。また、企業活動の基盤である「人を基本とする経営」を企業文化の土台として位置付けています。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な成長に向けて、長期経営方針「TORAY Challenges 2035」および中期経営課題「IGNITION 2028」を策定し、経済的価値と社会的価値の向上に取り組んでいます。
* 売上収益3兆円
* 事業利益2300億円
* ROIC約7%
* ROE約8%
(いずれも2028年度目標)
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の競争力を高めるとともに、次世代市場での新たな成長と付加価値の高いビジネスモデルへの転換を進めています。繊維事業では衣料用一貫型事業やエアバッグ事業を成長ドライバーとし、機能化成品事業ではxEV向けなどの先行開発を推進しています。また、水処理とヘルスケアを成長性の高い領域として育成しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「企業の盛衰は人が制し、人こそが企業の未来を拓く」という考えの下、「人を基本とする経営」を推進しています。多様な人材や価値観を包摂し、誰もが自分らしく働ける職場づくりを進めるとともに、経営の担い手となる次世代リーダーや高度専門人材、デジタル人材の計画的な育成と柔軟な人材配置に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.8歳 | 17.4年 | 8384000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.9% |
| 男性育児休業取得率 | 92.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 83.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 56.3% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒Gコース採用における女性比率(35%)、EXスコア(67.0)、労働災害度数率(0.38)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 製品供給途絶リスク
原燃料の調達困難や地政学的リスクにより、サプライチェーンが不安定化するリスクです。同社は原材料の複数購買化や在庫備蓄などを行い、製品供給の継続性を強化しています。
■(2) サイバー攻撃による事業活動停止リスク
高度化するサイバー攻撃により、基幹システムや生産設備が停止し、事業活動に影響を及ぼすリスクです。同社はセキュリティ管理基準の運用や定期的な診断を通じて対策を徹底しています。
■(3) 製品の需要・市況の動向に関わるリスク
市場変動や競合参入により、特定の顧客や用途での需要が減退し、収益に影響を及ぼすリスクです。同社は事業ポートフォリオの改善や高付加価値品への転換を進め、収益性の向上に努めています。
■(4) グローバル事業展開に関わるリスク
海外での紛争や通商政策の変更、輸出管理規制の強化などにより、事業運営が阻害されるリスクです。同社は専任チームを設置して各国の動向を分析し、機動的なリスク回避策を講じています。



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