※本記事は、日本新薬株式会社 の有価証券報告書(第162期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本新薬ってどんな会社?
泌尿器科、血液内科、難病・希少疾患等の領域に特化した新薬開発と、機能食品素材の提供を行う京都の企業です。
■(1) 会社概要
1911年に京都新薬堂として創業し、1919年に株式会社として設立されました。1961年には食品事業へ進出し、1962年に東京証券取引所に上場しました。1999年には米国子会社を設立してグローバル展開を開始し、2022年には東証プライム市場へ移行しました。独自性のある医薬品創出に注力しています。
2025年3月31日現在の連結従業員数は2,243名(単体1,876名)です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は生命保険事業を行う明治安田生命保険です。第3位も信託銀行であり、主に機関投資家が上位株主となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.26% |
| 明治安田生命保険 | 9.63% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.63% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性6名の計16名で構成され、女性役員比率は37.5%です。代表取締役社長は中井亨氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 前川 重信 | 代表取締役会長 | 1976年入社。経営企画部長、経理・財務・情報システム担当などを経て、2007年より代表取締役社長。2021年より現職。 |
| 中井 亨 | 代表取締役社長 | 1995年入社。事業企画部長、国際事業統括部長、国際事業本部長などを歴任。2021年より現職。 |
| 佐野 省三 | 常務取締役営業担当 | 1984年入社。営業本部さいたま支店長、首都圏統括部長、営業本部長などを歴任。2019年より現職。 |
| 高谷 尚志 | 取締役人事・総務・リスク・コンプライアンス・DX担当 | 1984年入社。営業本部マーケティング部長、営業企画統括部長などを経て、2022年より現職。 |
| 枝光 平憲 | 取締役経営企画・サステナビリティ担当 | 1989年入社。経営企画部長を経て、2022年より現職。 |
| 高垣 和史 | 取締役研究開発担当 | 1986年入社。創薬研究所長を経て、2021年より現職。 |
| 石沢 整 | 取締役機能食品担当 | 1985年入社。営業本部大阪支店長、関西支店長などを経て、2021年より現職。 |
| 木村 ひとみ | 取締役サプライチェーン・信頼性保証担当 | 1984年入社。信頼性保証統括部薬事部長、信頼性保証統括部長を経て、2021年より現職。 |
社外取締役は、櫻井美幸(弁護士)、和田芳直(医師)、小林柚香里(元日本マイクロソフト執行役員)、西真弓(医師・薬剤師)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」「機能食品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業
泌尿器科、血液内科、難病・希少疾患、婦人科領域などを中心に、医療用医薬品の研究開発、製造、販売を行っています。また、海外においては米国子会社などを通じて医薬品の販売や臨床開発業務を展開しています。
収益は、医薬品卸売業者等への製品販売による対価や、導出先企業からの契約一時金、マイルストン収入、ロイヤリティ収入などから得ています。運営は主に日本新薬が行うほか、製造に関しては子会社のシオエ製薬やタジマ食品工業も担っています。
■(2) 機能食品事業
健康食品素材、品質安定保存剤、プロテイン製剤、サプリメントなどの研究開発、製造、販売を行っています。医薬品事業で培った技術や品質管理ノウハウを活用し、高品質で独自性の高い製品を提供しています。
収益は、食品メーカーや健康食品販売会社、一般消費者等への製品・商品販売による対価から得ています。運営は主に日本新薬が行い、タジマ食品工業が受託製造を行うほか、シオエ製薬からも商品の供給を受けています。
■(3) その他
上記セグメントに含まれない事業として、ビジネスサポート業務、損害保険代理店業務、不動産の賃貸、教育支援サービスなどを行っています。
収益は、グループ会社や外部顧客へのサービス提供による対価から得ています。運営は主に子会社の日本新薬アドバンスが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は右肩上がりで推移しており、当期は過去最高の1,602億円を達成しました。利益面でも高い水準を維持しており、当期は増益となっています。特に当期利益は前期比で大きく増加し、成長基調が継続しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,219億円 | 1,375億円 | 1,442億円 | 1,483億円 | 1,602億円 |
| 税引前利益 | 276億円 | 333億円 | 305億円 | 336億円 | 361億円 |
| 利益率(%) | 22.7% | 24.2% | 21.1% | 22.7% | 22.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 195億円 | 250億円 | 228億円 | 259億円 | 326億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益が増加する一方で、売上総利益率も高水準を維持しています。営業利益率は20%を超えており、収益性の高さが伺えます。販管費や研究開発費への投資を行いつつも、しっかりと利益を確保する構造となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 1,483億円 | 1,602億円 |
| 売上総利益 | 980億円 | 1,091億円 |
| 売上総利益率(%) | 66.1% | 68.1% |
| 営業利益 | 333億円 | 355億円 |
| 営業利益率(%) | 22.5% | 22.1% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が188億円(構成比49%)、販売促進諸費が56億円(同15%)を占めています。
■(3) セグメント収益
医薬品事業は、主力製品の伸長やロイヤリティ収入の増加により増収増益となり、全社の成長を牽引しました。一方、機能食品事業はプロテイン製剤等の売上減少により減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品 | 1,251億円 | 1,387億円 | 306億円 | 335億円 | 24.2% |
| 機能食品 | 232億円 | 216億円 | 14億円 | 13億円 | 5.9% |
| 調整額 | - | - | 13億円 | 6億円 | - |
| 連結(合計) | 1,483億円 | 1,602億円 | 333億円 | 355億円 | 22.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ資金で借入金の返済や株主還元を行いつつ、将来のための投資も自己資金で賄えている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 163億円 | 361億円 |
| 投資CF | -99億円 | -289億円 |
| 財務CF | -97億円 | -99億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は88.3%で市場平均を大幅に上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「人々の健康と豊かな生活創りに貢献する」を経営理念として掲げています。また、長期ビジョンとして2035年のありたい姿「京都のグローバルヘルスケアカンパニーとして、一人ひとりの新しい生きるを世界に届ける会社」の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
社会において存在意義を示し持続的に成長するために、京都に根付く「ベンチャー精神」をもって、既存の製品・枠組みにとらわれずに価値のある製品・サービスを世界に提供し続けていくことを重要視しています。「一人ひとりが成長する」ことを経営方針の一つに掲げています。
■(3) 経営計画・目標
第七次5ヵ年中期経営計画(2024年度~2028年度)において、最終年度である2028年度の数値目標を設定しています。
* 売上収益:2,300億円
* 営業利益:300億円
* ROE(自己資本利益率):8%以上
* EPS(一株当たり当期利益):341円
■(4) 成長戦略と重点施策
「2035年のありたい姿」の実現に向けて、医薬品事業と機能食品事業を推進します。医薬品事業では、核酸・低分子創薬を中心に、血液内科や難病・希少疾患領域などグローバル展開を狙える領域に資源を集中します。機能食品事業では、高品質で独自性の高い素材および製品を提供し、高収益体質を目指します。
* ウプトラビに替わる成長ドライバーの育成
* グローバル展開の拡大
* 継続的なパイプラインの拡充
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「一人ひとりが成長する」を方針とし、社員が自己実現や成長を実感でき、働き続けたいと思う「選ばれる会社」を目指しています。役割・責任・成果に応じた処遇、主体的なキャリア形成、心理的安全性の高い組織、柔軟な働き方の実現に取り組んでいます。自律的なキャリア形成を支援する「NSアカデミー」等のプログラムも実施しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.4歳 | 17.2年 | 9,192,000円 |
※平均年間給与は賞与と基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.4% |
| 男性育児休業取得率 | 76.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.0% |
| 男女賃金差異(正規) | 80.9% |
| 男女賃金差異(非正規) | 90.1% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 研究開発の不確実性
新薬候補品の研究開発には多額の費用と長い期間を要しますが、期待された有用性が確認できず開発を中止する可能性があります。特にDMD治療薬などの開発において、遅延や失敗、競合品の上市などが生じた場合、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 知的財産権に関する紛争
事業活動において第三者の知的財産権を侵害したとされる場合や、自社の知的財産権が無効と判断された場合、損害賠償や事業の中止、競争優位性の低下につながる可能性があります。米国においては特許に関する訴訟等が進行中の案件も存在します。
■(3) 訴訟リスク
医薬品の副作用、製造物責任、環境、労務等に関連して訴訟の対象となる可能性があります。訴訟の動向によっては、損害賠償金の支払いや社会的信用の毀損により、経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 重篤な副作用の発生
医薬品は厳しい審査を経て販売されますが、予期せぬ重篤な副作用が発生する可能性があります。その場合、販売中止や製品回収、社会的信用の低下を招き、経営成績に重大な影響を与えるリスクがあります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。