※本記事は、アステラス製薬株式会社の有価証券報告書(第20期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. アステラス製薬ってどんな会社?
国内大手製薬企業の一角。がん領域などを重点に、革新的な医薬品の研究開発・製造・販売をグローバルに展開しています。
■(1) 会社概要
2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併し発足しました。その後、2016年に眼科領域の細胞医療に強みを持つオカタ セラピューティクス(米国)、2020年に遺伝子治療薬を開発するオーデンテス セラピューティクス(米国)を買収するなど、先端医療分野への投資を加速させています。2023年には眼科領域のバイオ医薬品企業IVERIC bio(米国)を買収し、パイプラインの拡充を図っています。
2025年3月31日現在、連結従業員数は13,643名、単体従業員数は4,105名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行の信託口が保有しています。第3位には米国の投資銀行ゴールドマン・サックスが名を連ねており、国内外の機関投資家が高い比率で株式を保有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社 (信託口) | 19.88% |
| 株式会社日本カストディ銀行 (信託口) | 8.02% |
| GOLDMAN, SACHS & CO. REG | 3.35% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性5名の計11名で構成され、女性役員比率は45.5%です。代表者は代表取締役社長の岡村直樹氏です。社外取締役比率は63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 安川 健司 | 代表取締役会長 | 1986年入社。執行役員製品戦略部長、経営戦略担当などを経て、2018年より代表取締役社長。2023年4月より現職。 |
| 岡村 直樹 | 代表取締役社長 | 1986年入社。経営企画部長、経営戦略担当、財務担当などを歴任し、2023年4月より現職。 |
| 杉田 勝好 | 代表取締役副社長 | 旭化成、ジョンソン・エンド・ジョンソン等を経て、2021年同社入社。人事部門長などを経て2025年4月より現職。 |
| 廣田 里香 | 取締役監査等委員 | 1991年入社。バイオサイエンス研究所長、研究統制部長、監査等委員会室長などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、田中孝司(KDDI元社長)、桜井恵理子(ダウ・ケミカル日本元社長)、宮﨑正啓(日立ハイテク元社長)、大野洋一(埼玉医科大学客員教授)、中山美加(JSR元常務)、秋山里絵(弁護士)、荒牧知子(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業
医療用医薬品の研究開発、製造および販売を行っています。主な製品として、前立腺がん治療剤「XTANDI」、尿路上皮がん治療剤「PADCEV」、急性骨髄性白血病治療剤「XOSPATA」などを世界中で提供しており、患者の治療アウトカム向上に貢献しています。
収益は主に、医療機関や卸売業者等への製品販売による対価や、提携先からのロイヤルティ収入等から構成されています。運営は、親会社である同社に加え、米国の「アステラス ファーマ US, Inc.」、欧州の「アステラス ファーマ ヨーロッパ Ltd.」など、各国の関係会社が各機能を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5期間を通じて増加傾向にあり、特に第20期は前期比で2割近く伸長し1兆9000億円台に達しました。利益面では、第19期に利益率が大きく低下しましたが、第20期には回復傾向を示しています。当期利益も第20期には前期比で約3倍となり、収益性の改善が見られます。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 12,495億円 | 12,962億円 | 15,186億円 | 16,037億円 | 19,123億円 |
| 税引前利益 | 1,453億円 | 1,569億円 | 1,324億円 | 250億円 | 312億円 |
| 利益率(%) | 11.6% | 12.1% | 8.7% | 1.6% | 1.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,206億円 | 1,241億円 | 987億円 | 170億円 | 507億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益の増加に伴い、売上総利益も順調に拡大しています。営業利益および営業利益率については、第20期において前期よりも改善しており、増収効果が利益の押し上げに寄与している構造が見て取れます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 16,037億円 | 19,123億円 |
| 売上総利益 | 13,112億円 | 15,631億円 |
| 売上総利益率(%) | 81.8% | 81.7% |
| 営業利益 | 255億円 | 410億円 |
| 営業利益率(%) | 1.6% | 2.1% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が1,686億円(構成比20.0%)、特許権使用料が1,318億円(同15.6%)を占めています(※注記より抽出)。
■(3) セグメント収益
同社は医薬品事業の単一セグメントです。主力製品である前立腺がん治療剤「XTANDI」や尿路上皮がん治療剤「PADCEV」の売上がグローバルで拡大したほか、新製品の寄与もあり、売上収益は前期比で大幅に増加しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| Total | 16,037億円 | 19,123億円 | 255億円 | 410億円 | 2.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「健全型」です。本業の営業活動でしっかりと現金を稼ぎ出し、その資金で借入金の返済や配当支払いを行い、投資活動もコントロールしている、財務的に安定した状態と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,725億円 | 1,945億円 |
| 投資CF | -8,458億円 | -894億円 |
| 財務CF | 6,141億円 | -2,614億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は53.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」ことを存在意義とし、企業価値の持続的向上を使命としています。生命科学の未知なる可能性を究め、最先端の医薬品を生み出し、高い品質と確かな情報とともに届けることで、世界の人々の健やかな生活に応えることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「高い倫理観」「顧客志向」「創造性発揮」「競争の視点」という4つの信条(Values)を行動規範として掲げています。また、共通の目標達成のために社員が効果的に協働し、組織的に戦略を推進する「One Astellas」の文化を重視し、果敢なチャレンジとイノベーションを促進する環境構築に努めています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「経営計画2021」において、2025年度までの目標を設定しています。成果目標として、売上収益における重点戦略製品等の拡大や、高いコア営業利益率の達成、パイプライン価値の向上を掲げています。
* 売上収益:XTANDI及び重点戦略製品の売上は2025年度に1.2兆円以上
* コア営業利益率:2025年度に30%以上
* パイプライン価値:Focus Areaプロジェクトからの売上は2030年度に5,000億円以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「経営計画2021」の実現に向け、患者のアウトカム最大化、科学の進歩の価値化、Rx+ビジネスの進展、サステナビリティ向上を戦略目標としています。特に、独占販売期間満了の影響を克服するため、「Growth Strategy(重点戦略製品の価値最大化)」「Bold Ambition(研究開発の加速)」「Sustainable Margin Transformation(コスト最適化)」の3つを全社的な優先事項として推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「Employer of Choice(現在そして未来の社員に選ばれる会社)」を目指し、採用・配置、評価・処遇、人材・組織開発を推進しています。グローバルな事業展開に対応するため、国籍や性別を問わない適所適材の配置、成果に基づく公正な評価、心理的安全性の確保やフィードバック文化の醸成によるイノベーション創出環境の構築に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.3歳 | 15.7年 | 10,462,753円 |
※平均年間給与は、基準外賃金及び賞与を含む総年間賃金を人数で除して算出しています。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 経営基幹職に占める女性労働者の割合 | 18.3% |
| 男性労働者の育児休業等取得率 | 82.5% |
| 男女の賃金の差異(全労働者) | 76.9% |
| 男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 77.6% |
| 男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 66.6% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サイバーセキュリティ
サイバー攻撃の高度化・巧妙化により、製薬業界の持つ重要なデータが標的となるリスクがあります。システム障害や機密データの侵害・漏洩が発生した場合、事業活動への深刻な影響が懸念されます。同社は情報セキュリティプログラムの設計やトレーニング実施等で対策を講じています。
■(2) 地政学的緊張の高まりのサプライチェーンへの影響
地政学的不確実性の高まりにより、サプライチェーンの複雑さが増しています。分断が生じた場合、製造プロセスへの影響や製品在庫切れ、患者への供給不能、財務的損害等の可能性があります。同社は代替サプライヤーの導入や安全在庫の増加等の対策を進めています。
■(3) データナショナリズム及びプライバシー規制の分断化
各国政府によるデータ移転制限や独自の個人情報保護規制の策定が進んでいます。規制変更により、ビジネスプロセスやITシステムの修正が必要となり、コスト増や効率低下を招くリスクがあります。同社は関連規制動向のモニタリングやデータガバナンスの強化を行っています。



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