※本記事は、杏林製薬株式会社 の有価証券報告書(第67期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 杏林製薬ってどんな会社?
医療用医薬品の研究開発・製造販売を行う製薬メーカーです。新薬創出や後発医薬品の提供を通じて医療に貢献しています。
■(1) 会社概要
1923年に東洋新薬社として創業し、1940年に杏林製薬へ改組しました。2006年に持株会社体制へ移行し東証一部へ上場しましたが、2023年に持株会社が事業会社を吸収合併し、現在の商号となりました。2022年には東証プライム市場へ移行し、創業100周年を迎えています。
連結従業員数は1,998名、単体では1,330名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位のマイカムと第3位のルキウスは、所在地が同一であることから関連性がうかがえる大株主です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.30% |
| マイカム | 8.50% |
| ルキウス | 4.84% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長は荻原豊氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 荻原 豊 | 代表取締役社長(CEO 監査室担当) | 1990年入社。社長室長、経営戦略室長等を経て、2019年代表取締役社長に就任。2023年4月より現職。 |
| 大野田 道郎 | 取締役(CMO SCM本部・信頼性保証本部担当) | 1985年入社。生産本部生産部長、キョーリン リメディオ社長、キョーリン製薬グループ工場社長等を歴任。2023年4月より現職。 |
| 黒瀬 保至 | 取締役(CFO & CStO 経営企画部長 経理財務部・製品戦略部担当) | 1995年入社。経営企画部長、グループ経営企画統轄部長等を歴任。2024年6月より現職。 |
社外取締役は、鹿内徳行(弁護士)、重松健(元MFSJ社長)、渡邉弘美(元淑徳大学看護栄養学部医学系教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントにおいて、以下の事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業(新医薬品等)
呼吸器科、耳鼻咽喉科、泌尿器科領域などを中心に、医療用医薬品の研究開発および製造販売を行っています。主力製品には過活動膀胱治療剤「ベオーバ」やニューキノロン系抗菌剤「ラスビック」などがあります。
主な収益源は医療機関等への製品販売による対価です。また、海外企業への技術導出に伴う契約一時金やロイヤリティ収入も得ています。運営は主に同社が担っています。
■(2) 医薬品事業(後発医薬品)
ジェネリック医薬品の製造販売を行っており、オーソライズド・ジェネリック(AG)の取り扱いも強化しています。医療費抑制策が進む中で、高品質な医薬品を安価に提供することで社会的な要請に応えています。
収益は医療機関や薬局等への製品販売から得ています。運営は主に子会社のキョーリン リメディオが担当しており、グループ内での役割分担を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は着実な増加傾向にあります。経常利益は2022年3月期に一時的な落ち込みが見られましたが、直近の2025年3月期には大きく伸長し、利益率も10%を超えています。当期純利益も同様に増加傾向を示しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,029億円 | 1,055億円 | 1,133億円 | 1,195億円 | 1,301億円 |
| 経常利益 | 64億円 | 56億円 | 58億円 | 68億円 | 132億円 |
| 利益率(%) | 6.3% | 5.3% | 5.1% | 5.7% | 10.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 45億円 | 39億円 | 30億円 | 55億円 | 94億円 |
■(2) 損益計算書
売上高や各利益は増加しており、収益性が向上しています。特に営業利益率は大きく改善しており、本業の収益力が強化されています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,195億円 | 1,301億円 |
| 売上総利益 | 516億円 | 595億円 |
| 売上総利益率(%) | 43.2% | 45.8% |
| 営業利益 | 62億円 | 126億円 |
| 営業利益率(%) | 5.2% | 9.7% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が105億円(構成比22.4%)、給料及び諸手当が103億円(同22.0%)を占めています。
■(3) セグメント収益
医薬品事業の単一セグメントですが、新薬の普及や海外への技術導出、後発医薬品の販売などにより、全体として増収となりました。特に海外売上高は契約一時金収入により大きく伸長しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 医薬品事業 | 1,195億円 | 1,301億円 |
| 連結(合計) | 1,195億円 | 1,301億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスであることから、営業活動で得た資金に加え、外部調達も行いながら投資を進める「積極型」の状況です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 15億円 | 35億円 |
| 投資CF | -32億円 | -63億円 |
| 財務CF | -33億円 | 40億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「キョーリンは生命を慈しむ心を貫き、人々の健康に貢献する社会的使命を 遂行します。」という企業理念を掲げています。創業110周年に向けた長期ビジョン「Vision 110」では、新医薬品事業を中核に据え、健康関連事業を複合的に展開し、人々の健康に幅広く貢献する企業を目指しています。
■(2) 企業文化
創業者による「事業は人にあり」という思いを重視し、人材の成長こそが事業強化の原動力であると考えています。社員一人ひとりの多様性・人格・個性を尊重し、高い倫理観を持って行動することを求めています。また、社員と会社は相互の利益を実現するパートナーであるという考え方に基づき、働きがいのある企業を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
長期ビジョンの第1段階である中期経営計画「Vision 110-Stage1-」では、2025年度までの数値目標として以下を掲げています。
* 売上高年平均成長率:+2%以上
* 研究開発費控除前営業利益対売上高:16%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「Vision 110」の実現に向け、創薬の変革、パイプラインの拡充、新薬の普及最大化、コスト競争力の向上に取り組んでいます。創薬では特定領域への注力や外部技術活用を進め、事業開発本部による導入活動も強化しています。営業面ではデジタル活用による情報提供を行い、主力新薬の成長を加速させています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「事業は人にあり」という考えのもと、人材の成長を事業強化の原動力と位置づけています。社員と会社をパートナーと捉える人材マネジメントシステムに基づき、採用、育成、評価等の適正な運用を推進しています。多様な価値観を尊重した働き方改革や、健康経営の推進にも注力し、人と組織の活性化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.9歳 | 19.4年 | 8,826,169円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.0% |
| 男性育児休業取得率 | 35.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.9% |
| 男女賃金差異(正規) | 75.0% |
| 男女賃金差異(非正規) | 45.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、健康診断受診率(100.0%)、ストレスチェック受検率(99.2%)、障がい者雇用比率(2.64%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 研究開発の不確実性
医療用医薬品の開発には多額の投資と期間が必要ですが、上市できる確率は高くありません。安全性や有効性の問題で開発が遅延・中止となった場合、経営成績に重要な影響を与える可能性があります。同社は創出力強化と導入品獲得によりパイプライン拡充に努めています。
■(2) 製品の安定供給体制
製品や原材料の一部は特定の取引先に依存しており、製造や仕入の遅延・停止が発生した場合、安定供給に支障をきたす恐れがあります。製造委託先や調達先と連携し在庫確保や代替手段の検討を進めるとともに、生産能力の増強や品質管理体制の強化を図っています。
■(3) 医療制度改革の影響
国内では薬価改定を含む医療制度改革が実施されており、予測を超える薬価引き下げや制度変更があった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。新薬比率の最大化による収益力向上や、製造原価低減などのコスト競争力強化により対応しています。
■(4) アライアンスの変動
国内外の企業との提携関係が解消されたり、提携先の戦略変更があった場合、業績に影響を与える可能性があります。提携先との関係強化を図り、継続的な関係維持に努めています。



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