※本記事は、杏林製薬株式会社の有価証券報告書(第68期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 杏林製薬ってどんな会社?
同社グループは、医療ニーズに応える価値の高い新薬などの医薬品の製造販売を主力事業として展開しています。
■(1) 会社概要
1923年に東京市大森区にて東洋新薬社として創立され、医薬品の製造販売を開始しました。1940年に株式会社へ改組して杏林製薬となりました。1999年には東京証券取引所市場第二部に上場し、翌2000年に市場第一部へ指定されました。その後、持株会社化等を経て、2023年に創業100周年を迎えました。
現在の従業員数は連結で1982名、単体で1322名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位はマイカム、第3位はルキウスとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.41% |
| マイカム | 8.90% |
| ルキウス | 4.84% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長社長執行役員は荻原豊氏が務めています。社外取締役は3名選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 荻原豊 | 代表取締役社長社長執行役員(CEO 監査室担当) | 1990年同社入社。社長室長、経営戦略室長などを経て、2019年より代表取締役社長に就任。2023年にCEOとなり、2026年より現職。 |
| 大野田道郎 | 取締役常務執行役員(CMO 信頼性保証本部・SCM部担当) | 1985年同社入社。生産本部の各工場長や生産部長を歴任し、キョーリン リメディオの代表取締役社長などを経て、2026年より現職。 |
| 黒瀬保至 | 取締役常務執行役員(CFO & CStO 経営企画部長 経理財務部・創薬イノベーション推進部担当) | 1995年同社入社。経営企画部やグループ経営企画統轄部の部長を歴任。執行役員等を経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、鹿内徳行(京橋法律事務所開設)、重松健(元三越伊勢丹ホールディングス専務執行役員)、渡邉弘美(日本女医会東京都支部連合会会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■医薬品事業
医療ニーズに応える価値の高い新薬をはじめとする医療用医薬品等の製造販売を行っています。主な顧客は医療機関や調剤薬局などに医薬品を供給する医薬品卸売企業(アルフレッサ ホールディングスやメディパルホールディングスなど)です。
収益は主に医薬品等の販売による収入や、他社への技術導出等に基づくロイヤリティ収入・役務収益から得ています。事業の運営は、親会社である同社が製造販売を担うほか、子会社のキョーリン リメディオが製造販売を、キョーリン製薬グループ工場が製造等を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は増加傾向にありましたが、直近では減収に転じています。経常利益も前期の132億円から当期は40億円へと減少しており、利益率も3.2%に低下するなど、厳しい事業環境の影響を受けていることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1055億円 | 1133億円 | 1195億円 | 1301億円 | 1263億円 |
| 経常利益 | 56億円 | 58億円 | 68億円 | 132億円 | 40億円 |
| 利益率(%) | 5.3% | 5.1% | 5.7% | 10.2% | 3.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 39億円 | 30億円 | 531億円 | 94億円 | 42億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は微減となりましたが、売上総利益と営業利益が大きく落ち込んでいます。契約一時金収入の反動減や薬価改定の影響に加え、研究開発費等のコストが増加したことが利益を圧迫する要因となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1301億円 | 1263億円 |
| 売上総利益 | 595億円 | 516億円 |
| 売上総利益率(%) | 45.8% | 40.9% |
| 営業利益 | 126億円 | 36億円 |
| 営業利益率(%) | 9.7% | 2.8% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が121億円(構成比25%)、給料及び諸手当が97億円(同20%)を占めています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローがプラス、投資活動と財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスを示す「健全型」です。本業の営業利益で借入返済を進めつつ、将来に向けた投資も手元の資金で賄っている優良な状態と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 35億円 | 64億円 |
| 投資CF | -63億円 | -16億円 |
| 財務CF | 40億円 | -80億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は72.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「キョーリンは生命を慈しむ心を貫き、人々の健康に貢献する社会的使命を遂行します。」という企業理念を掲げています。この理念のもと、創業110周年に向けた長期ビジョン「Vision 110」を策定し、医療ニーズに応える価値の高い新薬を継続的に提供する新医薬品事業を中核に、健康関連事業を複合的に展開して、人々の健康に幅広く貢献する企業を目指しています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「事業は人にあり」という創業者の思いを大切に受け継いでおり、人材の成長こそが事業強化の原動力であるという価値観を重視しています。また、高い倫理観を持って行動すること、全社員が多様性や人格を尊重し合うことを基本としています。健康への配慮や安全で働きやすい環境整備を進め、社員と会社が相互に貢献し合うパートナーとしての関係性を構築する風土を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、長期ビジョン「Vision 110」の実現に向けて、第2段階となる中期経営計画「Vision 110 -Stage2-(2026年度~2029年度)」を推進しています。「持続成長に向けた積極的な投資」をステートメントに掲げ、中長期的な成長エンジンとなる導入品等の獲得を最優先事項と位置付けています。2029年度の最終年度における成果目標は以下の通りです。
・売上高:1200億円以上
・営業利益(研究開発費控除前):170億円以上
・ROE:5%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
成果目標の達成と持続的な成長に向けて、導入投資による開発パイプラインの拡充と、価値の高い新薬の創出力強化を強力に推進しています。さらに、面談を軸としたソリューション提供型営業により新薬の普及を最大化するとともに、新医薬品事業と相乗効果のある健康関連事業も展開していく方針です。また、後発医薬品事業については承継の協議を進めるなど、持続可能な企業基盤の構築に向けた体制見直しも図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、社員と会社が長期的に責務を果たし合うことで相互利益を実現するという基本的な考え方のもと、人的資本の充実を図っています。採用、育成、評価、異動、報酬などの人材マネジメントシステムの適正な運用を進めており、自律的で柔軟な働き方を推進することで、社員の成長と組織の生産性向上を目指しています。また、エンゲージメントサーベイを通じた制度改善や、健康経営にも積極的に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 45.0歳 | 19.2年 | 8,563,245円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 9.6% |
| 男性育児休業取得率 | 60.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 74.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 47.9% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用比率(2.61%)、健康診断受診率(100.0%)、ストレスチェック受検率(99.6%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 医療制度・薬価改定への対応
日本国内では継続的な医療費抑制策が推進されており、予測可能な範囲を超えた薬価改定や医療保険制度の改定が実施された場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は新薬の普及最大化による収益力向上や、製造原価の低減によるコスト適正化に努めています。
■(2) 研究開発とパイプライン確保
医療用医薬品の開発には多額の投資と長期間が必要であり、安全性の問題や有効性が確認できないことによる開発遅延や中止が発生するリスクがあります。同社は自社創出力の強化に加え、外部資源を活用したアライアンスや積極的な導入活動を通じて、パイプラインの拡充を図っています。
■(3) 他医薬品との競合激化
医薬品市場は競争が厳しく、同領域の他社製品との競合や特許切れ後のジェネリック医薬品の参入、他業種からの新規参入などにより、売上が影響を受ける可能性があります。これに対し、ソリューション提供型営業を通じた提案活動や、オーソライズド・ジェネリックの展開で対抗しています。
■(4) 医薬品の安定供給と品質確保
製品や原材料の一部は特定の取引先に依存しており、想定外の事象による製造の遅延や停止が発生すると、安定供給に悪影響を及ぼす恐れがあります。また、品質管理の問題による製品回収などのリスクにも備え、サプライチェーンの強靭化や法令遵守体制の強化を推進しています。



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